INTERVIEW

【メルカリ】プロダクトのみならず、経営力こそメルカリの強み Vol.2

2018.10.18

フリマアプリが圧倒的な支持を集めるメルカリは、起業や経営の経験が豊富なスター軍団によって経営陣が構成されていることでも知られています。そういった面面が一堂に会して、実際にどのような経営が行われているのかについて、メルカリ取締役社長兼COOの小泉文明さんから話をうかがったインタビューの第二弾をお届けします。前回の記事はこちら

(ライター:大西洋平)

IPOの計画でさえ、社内で情報公開されていた!

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):外向けのPRが上手な会社だということは前々から認識していましたが、インナーコミュニケーションに関する工夫にも突出して長けていることを痛感しました。いつ頃からそうしたことに意識を払われるようになったのでしょうか?会社の拡大に応じてなのか、あるいは前職時代の経験に基づいて進めてきたことなのか。

小泉文明(メルカリ取締役社長兼COO。以下、小泉):特に深く意識したことはなく、外だけでなく社内に対しても誠実に応えていこうと思っていただけですね。そもそも経営陣が隠していたとしても、社員は気づいているので。

小林:株式市場に上場する前後で、そういった情報開示の体制に変化はありましたか?

小泉:インサイダー情報とか、上場企業として守るべきモラル面に関しては今まで以上に徹底しようという話はしましたが、他は特にないですね。もっとも、「もっと私たちのことを信じてください」と言われましたけど。IPOにしても、通常なら社内にもその直前になってから告知するものでしょうが、当社は計画している時点からいつどこで上場することをめざしているのかを社内では共有していましたね。ここから先の情報を明かさないというルールを作るのは、社員を信じていないからであって、そうしないとトラブルが起こりうることを前提に会社を作っています。とにかく僕は、社内においてそういった情報格差を生じさせたくないと考えています。

小林:ただ、「言うは易し」で、たとえばM&Aの案件が舞い込んできた際に、そのことについてどこまでオープンにするのかの判断が悩ましくなってきますね。

小泉:そのようなケースでは、インサイダー情報の扱いとして、やはり上場企業としての作法を守っていくことになります。だけど、例外的なケースを除けば、当社は情報をオープンにするのが基本ですね。情報をどのように得ていくのかに関しても、社員のセンスが問われるのだと思っています。

小林:まさに、そこがカギとなってくるところですね。そもそも情報共有の仕方に関して、経営陣側がメンバーに対して共有する情報量を制限するというのは情報管理のよくある例ですが、結果的にメンバーからすると部分的な情報しか持てないために、全社の目的が何なのかが掴めず自律的に動けない状況を生み出してしまっている、というパターンはよく耳にしますよね。

小泉:僕たちもベンチャーのフェーズから社員が100人を超える規模にシフトしていった場面で、情報共有の仕方について再考しましたね。昔は自分たちのところに情報が漏れなく集まり、そのすべての承認に関わっていたのに、頭越しで決まってしまうことがどんどん増えてしまったと不満を感じる人が出てきているように思えたからです。そこで、すべてをオープンにするので、自分たちで自由に情報を入手してくださいというスタンスにしました。

小林:それは、非常にいいメッセージかもしれないですね。オープンであるだけに、むしろやましいことはしづらくなり、自浄されていくという側面も出てくるでしょう。

小泉:逆にオープンになりすぎていて、当初は戸惑いもあったようです。だけど、慣れちゃうとすべてが早いですよ。だって、どこで何をやっているのかすぐにわかりますから。

小林:確かに、前職を振り返ってみても、情報共有のための会議が全体の5割程度を占めていましたね。

まさにメルカリは、IT業界におけるGE!?

小林:ところで、起業経験や経営経験の豊富なスター軍団が経営陣として集結する一方で、設立当初からずっと現場で頑張ってきた人たちもいるわけで、社内の雰囲気として何らかの違和感のようなものはうかがえないのでしょうか?

小泉:その点については、役員に抜擢された後のパフォーマンスによって、「やっぱり○○さんはスゴイ!」とかいった具合に、自然と馴染んでいくものですね。成果を出せるように経営陣のサポートが必要だと思います。会社の規模が大きくなってくるとポジションも増えてくるし、いろいろなキャリアパスもあるので、行き詰まり感のようなものがないようにしていきたいですね。

小林:とはいえ、他社ではなかなか考えられないほどのスター軍団がズラリと顔を揃えていることに関して、どこか仕事のやりづらさとかを感じることはないのでしょうか?

小泉:もともと、そういったことを気にするようなタイプの人はいなかった気がしますね。起業家タイプの人を採用するに当たっても、自分がトップになって物事を進めていきたいタイプと、トップに立てなくてもいいからとにかく大きなことをやりたいというタイプがそれぞれいると思います。当社は後者の考えをもった人が多いですね。メルカリに居たほうが資金力もあるし、エンジニアもそろっているから、自分で起業するよりも大きなことにチャレンジできると思った人を採っているということです。彼らは社会に対してインパクトを及ぼすことを今すぐやりたいと考えているから、当社に籍を置いているのでしょう。

小林:意識されていたかどうかはともかく、まるでIT業界のGEのような会社ですね。ファイナンスにせよ、エンジニアを集めることにせよ、自分で起業してゼロからやると大変だし、時間もかかってしまう。それよりも、メルカリというベースに乗っかったほうが早い。それがメルカリのコーポレートバリューとなってくれば、M&Aも進めやすいですね。

小泉:そうですね。起業やM&Aの経験が豊富な人が集まっているので、話も早いですし。

小林:プロダクトが非常に強い会社だというイメージがある一方で、経営システムの懐の深さも感じますね。メルペイがその証しだと思います。メルカリのプラットフォーム上に、違うサービスとして乗っかっているわけで、グループの経営陣としてはメルペイに対してどのような結果を求めているのでしょうか?

小泉:やはり、メルカリのお客様が最初にメルペイを使うことがスタート地点だと思います。将来的にはスタンドアローン(単独)でメルペイを使うお客様も増えていきます。グーグルにおいても依然として検索がコアであるように、僕たちも国内のメルカリ事業が主軸であるし、さらにそれが伸びていく。その前提をベースにしながら、メルペイやグローバル事業、またソウゾウ社でやっている新規事業でも可能性を追求していきたいですね。

小林:昨年のIVS(インフィニティ・ベンチャー・サミット)で、「少数精鋭で一点突破できるのがインターネットのスタートアップの強みだ」といった内容の発言をヤフーのCEO(当時は副社長)の川邊健太郎さんがなさっていました。そういった観点からすると、今のメルカリはもっと幅広い事業を展開しようとしているわけで、あえて言えば、スタートアップの強みを半ば失ってしまうリスクもあるとも考えられませんか?

小泉:新規サービスについては、もっと肩の力を抜いて取り組んでいるという感じですね。前職の経験を踏まえても、そもそも新規サービスはなかなかヒットするものではありませんから。M&Aというアプローチもあるでしょうし、いろいろな新しいチャレンジに取り組んでいくことになるでしょうね。その意味で、メルカリの経営陣はスタートアップに携わってきたメンバーばかりだから、踏み込み方が他社の人たちとは違うのではないかと思います。