【Mマート】囲い込むのではなく、顧客の分母を大きくする Vol.3

飲食業界の古い卸売構造にインターネットを持ち込み、流通構造改革を目指す、株式会社Mマート。村橋孝嶺代表取締役社長に事業の進捗や今後の構想についてお話を伺います。前回の記事はこちら

「中米」と呼ばれた安価な米が2倍の値段で売れる

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):卸売店の裏側にいる生産者が直接、御社のプラットフォームを使う動きはあるのでしょうか?

村橋孝嶺(株式会社Mマート代表取締役社長):農業関係では「アサトレ」が該当します。出品者は農家か農業生産法人に限定し、生産者以外は出品できません。

例えば、米の種類で中米と呼ばれる1.7〜1.90mmくらいのサイズのお米があるのですが、これが、今までは「くず米」として農協が1kgあたり100円くらいで買い取って、120円くらいで特定の業者が引き取ります。農協が「くず米」としているから農家の方もそう思い込んでいるわけですね。

ところがこのサイズのお米は飲食店では需要があるんですよ。米粒が小さいとおつゆがよく絡むのでどんぶり屋さんが喜びます。カレー屋さんも喜びます。我々がこの市場に参入する時に、オークション形式にしてみたところ、100円で取引されていたものがうちでは280円の値が付きました。高い時は300円を超えます。うちが手数料12%をいただいても、農家さんはほくほくですよ。

村上:今まで価値付けできなかったものは本当に価値がなかったわけではないわけですね。

村橋:そう、価値はあります。農家が自立して、一次産業が栄えないと国は経済的に没落しますよ。九州ほどの面積のオランダが、ずっと先進国でいるのは農業をきちんと守っているからです。日本は農業も漁業もほったらかしです。利権のかたまりですね。誰かがそれを壊していかないといけないわけです。

強きも弱きも公正に競争すれば、業界はまだ成長する

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):食品流通の世界において村橋さんの存在感はどんどん大きくなってきていると思います。あくまでも、業界の成長や変革を優先される姿勢は素晴らしいと思う一方で、御社のビジネスだけを見たときに、売上拡大の機会を逃しているのではないかとという見方もあるのではないでしょうか。

村橋:よく言われます。当社の場合、買い物カゴから買われる方は全体の取引の10分の1以下です。直接取引が10倍以上あります。アナリストには「機会損失ではないか?」と言われますが、それは違うと考えています。これを機会損失と捉えていては、視野が狭くなってしまいます。もっと大局を見て、業界全体の分母が大きくなれば、結果として当社の売上も大きくなると考えています。

朝倉祐介(シニフィアン共同代表):分母、すなわちマーケット全体にまだ成長の余地があるということですね。

村橋:はい。三菱食品だけで2兆5,000億円。国分でも1兆5,000億円。アクセスが2兆円くらいです。他に8,000億以上の会社が5社くらいあります。

まだまだこの業界にパイはあるわけですよ。でも、今まではクローズで、既得権益や既存の構造にがんじがらめになっていただけです。オープンなマーケットプレイスを作れば組織が大きいとか資本金が大きいは関係なくなります。大きいところも小さいところも、業界全体が大きくなる方向に向けて、一緒にやればいいじゃないか、と思っています。

デジタルマーケティングにはビッグデータが必須

小林:今後の成長については、どういったシナリオを想定されていますか?

村橋:まだまだ本業だけでも成長できると思いますが、ネットビジネスで考えないといけないのは、いかに有効な情報を、売り手と買い手に提供できるかですね。そこで必要なのがデジタルマーケティングの発想です。流通業界の人はまだデジタルマーケティングの本質理解していないと思います。

「この商品をどうやってメールマガジンで売るか」という発想では昔からある販促と変わりません。ただ手段がインターネットになっただけですね。

販促は顧客リストさえあればできますが、デジタルマーケティングはビッグデータがなければできない性質のものです。幸い当社にはビッグデータが蓄積されているので、これを駆使してデジタルマーケティングを進化させ、売り手と買い手に役立ててもらうことを考えています。売り手も売上が伸び、買い手は店が良くなるような、そんな情報を提供していきたいと思っています。

ネットもAIも本質は変わらない。成長を続ける極意

村上:御社のプラットフォームに海外の買い手が来ることについてはどうお考えですか?実際にそういうケースもあるのでしょうか。

村橋:はい、昔から世界中からアクセスがあります。今は40人ほどで電話対応をしていますが、昔は20人ほどでやっていたのでハローと言われたら受話器をそっと置いていました(笑)

そこで、私たちですべて対応するのは難しいから、出店者に紹介して出店者に任せようということになりました。去年、静岡のメロンを扱う農家さんが出店されたのですが、出店して6ヶ月もしないうちにシンガポールの業者から、直接取引でメロンを毎週1トンという契約ができたそうです。私共に感謝の電話がありました。私は「それは良かった。」と一緒に喜びました。こちらには1円の利益もないですけれど(笑)。

村上:現状では御社の利益にはつながっていないけれども、すでに海外からの買い付けニーズがあるんですね。

村橋:ニーズが多いようならば、当社でまとめることを考えてもいいかなと思っています。

村上:では、海外の買い手との仲介ビジネスについては、現在は仕組みを入れる前段階というわけですね。

村橋:国際物流がまだはっきりしていませんからね。関税の問題やインフラが整備されたら、当社が取りまとめるという形にしたいです。

小林:マーケット全体にはまだ成長余地があり、その前段で変革しなければいけない部分が多あるなかで、御社がより存在感を示すために今いちばん必要なもの、あるいは、現在不足しているものはありますか?

村橋:エンジニアですね。営業は自分のところで教育できますがエンジニアは難しいです。

小林:今日の率直な感想ですが、インターネットを用いたビジネスを、64歳という一般的には定年間近とされる年齢でゼロから始められたことが、本当に凄いことだと思いました。

村橋:やる気があれば年齢は関係ないですよ(笑)。年配の人と集まった時に、「みんな何してるんだ!」といつも言っています。「若い人よりも知識も経験も持っているんだから活かしなさいよ!」と。

「ネットビジネスはわからない」ではダメです。売り買いは、人間の心理に基づいているものなので、昭和の時代から変わりません。道具が違うだけです。道具は若い人に任せればいいわけです。

小林:飲食店経営時代に売り手と買い手の機微を生き抜いてこられたことが脈々と生きているんですね。

村橋:そうです。AIだって、アルゴリズムの延長、アルゴリズムは因果関係の延長、因果という言葉はお釈迦さんの時代からとあります。AIだからって真新しいことをしているわけではありません。みんな言葉に惑わされているだけです。すべては心理学。心理学は人類みな一緒。歳をとった人がやればいいんですよ。

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