シニフィアンの共同代表3人が、ほろ酔い気分で放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談。第2回のテーマは企業の成長フェイズにおける「ステージチェンジ」についてです。
朝倉 祐介
シニフィアン株式会社共同代表 今年もCoachella、フジ、サマソニ、ULTRAと、主要フェスをひと通り周り、Radiohead、bjork、TheChaimsmokersをお目当てにしつつも、結局、2017年心のベストアクトはサマソニのTRFというTK世代。
村上 誠典
シニフィアン株式会社共同代表 知る人ぞ知る、けん玉の名人。小中学校時代は「姫路の神童」として数々のけん玉大会の賞を総なめにしてきたが、大人になってからは披露する機会が全くない。
小林 賢治
シニフィアン株式会社共同代表 今春、70キロを目標にダイエットに取り組んだところ、見事10キロ以上の減量に成功するも、目標体重を目前にして途端に減量ペースがゆるんだため、共同代表の2人から新たに65キロの目標を設定される。目下、70キロをオーバーした日は禁酒中。
(ライター:福田滉平)
企業が成長プロセスで直面するステージチェンジ
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):前回のポストIPOに続いて、今回テーマは企業が成長する上で欠かせない「ステージチェンジ」です。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):企業のステージチェンジとしては、いわゆる「非連続的成長」も間違いなく一つのパターンなんだけど、他のパターンもあると思う。企業規模でいうとそこまで急激な変化ではないんだけど、複雑性が上がったことで、今までのやり方が通用しなくなって、やり方を大きく変えざるを得なくなるという局面。 後者でよく言うのは、従業員数が100~200人ぐらいまで増えたタイミングで、今まで見えていた社員の顔が見えなくなり、著しく組織マネジメントが難しくなることに伴うステージチェンジ。他にも、拠点数が増えたり、単一だった事業の数が複数になったりして、いろんなことの差配が難しくなり、ステージが変わっていくということがあると思う。
村上:会社がオーガニックに成長する過程で、組織に副次的に発生する問題に起因するステージチェンジは確かにあるね。他には、事業の成長が鈍化していったり、事業領域が複数に広がっていったりといった、会社の事業フェイズによるステージチェンジ。もう一つは、競争のルールの変化。規制緩和といった外的要因に起因したステージチェンジ。ざっと言ってもこの3分類ぐらいはステージチェンジの類型があるね。
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):以前にポストIPOについての話をしましたが、IPOも1つの区切りでしょう。IPOするとある日突然、会社の中身が変わるかと言うと、当然そんなことはなく、連続性がある。だけど、外的には、テークホルダーがとのコミュニケーションが大きく変わるという点で、ステージチェンジですね。
村上:競争環境についてもう少し掘り下げると、例えば競合他社がサービスを無料化するといったことも、業界構造や企業の収益構造が大きく変わるという意味では、ステージを変えていかなきゃいけないイベントやね。 他にはM&Aも、組織やガバナンス、財務に対する変化が甚大なイベントですし、海外進出もまた、競争相手が一変するイベントです。
グリーの猛追がDeNAのステージを変えた
村上:DeNAは何度か大きなステージチェンジを経験していますよね。
朝倉:コバケンさんがDeNAに入ったのは?
小林:2009年です。入社する前の6四半期はほぼずっと利益が横ばい、という厳しい状況でした。
朝倉:あの頃はメインのビジネスはもうビッダーズではなかった?
小林:モバゲーです。当時はアバターの成長が鈍化して、「次の成長エンジンはどうするんだ」ということが問われていた時期。ちょうどそんなさなか、グリー社が上場したんです。グリー社はTVCMを積極的に展開するなどして急激に会員数を伸ばし、2009年7-9月の四半期に、ついに営業利益でDeNAを抜いた。 ウィナーテイクスオールの事業だと考えていたので、ここまで猛追されたことのショックは大きかったですね。頭をよぎったのがMyspace対Facebook。このタイミングで急激に危機感が上がったんですね。
だからDeNAのステージを変えた原動力は、実は競合を明確に意識したことでした。走っていたらいつの間にか横側に「えっ!!」みたいな感じでグリーの姿が見えたというのが非常に大きい出来事だったと思います。
村上:確かに、競合を明確に意識すると、戦略やサービスなど、ひとつひとつを比較し出しますし、負けているポイントが気になり出す。 例えば、「うちのサービスの方が利用者の満足度が低いんとちゃうか?」もそうだし、相手がM&Aをやり出したら、「うちもやらんとあかんのちゃうか?」とか「相手はたくさんキャッシュ持ってるけど、うちは持ってないんとちゃうの?」とか。
小林:DeNAとGREEの場合、両社がプラットフォームとして完全に並び立っていたわけで、お互いのことは本当に強く意識していたと思います。プロダクトや事業はもちろんのこと、採用の動向なども強く気にしていましたね。
朝倉:確かに、同じ事業領域にいるネット企業で、ひたすら相手のUIを意識してサービスを開発しているな、と見受けられるケースなんてよくありますよね。ほぼ丸パクリやんかと(笑) 今だとSnapchatに対するFacebook傘下のサービス群がその極致ですね。
村上:その意味だと、10年以上前の競合環境の認識の仕方って、本当に近いところばっかりを意識していたと思うんだけど、この10年、15年で圧倒的にプラットフォームを築いた会社が横展開したり、異分野に進出したり、大きな資本を持った人が入ってくることが増えたじゃない?だから今から思えば、当時のネット系企業も、競合をもっと広く捉えるべきだったはずなんだけど、どうしても直接的な競合ばかりを意識してしまいがちなのが難しいところだよね。
スマホシフトが一変させたモバイルゲーム企業の戦略
小林:DeNAとGREEの戦略が質的に大きく変わってきたのは、スマホが伸び始めてからだと思います。一言でいうと、戦略変数が大きく増えた。ブラウザかアプリか、iOSかAndroidか、国内かグローバルか、といった大きな決断を同時並行で走りながらやっていかないといけなかった。
朝倉:それでいうと、DeNAは2010年の段階で『忍者ロワイヤル』っていう、非常に完成度の高いスマホアプリを出していたじゃないですか。僕、今でも覚えているのが、2010年秋の決算発表で言っていた「X-border(クロスボーダー)」と「X-device(クロスデバイス)」。あれは凄いなと思って見ていました。ちゃんと実態としてのテクノロジーと紐付いていたし、これは盤石やんかと。 僕は当時、社員10人少々の零細スタートアップを経営していましたが、その会社ではガラケー向けに、どのデバイスでも同じアプリケーションを展開できるという、ミドルウェアを作ってたんです。当時はauであれば、BREWっていう言語。ドコモとソフトバンクも微妙に違ったりして。あとソニーエリクソン製とシャープ製、富士通製などなど、デバイスによってアプリの挙動が全く違うといった差異を吸収するミドルウェアを作っていたんですよ。 ところがガラケーからスマホへの移行が一気に進み、iPhoneやAndroidとなった。特にAndroidなんてOSのバージョン違いに対応しないといけなかったから、このミドルウェアをゲーム開発のソリューションとして切り出せないかなと思っていたんですが、そんな矢先に「X-border」「X-device」ってドーンと出たから。「これはすげえな!」と思った記憶があります。
村上:それ、めっちゃ覚えてる。売上高4000億円、海外売上2000億円、営業利益2000億円目指すという目標だったよね。急成長のネット企業が海外に出ていくっていう意味でもインパクトがあった。
小林:注目度が株価にも表れていましたね。
朝倉:当時は四半期単位で業績でも時価総額でも、GREEとDeNAが抜きつ抜かれつでしたね。ちょっとしたお祭り騒ぎやった。
GREEをマークしていたら、大外から『パズドラ』に差された
小林:思いっきり状況を変えたのが『パズドラ』(注:ガンホー・オンライン・エンターテイメント社が2012年にリリースしたスマートフォン向けゲームの『パズル&ドラゴンズ』)。『パズドラ』が出てくるまではGREEばかりを競合として見てたけど、「全然マークしてないところからダークホースが差してきたぞ!」みたいな。
朝倉:『パズドラ』を開発したガンホーは、PCのオンラインRPGの会社でしたもんね。
村上:ド競合がそういうゲームを出すと、みんなすごい心配するんやけど、ちょっと目線から外れていると見逃すというのはよくある。「いい製品、売れてるらしい、評判もいいらしいで、へぇ〜そうなんや~(沈黙……)」で終わってまうみたいなね。
小林:まさに私自身がそうでした。競合を狭く見ていた。
朝倉:わかりやすいイノベーションのジレンマやね。
第1回 DeNA、GREEの死闘をひっくり返した「パズドラ」の衝撃
第2回 顧客ガン無視。なぜ企業は「都合のいい市場分析」にハマるのか
第6回 星野監督の夢はノムさんの後にひらく?経営戦略の遅効性