スタートアップに資金提供するベンチャーキャピタルが増加・多様化する中、ベンチャーキャピタルにとっても、独自の強みを訴求することは不可欠になりつつあります。今回は、そのベンチャーキャピタルが掲げる様々な特徴の中でも、投資家として「創業者フレンドリー」であるとはどういうことなのかについて考えます。
本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。
(ライター:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)
「創業者フレンドリー」であるとは何か
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、「創業者フレンドリー」な投資家とは何か、について考えたいと思います。スタートアップに資金提供する投資家−主にベンチャーキャピタルですが−がこれだけ増えると、各社、独自の特徴を出すために、スタートアップに対して、自分たちは単に資金を提供するだけではなく、様々な付加機能を持っている、ということをアピールするようになります。
USの事例でわかりやすいのが、アンドリーセン・ホロウィッツですね。彼らは、スタートアップに対して、資金提供するだけではなく、独自のバリューアップチームを派遣し、その会社のバリューアップに貢献する、という特徴を謳っています。
そういった謳い文句の一つとして、投資家の中には「我々は創業者フレンドリーなチームである」と訴求される方々がいます。この点について、Y Combinatorのアーロン・ハリスが2017年にブログで、「創業者フレンドリーとはどういうことなのか」をまとめていて、和訳されたポストもあります。
このポストでは、「創業者フレンドリーではない」行為がいくつか挙げられています。例えば、創業者と一緒にパーティーする、創業者にプレゼントをする、創業者に言われた要求を無条件にのむ、創業者のためにサイドビジネスを運営する、といった類のものです。
つまり、「創業者フレンドリー」とは、創業者をもてなしたり仲良くしたりすることではないし、創業者が個人的に利益を得ることをサポートしたり、すべての要求に応えたり、感じよく対応したりすることでもない、ということが述べられているんですね。
では、アーロン・ハリスが考える「創業者フレンドリー」とは何か、というと、誠実である、率直である、迅速に対応する、会社・株主・従業員の利益のために最善を尽くす、といったことのようです。
面白いのは、「”創業者”フレンドリー」と言いながらも、会社のステークホルダーの利益のために最善を尽くすことが標榜されており、なおかつ、そのステークホルダーとして列挙されている人の内、創業者が最後に出てくるという点です。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):ステークホルダーの中で創業者が最後に示されているのは、「会社の成長が最も重要だ」という哲学の表れだと解釈しています。
創業者は、興した会社が成長することによって直接的なベネフィットを得る関係者であり、「創業者フレンドリー」とは創業者が個人的に利益を得ることを支援することではなく、会社の成長を本質的に支援することである、という立場ですよね。ですから、「創業者フレンドリー」だからといって、会社のステークホルダーとして創業者個人を最優先することはないということなのだと思います。
朝倉:創業者個人に便宜を図ったり、えこひいきをしたりすることではなく、会社の創始者・創業者であるという「役割」に対して寄与・貢献することが「創業者フレンドリー」である、これがアーロン・ハリスの定義だということですね。
村上:加えて、彼が挙げている「創業者に対して誠実である、率直である」という部分は、必要とあらば、会社・創業者・経営ボードに対して厳しい意見を言うというスタンスです。それも含めて「創業者フレンドリー」だとしているのでしょう。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):会社として、ステークホルダー全体のベネフィットを追求するためには、経営陣が常に会社の現実・現状を正しく理解している必要があります。投資家としてそれを支援するということは、経営陣にとって耳の痛い話もする、ということです。
しかし、投資家のその積極的な関与によって会社が成長すれば、結果的に創業者もベネフィットを得ることになります。「創業者フレンドリー」とはこのように、あくまでも会社の成長のために、または会社の成長を通して、創業者を支援する、という姿勢のことなのだと思います。
経営において率直・誠実な姿勢を貫く難しさ
朝倉:このポストでアーロン・ハリスが挙げている項目自体は、どれも当たり前で陳腐に感じられる内容でもあります。「誠実、率直」はありふれたフレーズですしね。ですが、ここに敢えてこうしたフレーズが挙げられているのは、言うは易しでも、実行するのが極めて難しいからなのだと思います。
例えばジャック・ウェルチ『ウィニング 勝利の経営』でも、冒頭で”Candid”、率直であることが重要だと書いてあります。あるいはピーター・ドラッカーも、組織のリーダーやマネジメントを担う人材にとって決定的に重要な資質として、”Integrity”、誠実さを挙げています。一見、ただの綺麗事のように聞こえますが、何度も強調しなければならないくらい、貫くのが難しいことなのでしょう。
村上:会社の中で、経営陣だけで議論していると、会社の現状を直視したり、素直に受け入れたりすることが難しい場合があります。プロダクトの弱み、激しい競争環境、想定ほど高く評価されない企業の価値など、思うようにいかないことは多々ありますが、経営者のみでそうした課題に率直に向き合うのはなかなか難しい。ですから、外部の投資家の率直なフィードバックには非常にバリューがあります。
朝倉さんが言うように、率直に伝えること自体が難しいですし、特に、会社の中にいるとその難しさが際立つからこそ、面と向かって指摘しにくい内容であったとしても、外部の株主が、「誠実、率直」であるという意味で「創業者フレンドリー」であることに価値があるのだと思います。
投資家・創業者双方に求められる「フレンドリー」な姿勢
小林:こうした姿勢を表現する言葉として「フレンドリー」を選ぶと、受け手によっては異なる解釈をすることもあるでしょう。ともすれば誤解しかねない。どういう言葉が的確なのか、考えていたのですが、「誠実な姿勢」というニュアンスが近いのでしょうか。
朝倉:投資家の基本的な態度、マインドセットを表現した言葉なのですが、「フレンドリー」とだけ聞くと、あまり口やかましいことを言わない、人当たりのいい、感じのいい、表面的にナイスな人を想定してしまいますよね。
実際、そういう意味で「フレンドリー」に振る舞う方が簡単ですし、相手からの受けもいい。それに比べれば、率直・誠実でることは難しいのだと思います。
これは投資家に限った話ではありませんが、事業や会社の成長のために、必要とあれば厳しい指摘も辞さない人が、時に感情的に反発されたり、悪評を流されたりすることもあります。
自己保身を優先するのであれば、好々爺然として、事なかれ主義、日和見主義でいたほうが得をする場面も多々あるでしょう。
村上:そうですね。本当の意味でフレンドリーな投資家、会社の成長を考えて率直に意見を言ってくれる外部の目は、得難い存在ではあるのですが、受け手が常にそれを受容できるかというと、必ずしもそうではありません。個々人の資質に依存する部分もありますが、投資家の指摘に対して「否定された」と感じてしまう瞬間は、どんな経営者にもあることでしょう。投資家が精一杯誠実に、経営者に対峙し続けたケースでも、最終的に不一致や不和に陥るケースも多々あります。このあたりが、投資家が本来的な意味で「創業者フレンドリー」であることを、構造的に難しくする点でもあります。
ここで視点を移してみると、株主を形容する言葉として「創業者フレンドリー」があるならば、逆の視点から、創業者を形容する言葉として「株主フレンドリー」という言葉も成立すると思います。そして、この2つの言葉が指す内容は、ほとんど同じものになるはずです。「株主・投資家に対して」「創業者・経営者に対して」の部分が違うだけで、誠実である、素直である、会社の成長・ステークホルダーの利益のために最善を尽くす、という姿勢自体は両者共通で求められる姿勢だからです。
ポイントは、会社の成長に対して誠実な経営者と投資家が組み合わされば、ぐっと成功確度が高まるのではないか、ということです。逆に言えば、どちらか一方だけがフレンドリーであっても、機能しないものなのではないか、とも思います。
朝倉:Union Square Venturesのフレッド・ウィルソンは、社外取締役について、「良い社外取締役とは、問題が起きた時に、自らシャツの袖を捲り、率直に問題解決に取り組む人物だ」と述べています。
また、Benchmark Capitalのビル・ガーリーは、トラヴィス・カラニックに向き合い、Uberを初期から支援していた人物ですが、数々の問題が持ち上がる中で、最終的に経営体制の変更を告げたのも彼だったそうです。
外からは窺い知れないこともありますし、一見すると対人コミュニケーションという意味でいくと、「フレンドリー」という言葉に矛盾しているように思えるかもしれませんが、以上に触れた「創業者フレンドリー」という意味では、極めて一貫した行動なんじゃないかと思います。