スタートアップは東大生の夢を見るか?

(ライター:石村研二)

なんとなく上場

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):当たり前の話ですけど、上場するのであれば、上場することの意味が何なのかを予め考えておかなくてはいけませんね。以前、ある上場企業の創業者になんで会社を上場させたのかって聞いたことがあるんですよ。強烈に印象に残っているんですけど、その答えが「なんとなく」だった。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):なんとなくで上場できてしまったというのも凄い話やね。

朝倉:取り立てて資金ニーズがあったわけでもなかったんだけど、当時は会社を始めたら上場を目指すのが当たり前だと思っていたし、周りからも「ベンチャーは上場を目指すもんだ」と言われ続けていたから、上場したと。上場後は強いプレッシャーにも悩まれたようだし、苦労もなさったそうですが、そういった事態が起こることは事前にはなかなか分からなかったと。

小林:程度差こそあれ、他でも似たような話はあるのかもね。

時価総額1300億円から40億円へ

朝倉:一番極端な例ですが、上場して大変だった事例として僕が思い浮かべるのがクレイフィッシュ。2000年にNASDAQとマザーズで同時上場して、公開時には1300億円以上の時価総額がついたのに、親会社の問題もあって、最終的に40億円まで下がった。上場時にキャッシュを240億円も調達していたのにですよ。
その後、色々なご事情があって、創業者は社長を辞任し、最終的には親会社に買収されていますが、このあたりの顛末を書いた創業者のご著書は必読やと思います。

小林:上場する価値ってみんな何だと感じてるんやろうか?

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):それは事前にしっかり考えておかねばならないテーマですね。教育にも似たようなところがある。例えば何のために大学行くのか、とかね。

朝倉:こないだ、東大のOBOGと現役学生の交流会に行ったんですよ。現役の学生さん達と話していると、みんな就職や進路についてめちゃめちゃ不安に感じてるんですね。とても優秀で前途有望な東大の若者たちが、一体何を不安がってるんやと、こっちがびっくりするくらい。「自分にはやりたいことがないからどうすればいいかわからない」とか、「入った会社に合わなかったらどうしよう」とか、「日本では転職なんてまだまだ浸透していないから、入社後にフィットしなかったら再起できないんじゃないか」とか。

村上:将来のことに不安を感じて、何のために大学で勉強してるか見失ってしまったら、優秀な人材なのに勿体無いですよね。やっぱり目的がしっかりしていた方が成果も出やすいですからね。

朝倉:考えてみたら、東大生って実は自分の進学や進路という問題にそれまであまり真剣に向き合う必要がなかった人たちが多いんですよね。勉強ができたら、世間的に一番とされている東大をとりあえず目指すのが当たり前やろうと。受験勉強を頑張るということはもちろん大変なことだけど、自分の意志で進路を選ぶという点では「とにかく一番を目指せば良い」のであれば、悩む必要もない。
ひょっとしたら、会社を始めて上場を目指すというのも、それに似たところがあるのかもしれません。

上場企業と東大生

村上:上場企業も、東大生モラトリアムに近いってこと?

朝倉:学歴のレールに似たところはあるんじゃないですか?良い高校に入って、良い大学に進学して、良い会社に就職することを人生の成功と捉える、みたいな。
例えば、スタートアップが資金調達に成功すると、なんとなく世間から事業の可能性や実力を認められたような気にはなる。けれども、資金調達って本来は自分たちの事業を大きくスケールさせるためにすることじゃないですか。資金調達なんかせずとも自分たちのしたい事業ができるなら、する必要は全くないはず。 けれども資金調達すると、メディアにも会社のことが出るし、勢いのある会社だって雰囲気も出る。起業家が資金を調達するのは、もちろん事業を開発するための資金の確保というのが最大の理由のはずだけど、そうした気分の問題も多少はあるんちゃうかと思うんです。そうしたレールの延長線上には当たり前のように上場がちらつくわけですよね。他人様から投資を受けてスタートアップのレールに乗った以上、イグジットを狙うのは当然の責務ではあるけれど、上場して以降の姿を十分に描ききれているのかと言えば、なかなかそうでもない部分もあるのかなと。

村上:確かに、入学直後の東大生の雰囲気に近いものはあるかもね。

朝倉:資本政策だって本当は自分たちの会社の規模感やステージ、事業内容によって適切な資金量って全然違うわけじゃないですか。けれども、内輪でなんとなくまわりの起業家の調達額やバリュエーションと比べてしまう。本当は数千万円で事足りるはずなのに、周りの起業家を見ていると「あそこは3億円調達しているんやから、自分たちも、もっといかなきゃ」と感じてしまう側面がどうしてもあるんかなと、起業家と話していて感じることがままあります。みんな負けず嫌いですしね。

第1回 上場したら会社は1銘柄。スタートアップが直面する現実

第2回 スタートアップは東大生の夢を見るか?

第3回 『信長の野望』に学ぶスタートアップと上場企業の採用戦略

第4回 孫さんから経営アドバイスがもらえる!?そう、上場企業ならね

第5回 優れた投資家はユニークさを問い、残念な投資家は業績予想を問う

第6回 「上場企業よりも非上場の方がガバナンスが利いている」仮説

第7回 スタートアップは二度死ぬ?投資家リテラシーの谷

第8回 先発のVC、抑えの機関投資家。ところで、中継ぎは?

第9回 楽天はなぜ球団を作れた?上場メリットってなんだ

第10回 株主総会はなぜ被害者集会化するのか