スタートアップの拡大期を支えるプレイヤーとして「グロースキャピタル」は、スタートアップ・エコシステムを構成する重要な要素になり得るのではないでしょうか。 今回は、ベンチャーキャピタルやPEファンドとの共通点、違いといった点から、グロースキャピタルの意義について考えます。
本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。
Disclaimer: シニフィアン株式会社はグロースキャピタル『THE FUND』を運営しています。
(ライター:岩城由彦 編集:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)
グロースキャピタルの狙いは事業の拡大
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は「グロースキャピタル」とは何かについて、考えてみたいと思います。シニフィアンは2019年、「グロースキャピタル」を標榜して『THE FUND』を設立しました。
主にレイトステージのスタートアップに出資し、未上場時だけでなく上場後もエンゲージメントを行うことで、スタートアップの継続成長を促進することを目指しています。
ベンチャー投資というと、「ベンチャーキャピタル(VC)」は馴染みのある概念でしょう。また経営面に深く関与する投資スタイルという点では、「PEファンド」と呼ばれることの多い、バイアウトファンドが代表的な存在です。
一方でグロースキャピタルは、VCやバイアウトファンドとは少し性質が異なります。 耳慣れない言葉ですし、日本語で「グロースキャピタル」と検索しても、詳しい解説は出てきません。
英語版のWikipediaによるとグロースキャピタルとは、プライベート・エクイティ投資、すなわち、未上場株投資の一種であり、通常、マイノリティ・インベストメントである、と説明されています。バイアウトファンドのように100%の株式を獲得することを想定するのではなく、あくまで少数株主の立場であるということですね。
また、グロースファンドの資金提供先は、ある程度成熟していて、事業をさらに拡大するための資金を求めている、ないしはオペレーションをリストラクチャリングするために資金を求めている、といった会社であるということも記載されています。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):基本的には、Wikipediaの説明の通り「未上場株投資」の一種という理解で良いのでしょう。 しかし、ここで注目すべきは、グロースキャピタルは、VCのようにまだ成長可能性が不明瞭な会社に投資するのではなく、既に一定程度事業が構築されている会社に対して、さらなる拡大のための投資をする、という点です。
上場/未上場の分類よりも、投資の狙いが「拡大」である、というところが、グロースキャピタルの本質的な意義だと思います。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そうですね。グロースキャピタルの投資対象は、事業を新たな成長カーブに乗せるために大きな資金を得ようとする会社であり、その目的に対応するのがグロースキャピタルの役割だと思います。
ベンチャーキャピタル、PEファンドとの対比
朝倉:スタートアップ経営者の方からも、グロースキャピタルとVCの違いについて質問されることがよくあります。一般的にVCの場合、シード・アーリーの初期的な段階のスタートアップに対する投資を実行します。
リスクの大きな早期から投資を行うわけですから、必ずしも全ての会社が順調に成長するというわけではありません。確実に当てるというわけにはいかないので、出資先の数も自然と多くなりがちです。
そうした中で、次のラウンドに進む会社の中から有望だと感じる先に対して継続投資を行い、最終的に、多数投資したうち1社でもFacebookのように特異な成長を遂げる企業を出すことを企図しています。これが、VCのリターンは「べき乗則」が成立するといわれる所以ですね。ごく一部の突出した投資先が、ファンドのリターンの大半を稼ぎ出すというわけです。
一方で、グロースキャピタルの投資対象はシード・アーリー期のスタートアップではなく、主にレイトステージの、組織やプロダクトがある程度確立している会社です。そういった会社に投資して、1社1社着実な成長を狙っていくことに主眼を置いています。
金融商品としてVCとグロースキャピタルを比較すると、ハイリスク・ハイリターンで場外ホームランを狙うスタートアップに出資することが、本来的にVCに期待されているリスクのとり方であるのに対して、グロースキャピタルの場合は、より打率が重視されるという違いになるかと思います。
ですので、VCとグロースファンドでは、あるべきリスクの取り方が全く異なります。 ファンドを運営する側もまた、自分たちがどういうアセットクラスなのかを自覚して振る舞う必要があります。
村上:ベンチャーキャピタルとグロースキャピタルの違いは、先ほど挙げていただいたような投資フェーズの違いや、リスクの取り方の違いに表れますが、類似点は、マイノリティ出資であること、経営をコントロールすることが目的ではないことでしょう。
PEファンドとグロースキャピタルの違いは、PEファンドが、レバレッジド・バイアウトという行為に見られるように、レバレッジをかけて利鞘を稼ぐことを企図するのに対して、多くの場合、グロースキャピタルはリスクを取って資金提供することで、デット比率を下げる方向に作用することを企図する点です。
またPEファンドの場合、割安株を買って、リストラクチャリングを行い、コスト削減することで収益性を向上させ、投資回収するのが一般的です。一方で、グロースキャピタルはリストラクチャリングよりもむしろ健全な事業成長、その名の通り「グロース」を支援し、それにより投資回収を試みます。
両者とも経営への関与を重視するという点は同じですが、対象企業の性質が少し異なりますね。 このような形で三者比較をすると、グロースキャピタルの輪郭がより見えてくるのではないでしょうか。
Signifiant Styleでは、記事のテーマを募集しております。こちらのフォームから興味あるテーマについて、お聞かせください。