『信長の野望』に学ぶスタートアップと上場企業の採用戦略

(ライター:石村研二)

経営者は受験戦争の勝者?

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):前回、スタートアップの経営者は調達額の規模感を気にするという話がありましたが、これは大企業経営者にも共通する話だと思いますよ。例えばROE。これまではそれほど興味なかったのが、JPX400が導入されるとROEは幾らだとか、JPX400のスコアを相当気にし出したっていうのは、これは老若男女問わず受験戦争を勝ち抜いた日本人経営者のあるあるやね。経営者は孤独だからなんだと思うけど、何らか経営者としてのスコアが気になるのは良くわかります。

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):やっぱり単一的な評価軸で定量的に横比較されるようになると気になりますよね。

村上:ベンチャーだと上場や資金調達がそれ。IPOした時の時価総額とか、その後に株価どれくらい上がったとか、メディアにどれくらい扱われたかとか。やっぱり創業してから一番目立つタイミングやし、そりゃ気になりますよね。上場する企業は、それを機に益々成長してどんどん目立って欲しいと思いますが。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):上場することの意味って、例えば採用力が上がるとか、資金調達の機会が増えるっていう話があるけど、実は非上場の時の方が採用力はあるんちゃうかなと思ったりはします。

朝倉:それは採用する対象者のタイプの違いでしょうね。腕に覚えがあって山っ気のある野武士みたいな人だったら、SOでのキャピタルゲインといったアップサイドを期待して上場前のスタートアップに来たがるでしょ。

小林:そういう人はスタートアップに来がちかもしれへんね。

戦国武将はスタートアップがお好き

朝倉:(ゲームの)『信長の野望』って、数字で表される兵士と、兵士を率いる武将って、明確に区別されるじゃないですか。柴田勝家や黒田官兵衛みたいな”武将”を求めるのなら、むしろ非上場の方が良いケースもあるんやろうなと。逆に上場前には広く一般にはなかなか会社の魅力を伝えづらい点も確かにある。
上場すると逆で、知名度は高まるし安心感もあるから、より広く一般の求職者にもリーチしやすくはなるけれど、野心を持った”武将”だと、非公開企業の成長の可能性により魅力を感じやすいのかもしれない。上場したらあくまで一上場企業なわけで、東証一部の他のエクセレントカンパニーと対等に横比較されるワンオブゼムですもんね。

村上:ファイナンスでも人の数でも、キャピタル・インテンシブな企業、つまり資金量や人材の質ではなく量が勝負を分ける企業は上場する意味が明確に出てくるはずやね。時価総額も小さくて流動性もない場合、どこまで資金・人材を活用できるかは日本では疑問だけど。そういう場合はひょっとしたら非上場の方がむしろ有利なケースもあるのかもしれません。

小林:資金調達について言うと、上場後に「上場したからこそ」というような規模の資金調達をした会社って、実はそれほど多くないんちゃうかな。上場したら資金調達しやすいかっていうとそうでもない。タイミングもよりシビアだし、株主が多岐にわたるため説明コストも高くなる。そういった要素を考えると、非上場より著しく資金調達がしやすいってわけではない。
そうすると上場する意味って究極的には何なんでしょ。

村上:ファイナンスに関しては数千億のゾーンまでくればオプションが増えるんだけど、日本だと数十億円から1000億未満のゾーンで止まってしまう会社が多いよね。柔軟性とか取れる規模とか考えると、上場した後では、必ずしも資金調達がしやすくなってるとは言えないやろうね。規模の点では、理想的には浮動株で2000億円規模まで行ければ、M&Aや海外展開とか大きな勝負は仕掛けやすくなると思います。

地方競馬とJRAの違い。2000億円の壁

小林:前に知り合いのファンドマネジャーさんが、日本の株式市場の2000億円以下の企業群をデスゾーンと呼んでいたのを思い出しました。
そもそも時価総額が低くて、機関投資家が扱うサイズ感に合わず、個人投資家が中心になる。事業にそこまでインパクトが出ると思えないニュースや、App Storeの日々のランキングで株価が上下したりする。さらに、創業者持株比率が大きすぎるという問題もそれに輪をかけてる。浮動株がほとんどなくて、上場企業なのに1日の株式売買額が数百万円みたいところもあったりするし。

朝倉:流動性が低くて、まとまった額を投資すると一気に株価が変わってしまうという点では、なんだか地方競馬みたいな世界ですね。万馬券を狙って人気薄の馬券を数万円買うと、気づいたら一気にオッズが下がって人気馬券になってしまうみたいな(笑) 2000億以上のゾーンは中央競馬といった感じかな。

村上:正確なデータを持ってるわけじゃないけど、ロングの優良投資家ががっつり入ってる時価総額1000億以下の会社ってそれほど多くない。大手優良投資家はある程度の規模を取りたい、でも流動性がないと怖くて買えない、というジレンマがある。流動性が出てくれば資金調達のフレキシビリティが増してくるので、そこまでいけば上場のメリットを感じる経営者も増えてくるのかも知れませんね。

小林:上場したうえでさらに流動性も一定確保しないといけないわけで、単に上場しただけだと必要条件しか満たしてない。十分な規模の流動性がないままの上場って日本は多いよね。ある有名CFOは、浮動株のボリュームで500億はいる、と言ってました。50%だとしても、時価総額1000億はいるわけですね。

朝倉:その意味では、上場のメリットを活かそうとすると、四の五の言わずに時価総額1000億くらいは目指さなきゃいけないんでしょうね。
マザーズに上場したばかりの会社の時価総額の規模感をアメリカのスタートアップのサイズに照らし合わせて考えると、平均的にはミドルステージのスタートアップの水準なわけだし。

第1回 上場したら会社は1銘柄。スタートアップが直面する現実

第2回 スタートアップは東大生の夢を見るか?

第3回 『信長の野望』に学ぶスタートアップと上場企業の採用戦略

第4回 孫さんから経営アドバイスがもらえる!?そう、上場企業ならね

第5回 優れた投資家はユニークさを問い、残念な投資家は業績予想を問う

第6回 「上場企業よりも非上場の方がガバナンスが利いている」仮説

第7回 スタートアップは二度死ぬ?投資家リテラシーの谷

第8回 先発のVC、抑えの機関投資家。ところで、中継ぎは?

第9回 楽天はなぜ球団を作れた?上場メリットってなんだ

第10回 株主総会はなぜ被害者集会化するのか