【メルカリ】社員10人の時点で構築したミッションとバリュー Vol.3

多くの会社が自分たちのミッション(経営理念)とバリュー(行動指針)を掲げていますが、あくまで組織の中に向けたメッセージである趣が強いうえ、社内においてもさほど浸透していないケースも見受けられます。その点、メルカリのミッションやバリューは広くユーザーにまで認知されるものとなっています。同社取締役社長兼COOの小泉文明さんさんから、その発信力の強さの秘密について話をうかがいました。前回の記事はこちら

(ライター:大西洋平)

サービスには寿命があっても、会社のミッションやバリューは普遍

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):それにしても、どうしてメルカリにはここまで経験豊富で優秀な人材が集まってくるのですか? 多くの会社がそういった人材の獲得をコミットしているものの、なかなか実行できていません。いったい、どうやってスカウトしているのでしょうか?

小泉文明(メルカリ取締役社長兼COO。以下、小泉):具体的なアプローチに関しては、さすがにちょっとお答えできないですね(笑)。それはともかく、最後は人でしか解決できないことって、意外とネット系のビジネスでは多いものです。製造業ではないので、人のマインドやモチベーションにかなり左右されるという側面があります。

小林:私も前職の経験からIT系の人材がどういった職場を求めているのかについては推察できるのですが、IT系以外の人たちはどうなのでしょうか? たとえば、過去にDeNAとグリーが採用競争を繰り広げた際には、官公庁や大手製造業、大手商社などから人材が流入してきました。

小泉:メルペイの青柳さんのようなネット大手からだけでなく、執行役員CFOの長澤さんは金融出身ですし、執行役員VP of People & Cultureの唐澤の前職は日本マクドナルドの社長室長で、まったく別の業界から人が入ってきているのも確かです。ネット業界自体の裾野も広がってきていて、10年前とは全然違いますね。

小林:ミクシィ時代の苦労を教訓に、メルカリの経営ではあらかじめ手を打っておくべきことに対してしっかりと取り組んだという主旨の発言を小泉さんがなさっていたという記憶があります。特に強く意識したのは、どういったことについてですか?

小泉:やはり、プロダクトにはライフサイクルというものがありますよね。ミクシィの場合は新しいものを創りたいという創業者の笠原さんのカルチャーが根づいていたからこそ、モンスターストライクのような大ヒット作を次々と生み出せたのでしょうが、普通の会社なら起死回生を果たせずに消えていったと思います。だから、メルカリでは会社とサービスとを分けたいなと考えていました。サービスには入れ替わりが出てくるもので、それとは別に会社として何がミッション(基本理念)で何がバリュー(行動指針)なのかということをしっかりと定義づけすることが大事だと思ったのです。サービスが変わったとしても、そのベースとなる会社としてのミッションやバリューに揺るぎはないということです。だから、PRについてもサービスとコーポレートとを使い分けていますね。サービスのPRでは20〜30代の女性を中心としながらも、いろいろな人に使っていただきたいというメッセージを込めています。一方で株式会社メルカリとしては、テクノロジーの匂いが漂っていて、優秀なメンバーが集結してイノベーションを起こそうとしていることをアピールしたいと思っています。だから、「メルカン」のようなオウンドメディアを通じて情報発信をしているわけです。

小林:確かに、メルカリの場合はサービスとコーポレートのイメージがかなり違うように感じますね。

小泉:たとえばグーグルという1つのブランドがあって、そのイメージがしっかりと確立されているうえで、検索エンジンのみならず様々なサービスを手掛けていますよね。僕たちがめざしているのもそれと同じで、いろいろなサービスを展開する可能性がある中で、まずはメルカリという組織のブランドを作っていくことが重要だと考えています。

小林:ただ、メルカリは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げていますよね。それだけ幅広い展開を念頭に置きながらも、ミッションの中にマーケットプレイスという言葉が明記されていることが気になります。あくまで事業領域はその中にとどめて、ゲームとかプロ野球チームの運営とかいったところまで限りなく広げていくつもりはないという意味合いなのでしょうか?

小泉:ミッションが抽象的で何をやりたい会社なのかがボンヤリしてしまうケースもよく見受けられますが、メルカリでは最初はちゃんとフォーカスしようと思って意図的に狭めるように表現しました。だけど、中長期的にはマーケットプレイスにこだわる必要はないし、メルペイはメルペイでメルカリとは違うミッションを掲げています。それに、日本国内に限ればすでにマーケットプレイスを創ることを達成できていると言えるでしょうが、グローバルに見ればまだ道半ばです。ミッションの達成というのはかなり先かなと思っています。

ユーザーにまで広く知れ渡るメルカリの3つのバリュー

小林:Go Bold( 大胆にやろう)、All for One (全ては成功のために)、Be Professional (プロフェッショナルであれ)というバリューについては、メルカリもメルペイも共通しているのでしょうか?

小泉:まったく同じですよ。ただ、メルペイについても、進んでいるステージに応じて、変えたり追加したりする可能性も出てくるでしょうね。

小林:海外でもバリューは同じですか? だとしたら、外国人にもすんなりと理解してもらえるものなのでしょうか?

小泉:同じですよ。特に彼らはGo Boldというフレーズが大好きですね。

小林:Go Boldだけでなく、3つともめちゃくちゃ覚えやすいフレーズですよね。

小泉:これはテクニック論なのですが、なるべく英語の短い表現にするのがコツです。ただし、異なったニュアンスで受け止められる恐れもあるので、日本語でも捕捉しています。

小林:この3つのバリューは小泉さんが入社して間もない頃に作られていますよね。その頃のメルカリはどの程度の規模だったんですか?

小泉:まだ10人ぐらいでしたね。

小林:その段階でこうしたバリューを定めたことがメルカリにとって最初の転機になったのかもしれませんね。たいていのスタートアップは、事業が急成長している局面ではそちらのほうに夢中で、バリューのことにまで頭が回りませんよ。DeNAにしても、バリューを策定したのは従業員が400人になってからですよ。そこまでの規模になってくると、社内にちゃんと浸透させるのも一苦労です。それに、社員の多様性も進んで、バリューをどこに合わせていけばいいのかもわからなくなります。小泉さんが策定することを提案した際に、まだ時期尚早ではないかという声は社内から出てこなかったのですか?

小泉:いえ。特になかったですね。一気通貫で進んでいき、人事評価や採用基準においても3つのバリューが紐付けられていきました。

小林:採用と言えば、まだ入社が決まっているわけではない人までもがメルカリのバリューを知っていることがスゴイですよね。それだけ、外向けの発信力も強いということでしょう。就職先を調べているプロセスで初めて知るよりも、知っているからこそ応募するというケースのほうが多い気がします。

小泉:同じ言葉を繰り返し言い続けることが大事だと思っていますね。同じことを何度もやらないことには、ブランド創りが始まりません。「もう聞き飽きた」というリアクションが出るようになって、初めてみんなの中に刷り込まれているものです。だから、しつこく言うわけです。僕自身は、明るい宗教だと思っていますね(笑)。社歌を歌うとかになってくるとちょっと今っぽくないと思うけど、バリューを会議室の名称にしているとか、明るくみんなが使える雰囲気で、「その判断、もっとGo Boldにやるべきだよ!」とか、気軽に口にするような環境にすることが大事だと思います。だから、マネージャーにはバリューの体現者となることを課していますね。そうすることで、「それって、小泉さんの好みじゃないですか?」などと反論された場面で、「いやいや、メルカリのバリューがこうだからね」といった具合に説明でき、一本筋が通るわけです。

小林:3つという数はかなり意識したものなのでしょうか?

小泉:完全に意識していますね。4つ以上になると、なかなか人間は覚えられませんから。

小林:私も実感としてよくわかります。バリューを5つ作るという会社はよくありますが、5つだと使われ方にムラが出たりするんですよね。ある部署では1、2、3をよく意識しているが、別の部署だと1、2、5を意識している、といったように。それだと、せっかく一体感を高めるためにやったはずなのに、逆に部署間での違いを生み出すことにもなってしまいますからね。一方、3つに絞り込んでいるとそんなことにはならない。

小泉:やはり、作っただけで満足してしまうのではダメです。ちゃんと刷り込まれることまで意識すれば、3つという数が限界だと思います。僕たちもバリューを作る際に、ミッションや10年後のメルカリの姿をイメージしながら思いついたものをどんどん書き出してグルーピングしていったら、6つぐらいのカテゴリーになりました。でも、4つ以上は難しいから、そこから先に取捨選択し、チャレンジ、チームワーク、専門性に絞っていったわけです。

小林:世の中の多くの会社は作りすぎですよね。仮に復唱はなんとかできたとしても、実際に普段から使っていなければ意味がありませんから。

小泉:会社のバリューを使って社員たちが言葉遊びを始めるレベルまで達しないとダメですよね。オンだけでなくオフのシーンでも、たとえば社内の部活で「もっとGo Boldに走ってくださいよ!」といった具合に出てくるようになれば完全に消化したと言えるでしょうし、僕たちもその状況をめざしています。

小林:なるほど。これからもメルカリがGo Boldな展開を遂げていくことを大いに期待しています。本日はお忙しい中、貴重な話をうかがえてありがとうございました。

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