【西條晋一】大きくなった企業は細胞分裂したほうがいい Vol.3

新たにXTech、XTech Venturesを立ち上げる西條晋一さんに、過去の経営、投資経験、並びに新会社の構想を伺うインタビューの第3回(全3回)。前回の記事はこちらです。

(ライター:石村研二)

「起業と経営」「アイデアと実行」を分離する

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):西條さんはWiLを卒業なさり、これから新たな会社を立ち上げられるそうですね。

西條晋一氏(以下、西條):そうですね。いま日本はスタートアップにとって過去最高とも言える恵まれた環境にあってチャンスも大きいので、やっぱり自分は事業がやりたいと思っています。事業って運動と同じで、続けていないと力が落ちてしまうんじゃないかという不安があって。とにかく事業を続けていなければと思い、Qrio(ソニーとWiLが共同出資で立ち上げた、スマートロックなどを展開する企業)の経営などをやっているわけですが、また新しい会社を立ち上げます。

朝倉:新しい会社ではどのような構想を描いてらっしゃるんですか?

西條:会社って毎回うまくいくかわからないじゃないですか。でも、経験を重ねて打率が上がってきている感じもなくはない。その中で新しいスタートアップを生み出す方法を仕組み化し、もっと成功するスタートアップの数を増やすことはできないか、という課題意識を強く持っているんです。

だから自分が今度やる会社は、ただ起業家を見つけてきて投資をするというのではありません。スタートアップスタジオとして新規事業のプロフェッショナル集団を目指します。まずドメインを決めて、新会社の構想を練って自らの手で事業の基礎を作る。そこに実行力の高い人を社長として呼んできて資本政策や事業開発などのサポートをするというスタイルを考えています。

これはサイバーエージェントであった「あした会議」がヒントになっています。7人の役員それぞれを中心としたチームが出した新規事業のアイデアを藤田さん(サイバーエージェント代表取締役社長)が審査するというものなんですが、最初はそこそこの成果でした。ところが、事業案と一緒に人事案も出すようになってから、打率が劇的に上がったんです。ある程度マーケットが見えている役員がドメインを選定した上で、さらに「こいつはやりきるぞ」という社員をアサインするのは本質的に理にかなっていると思っています。

株式会社の所有と経営の分離の概念みたいな感じで、起業と経営を分離する、あるいはアイデアと実行を分離したらうまくいくのではないかと。日本では特に創業者がずっと経営に携わってしてしまうから、アイデアはいいけど思い描いたビジョンを実現しきれなかったり、逆にやりきれる人なのにアイデアが微妙で変な事業ドメインをやっていたりといったミスマッチも多い。そうした状況を解消していきたいと考えています。

私が注目しているのは、勢いのある若者というよりは、インターネット業界に10年前後いて新規事業や子会社の経営に関わっているような人材です。そういう人にこそ起業して欲しい。確かに会社において重要な存在なんだけど、かと言って、やめられたら会社は大打撃を被るのかと言うと、実際にはなんとかカバーできるものなんですよ。でもその人たちが外に出て起業すると、新たな雇用も生まれるし打率も高いし、産業全体にとってさらにプラスになると思うんです。

朝倉:人材の流動化は重要ですよね。ともすると、有能な人材が飼い殺されているように見受けられることもあります。

西條:そういう相談は非常に多く受けますね。ある程度組織ができてくると、ポジション的にも上が詰まっていて、一方で若手が台頭してくる。そういった板挟みの状況で自分の成長や居場所の不安を感じている人が多いんだと思います。

起業のセーフティネットをどう作るか

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):そういう意味では、若い人だけでなくある程度経験を積んだ人ももっと積極的に外に飛び出したり、起業したりしてもいいんじゃないかということでしょうか。

西條:そうですね。ある程度経験のある人は、今いる環境よりも新しい環境に移ったり起業したりした方が、本人の能力的にも事業としても成果が出るケースは多いと感じています。

朝倉:会社の中に閉じたエコシステムを回すうえでは最適な仕組みだけど、世の中全体で見ると最適な人材配置とは言えないと。

西條:事業の成長率が高い会社や、新規事業の盛んな会社ならいいんですが、ある程度大きくなって停滞してきた企業は細胞分裂をするべきだと思います。

朝倉:XTech(クロステック)とXTech Ventures(クロステックベンチャーズ)という2つの会社を作るということですが、どのような役割分担になるんですか?

西條:スタートアップスタジオでお膳立てして経営者を連れてくるほうをXTech(クロステック)で担い、XTech Ventures(クロステックベンチャーズ)ではシード・アーリーに特化して投資をしようと考えています。

僕がやりたいのは、「役割を決められたらバシッとやります。だけど、起業まで踏み切るタイプじゃない」という人を後押しすること。そのためには起業に対するセーフティネットが必要だと思うんです。昭和の起業は「人生を賭けて事業を立ち上げ、社長の給料は20万円」みたいな浪花節だったと思うんですが、今はそういう時代じゃない。起業しても前職と同じくらいの給料をもらえる仕組みがあってもいいんじゃないかと。

たとえば、会社の初期段階に3億円といった画一的にバリュエーションを付け、20%を出資するとします。そうすると6000万円の資金が会社に入りますよね。それだけあれば、自分の1年かそれ以上の給料も賄えるし、従業員も雇える。そういう画一的なバリュエーションの投資もアリかなと思っています。

小林:確かに昔は、全部捨ててリスク100%でやるぶん、利益も総取りってイメージでしたよね。

西條:昔の人って戦後からの高度成長期がそうですが、今の世の中に満足していないから良くしようというハングリー精神があったじゃないですか。でも今は結構いい世の中なので、起業家にそんなハングリー精神を求めるのって無理があると思いますよね。

東大生も起業に憧れる時代に

小林:2012年頃から、大企業からスタートアップに移る人が出るようになったわけですが、その理由って、大企業内で上が詰まっていたから、という点が大きかったと思うんですね。スタートアップの給与水準も上がってきたし、時価総額も上がって社会的な認知度も高まってきたタイミングでしたし。

西條:そこの待遇改善は大きかったですよね。いまは小さいスタートアップでも資金調達環境がいいから結構な給料で人を雇えるし。社会的ステータスも給与も低いというのが人材の流動化を阻んでいたので、すごくいいことですよね。東大生が、大手有名企業や省庁に行くより起業を選択するという時代になってきていますし。

朝倉:ここ数年ですよね。

西條:3年ぐらいじゃないですかね。非常にいい傾向ですよね。

ただこう言うと角が立つのですが、日本で足りてないのは起業家の多様性だと思っているんです。ソーシャルゲームやメディア事業なんかが顕著ですけど、「儲かる」ってなると、一気にその業界のスタートアップが増えて人やお金が集まるじゃないですか。それ自体は悪いことではないですが、例えば大学ですごく世の中の役に立つ研究をしていたような人が、全然関係のない仕事をしていたりするわけですよ。インターネット業界のなかでも特定の分野に起業家や人材が偏りがちな傾向があり、もっと様々な分野でスタートアップが生まれてイノベーティブな事業に取り組む人材が増えてほしいと思います。

村上誠典(シニフィアン共同代表):もっとなめらかに人材が移動できるようになるといいですよね。日本は移動する人に対してあんまりフレンドリーではないので、心理的ハードルが大きいですね。

西條:そこは、なんとかしたいですね。個人のエンパワーメントの時代なので、もう少し副業、転職、起業に世の中が寛容になって、特定の会社に属するというよりもプロジェクト単位で面白いプロジェクトに優秀な人が集まるようになればいいと思います。

朝倉:XTech、XTech Venturesでの取り組みが、日本に魅力的な会社を生み出す後押しになるとよいですね。今日はありがとうございました!