(ライター:石村研二)
週刊誌サイズの株主総会Q&A集
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):株主総会ってどこの上場企業もものすごく工数をかける。某大手総合商社では、役員向けのQ&A集の厚さが10センチもあるって言ってました。ちょっとした雑誌サイズやでと(笑) 全部門がマイク係、受付、みたいに総出でやる。でも、議決権ベースで言うと、株主総会に出てる株主って実は1%も無かったりするじゃない。それなのに、議決権を何十%も持ってる機関投資家との対話は「IR部門とCFOで」、みたいになってるのが現実なのかなと。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):昔の総会屋時代のカルチャーが変わらず今も残ってるのかな。
小林:本当に上場企業・七不思議の一つ。どの会社行ってもそう。
村上:なんでやろね。株主総会のエフォートの10%でも海外投資家に向けるだけで、随分変わる気がするねんけど。
海外IRと株主総会、どっちが大事?
小林:もちろん、株主総会は重要な場だし、真剣に対応していかなきゃいけませんよ。ただ、株主の議決権が大きく注目されるような事案がここ数年で多数あったわけで、議決権を多く持ってる投資家にもっと力を注ぐべき、という考えが出てきてもおかしくないんちゃうかな。総会は総会でコストかけていいんだけど、資本市場と触れ合うのってそこだけじゃないわけやし。
村上:今のトップのIT系の会社だと外国人投資家の比率が40%とか、かなりのポーションを占めているのに対して、株主総会の個人って10%くらい? 上場企業の社長に海外IRと株主総会、どっちが株主との対話の場として大事と思うかって聞いたら、どうお答えになるんやろうね。
小林:株主総会って答える方が多いかもしれない。
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):自分が面と向かってしゃべらなきゃいけないからでしょね。機関投資家との個別のミーティングというのは避けようと思えば避けられる。決算説明会だって毎回社長が出なきゃいけないわけでもない。けれども株主総会ともなれば、さすがに出ないわけにはいかんでしょ。
村上:株主総会っていう名称と実際の出席者(株主)のアンバランスがすごいじゃないですか。実態としては「個人株主の意見を聞く会」になっていることも多いんじゃないかな。
商品の水漏れを伝えたくて株を買う消費者
朝倉:昔、とある上場企業の社外取締役の方から「ええか、俺たちが株主総会のことを何と呼んでいるか知ってるか?『被害者集会』って呼ぶねんで」と言われたことがありますよ。「年金をやり繰りしてあんたの会社の株を買ったら株価がこんなにも下がってしまった、どないすんねん」っていう被害者の苦情を受け付ける場だと。 ひどいこと言うもんだな~と思いましたが、確かに業績不振の会社であればそういったやりとりがされていますよね。
小林:あるメーカーの総会で、自分が買った商品が水漏れしたってことを直接経営陣に言いたくて株を買ったっていう人がいたっていう話も聞いたことありますよ。
村上:経営者にとっての株主のイメージって、株主総会のイメージに引っ張られてるのかな。そのせいで株主イコール面倒くさい、面倒くさいことに時間は使いたくない、総会だけで十分だからIRなんかに時間使いたくない、となってしまっているんじゃないかと。以前にも話したように、本当は上場した時の一番のアップサイドって経験豊富な投資家と話せることなのに、それが一番の苦痛になっているのかもしれない。だとすると、そのギャップはなんとも悲しい話ですね。
朝倉:会社が絶不調な時の株主総会って確かに「被害者集会」然とした雰囲気があるのだけど、逆に不振期を脱するとこうした雰囲気が一気に変わる。ゲーム会社だったら、「こういう企画やったらええんちゃうか」とか、「こういうイベントやったほうがいい」なんてアイデア大会になってしまうんですよね。これが本当に株主総会のあるべき姿なのかと思うと、確かにちょっと考えてしまいます。 経営者も投資家も、もう少しお互いの視点に対する理解を深めて、株主総会がもう少し実のある議論の場になれば理想なんですけどね。実際、非上場企業の規模の小さい株主総会であれば、そういった場として機能していることもあるわけですから。
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