COLUMN

経営者と投資家の違い・共通点について考える

2020.07.05

資金調達を繰り返しながら先行投資を続けて事業構築を図るといった経営スタイルを採るスタートアップにおいて、投資家は重要なステークホルダーの1つです。事業を成長させるという点において、基本的に経営者と投資家の目線は一致しますが、時に経済条件の違いに応じてコンフリクトが生じることもあります。経営者と投資家、双方の立場や視点の違い・共通点から、両者の理想的な関係について考えます。

Disclaimer:シニフィアン株式会社はグロースキャピタル『THE FUND』を運営し、スタートアップに投資する投資家の立場にあります。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)

エントリー時・エグジット時に顕在化する経済的コンフリクト

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今日は主にスタートアップにおける経営者と投資家の違い、あるいは共通点について考えたいと思います。

前提として、我々シニフィアン株式会社は、『THE FUND』というグロースキャピタルを通じて未上場企業に対する投資を行っておりますし、並行して上場株への投資も行なっています。したがって、我々が話す内容は投資家の立場から考える内容であり、バイアスがかかっている点はご留意いただきたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):会社が成長した時にリターンを得られるという意味で、両者ともに会社の成長を望む点での目線は同じです。違いが表れるのは、リスクの取り方です。一社にコミットする起業家・経営者と、投資先のポートフォリオとして複数社を見ている投資家とでは、リスクのとり方が大きく違います。

朝倉:お金だけでなく人的資本という観点も含めて考えると、起業家は多くの場合、持てる限りの金融資産・人的資本を自分の会社にフルベットするものです。対して投資家は、お金も人的資本も複数社に分散させている。そういった違いは明確にありますね。

スタートアップに関して経済面で、投資家と経営者のコンフリクトが如実に生じ得るのは、会社への出資におけるエントリーとエグジットの時点でしょう。

小林:基本的には投資家も経営者も協力して、事業が生み出す富のパイを大きくしていくゲームに参画している者同士ではあるものの、エントリーにせよエグジットにせよ、パイの切り分け方を議論する時にはコンフリクトが発生するということですね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):念のため、パイの切り分け時に発生するコンフリクトは、単純に「投資家vs経営者」という構図ではないという点は、整理しておきたいと思います。より正確には、新規投資家が出資する時、既存株主と新規株主の間でコンフリクトが発生するということですね。経営者は既存株主でもあり、既存株主を代表する会社の責任者という立場です。その意味で、経営者と新規株主との間には明確なコンフリクトがあります。

一方、既存株主である投資家は、新規株主がエントリーするにあたり、経営者とともに既存株主としてラウンドを設計するわけですから、経営者と目線が揃います。

朝倉:エントリー時のコンフリクトは、基本的に「投資条件はどうか」という条件を巡る調整に集約されます。一方、エグジット時のコンフリクトは、投資条件だけでなく、投資家サイドの投資可能期間などによっても生じますね。

例えば、運用するクローズドエンドファンドの償還期限が迫っている投資家であれば、事業への影響に関係なく、会社側にエグジット-上場であれM&Aによる売却であれ-するよう働きかけることもあるでしょう。

投資条件の違いによって食い違いが生じるケースですと、例えば、創業メンバーは普通株式、後から入った投資家は残余財産が優先分配されるような条件の優先株を保有している場合、上場できる水準にある会社であっても、投資家にとってはM&Aによって売却してもらった方が優先分配の設計上、より大きなリターンが得られるという状況も生じます。この場合、経済的な条件の違いによって、普通株主である経営者と優先株主である投資家の間で完全にコンフリクトが生じているわけですね。

条件の違いによってこうした利害対立が生じることを想定したうえで、エントリー時点では、投資家・経営者がお互いに歩み寄り、後々起きうる状況を想像し、コンフリクトを未然に防ぐような条件設定をしていく事が重要なのだと思います。

投資家・経営者の視点の違いを経営に活かす

朝倉:ここまで両者の利害の違いが表面化しやすい場面を敢えて挙げましたが、逆に立場が違うからこそ補完的な関係になれる状況もありますよね。

村上:まずは、会社の成長、株主価値の向上に向けて、投資家・経営者は基本的に協力関係にあります。会社の成長という同じ方向を目指して議論ができるし、した方がいい。その時に、会社の中にいる経営者と外にいる株主で、違う視点から議論する事で、より大きな付加価値を出せる機会はあります。

小林:異なる立場から議論することで、マーケットや競争環境を複眼的に捉えることができますよね。 起業家は自社の視点に寄る傾向があるので、より広い視座で客観的に競争環境・事業環境を捉えられる投資家の視点を持ち込むことは、会社にとって非常にポジティブです。

朝倉:ベンチャーキャピタリストの方々と話をすると、「経営者と投資家は立場が違うし、投資家は経営者ほど会社のことはわからない」とおっしゃる方が多いですよね。 これはある種、経営者に対するリスペクトの表れであり、謙虚な態度なのだと思います。確かに、投資家がオペレーションレベルで経営者よりも事業に精通しているなどということは、普通はないでしょう。

一方で、投資家は、会社起点ではなく、マーケット全体から会社の立ち位置を俯瞰して見る視点を持つことを思うと、会社の成長に向けては、経営者と互いに補完しあえる関係なのだと思います。 この点は以前にご紹介した、「自社と資本市場のアングルの違い」とも共通する話です。

小林:そうですね。経営者が、自社の強みを起点に、競争優位性や成長可能性を見積もっていく一方で、投資家は、外部環境を起点に、この事業の勝ち筋は何か、勝てる要因は何か、という議論を持ち込むことができる。お互いに違う視点を戦わせて議論することによって、戦略筋・勝ち筋の検討がより深まり、成長・株主価値の向上を実現する確度の高い戦略を実行することができると思います。

経営者と投資家が相互に学び合い、良い議論ができる関係を

朝倉: 個人的には、過去に上場企業の経営に携わり、そして現在、シニフィアン株式会社でファンド運営に携わる立場となって感じる共通点もあります。それは、両者ともに「リソースの最適配分」を重視するという点です。

シード・アーリー期のスタートアップであれば、単一プロダクトの価値の磨き込みに集中すべきですが、組織が拡大するにつれ、プロダクトの機能やラインが複雑化・複線化し、組織も巨大化・複雑化します。そうなると、ヒト・モノ・カネといったリソースをどう配分すればパフォーマンスを最大化できるかといった観点がより重要になります。

この「リソースの最適配分」という観点では、経営者の考え方やセンス、観点も、投資家のそれに極めて近いと私は思います。

村上:投資家として、私も、アセットアロケーションによって価値が最大化するということを信じています。経営者の場合でも、限られたリソースの優先順位を適切に付けていく力は非常に重要でしょうね。

例えば営業組織を拡充すべきなのか、マーケティングにコスト投下すべきなのか、プロダクトに投資してプロダクト・マーケット・フィットを確立すべきなのか。これらはオペレーションレベルの議論に聞こえるかもしれませんが、こうした力点の見極めこそが重要な経営議論だと思います。こうした判断が精度高く検討できる人は、経営者としても株主としても非常に優秀なのではないかと思います。

小林:そうですね。他にもマインドセットの面でも、経営者と投資家の間に共通点や類似点を見いだせるのではないでしょうか。例えば独立系VCの場合、投資家であると同時に、自ら新たにVCファームを作った起業家という側面もあるわけですよね。

この点で、起業家魂を根底に持っている投資家というのは、ことベンチャーキャピタルには非常に多いのではないかと思いますし、「起業家としての共感」を軸に投資している側面も大いにあると思います。

朝倉:例えばウォーレン・バフェットは、「自分は経営者であるからこそ良い投資家でありし、また投資家であるからこそ良い経営者であれる」といったことを言っていますよね。

経営者であっても、会社を成長させるうえで投資家の観点は本来持っておくべきものであり、また投資家であれば、経営者の観点を持つことによって、より筋の良い投資ができるようになるのではないでしょうか。

短期的に投資家と経営者の利害はコンフリクトする局面もあるものの、長期的にお互いの視点・向かう方向性を共有できるような、そういった関係を構築していく努力が互いに必要なのでしょうね。よりマクロでも、経営者が投資家の視点を持ち、投資家が経営者の視点を持つように仕掛けていくことが大切なのだと思います。これはスタートアップに限らず、上場企業でも同じことですし、今でも様々なエンゲージメント・ファンドが試行錯誤していることだと思います。

村上:まさにそうですよね。上場/未上場、大企業/スタートアップ関係なく、いい経営者、いい投資家というのはお互いの立場を学び合って成長していますし、それでこそ良い議論ができるのだと思います。