近年、どの企業にも求められているコーポレートガバナンス。より健全な経営を進めていくための監視だけでなく、時には経営に介入して後押しすることが必要となる「社外取締役」に関して、シニフィアン共同代表の3人が語ります。 本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。
(編集:箕輪編集室 高橋千恵、新井大貴、橘田佐樹)
監督機能だけでは社外取締役の価値は出ない
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):コーポレートガバナンス・コードが施行されて、東証一部の大企業であれば社外取締役を置く会社が増えてきていますが、スタートアップの場合、社外取締役の役割をどういう風に考えればいいものなんでしょうか。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):ちょうど先日のICCサミットでも、「社外取締役はどういう役割を果たすのか」「どういう風に選定したらいいのか」というテーマのセッションが盛り上がった議論になりました。 あまりにも選定が早すぎては会社側にとって逆に負担となります。かつ、社外の人がバリューを出せる場面っていうのは限られているのかなと思います。そのため、時期を見誤らないことが大事なんじゃないかなと思いますね。
朝倉:それで言うと、スタートアップの場合、社外取締役ってVC(ベンチャーキャピタル)から来ている、あるいは株主から来ているお目付け役というパターンがほとんどですよね。
小林:そうですね。そういう意味で純粋に独立社外取締役というのを、未上場時点で置いている会社はかなり珍しいですよね。
朝倉:そうだと思いますね。
小林:朝倉さんはラクスルの上場前に社外取締役として入られましたが、珍しい例ですよね。
朝倉:そうですね。私の場合、ラクスルもそうです。去年KDDIさんに買収された、Reluxという宿泊予約サービスを運営しているLoco Partnersでも社外取締役を務めていました。VC以外から独立社外取締役を設置しているという点においては珍しかったのかなと思います。
小林:今振り返ると、具体的にどういうところでバリューを発揮していたと感じますか?
朝倉:そうですね。いわゆる出来上がった上場企業と、未上場のスタートアップで求められる機能は幾分違う気がしています。もちろん共通する部分はあるんだけど、強調されるポイントが少しズレるという感じです。大きいエスタブリッシュメントな会社であれば、経営と執行を分離したうえで、執行が機能しているかを監督することにより重きを置かれます。 一方、まだまだ成長段階のスタートアップの場合、VCをはじめとした複数の株主の方々からの出資を受けていることを踏まえ、そういった人達の利益が損なわれないよう監督はします。特定の株主の利益誘導になってもいけない。ただ、締め付けばかりだと駄目で、より実務や執行に近い部分でも議論をします。もっと言うと、会議の進行方法まで含めて、割とインプットする。監督だけでなく、背中を押す役割が、スタートアップにおいてはより強く求められると感じますね。
小林:よく社外取締役を表す時に、監督機能やガバナンスという言葉が出てきますよね。そもそもガバナンスっていう言葉自体が管理や統治という意味を持っているから、社外取締役という存在は足枷であり、面倒くさい人達なんじゃないかと思われることも少なくありません。 でも、僕は前職時代に社外取締役から「こういうこと考えてないの?」とか「こういうリスクって対処しないの?」と指摘されることで、より視野が大きく広がったという経験もしています。ポジティブな影響を受ける場面が多くあり、「社外取締役を入れた方がより経営のレベルが上がるんじゃないか?」と感じることが多々ありました。こうした社外取締役の重要性が、世の中で議論されることがあまりないことを不思議だと、ずっと思っていたんです。
社外取締役はどのように選定すべきか
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):会社が成長してくると、今までに経験してこなかった事態に対峙していかなくてはいけません。海外進出など、これまでとは違うマーケットに攻めていくフェーズに進むと、対応しなきゃいけないリスクなど、どうしても知らないことがある。こうした時、失敗を防ぐために社外取締役の意見を聞き、第三者的に知恵を補完してもらうことが、スタートアップ、大企業を問わず必要です。
小林:次に自分達がチャレンジするテーマを見据えて、それに合う専門性や経験を持たれている方を迎えることが必要なのかな。
村上:『ファイナンス思考』じゃないですけど、より未来思考で社外取締役を選べれば、実はバリューが出やすいのかもしれないですよね。
朝倉:社外取締役が第三者的にインプットできることって、多々あると思うんですよね。社長を含めて執行に関わっている人達が、目の前の事業を回したり、オペレーションを確立したりすることに気をとられているのであれば、「もうちょっと非連続なジャンプだとか、違う成長余地を探っていかなきゃいけないんじゃないの?」といった目線の引き上げが有効な時もある。 逆に、経営チームが非常にアグレッシブで、「あれもこれもやるんだ!」っていうような時であれば、「そんなにリソースはないんだから」と諌めて、風呂敷を畳むように促すことも必要かもしれない。ただ、未来を見ているという点では、やっていることや言っていることは違ったとしても本質的には同じ役割を果たしているんですよね。
村上:取締役会が、アセット・アロケーションやポートフォリオを議論する場だとすると、社外取締役がいるところは、マーケットのトレンドや競合状況を見ながらリソース配分が正しいのか客観的に指摘をもらえて議論に反映できる。スタートアップでも、そういったフェーズになってくると、社外取締役はバリューを出しやすいんじゃないかなと思います。プロダクトを開発してるフェーズだとそういう議論はそこまで意味がありませんが、複数の事業を抱えるようになると、よりバリューが出やすくなりますよね。
小林:ICCサミットでも、岡島悦子さんが仰ってました。岡島さんはいろんなステージの会社に関わっていらして、新しい事業と既存事業の間でリソースをどう配分するかを判断する時に「社外取締役の意見は、非常に大きなバリューだ」と。そう思うと、事業が複数にまたがるタイミングというのは、社外取締役の設置を考えるべきタイミングかもしれませんね。事業が一つだと、何を開発してどう営業して、どうマーケティングする、みたいな執行寄りの話に議論が集中する。だから社外の人は、逆に浮いちゃうかもしれないし、インプットする時間だけになってしまう可能性はありますよね。
朝倉:会社が成長して抱える事業が増えていくと、どんどんポートフォリオマネジメント的な観点に近づいていくわけじゃないですか。だから、そういった広がる複数の事業、複数のライン、複数の組織でどのように整合性を取って、どこに注力すべきなのかを判断すべき時に、社外取締役が貢献してバリューアップできる余地があるのでしょうね。
小林:この前、これから取締役会を作る会社の人に「取締役って何人ぐらいがいいんですか?」って相談されたんですけれど、これって意外に本質的な質問だなと思ったんです。よく執行で頑張った人を順番に上げていく会社があるじゃないですか。結果的に、取締役会のメンバーが営業部長、開発部長、マーケティング部長みたいな感じになってしまう。そうすると執行の人の数が増えちゃって、社外取締役が来てもあまりバリューが発揮できない雰囲気になります。そういう風に執行者側だけにならないように、先々を考えてメンバーを構成していくのは重要だと思いましたね。
村上:言いすぎかもしれませんが、事業数が増えるほど社外取締役の比率が高い方が議論のバランスが取りやすいかもしれませんね。
小林:それは実感としてあります。
朝倉:逆に初期段階の会社で、教科書通り厳密に経営と執行の分離をやりすぎてしまうと、社長はどんどん現場が見えなくなってしまうので、それはそれで考えものです。徐々にステップアップしていくべきプロセスなんだと思います。
朝倉 祐介
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。