【うるる】「人のチカラ」を活かすアイデアを次々に新規事業へ Vol.2

「人のチカラで世界を便利に」するというビジョンに基づき、BPO、クラウドソーシング、そしてCGS(Crowd Generated Service)の運営を行う株式会社うるるの星知也代表取締役へのインタビューの第2回。前回の記事はこちら

(ライター:中村慎太郎)

新規事業で既存事業の課題を乗り越える経営

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):御社は在宅ワーカーの力を活用し、BPOやクラウドソーシング、そして自社で運営するCGSを展開されていますが、これらの事業はすべて、在宅ワーカーのアウトプットの質を担保することが重要になのではないかと思います。その点については、どのような工夫をされていますか?

星知也(うるる代表取締役。以下、星):「KAMIMAGE(カミメージ)」を例にするとイメージしやすいと思います。手書き文字の画像入力を在宅ワーカーがリアルタイムで行うサービスですが、一枚の画像に対して最大4名のワーカーが入力をしていきます。これによって、理論的には99.98%の精度が出せます。中には「ああああ」などの適当な文字入力をする人もいないとは言えませんが、他の人とマッチしないため、適当に打ち込んだものは納品にならず、報酬も発生しません。

朝倉:なるほど。正確性を担保するためのシステムが組まれているわけですね。クラウドソーシングの事業に関してもう一つネックになるのではないかと気になるのが、依頼についてです。いざ依頼主がクラウドソーシングを使ってみようと思ったときに、どういう人に、どうやって依頼したらいいのかがわからないということが少なくないのではないでしょうか。適切な依頼方法がわからないがために、要領を得ない案件が発生しているとも聞きます。こうした課題を解決するためには、依頼する側の依頼内容についてもクオリティコントロールする必要があるのではないでしょうか?

星:おっしゃる通りです。そういった問題があるからこそ、現時点においては、ごくごく限られた企業しかクラウドソーシングサービスを活用できていません。そして、ワーカー側にも同じ事が言えます。限られたワーカーしか収入を得られていないわけです。

案件自体は常時1000件ほどありますが、仕事とワーカーのベストマッチができていない案件がまだまだ多いのが現状です。このような問題はAIで解決するなど、様々な部分で改善ポイントがありますが、大きな投資が必要になります。

現在「シュフティ」の売上は全体の3%程度であり、高収益なCGSを多数展開するための土台の役割ですが、少子高齢化や労働力不足が進むにつれて在宅ワーカーを活用する企業が増えて来ると予測されます。将来的には弊社の主力事業に成長させていきたいと考えております。

朝倉:依頼するほうも、働くほうも慣れていないと、安定してクラウドソーシングサイトを使うことができませんよね。だからこそ、CGSによって、プロダクト単位で依頼と仕事を定型化し、「シュフティ」が活きる仕組みを作られているわけですね。
改めて、御社のビジネス展開の経緯は非常に面白いですね。BPO事業から始まり、一度クラウドソーシング事業に方向付けした後、ある種BPO事業と同じように御社がクライアントとして仕事を振る立場に戻ってきているわけですね。

星:CGSとBPOの違いを挙げると、BPOはどこまでいっても受託です。フロービジネスであるため売上予測もしづらい上、CGSに比べると利益率が低いという問題もあります。在宅ワーカーへと供給する業務量も、仲介業者としての我々のリソースがボトルネックになってしまうためスケーラビリティがありません。なので、我々が掲げている「人のチカラで世界を便利にする」、「在宅ワークをスタンダードにする」という目的も、BPO事業だけでは達成できません。そこで、スケールさせられるようにクラウドソーシングを作りました。しかし、今度は柱となるような収益を上げるまでには時間とコストがかかることがわかったので、その間投資し続けるのではなく自分たちでプロダクトを作り始め、CGS事業を始めた。こういった経緯ですね。

2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

CGSの開発に、新薬開発のアプローチで挑む

朝倉:今後事業を広げる上では、在宅ワーカー側と発注する企業側のどちらがボトルネックになってくるのでしょうか?

星:クラウドソーシングはマッチングを行うプラットフォームなので、案件とワーカーのバランスが非常に重要です。現時点のバランスでは、ワーカーにとってやりたいと思える仕事の案件の量が少し少ない状態のように感じています。

朝倉:その問題についてはどのようなアプローチを取られていますか?

星:現状では、そこに対しては最低限のリソースしか割いていません。我々の成長戦略を3つ掲げていますが、いずれもCGSを伸ばすことにフォーカスしています。現在のクラウドソーシングの役割はあくまでも、我々のCGSを伸ばしていくための土台と位置づけています。

成長可能性に関する説明資料より

朝倉:CGSを展開していく上では、ワーカー数が不足するということは考えづらいのでしょうか?

星:そうですね。現在37万人の登録者がいることもあり、今のところはその懸念はありません。

朝倉:御社の「成長可能性に関する説明資料」を拝見していると、2015年度と2016年度のCGS事業における利益率が大きく異なっていますね。2015年は、かなり投資されている印象があり、2016年に一気に利益が上がっています。この変化には、どのような理由があるのでしょうか?

成長可能性に関する説明資料より

星:確かにあれだけ見るとようやく黒字化したように見えるため、投資家の方からもよく尋ねられる点です。CGS自体は安定して高収益であったのですが、2015年は上場前ということもあり、調達していたお金を先行投資しました。新しいCGSプロダクトを作ったり、既存のCGSに投資したりするなどして、戦略的に赤字にしたというところがあります。

朝倉:なるほど。元々事業自体は高収益であったわけですね。

星:CGSについてはそうですね。クラウドソーシングについては、中長期的に見て、マーケットに明るい兆候が見えた場合には一気に投資をして、伸ばしていく可能性はありますが、まだ時間がかかるという印象です。

我々が目指しているのは、「働き方のスタンダード」を変えることなのですが、それには時間がかかるということです。派遣のマーケットは、ピーク時で8兆円、現在でも5兆円程度ですが、在宅ワークがスタンダードな働き方になれば、3兆円程度のマーケットになるのではないかと試算しています。3兆円の市場に対して、例えば僅かな手数料を得られるようなモデルが組めれば、売り上げの柱になる可能性はあります。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):CGS事業の成長戦略についてお聞きします。プロダクト1つ1つを成長させながら、プロダクトの数も増やしていく「かけ算」で成長させていくことになるのではないかと思いますが、現在目標にしている成長率を実現させるためには、どのくらいのペースでプロダクトを増やしていくべきなのでしょうか?

星:新しいCGSは年に1つ以上、事業化していくのが目標です。

2018年3月期 第2四半期決算説明資料より

村上:年に1つ事業化することが適当で、逆に、それ以上やりすぎると、ワーカーの管理やプロダクトの品質管理などに無理が出ることを想定されているということでしょうか。

星:その通りです。弊社の規模感では、年に1つ程度が妥当という判断です。会社の成長とともに事業開発への投資を増やしていき、事業立ち上げの数を増やしていきたいと考えています。

村上:プロダクトを立ち上げる際には、ある程度確度が高いものだけを立ち上げていますか?それとも当たらないことも覚悟で立ち上げているのでしょうか?

星:我々は新しいCGSを生み出していくことを成長戦略としていますので、ある程度仕組みを作っています。具体的には新規事業を4つのフェーズに分けています。 第4フェーズが既に事業化したもので、入札サービス「NJSS」などが相当します。

朝倉:薬の治験プロセスのように、プロダクトごとに段階に応じて生き残るかどうかが決まるわけですね。各フェーズについて詳しく伺ってもよろしいですか?

星:はい。おおむね投資金額の違いです。第1フェーズでは、1つのプロダクトに対してかけるコストを決めてテストすることにしています。このフェーズでは約10個のプロダクトを動かしています。第2フェーズでは投資額が第1フェーズの数倍に、第3フェーズではさらに数倍になります。第4フェーズは一定の規模の収益に到達するところまで育ったものです。そこからどう事業拡大させるかはそれぞれに異なります。

新規事業コンテストはいらない

村上:成長の要をソフトウェアやプロダクトに頼ってしまうと、プロダクトごとに激しい競争に巻き込まれることもあると思いますが、御社は背景にクラウドワーカーを押さえているという強みがありますね。

星:その通りです。CGSを伸ばしていく上で、自社でクラウドソーシングサービスを持っていることは最大の強みです。また、BPO事業を運営していることで、在宅ワーカーを活用するノウハウが蓄積されています。具体的には、これまで10年以上かけて2万件以上受託して、国内外のパートナー企業も含みますが在宅ワーカーに再委託を行っています。この経験は非常に大きいと考えています。クラウドソーシングを自社で運営していることと、BPO事業によって得られた経験があることが強みになって、新しいCGSを産むことができると考えています。

村上:それだけの経験に裏打ちされ、ニーズを注視しながら生み出したプロダクトでも、そう簡単に成功させるのは難しいですよね。この成功確率のボトルネックは何だとお考えでしょうか?

星:事業化したCGSが少ないのは、高収益のものしか残していないからです。収益が低くてもよいということであれば成り立つプロダクトもあるのですが、高収益のものに注力したいという判断です。

村上:投資回収できるかどうかの判断を厳密に行っているわけですね。

星:そうですね。アイデアは次から次へと出てきますから。労働力不足で、在宅ワークのニーズは非常に高いので、「これはできないか?あれはできないか?」という問い合わせが非常に増えているんです。

朝倉:なるほど。御社は多数あるアイデアを、常に実際に新規事業化して磨かれているわけですね。社内で新規事業コンテストをやっている会社はありますが、御社ではコンテストは不要ですね。実際に事業化するプロセスでノウハウが溜まりますから、事業開発に興味を持っている方にとっては面白い職場でしょうね。

星:そうですね。面白いと思います。たとえば、この間も裁判の傍聴をしてみたのですが……。したことありますか?

朝倉:ええ。法学部でしたので(笑)

星:ああ、そうでしたか(笑)。ならお詳しいと思いますが、非常にアナログな世界で、その日どのような裁判が行われるかは、基本的には裁判所に行かないとわからないわけです。裁判所は全国に多数あるわけですが、裁判を傍聴するのを趣味としている人もいます。あるいは、その情報をニュースにするメディアもあります。こういった情報にはニーズがあります。

また、これを単にデータベース化するだけでは終わりません。我々のリソースを使えば、すべての裁判を在宅ワーカーに傍聴してもらうことが可能です。被疑者名、裁判官名、検事名、次回の公判などについてデータベースにすることができれば何かに使えるかもしれません。

朝倉:裁判版のログミーができそうですね(笑)

星:そうですね(笑)使い方次第ですけど、会社が採用を行うときに、被疑者名のデータベースを参照すれば、犯罪歴をチェックすることができます。実際に海外ではこういうサービスがあります。

朝倉:そうか……。日本にはそういったサービスがないんですね。そういえば聞いたことがありません。

星:ただ、検討してみたところ、日本にはどうやら「忘れられる権利」というのがあるらしくて、これはちょっと良くないなということになりました(笑)。
このように、「人力」でしか集められない散らばった情報を、一カ所に集めて価値になるといったサービス案は多数あるわけです。今だとロボットでで集めるというのが考え方の主流ですが、だからこそ私たちは「人力」でしか集められないものの価値はどんどん上がっていくと考えています。

私たちは、在宅ワーカーがどんなことをできるのか、いくらくらいでできるのか、どれくらい集まるのかなどについて瞬時に計算できます。そのため、アイデアベースの話し合いでも具体的に実現できるのか、いくら予算が必要なのかというのがすぐにわかります。

朝倉:新規事業を考える上で、それは非常に強いですね。

村上:大きく当たりそうなアイデアと、伸びは遅いものの確実に伸びていきそうなアイデアだと、どちらを優先されていますか?

星:両方です。「NJSS」が、今の主力サービスなのですが、これは今のまま成長させても何百億円にはいかないマーケットです。ニッチなところなので、大手が入ってこないというやりやすさもあるのですが。私たちは、10億円規模のCGSを作っていけばいいという考え方を元に事業化していますが、この中に、大きく化けそうなものが出てくれば、一気にアクセルを踏みます。

クラウドソーシングの「シュフティ」もそういう位置づけです。これは現在赤字事業でCGSの土台の役割的な位置付けですが、いつかは収益の柱になると思っています。