2019年のPre/Post-IPOスタートアップシーンを回顧する

2019年のスタートアップシーンは、リスクマネー提供者の多様化によるラウンドの大型化、SaaSスタートアップの大型上場などが目につく1年でした。Pre-IPO、Post-IPOの両局面におけるスタートアップを取り巻く環境の変化について考えます。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)

リスクマネー提供者の多様化によるラウンドの大型化

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):スタートアップシーンの2019年を振り返ってみると、リスクマネー提供者の多様化、ラウンドの大型化、大型上場、オファリング規模の大型化といった特色があったように感じます。それぞれ具体例を交えて考えていきましょう。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):2019年はSmartNewsやフロムスクラッチなど、累計調達額が100億円を超えた会社が数社ありました。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):こうした調達規模の大型化には、投資家層の多様化が大きく影響していると思います。未上場のスタートアップに対して、グローバルな投資家や上場株を中心に運用してきた大型機関投資家が投資するようになったのが、2019年の大きな特色の1つだと言えるでしょう。

朝倉:開示されていないVCも含めて、従来では考えられなかったような著名な投資家・運用会社が、日本のスタートアップへの投資を検討するようになりましたね。

小林:具体的にはフィディリティやティー・ロウ・プライスといったビッグネームの参入が見られました。

朝倉:個人的には、農林中金のスタートアップへの直接投資には驚きましたね。

小林:加えて、PE(プライベート・エクイティ・ファンド)のように、従来は未上場投資をあまり見据えてこなかったような投資家がスタートアップ領域に参入してきたのも特徴的です。

朝倉:KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ。アメリカのバイアウトファンド)によるフロムスクラッチ社への投資も話題になりましたが、我々が知る限り、その他のバイアウトファンドでも未上場スタートアップに注目しているところはありますよね。

村上:以前から、グロース投資(企業の成長が市場平均よりも高いと期待される銘柄に投資する手法)を称するプレイヤーはいましたが、そこまで積極的に未上場スタートアップへの投資は行われてこなかったのが実態です。

しかし、2019年は実際にグロース投資と呼べる案件が顕在化してきた印象を受けます。この傾向は2020年以降も続くのではないでしょうか。

朝倉:「グロース」を掲げていても、これまでは実態としてディストレスト投資が中心のように目されているPEでも、名実ともにグロース投資に舵をきり始めたということでしょうか。我々が運営するTHE FUNDもグロースファンドであることを標榜していますが、未上場投資家と上場株投資家の間に、そういった中間的なプレイヤーが増えてきている印象を受けます。

赤字上場に対する意識の変化

朝倉:資金提供者の多様化、ラウンドの大型化に加えて、Sansan、Chatwork、Freee社といった、SaaS系スタートアップの大型上場がいくつかあったのも、2019年の大きな特徴だったのではないでしょうか。2010年前後の、ベンチャーへの投資マネーが乏しかった頃に創業した会社が上場する段階まで成長してきたという事例が顕著に見られる年だったように思います。

小林:これらの大型上場は、単純に時価総額が上場時よりも大きいということだけではなく、赤字上場の増加という意味でも注目です。海外では赤字上場は珍しいことではありませんが、日本では少し前まで赤字上場の是非が議論されていました。

そうした背景の中、日本でも将来の事業拡大を見込んだ先行投資としての赤字上場が増えてきたのは大きな変化だと思います。

朝倉:クラウドワークスは、2014年の上場時に赤字上場だと議論を呼んでいましたね。

小林:当時は、「赤字上場でどうやって企業価値を算定するのか」と話題になっていました。日本は、PER(株価収益率)で株価の算定をする傾向が強いので、最終損益が赤字である会社に対しては風当たりが強かったのですが、近年はそうした流れにも変化が見られます。投資家の赤字に対する許容度が高まってきたように感じます。

国内向け事業でもグローバルを意識したエクイティ・ストーリーを

村上:上場時の時価総額だけではなく、オファリングの規模自体も大型化してきましたね。象徴的なのが、Freee社の上場時のグローバル・オファリングでしょうか。海外投資家はSaaS企業をグローバルな視座で見ていますから、会社側にそうした視点を意識したKPI設計やIRが求められます。

このような海外投資家に向けて、今回Freee社がグローバル・オファリングを選択したのは、画期的な事例と言えます。これを機に、グローバルな資金が日本のSaaS型企業に流れてきたことは、大きな意味を持つでしょう。

朝倉:海外からの資金調達に関して、「事業のグローバル展開が必要なのか?」と疑問を抱く方も多いと思いますが、必ずしもそうではありません。現段階で日本という市場に閉じたサービスであったとしても、SaaSに共通するKPI構造で自社事業を一定程度語ることができれば、十分に検討してもらうことはできます。マーケットが国内向けであるかどうかはあまり関係ない。アメリカの市場で上場している中国のスタートアップの大半は、国内に閉じたサービスを展開しているわけですし。

小林:SaaSはグローバルで比較可能なKPIもある事業です。国内で圧倒的にシェアを伸ばしていくようなケースであっても、グローバルに展開していくケースであっても、KPIの設計に説得力があれば投資家は公正に評価するという状況になりつつあると思います。

村上:よく「エクイティ・ストーリーが重要だ」と言われますが、SaaS型で海外からの大型調達を行なった会社は、数字がその成長可能性をしっかりと物語っているところが多いように思います。

海外投資家から「このビジネスでこの数字が出ているならば成長が見込める」と思われるような数字を出せている会社が、プレIPOであれポストIPOであれ、資金調達に成功しています。結局のところ、事業構造や成長可能性を数字で示し、投資家に伝えられるようにすることが資金調達の素地になるのだと思います。

朝倉:我々がTHE FUNDを通じて投資させていただいたSmartHR社も、チャーンレート(解約率)の低さなどが海外の投資家からも評価されていましたし、そういった数字は国内・海外に関わらない共通言語になってきているのでしょう。

小林:先日上場したFreee社でも、海外SaaSと比較した生産性というスライドが「成長可能性に関する説明資料」にありました。今後はより一層、セクター間でのグローバルな比較が行われていくのだと思います。