新たにXTech、XTech Venturesを立ち上げる西條晋一さんに、過去の経営、投資経験、並びに新会社の構想を伺うインタビューの第2回(全3回)。前回の記事はこちらです。
(ライター:石村研二)
小さく産んで大きく育てる子会社立ち上げ
小林賢治(シニフィアン共同代表):サイバーエージェントFX(現YJFX!)について教えていただきたいのですが、非常に順調に事業が伸びていたなかで、どうして売ると決めたんですか?
西條晋一氏(以下、西條):あの会社を立ち上げた当時は、まだ業界が立ち上がるタイミングで規制もなくて、多くの機能をアウトソースで運営することができました。当初は社員がたったの3人で参入したんですね。だからあまりお金もかけずに1年余りで黒字化することができました。それで僕は「新たな事業が仕上がった」と思って次の新規事業にいこうと考えていたのですが、藤田さん(サイバーエージェント代表取締役社長)に報告に行ったら、「西條くんのやってるFXは収益性が高くていいんだけど、別に業界1位じゃないよね?」って言うんですよ。彼はたまにそうやって、上手くけしかけてくるんですよね(笑)。そこでまた、はっと気づいたんです。今まで業界内で1位を取るって発想はなかったなと。それで気合いを入れて事業に集中したら、ピーク時は競合が120社くらいあったんですが、後発ながら業界3位まで伸ばして、営業利益はグループ内で1位の会社になりました。
どうして業界内での順位を上げられたのかというと、業界の勢力図やルールが固まる前に、先手を売って取引条件やUIをどんどん良くして仕掛けていったんです。市場が流動的な時に先に動いて、ユーザーに魅力を感じてもらわないといけない。そうした手を打っていく中で、もうゲームのルールがほぼ変わらないと思えるところまで規制が強化され、ダイナミックに業界が変化する局面は終わったと思ったんです。そんな矢先、ちょうどヤフーが金融部門を立ち上げて収益を作っていこうというところだったので、私がやめた後に担当役員もいないのでM&Aになったんです。
村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):過去を振り返ってみると、売却されている会社が多いですが、「売却ありき」ではなかったんですね?
西條:藤田さんがよく言うのは「コアか、ノンコアか」です。ノンコア事業であれば機会があれば売ることも選択肢の一つだと。ただ、「後で売却先に迷惑がかかるような売り方はやめて欲しい」とはよく言われていました。金融的な観点だとなるべく高く売ろうとするのでしょうが、売った事業が後で今ひとつだったりすると信頼を損ねるので、売るときは不当に高く売らないでくれと。藤田さんはそういうことを気にしますね。自分が損するときは緩めですけど、得する時は気にします。FXはもう買収額を回収しているでしょうし、サイバーエージェントも新規事業に投資するまとまった資金が得られた。そういう意味では双方にとって良いディールだったと思います。
村上:子会社を立ち上げる時に気をつけていたことは何ですか?
西條:サイバーエージェントの強みは優秀な人材がいることなので、子会社を作るときにも立ち上げメンバーとして本社から優秀な人材をごっそり連れてくるということがよくあります。でも、僕は将来起業することを想定していたので、人材についてもすぐに本社に頼るのではなく、基本的に外部から採用して子会社に直接入社してもらうことを心がけていました。本社で採用して出向という形のほうが、入ってもらう人にとっては敷居が下がると思うんですが、本社役員になる前は僕自身も本社の籍を抜いて子会社に転籍し、子会社を必ず成功させる覚悟でやっていることを示して、立ち上げ時のメンバーを集めていましたね。
村上:人以外に、子会社の資本や資金面で意識された取り決めはありましたか?
西條:子会社だからといって簡単に本社から資金を引き出すようなことはせず、起業しているつもりで緊張感をもって資金を管理していました。資本効率を意識し、安易に増資するのではなく借入れも活用しました。事業領域にもよりますが、基本的なコンセンサスは、小さく産んで大きく育てるでした。
投資家として目指す道筋
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):サイバーエージェントを退職後、WiLでベンチャー投資を手がけていらっしゃいますね。このあたりの経緯も教えていただけますか?
西條:自分の事業を立ち上げたいという気持ちが基本にはあるんですが、投資にも思い入れが強いんです。実は就職活動の時に起業について調べていて、ベンチャーキャピタリストという職業があることを知りました。融資ではなく投資で企業をサポートすることは社会的意義もあるし、これはいいなと思って興味を持ちました。一番興味を持ったのはJAIC(日本アジア投資株式会社)で、投資活動を通じてアジアを良くしていくという発想に惹かれました。でもその時点でJAICは説明会が終わっており、JAFCOを受けて内定をもらいました。
ただその頃、川崎商工会議所がやっていた起業勉強会の講師に紹介されて、長銀(日本長期信用銀行)子会社のVCにいたベンチャーキャピタリストに会ったんです。その人に「君はなぜベンチャーキャピタルを志望し、どういうキャピタリストになりたいんだ?」って聞かれたので、いろいろな事業を勉強できて起業に役立つんじゃないかという話と、自分は起業家と同じ目線で事業を理解した投資家になりたいという話をしたんですね。そしたら、「君は新卒でキャピタリストになるべきではない。自ら事業で成功した後にキャピタリストになった方が君の理想に近い投資家になれる」と言われたんです。新卒でVCに入ると、起業家目線で事業を理解できないままひたすら投資先を探す営業マン的マインドになってしまう恐れがあると言われ、それでやめたんですよ。
でも、いつかは投資家になりたいと思っていました。結局、サイバーエージェント・ベンチャーズを作ったんですが、JAICを志望していた頃の思いもあり、アジアに強いこだわりがあったので、アジアのスタートアップにも積極投資するVCになったんです。
朝倉:サイバーエージェント・ベンチャーズとWiLでベンチャー投資を手がけていらした際、投資手法や考え方に違いはありましたか?
西條:サイバーの時の反省として、シード・アーリーの投資後に追加投資をしなかったために十分なシェアを取れず、あまり大きなリターンを得られなかったということがあります。投資先が上場した時に、下手すると持株比率1-2%程度の株式しか持っておらず、キャピタルゲインの絶対額が小さいことも多かった。そこでWiLでは大きな金額を投資できるということもあり、シェアにはこだわりました。
僕が若い頃に投資家人生として描いていたのは、最初はベンチャーキャピタルでシード・アーリーに特化した投資で経験と実績を積んで、次にミドル・レイターをやって、最後はエンジェル投資家になるという道筋です。シード・アーリーはすでにやったので、次はミドル・レイターだなと。WiLを立ち上げた4年くらい前だと、ミドル・レイターに大口の資金を投資できるVCは非常に限られていました。「上場を少し延ばしてでも成長マネーを供給する仕組みが日本にもあったほうがいい」という伊佐山(WiL 共同創業者CEO)さんの考えに共感する部分もあったのでやったんです。実際にそうした成功事例をつくることができたし、最近は100億円規模のVCも増えてきて、環境が整ってきましたよね。