コーポレートガバナンス最大の機能:取締役会と役員選解任のあり方と事例について

昨今、日本でもコーポレートガバナンス(企業統治)の強化・充実を図る機運が高まっています。ステークホルダーの利益を守り、企業価値を高める上で、ガバナンス強化の中核を担うべき取締役会の運営と役員の選解任について考えます。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:岩城由彦、代麻理子 編集:正田彩佳)

「コーポレートガバナンス」の意義とは何か?

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):以前にも「社外取締役の仕事とは何か」をテーマにお話ししたことがありますが、今回はコーポレートガバナンス(企業統治)について考えます。小林さんは、様々なイベントで、「コーポレートガバナンス」というテーマで話す機会が多いですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):はい。先日もICC(Industry Co-Creation) サミットでコーポレートガバナンスがテーマのセッションに登壇しました。ニッチなテーマなので、最初はそれほど人が来ないのではないかと予想していたのですが、大きな会場が満員になる程の大人気セッションになりました。

朝倉:来場者は、具体的にはどのようなことに関心があるのでしょうか?

小林:過去に話してきたのは取締役会の運営方法です。「各社どのように運営しているのか」「役員報酬はどう設計しているのか」、あるいは「そもそも機関設計はどうしているのか」といったことです。

なぜ、これほどこのテーマに関心が強いのかと言えば、そもそも取締役会に関しては、どなたも自社のことしか知らないからだと思います。

「取締役会では、こういうことをします」というレクチャーが不十分なまま、何となく現在の形になったという会社も少なくありません。気付いたら経営会議との違いや社外取締役の役割が分かりにくくなっているというケースも見受けられます。

朝倉:確かに、やらなければならないからやっているという、「やらされ感」を持っている人もいるかもしれません。

小林:米国の場合、そもそも社外取締役が多数おり、様々な会社の取締役会を経験したことがある人も多いので、自然とベストプラクティスが広がっていきます。

一方、日本の取締役会は我流で運営されることが多いのが実情です。「我流のままで大丈夫だろうか」と不安を抱えている方々も少なくありません。そうした背景から、「このセッションでコーポレートガバナンスや取締役会の運営について聞きたい」というニーズが高まったのだと思います。

コーポレートガバナンスについて、原則や前提となる考え方を改めて議論する機会は実は少ないんですよね。

朝倉:コーポレートガバナンスと聞くと「やらなくてはいけないから仕方なくやっている」けれど、「あれをやってはいけない」「これをやってはいけない」と会社経営の手足を縛るようなコンセプトだという印象をお持ちの方も多いかもしれません。

小林:経営者、特に起業家タイプの方には、コーポレートガバナンスをブレーキ、あるいは手かせ足かせのようなイメージで捉えている方が多いのではないかと思います。

朝倉:「面倒なもの」というイメージはあるかもしれませんね。

小林:果たしてそれがコーポレートガバナンスの捉え方として正しいのか、という視点を皆さんに提示したく、先日は、「役員の選解任と承継」、とりわけ「代表取締役の選解任」という、コーポレートガバナンスの最たる機能について議論しました。

コーポレートガバナンスの本丸:役員・代表取締役の選解任

朝倉:経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦さんが言うところの、「コーポレートガバナンスの本丸」ですね。冨山さんは「ガバナンスの最も重要な機能はCEOの選解任にある」 と、強調されています。

小林:一方で、CEOの選解任はテーマとしては理解できるものの、具体的に何をすることなのかというのは、ピンとこないのが実情ではないでしょうか。CEO本人にしてみれば当然、CEOの選解任は非常に怖いことです。

場合によっては、自分のポジションが突然なくなってしまうことも起き得るので、「どう設計すべきか」は非常に難しい。そんなコーポレートガバナンスという仕組みを、そもそもなぜ導入しなければならないのかですが、経営者のパフォーマンスについて議論をする際、「創業者のほうが雇われ社長よりも優れている」という意見がよくありますよね?

朝倉:孫さんや永守重信さんらを引き合いに出し、創業者は「大胆かつダイナミックな意思決定ができて、野心もあるし、インセンティブも揃っている」といったような意見ですね。海外ではよくジェフ・ベゾスやイーロン・マスクらが例に挙げられます。

小林:確かにそういう成功例はありますが、良い例だけを見ているような気もします。創業者からうまく代替わりして、業績が非常に伸びた会社も当然あります。

朝倉:以前、オリックスの宮内義彦シニア・チェアマンとお話しした際、創業経営者について話題が及んだことがあるのですが、実は、宮内さんはオリックスの創業経営者ではありません。創業経営者のように見えますが、もともとはオリエント・リース(現オリックス)を設立した日綿實業の社員であり、いわばオリックスに出向していた設立プロジェクト・メンバーだったんですよね。

その後、転籍なさって代表に就任なさったという方ですが、「会社とインセンティブが完全に合致した創業経営者の方がモチベーションを高く維持でき、経営者に向いているという言説もあるが、どう思うか?」とお尋ねしたところ、「失敗している創業経営者もたくさんいる。創業者かどうかは全く関係ない」と仰っていたのが印象に残っています。

「創業経営者の方が優れている」議論は、創業経営者として成功した人だけを見て言っているのなら、それは単に生存者バイアスなのだと思います。

マイクロソフト:株主の働きかけによるCEO交代と業績回復

小林:今回は公知情報の中から、特に象徴的な3つの会社の事例を挙げようと思います。まず1社目は、Microsoft(以下、マイクロソフト)。スティーブ・バルマーがCEOだった時代(2000年1月~2014年2月)、マイクロソフトの株価は伸び悩みました。

朝倉:マイクロソフト30人目の社員。ビル・ゲイツの後を継いだ2番目のCEOですね。社内イベントで飛び跳ねながら絶叫して、”I love this company!”と宣言する姿が印象的です。

小林:そうしたパフォーマンスとは裏腹に、株価は冴えませんでした。マイクロソフトは「クラウドできませんでした」「モバイル OS できませんでした」といった状況が相次ぎ、ゲイツ時代に築き上げたポジションを失いました。バルマー時代のマイクロソフトは明らかに勢いがなかったのです。

当然、時価総額も低調でした。 そこで、端的に言えば株主の圧力によって、バルマーは退任することになったのです。バリューアクト・キャピタルいうエンゲージメントファンドが介入し、他の株主らと協調して「CEOはもう代わったほうが良いのではないですか」と意見を伝えた結果、バルマーが退任し、サティア・ナデラが後任としてCEOに就任したわけです。

朝倉:2014年のことですね。

小林:はい。ナデラになってから、さまざまな分野の事業が発展しました。例えばOfficeはサブスクリプション化が進み、Azureも一気に普及しました。実はバルマーのときに著しく減損していたSurfaceも、ナデラになってから大きく成功したんですね。

多くの事業がナデラのもとで生まれ変わった。今や時価総額は世界最高クラスまで上がってきて、GAFA+マイクロソフト と言われるほど存在感が高まっています。

Microsoft

朝倉:個人的な印象ですが、ユーザー視点でも、たしかに2007〜2010年あたりのマイクロソフトのイメージは正直、芳しくなかったですね。

小林:ナデラは外から連れてこられた、いわゆる「プロ経営者」ではなく、社内で地位を築き上げてきた人です。そうした形でトップに立った彼が、これだけ大きな会社を生まれ変わらせることができたというのは、非常に面白い例だと思います。

IBM:社外取締役主導の経営者指名プロセスが奏功

小林:次の例は、IBM です。少し遡りますが、ルイス・ガースナーの時代です。

朝倉:『巨象も踊る』の著者、ガースナーですね。

小林:はい。ガースナー以前のIBMはハードウェアビジネスが中心で、完全に低迷していました。強烈なターンアラウンドが要求されるタイミングだったと言えます。

朝倉:メインフレームビジネスからの転換ですね。

小林:はい。「ここでトップを代えなければならない」という危機感はボードにもあったようですが、業界には何となく「テクノロジー分野の人を選ぶだろう」という雰囲気が漂っていたそうです。

そんな中、 IBM は社外取締役が中心となって特別指名委員会のような組織を設けたのですが、そこに加入したジョンソン・エンド・ジョンソンの会長アレックス・ゴースキー氏が、 「IBM にはどのような経営者が相応しいか」をリサーチするプロジェクトを提案しました。

特別指名委員会のメンバーがIBMのステークホルダーに意見を聞き、今のIBM に何が求められているのかを調査・検討したところ、「テクノロジー強化ではなくビジネス改変であろう」という結論に達しました。そこで白羽の矢が立ったのが、ガースナーです。

朝倉:ガースナーは、元々、RJRナビスコ会長兼CEOだった人物ですね。「お菓子を作っていた人間に何が分かる」と揶揄されながらの就任だったそうです。

小林:はい。1993年、IBM初の外部招請の会長兼CEOに迎えられたガースナーは、ソフトウェア事業の路線を一気に転換しました。一度、ものすごいリストラも断行したのですが、その後は計画的に人員を増やし、ソフトウェアカンパニーに変化することで、業績が回復しました。 そういう意味で、IBMはボードが中心になって会社を生まれ変わらせた、特筆すべき例と言えます。

IBM

エス・エム・エス:創業者主導の経営承継による継続成長

小林:最後の例は、日本のエス・エム・エスという会社です。こちらは自発的な経営承継の事例ですね。

朝倉:諸藤周平さんが2003年に創業された、介護・医療系のインターネット関連サービス事業などを手掛けている会社ですね。

小林:以前、我々のサイトでもインタビューに応じていただきましたが、その際に諸藤さんが仰っていたのが「自分がこのまま経営を続けるのではなく、誰かに引き継がなくてはならないのではないか」という思いです。

2014年に代が替わった後も、エス・エム・エスは非常にパフォーマンスが高く、株価も業績も伸びています。まさに、非常にうまく経営の承継ができたケースです。

SMS

バトンタッチを内発的に進めるか、外圧を受けて動くかというのは当然、両方のパターンがありますが、ゴーイングコンサーン(継続企業の前提)の考え方に基づけば、代替わりの仕組みは本来、最初から会社に組み込まれている方が望ましいのではないかと思います。

コーポレートガバナンス・コードにおいても、「取締役会は、最高経営責任者等の後継者の計画について適切に監督を行うべきである」ということが書かれており、企業が主体的にサクセッションプランを策定することを求めています。

経営者の円滑なバトンタッチに向け、社内で「フラグが立つ」仕組みづくりを

朝倉:最初からルールを導入しておくと言うか、「どのような場合にどのような人がCEOになる」かといった仕組みを埋め込んでおくということですね。

小林:はい。外圧による選解任は「禍根」とまではいかなくても、いろいろと思うところのある人が出てくるでしょう。社長自身が急にディフェンシブになってしまうケースもあるかもしれません。

そうではなく、社長自身が積極的に、どのような要件の人を、どのようなプロセスで後継者に選ぶべきか考えることができれば、長期的な経営ビジョンを社内に浸透させられるのではないかと思います。

朝倉:経営者交代のタイミングと適任者について、 「フラグが立つ」ような仕組みを、あらかじめ作っておく必要があります。

小林:まさに、フラグが立つような仕組みです。一定条件を満たせばシステマチックに経営者をいきなり変えるというのはさすがに無理があると思いますが、「こういう状況になったら考え始めます」というきっかけが決められているだけでも、全く違ってくるのではないのでしょうか。

朝倉:「今の体制のままで良いのか」を再点検するきっかけを仕組みとして埋め込んでおくということですね。

小林:おっしゃる通り、経営体制の見直しをする仕組みを作っておく。仕組み化しておけば、経営者交代の議論に触れそうな話題・イシューをタブー視する必要もありませんし、会社にとって重要な要素である「経営者の適性」について議論されないままになる、という事態も避けられます。取締役会を中心に、きちんと議論できる機会をつくるだけでも、大きな意義があります。

社長が社外取締役を選解任している日本の実態

朝倉:社外取締役による経営陣の選解任の話に戻りますが、日本で、実際に起こっているのはその逆で、社長による社外取締役の選解任なのではないかと思います。

小林:なるほど。

朝倉:例えば、コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)の要件を満たさなければいけない、自分たちで社外取締役を探してこなければならない、といった必要に直面した際に、社長としては当然、「どういった人なら引き受けてくれるか」「一緒にやりやすい人を選びたい」といった視点で探しますよね。

また、役員は株主が決めていると言っても、実態としては取締役会で採択されたことを株主総会で追認しているに過ぎません。株主総会で動議が提出され、「この人を選任しよう」と役員が代わることって、まずあり得ないじゃないですか。

小林:ほぼないですね。

朝倉:そういう意味で言うと、今の日本では、実態として見られるのは、社内の取締役による、もっと言えば、社長による社外取締役の選解任、というケースではないかと思います。

ただ、経営状況が悪化して、役員の選解任のようなシビアな決断をしなければならない必要に迫られた際、常勤取締役と社外取締役が「仲良しこよし」のお友達クラブでは、本来の責務は果たせないんじゃないかと思います。

コーポレートガバナンスの課題を浮き彫りにしたアスクル・ヤフー対立問題

小林:それについては、2019年に、1つ大きな転機があったと思っています。アスクルの例です。

朝倉:ヤフーと対立した事案ですね。

小林:親会社で筆頭株主のヤフーと2位株主のプラスが、指名・報酬委員会で決議されていたにも拘らず、アスクル創業社長岩田彰一郎氏、及び独立社外取締役3人全員の再任に、2019年8月2日の株主総会で反対し、独立社外取締役が空席になってしまったというケースです。

指名・報酬委員会での検討・議論プロセスが終わった後で、筆頭株主が上場子会社の社長の退任を要求してきた、ということで、経済同友会などを含む各所からガバナンス上の課題を指摘されました。

2020年3月13日、アスクルは臨時株主総会を開き独立社外取締役の選任を行う のですが、その人選を進めるため、弁護士にも入ってもらって(暫定)指名・報酬委員会を組成しました。この委員会には「こういったことができる機関であるべきだ」という要件があります。

「独立した機関である」「役員会の勧告を尊重する」など計8項目が存在するのですが、最後に挙げられているのが「勧告を行った事項について株主総会などにおいて意見を表明できる」というものです。これがすごく面白い。

例えば、「われわれの委員会はこう言ったけれど、経営陣が聞く耳を持たなかった」という場合があったとしますよね。そういう場合でも「委員会はこういうことを勧告しました」ということを世の中に開陳できると。

Askulmodel

アスクルの件が大々的に取り沙汰されたのも、コーポレートガバナンスにおける委員会の役割、という論点があったからでしょう。委員会に本来期待される経営の監督機能を損なうような要求を、筆頭株主が行ったことに対して、世の中から「本当にこれでいいのか」と指摘されたということです。

委員会が自分たちで世に意見を出せると、強力な独立性を持つことになるでしょう。これが1つのモデルとして定着すると面白いと思います。

朝倉:なるほど。そこで表明した内容次第では、取締役が会社に対する善管注意義務を問われかねないという話になれば、当然、委員会の勧告が今以上に強い力を持つことになりますね。

小林:今までは、選解任の際に「どういうプロセスで、この人が候補に挙がったのか」という背景は、正直それほど開示されていませんでした。今回のアスクルのように、そのプロセスを透明化するというのは、他の株主にとってもメリットがあることだと思います。

朝倉:2017年、クックパッドが体制変更した際、監査報告書に掲載された社外取締役の「補足意見」もすごかったですね。「こんなことが起こるのか」と思いました。

小林:あのタイミングでも、何かしらのコーポレートガバナンスの見直しが提起されれば良かったのですが、実際は何も変わりませんでした。一方、アスクルの場合は随分と揉めましたが、新たなガバナンスモデルはなかなか興味深い。

アスクルの(暫定)指名・報酬委員会の委員長を務める國廣正弁護士 はこのガバナンス体制を「アスクルモデル」 と呼んでいますが、確かにそう呼んでいいほど、しっかり練り込まれたものだと感じました。

朝倉:アスクルの個別事情に関して言うと、同社はソフトバンクの孫会社であるヤフーのさらに子会社という立場ですので、親子上場を解消すればすべて解決する話なのではという気がしないでもありません。

そうした個別事情とは別に、普通の上場企業でアスクルのようなガバナンスモデルが浸透していけば、社長と社外取締役のパワーバランスも変わっていくのだろうと思いますね。

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