INTERVIEW

【杉山全功】ゲームのことはわからなくても、ゲーム会社は経営できる Vol.2

2017.10.05

杉山全功(すぎやま まさのり)

大学時代に学生ベンチャー、株式会社リョーマに参画したことが経営者へのきっかけとなる。 2004年に代表取締役に就任した株式会社ザッパラスは就任2年目で東証マザーズに上場し、2010年には東証一部上場へと導く。同社退任後、2011年に株式会社enishの代表取締役に就任。就任後2年半で自身二度目となる東証一部への上場を果たす。 株式会社enish退任後は、株式会社日活、地盤ネットHD株式会社等の社外取締役を務めるかたわら、最近はエンジェルとして若手経営者の育成にも力を入れている。

(ライター:石村研二)

マーケットの可能性を感じたenishとの出会い

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):ザッパラスは2005年にマザーズ、2009年に東証一部に上場していますが、杉山さんは翌年に辞められていますね。そしてその翌年の2011年に当時のSynphonie、今のenishに参画なさったんですよね。こちらはどのような経緯だったんですか?

杉山全功氏(以下、杉山):ザッパラスを辞めて次は何をしようかと考えていた時に、ドリコムの内藤さん等の経営者の方々とゴルフをする機会があって、その時に内藤さんから「ソーシャルゲームって知ってますか?」って言われたんです。当時はまだガラケーを使っていたので、スマホのこともソーシャルゲームのことも聞いたことがあるといった程度だったんですが、この時のゴルフがきっかけで興味を持つようになりました。色々と情報を仕入れてみると、マーケットとして可能性があると思うようになったんですね。

その頃のソーシャルゲームの業界は、エンジニアとクリエイターが数名で開発するような小さな会社が100社とか200社とかあるような状態だったんですが、その中の何社かでまとまって経営したほうがいいんじゃないかと考える人達が出てきました。その中の1社がSynphonieで、声をかけてもらったという形ですね。

朝倉:Synphonie側としては、どういう思惑で杉山さんに声をかけたんでしょうか?

杉山:その頃の彼らは、いくつかスマッシュヒット作を作っていて社員は20人くらいという状態でした。月によっては赤字だったり黒字だったりするような感じだったんですが、「今のタイミングはゲームづくりに専念したほうがいい。自分たちだけではマネジメントに手がまわらないのでその部分をやってもらえませんか?」という話しになったんです。ゲームを作るためにもっと人もお金もいるから組織を作らなければいけないし、調達もしなきゃいけないし、上場もしたい、将来的には自分たちで経営もやりたいけれど、今は外から力を借りたいということでした。

朝倉:最初から経営者という役割を求められているというのが前提だったんですね。ザッパラス社の占いもそうですが、主たる事業であるゲームについて、そのサービス内容を熟知なさっていたわけではなかったんですよね?不安はなかったんですか?

杉山:不思議となかったです。ゲームの中身や良し悪しは分からないけど、ゲームビジネスの構造は他のコンテンツビジネスと同様だと理解したので。念のため「ゲームのことはわからないけどいいかな?」と聞いたら、「ゲームづくりについては期待してないから大丈夫です!」って言われてましたからね(笑) 冷静というか合理的な考え方がすごくエンジニア的で、でも思い切りもあって、だからこの連中ならゲーム作りは任せて大丈夫だろうなと信頼できたのです。

経営者として、結果の指標についてはその理由と解決策を問いただしたり、フィードバックしたりすることもありますが、その過程については細かくは問いません。そうした信頼関係が築けるチームだからこそできたことだと思います。

「株主でよかった」と言われるのが経営者の快感

朝倉:enishでもマザーズを経て東証一部への上場を主導なさってますよね。2回も上場を経験したという方は世の中にほとんどいないと思うのですが、何か意識してらっしゃった点はありますか?

杉山:上場自体は審査に通るかどうかですから、必要なのは公器として求められるガバナンスや運営体制をどう整えるかです。もちろん、業績と成長性の裏付けがあってのことですが。enishでは、最初から東証一部の上場審査に耐えられる体制を作ろうと考えてマザーズに上場しました。これはザッパラスでマザーズから東証一部にステップアップした時の学びとして、なるべく早めに仕組みをしっかり作り、それから組織を広げたほうが楽だということがあったからです。

朝倉:スタートアップの経営者はゼロからプロダクト開発に携わってきた創業者が多いですが、上場後に経営者としての役回りでの負担は大きくなりますよね。中にはそうした負担を好まない方もいますが、杉山さんの場合はそうした役回りを創業者に代わって負っていたということになりますね。

杉山:僕の性格や思考がそれをやるのにあってたんでしょうね。上場するとIRや株主対応というのが公の役割として必要になりますよね。楽じゃないけどそれが上場企業の社長の仕事だという感覚ではあるので、僕は特に苦にはなりません。

もともとのメンバーがいて、プロダクトについてはその人たちに任せて、それ以外の部分は任せてもらう。もちろん結果の数字は見ますけど、細かい作りまでは見ないでも任せられる体制を作る。そういうことのほうがプロダクトを作ることよりも向いているんですよ。

朝倉:「上場請負人」とも呼ばれる杉山さんですが、経営を専門に手がけていらして感じる楽しみや喜びといったものはありますか?

杉山:上場すると、たまに「???」な質問や意見が株主から来るときもありますよね(笑) 若手のスタートアップの人なんかはそれを嫌がることもあると思うんですが、株主が会社のことを本当に嫌いだったらわざわざそんなこと言わずに株を売ってしまうわけですよ。だから言ってくれるだけありがたいと思って謙虚に受け止めるのがいいよと。 逆にそういう人に「持っててよかった」って言われたときは快感ですよ。上場企業の経営者冥利ってそこにあると思うんです。

朝倉:タイガースファンが選手を野次っているようなもんなんでしょうね(笑) 興味がなくなったらわざわざ球場まで来てくれないんですから。とやかく言われる方がまだありがたいのかもしれませんね。

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