スタートアップへのリスクマネー提供者の多様化について

昨今、スタートアップへのベンチャー投資額は急拡大していますが、その中でも顕著なのが、機関投資家や海外VCなど、従来は日本のスタートアップへ投資していなかった非伝統的投資家の出現です。投資家層の多様化はどのような背景の下に生じているのか。それがもたらす影響はどのようなものか。スタートアップ側のあるべき対応について考えます。

本稿はVoicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)

海外資金の流入により大型資金調達が可能に

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):昨今、海外のベンチャーキャピタルや機関投資家など、従来は日本のスタートアップへ投資をしていなかった層からの投資が増えてきていますね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):特に海外からの投資が、この1年で急速に増えたように感じます。我々がTHE FUNDで投資させていただいたSmartHR社も、海外投資家からの出資を受けています。

KKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ。アメリカのバイアウトファンド)による、フロムスクラッチ社への投資も話題になりましたね。これまでのスタートアップ投資は、国内VC やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)による出資が中心でしたが、海外からの資金流入でお金の流れが大きく変わってきているように感じます。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):海外マネーの流入により、資金調達のサイズ感も変わってきていますね。

村上:前回、スタートアップに冬の時代が訪れるのではという話をしましたが、一方で、新たな投資家からの資金流入により、5年、10年前よりも、大型資金調達をしやすくなっているとも思います。

ただ、海外投資家はグローバルな目線で投資先を見ています。彼らのお眼鏡にかなうためには、求められるデュー・デリジェンスの水準も高くなりますし、「日本の他のスタートアップと比較して良い」ではなく、世界中の会社・サービスと比較され、どこがいい・悪いと見極められるので、経営陣の力が試されることになるかと思います。

小林:実際に出資を受けた方からは、グローバル投資家とのディールは、相応に負担が重いと聞きます。それに耐えられるだけの経営陣・コーポレートのリソースが必要になるでしょう。

朝倉:未上場のスタートアップであっても、上場企業と比較されることについては前回話しましたが、海外の投資家からの資金を得ようとすると、地域や国をまたいで海外のスタートアップとも比較されるようになるということですね。

小林:特にSaaSはグローバルでの比較が容易になされやすいため、ある意味オリンピックのような形でグローバルに他社・他サービスと比較されると意識したほうがいいかもしれません。

なぜ出資元の多様性が増したのか

朝倉:海外投資家だけでなく、以前はスタートアップへ投資していなかったような国内機関投資家やPE(プライベート・エクイティ・ファンド)からの投資も最近見受けられるようになってきました。冬の時代の到来によって、失速するスタートアップもあれば、新たな投資家から出資を受けることで成長するスタートアップも出てくるでしょうね。

村上:これまでの日本の未上場マーケットは、グローバル化と多様化が極めて遅れていました。しかし、グローバル化・投資家の多様性化が進んできた現在では、特定の投資家からは評価されなくとも、別の投資家からは評価される可能性があります。投資家の多様性が増すことによって、諦めずに様々な投資家と話す意義も増すでしょう。

朝倉:「ベンチャー投資バブル」と言われる一方で、このようにニューマネーが流入してくるということは、他のアセットクラスと相対比較すると、日本のスタートアップ市場に妙味があると思われているということなんでしょうね。

村上:そうだと思います。「金余り」ということで言うと、一時期のプライベート・エクイティ・ファンドへの資金流入が参考となるでしょう。大型投資をするプライベート・エクイティ・ファンドにお金が流れたのも、結局他に適当な投資先がなかったからです。お金の流れは、投資対象であるアセット起因で決まるのではなく、余剰資金の状況によって決まります。他に妥当な投資先がなかなかないために、スタートアップにお金が集まってきているということだと思います。

小林:普段は入ってこないアセットクラスの運用者が、特定の投資領域に入ってくる時は、景気サイクルの変曲点であることが多いですよね。新たに参入してきたアセットクラスの人たちは、従来とは異なる見方をします。それが多様化に繋がる一方で、ミスプライシングが起こりやすくもなります。

先日のWeWorkの一件ではないですが、ディープポケット(大きな資金力を持つ投資元)からのミスプライシングにより、混乱が生じる可能性もあります。スタートアップ側も注意する必要があるでしょう。

長期的なファイナンス戦略を立てられるか

朝倉:ファイナンス力が事業成長のリミットを決めるのだとすれば、何が資金調達の可否を左右すると思いますか?

村上:現状のスタートアップの資金調達は、外的・内的環境要因で実施されていることが多いように見えます。「大きく資金が取れるタイミングだから今のうちに調達しておこう」だとか、「資金が減ってきたので調達しよう」という発想ですね。

だけども、本当に大事なのは、そうした環境に左右されることではなく、自発的に長期的な戦略をしっかりと描き、その戦略をエグゼキューションプランに落とし込むことができるかどうかではないでしょうか。どれだけ資金を持っておくべきか、バランスシートを使うべきか、デットファイナンスを活用すべきか、担当者の採用、先行投資の有無、IPOのタイミング、それまでの資金をどのようにコントロールするかなどを、自発的に考えることが重要なのだと思います。

朝倉:子どもの頃を思い返すと、「おばあちゃん、貯金が無くなったからお小遣いちょうだい」ではなくて、「あらかじめ年間を通して何に使うかを計画しておきましょう」ということですね。

村上:そうですね。景気のサイクルは通常7年だと言われていましたが、リーマンショック以降を考えると、今回は10年超のサイクルなんですね。それに伴い、市場がクラッシュすると、景気が戻る速度も1〜3年はかかると思われます。そのため、「今年の資金繰り」というよりは、「数年の資金繰り」という長期目線で考える必要があるでしょう。スタートアップ経営にとっては、大きなチャレンジになりますが、長期的な視点での資本政策が可能かどうかは、差がつきやすい部分でもあるため、意識しておくべきではないでしょうか。