INTERVIEW

【ビープラッツ】日本のモノづくりは日本のおじさんが変革する。IoTの進化を支える気概 vol.3

2018.05.24

「サブスクリプションをすべてのビジネスに」というミッションを掲げ、サブスクリプションの決済プラットフォームを展開しているビープラッツ株式会社の藤田 健治CEOに、成長の展望について伺ったインタビューの第3回。前回の記事はこちら

(ライター:中村慎太郎)

上場を経て、大手企業のインフラとしての成長を企図

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):営業をアウトソースしていくと、顧客の最先端のニーズがつかみづらくなると言うデメリットがあるのではないかと思いますが、そちらはどうお考えですか?

藤田健治(ビープラッツ株式会社CEO&Founder。以下、藤田):我々は、パートナー企業が営業を行う時には一緒に客先に行くことがほとんどなので、その点は大きな問題にはなりません。また、当社がまだあまり理解していない業界、例えば、医療や農業という分野などこれまではターゲットにしていない産業においても、新ビジネスをサブスクリプション型で構築したいという市場があり、実は今、そういったお問い合わせが急激に増えてきているところです。

村上:投資された分は、長い目で見ればSaaS、PaaSのモデルの収益で回収していくことになると思いますが、どのくらいの期間で回収する、といった見通しはありますか?

藤田:顧客あたりのライフタイムバリューが重要な指標ですね。導入の際に、初期費用を頂き、その後月額課金に移行するわけですが、月額課金の部分は高い利益率の収益となります。現在は、導入社数をKPIとして目標管理をしており、初期費用も含めた売上を計画している状態ですが、初期費用の原価率も抑えられており、利益率が高い状態を担保できています。

(ビープラッツ「成長可能性に関する説明資料」より)

今の取引先が50社なのですが、これが100社になれば利益が大きく増すことはわかっている、という状況です。100社到達へ向け、ここ2,3年で確実に積み上げていけばいいかなと考えています。

パートナー戦略なども順調に進行していると認識しています。

村上:事業拡大をしていく上でボトルネックになる部分というのはありますか?

藤田:知名度ですね。「知っていればもっと早く導入していたのに」という顧客からの声もありました。

次に、IoT企業へ提供するインフラサービスの色合いが濃くなってきたこともあって、我々の信頼度と成長性を担保していかなければならないということです。途中でサービス提供が止まってしまうという可能性があると、顧客にとってはリスクになってしまうわけですからね。

村上:そういう意味では上場したことは信用を担保する一要因になるわけですね。

宮崎琢磨(ビープラッツ株式会社CFO&Founder。以下、宮崎):その通りです。上場をした理由の一つにはそういう事情もあります。また、上場の背景には、顧客ニーズの高まりという外部要因もありました。先進的な大企業であっても、今扱っているものをサブスクリプションモデルに移行しようという考えに至っていない企業もまだまだ多くいますが、近年のIoTの市場拡大などにより、取り組みを開始する企業が着実に増えていて、それが今回追い風にはなりました。今後もこのニーズの拡大が継続するかどうかも、我々にとっては外的要因として注視すべきことでしょう。

村上:大企業を顧客にする場合の課題としては、基幹システムに入りこむ難しさが挙げられるのではないでしょうか。

藤田:当社の場合、大企業の基幹システムの対応をしているシステムインテグレータである富士通様のような企業経由での導入実績も複数あります。お客様の要望に応じて、我々に足りないシステム面などを補完していただいているところもあります。

村上:例えば、大きな会社の場合、御社と資本提携したほうがいいんじゃないかという話にはなりませんか?

藤田:資本業務提携も積極的に進めており、東京センチュリー様や、GMOペイメントゲートウェイ様との実績があります。

このマーケットは、海外勢には渡さない

村上:続いては、競争環境についての質問です。御社の競合となる会社はあるのでしょうか?

藤田:MVNOなどの特定領域に特化した競合となる会社はあります。また、定額サービス向けのサブスクリプションのためのツールを提供されている会社もありますね。ただ、我々のように従量課金型のサービスを複数管理したり、外部企業からの仕入と販売チャネルを構築できたりといったサブスクリプションビジネスで期待されるサービスが繋がっていくプラットフォーマーは他にはいません。当社はユニークなポジションのベンチャーではあります。

村上:なるほど。まずは国内においてPaaS型で事業をスケールさせていく戦略だと思いますが、海外勢と競合する前に、日本のマーケットを抑えてしまいたいということでしょうか。

藤田:商社に務めていた頃は、海外のものを持ってきて日本で売っていた僕が言うのも、という感じもありますが、この国内取引のプラットフォームを海外勢に持っていかれるのだけは、許しがたいという思いがあるんですよ。

村上:そこだけは死守したいわけですね。

藤田:国内でのBtoBの取引を、どうして海外の企業の仕組み依存して、データも預け、費用を払うということが必要になるのか、わからないですよね。それもあって、日本の企業の皆さまにいち早く当社プラットフォームをご選択いただけるように当社の事業をスピードアップしたいというのが現状です。

物販の取引の場合は、売った、買った、払ったという単純な図式ですけど、契約はサービサーがいてサービシーがいると、この関係を管理し続けなければいけないので、安定したビジネス環境を提供しつづけられるプラットフォームが必要になります。そして、それが我々であるべきだと考えて上場したわけです。

宮崎:我々はいわゆるおじさんベンチャーですが、おじさんベンチャーらしく日本らしさと付き合っていこうということですね(笑)。

藤田:そう、頑張るおじさんベンチャーなんですよ(笑)。当社の強みは、経営陣がもともと大企業出身で、日本のしがらみを知っているということです。例えば、大手メーカーのIoTへの取組みにお声掛けいただいたときには、新規事業を検討している部門のご担当者様以外の、コーポレイト部門の方々は全員、IoTへの取組みに伴う従量による売上管理や決済などに反対しているというケースもありました。なぜかというと、その企業のみなさまは、ものづくりをし、ものを売るということで仕事をしてきていることが、その会社の企業文化やルールであったりするため、IoTについて技術面からの取り組みは進むものの、売上計上の管理の変更や、新たな顧客管理や契約管理といった業務面については、どこから何をやったらいいかさっぱりわからないといったことがおこるわけです。

法務も財務も経理も何をどうしたらいいかわからないわけですね。今まではボルト一本でいくらと支払いをしてきたのに、アマゾンからの請求が、為替によって変動されて翌月などにまとめてくるわけです。それに対して、なかなか受け入れの姿勢が取れないというのもあるみたいですね。ただ、顧客のニーズはサービス化、サブスクリプション化に向かっていますので、社内体制を適合させ、先に進んでいかないとグローバルでは戦えないという事情もあるので、今後は必要性が加速していくと考えています。

朝倉祐介(シニフィアン株式会社共同代表。以下、朝倉):そこで御社のサービスが活きるというわけですね。

小林賢治(シニフィアン株式会社共同代表):そういう意味でも顧客のリテラシー自体もeコマースのときと似ているかなと。どうして店舗の売上を削ってまでeコマースをやらなければいけないのかという人が、必ず上のポジションにいたわけですね。ただ、ある時期から潮目が変わり、一気に認知度も業績も上がっていきました。IoTでもそういうことはありそうですね。

藤田:そのへんを目指して、頑張って踏ん張っています(笑)

ディスラプトではなく、共存を選ぶ「日本のおじさん」ベンチャー

村上:御社のビジネスはどう認知させるのかが課題ですが、今日強く感じたのは、IRが難しいですね(笑)。

藤田:その通りです(笑)。複雑さに対応できることが売りなので、どうしても説明も難しくなってしまいます。

村上:投資家が使ったことがないサービスですからね。例えば上場後にドラスティックにストーリーを変えるというやり方も考えられると思いますが、どうお考えですか?

藤田:個人投資家に理解してもらうのはなかなか難しいところがあるので、IoTなどのキーワードを押し出していくのがいいのかなというのがあります。ただ、機関投資家に関しては、我々が想像している以上に、事業について理解してくれています。

朝倉:最初のタイミングでは、どうしても個人投資家への対応が中心になるところもあると思うのですが、敢えてかみ砕いて説明しようとしたらどういう説明になりますか?

宮崎:まだ掴めてないですね(笑)。我々はプライドを持って、自虐的に「おじさんベンチャー」と自分たちのことを呼んでいるのですが、その背景には、既存の生態系に寄り添うことを選択している、という面があります。どうしても、市場がベンチャーに対してディスラプティブ・イノベーションを期待する向きもあるので、IRには難しさが付きまといます。

しかし、IR的な良し悪しは別として、IoTという用語が、我々のビジネスの複雑性にフィットしているとは言えると思います。実際にメーカーの中で働く人にとっては、このくらい複雑な仕組みでないと、メーカーが持つ複雑な問題点を解決できるイメージが湧かない、という部分があるのです。ですから、ある程度玄人好みというところは追い求めて行きたいところではありますね。

村上:もしかしたら説明を2パターン準備したほうがいいのかもしれませんね。機関投資家向けには「PaaS型を目指す」というシンプルな説明を。個人向けには、「日本の基幹産業である物作りの根幹を支えるためのプラットフォームを、日本のおじさんベンチャーが頑張っています」というように。

朝倉:個人的には「既存の生態系に寄り添う」という御社のスタンスは日本らしくていいのかなという気がします。今までの古き良き物作りを、デジタル化していくことで支えていくというような立ち位置ですよね。これはとても応援したくなる美しいストーリーだと思いますよ。

村上:「IoT」という言葉に捕らわれてしまうと、個人投資家の気持ちで聞けばいいのか、機関投資家の気持ちで聞けばいいのかというところで混乱してしまうところもあるかもしれません。実は私がそうでした(笑)。ただ、今日お話を伺ってよく理解できました。

藤田:日本のために頑張るおじさんベンチャーというイメージもいいですね。今後、活用させていただくかもしれません(笑)。