INTERVIEW

【森川亮】経営者は情に流されるな。「職人気質」が日本の会社をダメにする Vol.2

2017.09.12

森川さんの発言や著書に目を通すと、人の感情の機微に対する冷静な観察眼と、情に流されないシビアな判断力を共に大切にしていらっしゃることに気づきます。今回は、森川さんの経営スタイルや組織に対する考え方について伺います。

(ライター:石村研二)

駄目になってしまう会社は、経営者が情に流されている

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):前回、森川さんは「冷たい男だというブランディングができていた」という話がありましたが、その一方で、著書などを拝読していると人に対する言及が非常に多い印象を受けます。人の感情を冷静に観察して理解した上で、なお合理的に接するという考え方をどのような経緯で身につけられたんですか?

森川亮氏(C Channel株式会社代表取締役社長。以下、森川):駄目になってしまった会社の人と話をすると、駄目になってしまった理由として、経営者が情に流されてしまったというのが多いんですね。「俺が立ち上げたサービスだから」とか「あいつが頑張ってるからあと1年信じてやろう」というかたちでやって失敗してる人が多い。だから、とにかく情に流されずに正しい意思決定をしなければいけないと考えていたんです。それをやるためには社員に好かれない方がやりやすいんです。ただ、それだけだと単なるコンサルタントになってしまうので、深く人を観察して組織を知った上で、冷静な判断をするということを心がけるようになったんです。

朝倉:確かに組織を成長させるためには必要なことですし、経営者としては当たり前のことですよね。ただ、その当たり前のことを貫くのが特に日本では辛いことなんじゃないでしょうか。

森川:ベンチャーなどの場合だと、経営経験がある人が少なくて、本当に職人みたいなクラスの人がいるわけですよ。その職人みたいなクラスの人って「俺の言うことは正しい」と思っていて、それを変えるのがすごく難しいんです。最初は私も話を聞いてたんですけど、そういう人は「話を聞いたってことは自分の言っていることが正しいと判断したってことだ」と思いがちなところがあるんです。そういう人に流されずに対応するためには、冷静な判断を心がけるしかない。 日本企業全体にそういう問題があると思うんですよ。職人気質の人が会社をダメにするというような。それが見えてしまったので、自分は違うやり方をしないといけないと思ったんです。

朝倉:「現場主義」って言葉は常に良い文脈で使われますよね。確かに現場は大事なんですが、現場が意思決定するというのとは意味が違います。

森川:いいものを作るのが大事だということはわかるんですけど、その「いいもの」が、だんだん「自分にとってのいいもの」になってしまうんです、「お客さんにとってのいいもの」ではなくて。お客さんは常に変化しているのに、一部のお客さんに愛されている自分が正しいと思ってしまうようになると、どこかのタイミングでそれを壊さなければいけない、それを判断するのが経営者にとって重要なことなんです。

朝倉:なるほど。ですがそれは職人気質の人からしたら、森川さん個人がそう思うだけだと見えてしまうこともあるじゃないですか。その点はどのように判断するんですか?

森川:僕なりに考えるのは、成長の階段を持ってるかということです。多くの人は成長をなだらかな坂道でイメージするんですね。でも、本当は伸びる事業というのは非連続なジャンプが階段的に起きなくちゃいけないんです。そういうステップアップの考え方で、新しい価値の定義ができるなら、そこにかける可能性はあると判断します。今のものを磨き上げて行けばいいと考えているのなら、それは変えるしかないですね。

喧嘩するくらいのやる気が無いと、いいものは生まれない

朝倉:前回に話題に出た給与をリセットした話もそうですが、メンバーの考えとは異なる大胆な意思決定ってハレーションを起こすことですよね。日本の会社では、全員で合意して進めていくマネジメントスタイルが良しとされていると感じることがままありますが、その中で生じたハレーションをかいくぐるコツみたいなものはあるんですか?

森川:喧嘩するくらいやる気が無いといいものって生まれないと思っていたので、むしろ敢えてハレーションを起こすようにしていたんです。みんながそこそこ仲良くしてるようなチームではいいものは作れないので、そのハレーションが生まれた中で生き残れるのか生き残れないのか、それを見て社員を評価するようなところはあります。 昔の日本的な考え方では、何か成功したらそれをフォーマット化して低コストで回すような組織を作って教育するっていうの当たり前でした。でも今は事業環境の回転がすごく速いので、そういうやり方に慣れてしまった人だと、次のフォーマットに合わせることができない。特にITの場合はフォーマット化されたものを回すだけの人はもういらなくて、自分でフォーマットを作るくらいの人達が重要になっています。フォーマットを回すのが好きな人は辞めてもらうか、子会社でやってもらうか。そういうふうにしてましたね。 変わらなければいけないところで変われるかどうかが重要なんだと思います。LINE時代の話をすると、成長のスピードが最初は何百%だったのが、50%になって、20%、15%となると、社員たちはそれでも満足してしまうというか。会社が成長して、綺麗なオフィスに移って、福利厚生もしっかりして、安定してくると、そこからさらにまた成長速度を上げて行くというのがけっこう大変なわけですよ。そこからさらに上げるのに、退職率を高めたりとか、創業メンバーの役員を変えたり、事業を引っ張るタイプとリスクマネジメントするタイプをはっきり分けてそのバランスを取ったり、経営のやり方も変わって行きました。

朝倉:冒頭に経営者が情に流されて失敗することが多いという話がありましたが、C Channelはゼロから手塩にかけて育てた事業だから、その過程で森川さん自身が情にほだされてしまうことも起き得ると思うんですが、情に流されないために何か意識していることはありますか?

森川:子育てに近いですかね。子どもも赤ちゃんのときは放置すると病気になったりしますよね。事業も最初は面倒を見て、社員とも近い距離でお酒を飲んだりして、自立してきたら突き放すというか、少し距離を置くようにしています。とにかく若い女性向けの事業なので、おじさんがこうだって言っても説得力がないじゃないですか。それに事業をやる人の感覚って普通の人の感覚から離れていると思うので、一般的な人の意見をなるべく尊重するようにしてますね。

朝倉:今は創業社長として子育てに近い感覚で組織に接しているとのことですが、前職ではいわば雇われ社長でしたよね。そこでの影響力の違いを感じたりすることはありますか?

森川:あまりないですし、そうならないようにしています。今の会社でも、鶴の一声みたいなオーナー的な振る舞いはしません。僕が社員だったらそういう会社では働きたくないというのもありますし。ただ、いざという時は力を使って変えていくというバランスは大事にしてます。

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