INTERVIEW

【Mマート】飲食業界の流通を変えるインフラを作る Vol.2

2018.06.02

飲食業界の古い卸売構造にインターネットを持ち込み、流通構造改革を目指す、株式会社Mマート。村橋孝嶺代表取締役社長に事業の進捗や今後の構想についてお話を伺います。前回の記事はこちら

不良在庫がMマート出品で化ける理由

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):出店とは別に、「即売・ソクハン」といった出品方法もあるようですが、この領域ではどういったビジネスモデルを仕掛けていらっしゃるのですか?

(Mマート「成長可能性に関する説明資料」より)

村橋孝嶺(株式会社Mマート代表取締役社長):即売やソクハンでは、出店料を貰わない代わりに、売れたらマージンを頂いています。それが自動的に低価格での出品を担保する仕組みになっています。

小林:そもそも、どのようなニーズを感じ取られてこのようなビジネスモデルにされたのですか?

村橋:メーカーも問屋も何十トンと不良在庫を持っています。先日、廃棄物の横流しが事件になりましたが、これは昔から問題の素地があって、飲食店側としても迂闊に廃棄処分も頼めません。自分のところで完全に廃棄処分しないと信用に関わるわけです。したがってお金もかかります。

廃棄直前のものは、原価を割ってもいいから少しでも捌いて現金にした方が利益になります。日本人特有の「もったいない」精神もあります。そこで、「廃棄処分をやめてとにかく、うちに出品しませんか」と呼びかけました。大手スーパーでは賞味期限まで半年を切ったものは売れません。中規模以下のスーパーでも3ヶ月を切ると売れません。でも、Mマートでは1ヶ月を切っても売れます。賞味期限が短くても、在庫を抱えずにすぐに調理して提供する飲食店等では需要があるわけですよ。

自前開発が競争力の源泉

小林:ここから、御社の競争力について伺いたいのですが、まずは、競合するようなBtoB型のプラットフォームサービスは他には出来なかったのですか?

村橋:実は2000年前後には、かなり乱立していました。私が知っているだけでも一部上場企業の100%子会社が10社はありました。ところがそこの社長が私のところに来て「うちも出店させてくれ」と言うわけです。

同様の話が何社からもありました。同業者なのになぜかと問うと「この業界で売れているのはMマートさんだけだ」と言うのです。なぜ彼らの試みがうまくいかなかったのか聞いていくと、資金があるからといって大手に依頼して5,000万円かけてシステムを作るようなことをしていたんですね。大手相手では、ちょっと更新するだけで30万円かかることもあります。

私たち、流通の仕事は毎日改善させないと生き残っていけません。しかし、更新の度にお金がかかるとなると、どうしても頻繁にシステムを磨くことができなくなる。すると、売れなくなるわけです。うちは自前で作ったことが良かったわけですね。

小林:私の前職のDeNAも創業時はシステム開発を外部委託していたのですが、当時は大変苦労したという話を聞きました。納品日に納品されるはずのものが全く存在せず、白紙だったんですよ(笑)。その経験から自前で開発する方針に切り替えたことで、結果としてDeNAの競争力が上がりました。

村橋:当時はほとんど外注していたんですよね。みんな、それで失敗しています。

意識の高い買い手が殺到し、質の低い売り手は淘汰される生態系

小林:続いて顧客開拓について伺いたいのですが、Mマートでは、軌道に乗ってからは買い手側への営業はほとんどしなくなったと聞いております。

村橋:はい、買い手側には営業しておりません。放っておいても毎月600〜700社の登録があります。

(Mマート「成長可能性に関する説明資料」より)

小林:すでに認知度は高いわけですね。

村橋:そうですね、毎年7,000社から8,000社が買い手登録してくれているわけですからね。

小林:一方、売り手側の卸やメーカーには開拓営業の方がいらっしゃるんですか?

村橋:そうです。売り手側の方の意識が遅れていますね。Mマートを始めて5〜6年経ってある程度の規模を確立した頃、交流会と称して、売り手と買い手をいっぺんにホテルに集めてみたのです。

こちらの意図としては、売り手が買い手を探しやすいように会場を設計していたのですが、蓋を開けてみると、うちの社員を捕まえて「畜産の卸はどの人ですか?水産の卸はどの人ですか?」と貪欲に取引先開拓をするのは買い手側なんですよ。売り手側は、「いったいニーズはどこにあるのか」などと、見当違いの方を見て考えています。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そこで象徴的な光景をご覧になったわけですね。

村橋:そうなんですよ。メーカーも問屋も、高度成長期の考え方を引きずっているわけですね。

村上:その、売り手を開拓する時の考え方についてお聞きしたいのですが、「良いものを安く」という創業時のお考えでいくと、単純に売り手の数を増やすのではなく、御社の目で値段とクオリティの目利きをされた売り手を開拓しなければならなかったのではないでしょうか?

村橋:その通りです。そして、これは人間の努力では担保できません。自動的なシステムで担保しないと不可能です。品質の担保については、売買して10日後に買い手側に必ず自動的に、品質・満足度に関するアンケートメールが送信されます。

返信すると50ポイント差し上げているので、回収率がいいんですね。そうやって回収したアンケートは、当社と出店者に共有されます。出店者はそれを見て悪い印象があれば改善する必要があります。当社では、点数が悪いと売り手側に電話をしています。そういったものがリアルタイムに集積されてネット上に残っていきます。

そうすると、売り手は品質に対してこちらがうるさく言わなくても神経を使ってくれるようになります。

村上:品質の良いところだけが残っていくわけですね。卸側を淘汰する仕組みを用意していると。

村橋:はい。もうひとつの仕組みはシステム利用料です。うちは25,000円で1年契約ですが、1年経つと10,000円値上げしてしまいます。そこで半分くらいふるいにかけてしまいます。

「1年経って値上げに応じられないような競争力のないところは、Mマートで続けていくのは難しいですよ」というメッセージです。

村上:卸売り業者の集約化はネットの発達、御社の躍進もあり、かなり進んだということでしょうか?

村橋:そうですね。結果として、いい加減な問屋は無くなりましたね。

自社の仲介にこだわらない。目指すのは業界全体の変革

小林:御社の今後の成長可能性について伺いたいのですが、まずは出店数の伸長が重要な指標かと思います。しかし、いずれ卸売店が網羅されてしまうと、1店あたりの取扱高を増やすという方向になるのでしょうか?

村橋:そうですね。実際今も、1社あたりの取扱高は増えています。オプションとしてバナー広告も販売していますが、いちどに100万円の単位でバナーを買って頂けることもあります。

村上:なるほど。また、買い手側がMマート上で良い卸さんを見つければ、以降は御社を介さずに直接取引を始めてしまうという問題も生じるのではないかと思いますが、現状はいかがでしょうか?

村橋:実は、最初から直接取引を奨励しています。他社では囲い込みをしているところが多いですが、うちは逆です。どんどん奨励しています。

私自身が買い手の出身だから買い手の気持ちがよくわかるわけです。数ヶ月同じものを仕入れると必ず数%値引きして欲しいという話が出ます。そういった融通がきかなければ、流通のBtoBは成立しません。

売り手もリピーターを掴むためには、買い手の値引き要求に応じ、直接取引しなければならないのです。

村上:そうなんですね。結果として、卸売店からすれば、リピート顧客にはある程度の値引きを行って継続的な取引を固めつつ、Mマート上で常に新しい顧客も開拓できることとなり、ビジネスの選択肢を増えるわけですね。

村橋:はい、直接取引も新規開拓もどんどんやって、売り手も成長しなさい、ということなんです。私たちは流通インフラを目指しているわけですから、「当社を通さない取引は禁止」などと言っている場合ではありません。

小林:買い手にとって合理的な使い方を可能にしたことで、例えば、新しく飲食店を始めようという時には、まずMマートで仕入れ先を探す、という流れが出来てくるわけですね。

村橋:そうです。数日前、テレビ東京で取り上げていただいたのですが、赤字だった飲食店がMマートで仕入れ先を探すようになってから黒字になったという事例も出ています。

村上:飲食店は新陳代謝が激しいですが、御社のプラットフォームがあることで、より良い飲食店が新規参入する可能性を高めることが出来るわけですね。

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