COLUMN

スタートアップを「Must な会社」にする「事業の社会性・サステナビリティ」

2021.02.07

変化の激しいマーケットで生き残るための条件は「なくてはならない会社」になること。「事業の社会性・サステナビリティ」は、長期的な成長を目指すスタートアップに欠かせません。グロースキャピタルの視点で、事業の社会性とサステナビリティの重要性について考えます。

(ライター:岩城由彦 記事協力:ふじねまゆこ)

長期性とマスへの広がり

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):主にレイトステージのスタートアップが運営する事業の価値を見定めるにあたり、プロダクトの完成度ユニットエコノミクスの成立競争優位性既存事業の持続的な成長余地といった点は、「儲かるかどうか」に直結する重要な内容です。

一方で、長期的な成長を考えるにあたっては、「事業の社会性・サステナビリティ」も重要なポイントです。ともすると、ビジネスの文脈から少し遠く感じられるポイントかもしれませんが、今回はスタートアップにとっての「事業の社会性・サステナビリティ」の位置づけについて考えたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):世の中ではESG投資が注目されていたり、企業がSDGsをより意識するようになったりという社会的な流れが見られます。そうした流れと長期的なリターンの相関性が高くなってきていることもあり、長期の投資を意識するほどそうした視点をないがしろにできないのかなと思います。

朝倉:グロースキャピタルを運営する我々が「事業の社会性・サステナビリティ」の重要性を強調するということは、なにも「良いことをしています」と主張したいからというわけではないんですね。もちろん、会社として掲げている「事業を通じて社会課題を解決していく」というパーパスと直結する内容ではあるのですが、同時に、こうした社会性を帯びた会社を支えることが、グロースキャピタルとしてのビジネス的なインセンティブにも直結してくると捉えています。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):人々の好みやマーケットのニーズが移り変わる世の中において、本質的な課題やペインに寄り添ったソリューションであるかどうか、本当に必要な価値があるかという点は、長期的に見れば見るほど重要性が高まります。

グロースキャピタルとしては、未上場時だけでなく、ポストIPO後の長期的な成長に伴走していくわけですから、この点で、長期性とマスへの浸透といった観点で、社会性は道義的にもビジネス的にも重要なポイントです。

朝倉:それこそ、村上さんの出身会社であるゴールドマン・サックス証券のモットーは「ロングターム・グリーディー」だと言いますよね。「長期的に貪欲」。その発想は「長期間、世の中に広がり発展する会社を支えることで、回り回って自分たちもしっかり儲けさせてもらいます」ということなのかなと捉えています。

一過性のトレンドにたまたま乗ったというのではなく、世の中に本質的に必要とされるビジネスでなければ、長期的にしっかり儲けることはできないでしょう。

村上:ニッチなアーリーアダプターからマスに広がるのがグロースフェーズだとすると、社会にインフラとして受け容れられるかどうかが成長可能性の境目になります。

例えばテクノロジーのインフラなら誰もが快適さを増したとか、BtoBのSaaSならどんな企業も便利になったとか。そうした本質的な課題を解決するプロダクト、もしくはサービスなのか。長期に渡って求められ、マスに広がり得るといった点で、社会性が重要だ考えています。

朝倉:社会課題と密接に結び付き、求められる事業の方が、グロースキャピタルのビジネスにおけるインセンティブ構造上も、相性が良いのでしょうね。

その事業はパイを大きくしているか?

小林:みさき投資の中神康議社長もよくおっしゃいますが、資本主義はパイの切り分け方についてはすごく議論するわけですよね。「もっと配当をください」とか「自己株買いして株主に還元してください」とか。しかし、彼は「より必要なのは、パイをどう大きくするかという議論ではないか」と提起しています。

朝倉:誰かの課題を解決し、何かに貢献する。その結果として、お金を得るというのが本来の事業のあり方のはずです。本業とは別に、何かCSRに取り組むということではなく、事業そのものを通じて社会に貢献しているかどうか、パイを大きくしているかどうかが重要でしょう。

小林:社会性が大きい事業というのは、市場参入者の中だけでパイを切り分けるということではなくて、パイ自体を大きくしていくことにチャレンジしている。そういう企業ではないかと思うんですよね。

事業の社会性と「儲け」は対立しない

村上:社会性の高い会社は、世の中から「ヒト・モノ・カネ」が集められる会社なんじゃないかと思っています。株主や従業員だけでなく、地域社会など広義のステークホルダーに対してバリューを出せる会社が、最終的には「ヒト・モノ・カネ」をうまく集めて繋いでいけるんじゃないかと。

朝倉:以前、トップマネジメントに求められるリーダーシップとは自分たちなりの旗を掲げて人を巻き込む能力なんじゃないかとお話したと思います。

この点、「事業の社会性・サステナビリティ」は、周囲を巻き込む磁力になるという点で、言わば会社組織のリーダーシップのようなものかもしれませんね。

会社として掲げる構想に共感するからこそ、いろいろなサポーターが集まる。代表個人ではなく、会社そのものが求心力を発揮し得るということかと思います。

村上:初期のスタートアップであっても、グロースするに連れて、その会社の社会性が放つインパクトはどんどん増していくと思うんですね。ストックオプションのインセンティブや、「面白そう」といった要素だけが会社の求心力ではない。

レイトステージからポストIPOにかけてであればなおさら、社会性を磨くことの重要性が高まると感じます。