【農業総合研究所】農業がビジネスとして成立する環境をつくる Vol.3

「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」というビジョンを掲げ、ビジネスとして魅力ある農産業を確立することを目指す、株式会社農業総合研究所。現在のビジネスモデルにたどり着いた経緯や今後の事業構想について、及川智正代表取締役社長にお話を伺います。前回の記事はこちら

国内流通で地歩を固め、世界市場へのチャンスを掴む

村上:さて、今回はまず海外展開について伺います。初めに、御社と、御社の子会社である株式会社世界市場と、日本航空が連携しているプロジェクトは「日本産農産物の世界への輸出拡大」を謳っていますが、これにはどういった狙いがあるのでしょうか?

(農業総合研究所 平成29年8月期 決算説明資料より)

及川:そうですね、ちょっと真逆のことを答えるのですが、基本、我々が最優先で取り組みべきことは、国内で流通させることだと考えています。国内農業は儲からないから輸出しようという安易な動きに対しては、「それは本筋ではない」と私は考えています。

まずは、国内で流通させて、農家の方が儲かる仕組みを作ることがスタートだと思うんですよ。基本はまず国内からです。

それが出来たら、次に取り組まないといけないのは、国内の需要と供給のバランスから外れたものをどうするか、という課題です。例えばレタスができすぎてしまって、日本の人の胃袋がいっぱいになってしまったときです。こういう時に海外に売ろうという考え方です。

ただ、そんな時だけ海外に売ろうというのは虫のいい話なので、普段から取引を出来るプラットフォームを作っておこう、という狙いから、株式会社世界市場の事業を立ち上げています。

村上:なるほど、株式会社世界市場の位置づけを理解しました。国内での展開と国外での展開ではスピード感は違ってきますか?

及川:まだ具体的な数字は出せないのですが、同じくらいのペースでの成長と思って頂けばいいですかね。理想を言うと国内よりも速く展開する必要はあるかなと思っています。

村上:ちなみに海外展開を加えられた場合には、御社の登録生産者は、出品先としてJAか、道の駅か、国外か、という選択を自分でするようになるのでしょうか?

及川:最終的にはそうしたいですね。我々の集荷場に生産物を持ち込むと、全国1100店舗のスーパーから、自分で販売先を選べます。その中に香港やアメリカのスーパーが選べるようになったら素敵だなと思っています。

まだまだその段階ではなくて、例えば海外のスーパーに委託販売するのにはリスクがあると思います。生産者さんはそのリスクを取れないと思います。だから、我々が一回買って、香港のスーパーの中に日本産だけのコーナーを作ってもらい、そこに我々が卸すというような形で展開するのが現実的かと思っています。

村上:一旦御社が買い取ることで生産者のリスクを軽減し、海外における流通網とプラットフォームが安定してきたら、徐々に生産者自身が販売先として海外も選択できるようになっていく、というプロセスですね。理解しました。

我々はJAと競合するつもりはない

村上:では、続いて、地方との連携について伺いたいです。地方銀行と提携されていますが、この提携戦略はどこから着想されたのですか?なかなか農業をしていて地銀と組もうというアイデアは出てこないのではないかなと思うのですが。

(農業総合研究所 平成29年8月期 決算説明資料より)

及川:今地銀が国から何を言われているかというと、「地方創生しなさい、地方を活性化しなさい」ということです。そして、「地元を活性化する」といった時には地元のビジネスってだいたいが農業なんですよ。しかし、地銀としては普段から農家と取引しているわけではないので農業のことはあまりわからないわけですね。だったらそこに我々が入りますよ、と。我々と組んで、地元の農業を活性化させていきましょう、ということです。

我々が得たいのは、地元の農業の情報です。他には、集荷場運営の委託先になりうる会社だったり、販売先になりうる地元のスーパーだったりを地銀に紹介して欲しいわけです。では、我々は地銀に何が提供出来るかというと、都会のスーパーで継続的に農産物を売るための販路を生産者に提供する、ということです。この販路を武器として、是非とも生産者に営業に行って下さいと言っています。

地銀の名前を出しただけでは農家さんには話を聞いてもらえないかもしれないけど、「東京のスーパーで売ってみませんか?」というと非常に入りやすいわけですよね。そこで地銀と我々と生産者のネットワークができれば、追々、生産者の決済代行を地銀にやってもらったり、地元の生産者に対してうちを介して金融商品を紹介したりするという世界もあり得るかなと思っています。

村上:なるほど。新規参入する生産者にとっては最初の設備投資負担が大きいというような話もありますから、地銀にとって、投資の余地はありますよね。御社と組めば販売網開拓の話とセットで投資の話を持ち掛けられるわけですから、投資の可能性も広がるという期待感もあるわけですね。

及川:その通りです。今まではJAがやってきたことではありますが。

村上:確かにそうですね。そういう意味ではまさに、広い意味でのJAに代わる選択肢になれる可能性がある、ということですね。今の生産者の不満―中抜きに対する不満や、消費者と直接つながれないといった不満―を解消しながら、販売網の出口として、スーパーに直接販売できるだけでなく、BtoCもBtoBも海外販路も選べるようにしていく。こうして生産者と消費者を直接繋ぐプラットフォームとして完成していき、生産者も消費者もハッピーになる世界に近づいているということですね。

改めて非常に面白い戦略だと思いますし、順風満帆でいらっしゃるように思うのですが、今の戦略を進めていく中で、課題もあるのでしょうか?競争環境に目を移すと、やはり隣にはJAという屈強なプレイヤーがいるわけですが。

及川:そうですね。我々はJAの競合という見方をよくされます。でも、我々は72の提携集荷場を持っていますが、そのうち二カ所はJAが運営しているんですよ。その集荷場に生産物を持って行くと、JAにもうちにも出荷できるようになっています。そして、うちに出荷するとなった場合にはうちからJAに手数料をお支払いしています。

このように、もしかしたら、JAのものも我々を介して売るということが出来るかもしれないので、JAと我々とで、共存共栄で生産者の選択肢を増やしていくことが出来るんじゃないかと考えています。

村上:JAは競争相手ではないわけですね。

及川:はい。外的環境におけるリスク、という意味では、一番のリスクは予想外の気候変動です。一番怖いのは天気ですよ(笑)。

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生産者の経営力底上げを図る

村上:御社は生産者の選択肢を増やすという意味では、生産者を囲い込むという思想はないわけですね。押さえたいのは物流と、出口としての決済ということでしょうか?

及川:そうですね。決済はすごく難しくて、今までの農業の決済の在り方がかなり特殊なんですよ。まず1万円分出荷したら3日後に現金が入ってくるというような仕組みで、一方、JAに出したら遅いところでは売掛回収は半年後……なんていうこともあります。

我々は農業をビジネスとして確立したいと考えているので、月末締め月末払いにしたいわけです。支払いサイト・回収サイトを安定させ、そこを基盤に農家が安心してビジネスを構築できる仕組みを提供したいと考えています。今は決済を手がけた際に、ぼくらどうやってお金をいただくのかを考えているところです。

農業をやられている方が、経営者として必要な情報をちゃんと得られるような仕組みにしたいので、できれば会計ソフトもつけてリリースしたいところですね。

村上:なるほど。会計ソフトですか。そうすると、ある程度、生産者の決済データを確保していって、データを活かすということも出来そうですね。

及川:そうですね。我々のプラットフォームでは、売上に留まらず、スーパーの定量的な情報がすべてわかるようになっています。

そこに軽いフィンテックのようなものを入れていきたいなと考えています。将来的には、例えばですが、後継者の息子が50歳になって実家である農家に帰ってくるとします。その息子に対して、年収700万を提供したいとします。そこで我々のデータベースを介して、「年収700万を目指すなら、今から事業の規模を拡大していかないとそこまで届きませんよ」、というようなサジェストができるようになっている、といった世界にしたいなと。

当然、販売データだけではなく生産データも蓄積しますから、データとして後継者に経営ノウハウも提供できます。そういう仕組みにしていきたいと思っています。

村上:かなりリアリティのある未来像ですね。現在でもすでに、どういうものが売れているかという売買・流通のデータはどんどん貯まっていっているわけですよね。例えば、「売れるのはこういうレタスだ」というような、生産者にとってメリットになるような情報が御社に蓄積されていくわけですね。

及川:はい、その通りです。

村上:これを生産者に上手にフィードバックすると、大きな付加価値を提供できる可能性もありますが、いかがでしょうか?

及川:そうした取り組みもやっていくつもりです。ただ、「この時期にこういうのを作りましょう」というデータを提示することに止めたいと思っています。1から100まで手取り足取り提案してしまうと、農家の方が考えなくなってしまいますから。データを提供するのに止めて、その中でわからないことがあったら一緒にディスカッションしていき、いいものを作っていこうと思います。

村上:では、データを基軸にした生産者へのサジェスト機能によって御社がさらにマネタイズするというよりは、あくまでも生産者の売上拡大をサポートすることで、流通総量を増やしていくことが御社にとっては重要だ、ということですね?

及川:そうですね。将来的にやりたいのは、例えばトマトを作って、毎日100 kg出荷しているとします。今日はどこへ出荷しようかなと思っているときに、AIを使って分析し、最適な出荷先を提案できる、というようなことです。楽天やアマゾンのように、「この商品を作った人はこれも作っていますよ」という提案をすることも考えています。こういうものをデータとして生産者に提供して、最終的には自分で考えて決断してもらうということですね。

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朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):楽天が店舗に対して無料でコンサルティングするのと同じ狙いですね。

及川:はい、一緒ですね。

村上:生産者が販売先を選ぶことができるのが御社の特徴ですが、一方、売り手が多すぎて店舗にそれだけのスペースがないとなったケースでは、どういった対応がなされるのですか?

及川:集荷場ごとにある程度の上限を設けていて、それ以上になった時は他の店舗を選択して下さい、という仕組みになっています。

村上:具体的には、早い者勝ちである販売先のスペースが埋まってしまうと、出荷時にもう選択できなくなっている、という仕組みですか?

及川:スーパーが選べるようにするべきだと考えています。

将来的には予約制にしたいんです。来週もたくさん出荷できるので、来週もこういう形で販売しましょう、というやり取りが発生するイメージです。また、生産者は区別するべきだとも考えています。例えば年間あたり100円しか売らない生産者と1億円売る生産者に、販売者や我々が同じ対応をするのは考えづらいですよね。

たくさん出荷してくれている生産者には何らかのメリットがあるような、そういうサービスを作っているところですね。

村上:なるほど。これまで、JAと農家だけのクローズドな関係では、良くも悪くもなれ合いになってしまっていた、ビジネスとは言い難い面もあったのではないかと思います。そこに、農業総合研究所が入ることで、生産者側には競争が厳しくなる側面もあるかもしれませんが、ちゃんとビジネスとして農業に取り組んでもらうことで、生産者のレベルをあげていきたい、ということですね

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):農家をエンパワーすることで、農業に適切な競争が生まれるようにされているんですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。