INTERVIEW

【 ツナグ・ソリューションズ】AIはパート・アルバイトの働き方を変えるか? Vol.3

2017.09.29

2020年、非正規雇用比率4割時代を解決するビジネス

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):働き方の変化が求められる中で、マクロ的に見ても、御社のようなRPO(リクルートメント・プロセス・アウトソーシング)のニーズは上がっていくとお考えですか?

米田光宏氏(株式会社ツナグ・ソリューションズ 代表取締役社長。以下、米田):マクロで見ると、2020年には非正規雇用比率が4割を超える見込みです。働き方改革でも、シニア、子育て世代の主婦、外国人、テレワーク、というもので労働者人口を増やしていかざるをえない状況ですよね。言い換えると週5日8時間働く人員を確保するのが非常に難しい、これは決定事項に近いわけです。私たちはこれからの現場労働マーケットをどう捉えるかという時に、モザイク型と言っていますが、例えば3時間の単位で仕事をする人を組み合わせるということを考えています。業務についてもバックヤードとフロントを切り分け、多能性を時間で切り分けることで現場人材を確保していくことが今後避けられなくなっていきます。逆に言うと私たちのビジネスは、そこに向けて成長の余地があるし、やらなければならないことが多いとも感じています。

小林:マクロ的にニーズが高まるということはよくわかったのですが、一方でなかなか競合が入ってこないのはなぜなんでしょうか?

米田:私たちが起業する以前から、正社員採用においてはRPOというBPO領域がすでにマーケット化されていました。それは、「人事」業務の代行だからです。人事部が10人いたとして、その1人の業務を代行するわけです。それに対して、私たちが対象としているのは、500や20,000店舗分、つまり500人分や20,000人分に及ぶ「店長」の採用業務の代行です。この2つの違いは何かというと一つは営業利益です。一人の業務を代行する場合は効率化が容易なので30%くらいの利益率は見込めます。これに対して私たちの場合のそれは、IRを見ていただければわかると思いますが、5%~10%を切る数字です。30%という高利益率の事業を展開している既存の事業者が、わざわざ相対的に旨味の少ない5%のマーケットに積極的に展開しようとはしませんよね(笑)。

そして、利益率の低い理由の一つでもありますが、それだけの数の店長の採用業務を請け負うには、ある程度採用業務に精通した人材を一定数以上抱えないとなりません。スタートアップ企業にとっては人材に対する投資が非常に必要になりますので、そちらからの参入障壁も高いといわざるをえません。

採用代行業務の参入障壁が高いというのは人材育成部分があります。求人という領域にはソフトな側面では採用ナレッジ、求人媒体知識や効果的な原稿作成、コピーライティング、定着手法の効果事例の蓄積が、ハードな面では主にリーガルな観点、男女雇用機会均等法や労働基準法、現場においても履歴書の管理方法などの個人情報管理への知見などが人材必要用件として挙げられます。そのソフト面ハード面に精通したスタッフを大量に育成しなくてはならないというのも簡単にできないところでしょう。

お客様の前に立つ全ての人間は経営者であれ

小林:事業から少し離れた質問になりますが、創業から1年半ほどで持株会を作って、そのあとも定期的に第三者割当をして、直近では親引けもされていますよね。これだけ従業員持株会を意識して運営されている会社は珍しいと思うんですが、これはどういうお考えなんですか?

米田:ビジネスにおける私の基本的な考えは、お客様の前に立つ全ての人間は経営者であるべきだというものです。要は自分のインセンティブやベネフィットと自分がやっている仕事が連動していないと責任を持ってお客様と言葉を取り交わせないはずだということです。こうした姿勢は株式の持ち分の多寡にかかわりません。1株でも持っていれば、経営者になりえると私は思います。ですから、基本的には持株会というものを推奨しています。2015年には退職金制度をそのために解消して、未来退職金まで従業員に渡し、それを原資にして自らが自社の経営者となる機会を提供しました。それが一番大きな第三者割当です。もちろん他の目的に使っても良いですが、ほとんどの従業員がその時の持株会に入りました。ベンチャーキャピタルを入れてこなかった背景にはこうした理由もあります。

景気変動の波に呑まれない人材事業を作る

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):マクロで言うと、人材業界はマーケットがマクロの影響を受けやすいですよね。そのような中で、長く事業をやるということは有利に働くのでしょうか?

米田:おっしゃる通りで、私自身前職時代に人材業界の景気変動に対する耐性の弱さをすごく感じました。景気が良いときはそれ以上に人が必要なのに対して、景気が悪いときはそれ以上に人を採用しない。なので、リーマンショック後には、対前年比で6割というのが2年続いたとも聞きます。先程お話しした「人手不足数×広告出稿×掲載単価」という方程式はどうしてもその波に乗ってしまいます。そこで、社会に対しても従業員に対しても継続責任を達成できる会社を実現するために、クライアント側に立ち、マネタイズモデルも一原稿いくらといった広告型課金ではなく、お客様の業務代行費用の形にして起業しました。景気変動による影響はゼロではありませんが、アルバイト・パートでも学生は卒業したら辞めますし、採用ゼロということはないので、人材業界の中では景気変動に対する耐性は強いのではないでしょうか。

小林:今は景気が良くて人手不足の中、現場でみんなが感じているのは労働時間を減らせっていわれても仕事が減っていないから仕方がないという感覚ですよね。その中で、アルバイト・パートの採用代行が果たす役割をどのようにお考えですか?

米田:ホワイトカラーの過重労働対策が取り沙汰されていますが、実は現場のほうが、隠れているだけで非常に問題になっています。これはどこかで表面化すると思うので、私たちはそれに対して採用効率を上げることで過重労働対策にもなるようにと思っていますね。

小林:現在の働き方対策のモメンタムが御社に追い風になってるということですか?

米田:完全に追い風ですね。実は正社員比率がわずかながら上がったのですが、なにが上がったかと言うと短時間正社員やテレワーク可能社員なんですね。つまり、正社員マーケットにおいても、1日8時間週5日モデルはすでに崩壊していて、正社員という名の非正規型の働き方、多様な働き方が増えてきているわけです。これはこれからも確実にそうなので、私たちのビジネスモデルがトレンドに合っているとは考えています。

経理課の人数は変わっても、居酒屋のホールスタッフは変わらない現実

小林:お話を伺っていると、本当に日本の長期的な人口動態や働き方の変化を捉えながら、かなりロングスパンでお考えになっていると感じました。

米田:2050年には終戦直後、2100年には江戸時代と同じ人口になるというのはもはや決定事項なので、働き方が変わっていく中で、AI化や無人化が進んで行くのは間違いないと思っています。ですが、私はAI化や無人化で生産性が上がる以上のスピードで労働力人口は減っていくと考えているので、そこをしっかりサポートしていきたいのです。

村上:労働力人口全体の減少と御社の占めるシェアの増加というマクロの掛け算をした時に、結果として上がるのか下がるのかで投資家と話をされていると思いますが、そこにさらにAIなども入ってきて掛け算の要素が3つにも4つにもなった時に、会社にとっての市場が増えるのか減るのか、投資家さんも見定めが難しいと思うんですが、投資家さんの目線との間にギャップのようなものはありますか?

米田:AI化がまずどこからスタートするのかという話は、投資家ともよくします。25年前、従業員数が1,000人くらいの企業には10人規模の経理課があったと思いますが、今は2~3人ですよね。AI化やIT化で労働生産性が上がるのはホワイトカラーです。それに対して、25年前の居酒屋を考えてみると現在のホールスタッフの数が減少しているかと言えばほとんど減っていないですよね。現場人材における労働生産性の向上が進まないというわけではありません。ただスピードの部分で言うと、現場人材は基本的に若い人が多い事もあって、人口減以上に少子高齢化の影響を受けやすいということもあります。そこのスピードを考えると、AI化によって私たちの市場がどう推移するのかについてはイーブン、もしくは人材の枯渇感のほうが強いだろうという話はさせていただいております。

小林:東大のAIやビッグデータの研究をされてる先生も、ホワイトカラーのほうが圧倒的にAI化をするインセンティブがあるし簡単だとおっしゃっていますね。コンビニの店長みたいに、おでん作って、コーヒー淹れて、チケット発券して、棚卸しやって、弁当廃棄してなんていうロボットは作るのも難しいし、単価的にも後回しにされるだろうから、ホワイトカラーのほうが先にAI化が進むだろうと。

米田:ただ、私も未来永劫このモデルが成立するとは思っていません。現場人材のIT化やAI化による生産性向上というのは、利用者のリテラシーや技術の向上とセットだと思っています。ETCカードの広がりによって料金所の生産性は向上しましたが、セルフのガソリンスタンドは思いの外進んでいません。これは使う側のリテラシーや手間に関する意識の違いですよね。でもゆくゆくは利用者側のリテラシーが向上して、技術が手間の意識も極小化することで、現場の労働生産性も上がっていくはずです。私たちとしてはそれまでにマーケットを確保し、ビッグデータ化を進め、プラットフォーム型の事業モデルまで進めようと目論んでいます。そうすることで、現場のAI化とは違う世界で仕事が進んでいく、先ほどお話しした第三の矢まで進んでいきたいと考えています。

企業経営にゴールはない

村上:最後の質問になりますが、上場されて変わったことはありますか?これは想定外だったなとか社内外での見られ方とか、従業員の意識とか。

米田:一番喜んでくださったのはお客様ですね。私たちのお客様はほとんどが上場企業なので、同じステージで同じプロジェクトを進めていくことができるようになったことを本当に喜んでいただけました。それ以外は特にありません。というのも、上場を経験された方ならわかると思いますが、内部統制ルールをはじめ、マーケットに耐えうる体制を作ってから上場するので、従業員にとっては上場の前のほうが変化は大きかったと思います。

今回、ポストIPOというワードを頂いて面白いなと思いましたが、僕はIPOについて通過点という言葉は使いません。通過点ということはいつかゴールがあるはずですが、企業経営にゴールはないですよね。だから、通過点ではなく節目で、変化の結果の節目としてIPOがある。それがこれからもずっと続いていく、それが私の思うポストIPOですね。

インタビューを終えて

労働力の減少は、日本が将来、必ず向き合わなければならない問題です。 巷では、AIやロボティクスなどの新たな技術が取り沙汰されていますが、「採用代行業務」という、古くて新しい視点をアルバイト・パートの採用市場に取り入れることで、日本の小売業・サービス業の生産性を改善していく同社の取り組みは、非常に意義が大きいと感じました。 米田社長のおっしゃる通り、RPOが広がり、労働者側も雇用社側も多様な働き方を「組み合わせる」のが当たり前になれば、全く違った社会になるのではないでしょうか。

シニフィアン株式会社 共同代表 小林 賢治

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