(ライター:石村研二)
ライフサイクルを規定することの重要性
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):上場すると投資家から短期のリターンを求められることもあると思うんですが、先程言われた開発と営業のズレもあるし、短期で結果が出るとは限りませんよね。Fringe81の場合には、どれくらいのサイクルで見て欲しいという期間はありますか?
田中弦氏(Fringe81 代表取締役CEO兼CCO。以下、田中):うちの場合は3年ですね。開発と営業のズレは1年から1年半くらいなので、2サイクルで3年。それくらいの期間で見ていただければ。
小林:どういうサイクルで見てほしいかというのは投資家に説明するときにキーになるかもしれませんね。自分たちが見て欲しいサイクルと投資家が求めるサイクルのずれに困っている会社って多いと思います。
田中:確かにそうなんですけど、自分の会社のプロダクトライフサイクルをちゃんと規定していなかったり、人材育成のサイクルも規定していない会社が、5年で見てくださいとか10年で見てくださいって言うのって、すごく乱暴だと思うんです。その一方で、1年で結果を出しますからっていうのもまた乱暴だと思っています。経営者は自分たちのビジネスライフサイクル、プロダクトライフサイクル、組織のライフサイクルという3つのライフサイクルのバランスを上手く取りながらそれを規定して、ちゃんと市場に対して伝えないといけないと思うんです。
フェアネスを重視する姿勢がオフィス設計にも
朝倉祐介(シニフィアン共同代表):オフィスに仕切りがなかったり、ミーティングスペースがガラス張りだったりして意匠的にもおもしろい会社だと感じますが、何かコミュニケーションデザイン上の狙いがあるんですか?
田中:僕がどうしても自分で決めたいことの一つがオフィスデザインなんです。ミーティングスペースがガラス張りなのは、密室に隠れて決めるのではなくオープンにやろうという意識の表明です。オフィスの執務エリアは2本の廊下を挟んで3つに分かれているんですが、その廊下に机や椅子を並べてあって、何かあったらそこにぱっと集まって話し合ってすぐに散る事ができるようにしています。廊下に仕切りもありません。会議室の空きを確認したりする時間も無駄だろうと思うので。そういう意味ではコミュニケーションデザインであるとも言えます。
あと、もう一つのこだわりが社長の席の位置。社長の席はみんなが通るコピー機の横にあって、社員間で椅子に差をつけるようなこともしません。それはフェアネスを大事にしているから。
ユニークな会社づくりの原点とビジョン
村上誠典(シニフィアン共同代表):Fringe81が非常にユニークな会社だというのは理解できたのですが、その上で、部分的にでも意識している会社だとか、参考にしている会社はありますか?
田中:僕が最初に入ったソフトバンクの空気や孫さんの考え方は面白いと思っていて、その影響は凄く大きいと思います。新卒でインターネット事業準備室というところに入ったんですけど、新規事業の立ち上げ屋の猛者みたいな人がいっぱいいて、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。水天宮のオフィスにその準備室があったんですが、そこには出版部門もあればヤフーもあったし、白衣を着たマッドサイエンティストみたいな人もいて、そこを孫正義さんがウロウロしていて、なんかやばい雰囲気でした。
でも、そこからヤフージャパンがブレイクしたり、証券部門が分社化したりしていて、実は事業を複線化した上で人材のサイクルもしっかり考えていたわけです。孫さんは外から人をばんばん連れてくるけれど、それによって活性化して若い人たちが育っていく。だからああいう雰囲気の会社を作りたいなと思っています。
小林:それが今のビジョンにも表れているんですね。ところで、世の中の会社と比べるとかなり頻繁に会社のビジョンを変えている気がするんですが、どんなときに変えようと思われるんですか?
田中:基本、僕のいらいらが頂点に達した時ですね。今やっていることとビジョンの間でなんか違和感があるぞと思うといらいらするんです。一回目に変えたときはアドテクベンダーからクライアントビジネスに行くときで、次はクライアントビジネスに加えてウェブサービスなんかをやるとき。やりたいこととずれてきたら変えるんですけど、今のビジョンはもうずれようがないくらい大きなものにしてしまったので、これ以上は変えないつもりです。
「人の可能性」が導く会社の未来
小林:広告技術を中心とした事業開発会社という説明は、ウェブサービスがもっと増えるというような含みを持たせたものだと思いますが、さらに将来的な含みとして、大規模データを解析して活用するような事業に乗り出すとか、そういう可能性はあるんですか?ケイパビリティとしては十分あり得ると思うんですが。
田中:考えてないです。確かにケイパビリティはあると思います。でも、予測し得ない会社の方がいいと思っているし、そういったものよりも今ない未来とか、もっととんがったところに行きたいという思いが強いんです。ユニポスも、これまで50年、60年と放っておかれた日本の給与制度を全部変えてやろうというくらいの思いで、リアルタイムかつ全公開で給与制度を回すことを実現しようとしているんです。そういう事業を他にももっとやっていけたらと思っています。
今新卒で入ってくる人たちは、超優秀ですけど、ウチが何をやっている会社かは知らない状態で入ってくるんです。ケイパビリティもそれぞれいろいろだから、新しい事業を考えさせたら一体どんなものが出てくるんだろうというのも楽しみですね。人の可能性を信じているので、そこから生まれているものが何であれやってみたい。だからこれからこんな事業をやりますとは言えないんです。
インタビューを終えて
会社を語る際、事業から語るのか(what we do)、組織や文化から語るのか(who we are)、いずれのアプローチも可能ですが、両方をバランスよく語るのは存外に難しく、とかく語り手の得意な方面に偏りがちなものです。その意味では、事業と組織を縦横に行き来する田中社長のお話は、非常に稀有なものだったのではないでしょうか。 田中社長のそうした哲学が、同社のらせん展開やユニークなカルチャーにつながっており、時間をかけて同社の競争力へと昇華してきているのだと思います。これからも同社の「キワ」の展開に目が離せません。
シニフィアン株式会社 共同代表 小林 賢治