(ライター:石村研二)
欧米の機関投資家は四半期の数字なんて質問しない
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):上場のポジティブな面を挙げると、上場のメリットとして明確なのは、世間からのフィードバックを得やすくなるということでしょ。情報をしっかり開示することで、潜在的には世界中のありとあらゆる人からフィードバックをもらえるんだから。 ただ、上場するメリットってそういう優良投資家と対話ができることなのに、その対話の機会が現実にはなかなか十分には活かされていないと感じます。地方競馬の競走馬がせっかくJRAのGIに出走する機会を得たのに、中央競馬は怖いからやめとくわ、みたいなね。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):そうかも。グローバルのグロース系の投資家の質問と、日本の短期目線の投資家の質問とあまりにも違ってて驚いた。欧米のまともな機関投資家は誰も四半期の数字の質問なんかしてこなかったというのがめちゃめちゃ印象的でしたね。
村上:マザーズの上場会社を例に考えると、上場前は国内 VCが投資家の中心で、海外の投資家と話す機会は上場するまでなかったケースがほとんどやと思う。上場することで明確に海外機関投資家との対話チケットが貰える。でもそんな機会をせっかく貰ったのに、全然活かしてないというのはめちゃめちゃもったいないと思いますよ。 もしも「英語喋れへんし」だとか「日本に自分がいないとオペレーションが心配やし」みたいな理由で海外に行かないんだとしたら、上場する意義のトップ5に入るような権利を自ら放棄してしまってるんちゃうかなと。
小林:無料で歴戦の強者達を見てきた人のアドバイスを受けられる機会をみすみす逃してるもんね。
孫さんからの経営アドバイス、欲しいよね?
村上:孫正義さんからアドバイスを貰える機会があるよって言われたら、きっと誰もが「マジすか!」って飛びつく筈なのに、海外の同じぐらい経験豊富な投資家5人くらいとみっちり話せる機会があるよって言っても、「いや……」みたいな。これはやっぱりもったいないですよ。
小林:その理由の一つとして、上場後にIRをやるのがコーポレート部門のトップやCFOで、CEOがやらないパターンが多い、ということもあるんちゃうかな。超一流の人が直接CEOにフィードバックするのが一番効率いい気がするんだけど、IR自体をやってないCEOが少なくない。
村上:英語にコストを感じてるのか、もしくは自分の仕事じゃないって思ってるケースもあるんやろうね。ひょっとしたら、IR活動を過小評価していたり、その必要性がまだ十分腹落ちしていないのかも知れない。 マザーズに上場した直後だと、まだフェイズ的にはプロダクト開発に首を突っ込みたいとか、組織の規模拡大に時間使いたいと。そんな忙しい時になんで俺は2週間も海外に行くんだ、とお感じになるのかな。
コンテンツ会社の取締役会はコンテンツ会議と化していく
朝倉祐介(シニフィアン共同代表):特に創業経営者の場合、自身がプロダクトや事業を作ってきたわけだから、視点がどうしてもオペレーションに寄りがちなんでしょうね。 日本で経営が専門職として定義され、捉えられることってあんまりないやないですか。日本の会社の役員人事を見ていると、現場や執行レベルで事業をうまくやった人が、その報酬として役員になっているように見受けられるケースがままある。社内の役員メンバーが役員選任の主導権を握っていることもあって、役員人事が論功行賞の場になっている。だからコンテンツ会社の役員陣を見ていたら、取締役会がまるでコンテンツ会議になっていることもあるし、営業会社の役会は営業会議になってしまう。それを変って思わないんですよね。取締役の役割が、執行役員からの延長線上で捉えられている。
村上:創業者であり社長でもあって、自分が一生懸命に会社の経営のことを考えている人だったら、海外の投資家と話すことって、本当はめちゃめちゃ楽しいんちゃうかなと思う。この対話や議論の楽しみを知っている社長が結構少ないのかもしれません。
第1回 上場したら会社は1銘柄。スタートアップが直面する現実
第3回 『信長の野望』に学ぶスタートアップと上場企業の採用戦略
第4回 孫さんから経営アドバイスがもらえる!?そう、上場企業ならね
第5回 優れた投資家はユニークさを問い、残念な投資家は業績予想を問う