INTERVIEW

【ジーニー】グロースさせたければ大切な課題にフォーカスせよ Vol.2

2018.01.16

「アドテクノロジーで世界を変える。」をミッションに掲げるジーニーの工藤社長に同社の可能性を伺うインタビュー(全3回)の第2回。前回の記事はこちらです。

技術と経営の両輪を回す

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):アドテクのような技術が重要な業界では、相対的にビジネスがなおざりになってしまう落とし穴があると思います。そんな中、工藤社長は早い段階から「経営」という言葉を使って、両輪でやるんだ、ということを強調されています。技術と経営について創業時からどんなことを意識されてきたんでしょうか。

工藤智昭(ジーニー代表取締役社長。以下、工藤):リクルートでは主に営業戦略と商品戦略を経験したのですが、技術の会社をやるには営業と商品の戦略に加えて、技術の方針を中長期の戦略と同時に作っていくべきだという思いが最初からありましたね。それを今、少しずつ体現していっている感じです。

村上:なるほど、リクルートでの経験が活かされているのですね。中長期のトレンドを読むことも意識されている。

工藤:そうですね。技術と経営のミックスでは、経営会議に技術のヘッドを何人も参加してもらっています。動画でもネイティブアドでも、新しい分野において、結局商品の力というのは技術の力半分とビジネスの力半分だと思っているので、ビジネスの深い話もエンジニアと共有しながらプロダクトを生み出すほうが強いと考えています。そもそもビジネス側が新しい商品を作りたいと思ってもすぐできるものではないし、商品をどう安くできるか、安くするためのコアの技術は何かというのは技術上の勝負の話なので、それなしにビジネスの勝負の話はできないですよね。

村上:私が見てきたアドテクの会社では、技術トレンドの変化の波にもまれ、開発と収益化のいたちごっこになり、構造的にレッドオーシャン、もしくは低収益に陥ってしまうことがありました。アドテクブームの時代にあっても低収益というのは多くの企業の課題であったと思います。ジーニーの場合、経営と技術、双方の視点がハイレベルで融合していることが、落とし穴を避けてこられたポイントなのでしょうか?

工藤:基本的には売れるものを作るという原則でやっていますが、正直なところ、以前は勘でした。これを作ったら回収できるだろうなっていう。

最近は定量化するようにしています。この新機能を開発したら、何社くらいと取引できて、これくらい取引量が生まれて、という予測をたて、最初の一歩をリーンに作ってみて、行けそうだったら一気に作って拡販します。エンジニアって作った後で「売らない」と言われるのを嫌うので。

村上:まずリーンに行くという仕組みをしっかり作ることで、エンジニアの納得感とビジネスとしての収益性の担保のバランスをうまく取っているわけですね。

工藤:そうですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):関連して、アドテクの会社には、開発部隊と営業というカルチャーが違う人達をうまくまとめなければいけない難しさがあると感じます。営業と開発で情報のフィードバックをスムーズに行うために工夫していることはありますか?

工藤:BD(ビジネスディベロップメント)とPM(プロジェクトマネージャー)というポジションがあります。基本的にはBDのポジションの人がマーケットインの開発の見定めをして、PMがプロダクトアウトに責任を持ちます。営業と開発が直接話してものづくりをしてはいるんですが、組織に役割を作ってその人達にも担保してもらっている形です。

小林:BDとPMがやりあうということにはならないんですか?

工藤:リソースの取り合いにはなりますね。マーケットインだけだと伸びが悪くなるというフェーズもありますから、事業やプロダクトのフェーズに合わせて、両者のバランスをとるのが経営の役割だと思っています。今はこっちに寄せよう、というのを経営で議論して決めています。

重要な3つの問題を解けばビジネスはグロースできる

村上:技術と経営を両輪で回す中で、規模が大きくなることの弊害はありませんか?開発パイプラインの管理にしても、ジーニーのようにフルラインナップでやっていると大変な面もあるのかなと感じます。経営上どういう方針で対応されていますか?

工藤:最近思っているのは、重要な問題は意外と少ないということです。この業界にとって本当にインパクトのある問題というのは3つか4つしかない。ここの開発を完璧にやればビジネスはグロースします。それも年平均成長率30%とかで。逆に価値のない問題を10個解いても駄目なんですよ。本当に価値のある問題3つをちゃんと成し遂げればビジネスのグロースは担保できるんです。

村上:それは面白いですね。大事な問題は3つ4つしかない。

工藤:そうです、それらにフォーカスですね。お客さんが喜ばない問題を一生懸命開発しては駄目だってことですね。すごく汎用的で、日本とアジアに売れて、5000社・1万社のパブリッシャーが喜ぶ、パブリッシャーの業務の中で最も大切な機能を作るということです。見極めが難しいんですが、3つ4つの話なので、属人的にやれてしまうんです。

村上:なるほど。投資余力と配分の方針についてお聞きします。現在は自社で全ての開発を行っていますよね。競合がテクノロジーを一気に獲得するために買収という手段を活用していることを踏まえると、今後さらにスケールさせていくためには、現在の資本力で十分とお考えですか?

工藤:自社開発がいちばん大切なものなのでそこに全力投下していきます。手を広げるよりは重要な問題を解くのが重要で、クライアントが困っていて価値がある問題にセールスもテクノロジーもみんなの力を結集させることが肝要です。人数や資本力の問題ではないと思っています。

村上:やはり数個の重要な問題にフォーカスできるかが、とにかく重要だというお考えですね。

工藤:その数個の問題さえ解ければ、グロースできると思っています。

小林:その重要な問題は何か、というところはどうやって絞っていくんですか?

工藤:一週間に一回、僕とプロダクトマネージャー、取締役の廣瀬や技術のヘッドたちとプロダクトの会議やっているんですが、そこで議論をして、「多分これだろうな」というのをみんなで考えていますね。現状は、業界と顧客のことに詳しい人同士で話せば「ここを解決すればすごく伸びるな」ということが合意できるんです。次のステップは、その意思決定プロセスをどう属人化させないか。これについてはプロダクトマネージャーと話し合っているところですね。

小林:では、高頻度で課題をブラッシュアップしているということですか?

工藤:大方針は変わらないですが、各論がどんどん磨かれていく感じです。

村上:アドテク業界は一時期大ブームで、その後、急激に落ち込むといった局面もありました。御社でも「うちの会社も危ないかな」というような時期はありましたか?

工藤:もちろん、年によって楽に伸びるときと、大変な時はあります。僕たちはずっと淡々とやっていました。以前から海外のアドテクの会社ともよく話をしていて、業界がどうなるか、手数料でも、この辺りで収斂するだろうというポイントを見定めてビジネスを設計していたので、周囲の会社ほど影響は受けませんでした。また問題が発生しても、すぐに対応しています。

村上:当時から海外市場や動向にアンテナを張っていたのが活かされているわけですね。また中長期を見定めて戦略立案されていたことも、アドテクのような急激な変化に直面する業界では大きなプラスだったと。

工藤:ピンチと言えるとすれば、4~5年前にシステムを全部入れ替えたときですね。当時、商品も良くてセールスも頑張っていたんですが、結果的にこれ以上パブリッシャーを獲得していくとアクセスに耐えられなくて落ちるという状況になってしまいました。その時に、根本の部分から技術を見直す決断をし、4ヶ月間開発を全部止めて、エンジニアがホテルに缶詰になって全部作りきったんです。

村上:総入れ替えとは大きな決断ですね。そこでやり切れていなかったら、ここまでの成長につながってないのでは?

工藤:そうですね、大きな経営判断でしたが、やってよかったですね。

村上:システム総入れ替えは相当大きな手術、また経営的判断です。どうしてその判断ができたのでしょうか?

工藤:当時の経営会議に出ていたメンバーで話していて、エンジニアも、「大きな取引先を見つけてくると落ちるという状況が嫌なので、全部ゼロから直したい」と言っていたので決められましたね。あと、ちょうど海外の大手のアドテク企業が買収交渉に来たんです。彼らのヴァイス・プレジデントが、インフラをどうやってマネジメントしているかなど、いろんなことを喋ってくれたんですよ。

村上:彼らの技術自慢を聞かれたんですね。

工藤:そうですね。1個のサーバのCPUでRTBこれだけさばけるとか、どういう言語で書いていてこういうふうにやっているとか話してくれて。その場にエンジニアも同席していたので、これはうちでも作れるなって思ったんだと思いますね。それで基礎の技術開発をしてやり直したんです。

村上:海外にアンテナを張られていたこと、経営上の判断に普段からエンジニアを関与されていたこと、それらがあったからこそ重要な判断が下せたというわけですね。

工藤:そうですね。

村上:これだけ複数のプロダクトを管理されていれば、何か1つのプロダクト売上が急落したなんてことはなかったんでしょうか?

工藤:短期的に企業価値が毀損するような出来事はもちろんあります。ただそれらは技術でクリアできるので、そういう場合にはプロダクトもサービスや組織も緊急手術をして成長路線に戻します。

村上:これも大方針が決まっていればというお話ですね。技術力があれば乗り越えられると。

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