INTERVIEW

【ブティックス】介護保険制度の変更によって新たなニーズが生まれる Vol.3

2018.08.11

介護業界に特化したマッチング・プラットフォーム事業を展開するブティックス株式会社。現在のビジネスモデルにたどり着いた経緯や今後の事業構想について、新村祐三代表取締役社長にお話を伺います。前回の記事はこちら

(ライター:中村慎太郎)

アナログなM&A仲介事業

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):最近、ロングテールの小規模なM&A仲介では、ネットでマッチングする方法をとるプレイヤーもでてきていますが、御社はネットでの仲介は行わず、データベースからアナログな形で仲介しているわけですよね。

新村 祐三(ブティックス株式会社代表取締役社長。以下、新村):そうですね。最終的にはアナログです。インターネットで「介護M&A支援センター」というウェブサイトを作っていて、そこにインバウンドで事業売却のお問い合わせがきます。それらの案件を、我々が買い手候補にアナログで提案しにいく形をとっています。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):取っ掛かりを掴むところにはウェブが使われているわけですね。

新村:ウェブも活用していますが、展示会からの流入も多いです。展示会に来場される方の中には、一定の確率で事業の売却を考えていらっしゃる方がいます。必ずしも経営難に陥っているわけではなく、介護報酬が減額となっていく中で、先行きが不安だから、経営状態が良い間に、高い値段で買ってくれる方がいれば売りたい、という考えの方が多いですね。複数の拠点でやっているけれども、一部の施設が飛び地にあって経営効率が悪いので、部分的に売却したいとおっしゃる方もいます。

村上:数が少ないとマッチング事業のバリューは下がるわけですが、圧倒的な数を実現されているわけですね。他の会社が同じようなM&A仲介事業を手掛けても同じ結果は起きないように思います。

小林:介護業界は再編が必要な業界ということですね。

新村:統計によると、介護事業者の廃業率が年6%というデータもあります。この数字はすごい数字です。全国21万5千ある介護事業所のうち、毎年13,000件が廃業していることになるわけですから。

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

村上:13,000件の廃業事業者を、資金力や運営ノウハウのある事業者が吸収したほうが、業界にとっていいということですね。

新村:はい。介護事業は、基本的にはストック型ビジネスですから、ご利用者、従業員をそのまま引き継げば、買った側にも大きなメリットがあります。

小林:買い手の介護事業者は全国規模の大手事業者ですか?それとも地場で展開されている中堅事業者ですか?

新村:両方ですね。大きな会社だからといって、どんな案件でも買収できるわけではありませんので。この地域や業態なら買いたいが、この案件は難しい、というように、大手・中堅それぞれにマッチングしやすい案件の特性があります。

小林:御社が展示会に参画される事業者の幅を広げていくのに従って、M&A仲介事業にとっては、売買ニーズのデータベースも広がっていくわけですね。

新村:その通りです。

展示会ビジネスも成長余地が大きい

小林:展示会ビジネスも伸びていると思います。東京では出展小間数や売り上げも伸びていますか?

新村:はい。年平均140%で伸びています。展示会事業単体で見ても、まだまだ伸びしろがあると思っています。

小林:今後、開催頻度も増える見通しですか?

新村:はい。たとえば介護システムの場合、5~7年程度で介護施設側のシステム切り替えのタイミングがあり、メーカーとしては、展示会でそうした切り替えニーズをうまく捉えたいと考えるわけですが、開催頻度が1年に1回だとスパンが長すぎてうまく乗り換えのタイミングに合いません。ですからニーズとしては最低でも年2回、できたら年4回ぐらいの開催は必要だと思います。

小林:なるほど、拡大余地が大きいですね!

新村:はい、とても。

村上:このようなマッチング事業には競合他社はあるのでしょうか?

新村:介護業界でここまでやっている事業者は無いと思います。

村上:新規参入事業者が同様のマッチングを始めようと思った場合、すぐにできるものなんでしょうか?

新村:参入障壁はかなり高いと思います。展示会自体、そもそもノウハウがないとできませんし、たとえノウハウがあっても、先行している展示会があると、先行者の存在そのものが、後発事業者にとって、大きな参入障壁になりますので。

小林:大阪と福岡でも開催されているということですが、まだまだ高齢者が多いエリアはありますね。

新村:そうですね。現在、東京・大阪・福岡で開催しているCareTEXのほかに、「CareTEX One(ケアテックスワン)」という商品ジャンルを絞り込んだミニ展示会を開催し、介護食・配食サービスなどを紹介しています。介護施設の人手不足で、自前の厨房で食事を出せなくなり、外部から配食サービス等を取るニーズが増えているのに対応するためです。

これについては、もっと都道府県レベルで開催して欲しいと言われています。法人の本部だけでなく、施設単位で試食や比較検討をしてもらいたいので、できるだけ施設のそばのエリアで開催した方が都合がよいからです。このニーズに応えて、去年の10月に横浜で第1回目を開催しました。

小林:配食の場合は、ある程度エリアを絞った方がマッチングしやすいわけですね。

新村:はい。今年は5月に大宮、8月に名古屋、11月に横浜で開催します。

小林:フォーマットができたらいろんなところで展開できるわけですね。

マッチングノウハウを武器とする競争戦略

小林:今後の御社の成長に向けた課題は何だと考えていらっしゃいますか?

新村:人材の確保ですね。既存事業はもちろん、新規事業を行うにも人材が必要になってきます。

小林:もともと介護事業をされていた方の転職が多いのでしょうか?

新村:いいえ、実は業界経験者はひとりもいません。採用基準は「営業力や企画力がある方」です。もともとeコマースをしていた時から、自分で事業を進めていけるタイプの人を基準に採用してきました。

小林:IT関連の企業からの転職もありますか?

新村:エンジニアはありますが、営業系では、あまり多くはないですね。

小林:新しいサービスは社員から出てくることが多いのでしょうか?

新村:そうです。展示会を開催していると顧客が抱えている様々な課題やニーズの情報が蓄積されます。それらをベースに、どの課題にフォーカスし、いつどんなサービスを創ろうか、ということを社員と考えます。

新規事業を立ち上げるにはお金が必要です。上場した意味はそこにもあります。自前で展開していくこともあれば、「このサービスはニーズがある」という事業や会社があれば、買収したいと考えています。顧客に提供できるサービスの幅をこれからどんどん増やしていきたいと思っています。

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

小林:BtoCについては、競争激化からそれほどの成長は見込んでいないのでしょうか?

新村:そうですね。BtoC事業は、できるだけ現状を維持していく方向で考えています。基本的にはBtoB事業に注力しています。従来は、BtoC事業が売上の半分以上でしたが、前期から逆転しBtoB事業が半分を超えるようになりました。

小林:展示会もM&A仲介も伸びていますか?

新村:はい、伸びています。

小林:M&A仲介の営業担当は7名とありますが、このあたりの人が足りていないわけですね。

新村:そうですね。その数字は昨年度のものですが、今年は大幅に増員の予定です。

小林:社会的な必要性も高い事業ですね。

村上:他業種への展開可能性も謳われていますが、介護周辺を狙っていくというお考えですか?

ブティックス「成長可能性に関する説明資料」より)

新村:そうですね。医療や健康分野のような、介護の隣接領域のほうが顧客層も近く、成功確率的にもやりやすいと考えています。

村上:プラットフォーム的なサービスモデルだと模倣されるおそれがある気がしますが、介護とは違う分野でも構造が似ている業界の場合、展示会でのマッチングを入り口に囲っていける気がします。

新村:我々もそう思っています。展示会は、基本的には売り手と買い手を結びつけるビジネスです。我々は、どのようにして売り手である出展企業を集めるか、どのように買い手である来場者を集めるか、そしてどうすれば両者をマッチングできるか、というノウハウを相当蓄積していますので。

村上:先ほど、展示会を入り口に、顧客のニーズが蓄積されていくというお話がありましたが、それらのニーズをサービス化していく時に、マネタイズのさせ方や収益性はそれぞれ異なりますよね。サービスによって、マスのニーズは存在するが収益性の低い薄利多売モデルになってしまったり、高収益だがそもそもニーズがニッチであったり。そういったことを考えた場合、御社は、各サービスの収益拡大を優先するのか、それとも、各サービスのマーケットシェア拡大を優先するのか、どちらになるのでしょうか。

新村:バランスの問題ですが、まずは収益を上げたいです。ですが、中長期的に見て成長性が高い分野には、先行投資であっても、先にシェアを取りにいきたいと考えています。バランスとタイミングの問題ですね。

村上:人材の確保が課題だというお話もありましたが、新規サービス創出と、生み出したサービスの収益化・シェア拡大のバランスをどうやっていくかがもっとも重要な舵取りだと感じました。また、介護保険制度が変わるリスクは常にありますね。

新村:当社のビジネス自体は、制度改定によるリスクはあまりないと考えています。むしろ介護保険制度が変わると、次にどう動こうかとメーカーも介護事業者も情報を必要とするので、情報の源である展示会のニーズが高まっていきます。実際に展示会と同時開催するセミナーで、厚労省の方などに業界動向の講演をいただいて、参加者に情報提供することも実施しています。制度改定の変わり目は、みなさん情報を必要とされるので、我々の事業にニーズが生まれるわけです。

小林:高齢化は日本がこれから対峙していかなければならない問題ですし、そこに対応した事業者を強くしていく御社のような役割は今後ますます必要になっていきますね。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

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