INTERVIEW

【森川亮】成功体験は捨て去ろう。会社の「らしさ」が弱みになる Vol.3

2017.09.13

大きな成功体験を積むと、誰しもがそうした体験を引きずってしまいがちですが、森川さんは成功体験を捨てることこそが重要と考えています。事業環境の変化によってそれまでの強みが弱みに転化する状況をどう乗り越えるか、またそのための組織風土の多様性について、お話を伺いました。

(ライター:石村研二)

次の価値を狙うために、成功体験を捨て去り続ける

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):ご著書の『シンプルに考える』では、強みを捨てるということに言及されていますよね。今のC Channelでも、これまでの成功体験を捨て去るということをしてらっしゃると思うんですが、何を捨てるかという点において意識されていることはありますか?

森川亮氏(C Channel株式会社代表取締役社長。以下、森川):今の価値がいつまで続いて、その次の価値がどのようになるのかという部分は常に意識しています。今、価値があっても、半年後とか一年後に無くなるなら今のうちから次の価値を狙いに行こうということです。

朝倉:C CHANNELもリリースされた当初から、内容が変わってきている印象がありますが、何回転ぐらいしましたか?

森川:3回転くらいですかね。最初は、インフルエンサーの女性たちが動画を投稿するブログ的な感じでスタートしました。その時の課題は動画を投稿することの敷居が高かったのと、投稿する人たちのセレクションができてなくて有象無象になってしまったことでした。それで、投稿する人を一気に絞り込んで、自社の制作体制も整えて、自社以外の分散型メディアにも展開をして、それで急成長したんです。 次のステージは、人にフォーカスすることですかね。最終的にファンが付くのは人なので、スターみたいな人を生み出したいなと。動画の投稿も一般的になってきたので、いろいろな人が出てきました。最近だと卵料理の専門家みたいな人だったり、GUやユニクロを組み合わせてプチプラのコーデをするスペシャリストだったり、そういう人にファンが付いています。プチプラの子なんかは最近新しい服のブランドを作って、それが結構売れたりして。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):LINE時代に僕が横から見ていて羨ましかったのは、韓国語の人と日本語の人が縦横無尽に会話してるようなグローバルな感じでした。日本では珍しいですよね。成長や次の価値のために、ダイバーシティを意識してらっしゃったんですか?

森川:あえてやったことは、もともとバラバラなものをまとめようとしないことですね。バラバラな人たちの意思をまとめようとするのではなくて、楽しいものだけ拾い上げて、それを特別扱いするってことをしていました。その代わり、選ばれなかった人はどんどん辞めていくので回転が速くて、それが多様性に繋がったのかもしれません。

小林:それで変化を生んだんですね。多くの日本企業では、このやり方でハマるってときは波に乗るのに、新しいことをやろうとするとオタオタしてしまいますよね。でも、ダイバーシティがあると変化への対応が速い。

森川:難しいところですね。日本企業の課題はそういうところにあるとは思いますけど、本当は両方あるといいんですよね。会社で、文化を統一するという話があると思うんですけど、僕はそれには否定的です。統一してしまうとダイバーシティが失われてしまうので、むしろバラバラのほうがいいのではないかと思っています。 M&Aのときでも、会社がM&A後も活発であるために、そこの社員ともともとの社員の距離感をどう保つかは意識しました。会社ごとにカルチャーもヒストリーも違うので、現場レベルでは仲が悪いみたいなのはありましたけど、一緒になってしまうとお互いの価値が分散してしまいます。お互い尖ったままの方が、その点と点がいつか線でつながると思うんです。

朝倉:文化は統一しないよう心がけるにしても、オフィスの統合等も含めて、現場レベルではある程度一緒にしてしまうんですか?それとも、そこもなるべく分離したままいくんですか?

森川:基本はいい状態であれば混ぜないですね。でも悪くなったときは、一緒にするとかやめるとかして潰してしまいます。つまり、存在意義があるかどうか。ビジネスが重要であり、お客さんのニーズが重要であって、それに合うカルチャーであるかどうかがです。組織間のカルチャーが合わないのであればそれを無理に押し付けることはありません。

強みは弱みになる。ユーザー視点を取り入れるための多様性

小林:強みってともするとある種のエゴになりかねないと思います。強みを押し付けても、ユーザー視点からは違うかもしれませんよね。

森川:ソニー時代がまさにそうで、君はソニーらしくないってよく怒られてました。当時はそのソニーらしさが強みだったんですけど、ネットの時代になって弱みになってしまった。それでもソニーらしくあるべきという教育を受けてきたので変えられなかった。ユーザー視点を取り入れるダイバーシティが欠けていたんだと思います。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):ダイバーシティともつながる話ですが、前職でも今回も、海外に展開していますよね。日本のベンチャーでは海外展開がなかなかうまく行っていないところが多いですが、前職の経験を今回に活かしているようなところってありますか?

森川:まず、海外で仕事したくない人が海外でやるとだいたい失敗しますね。日本企業はそういうのが多いです。海外でいろいろな企業に会って話を聞くと、言われるのが日本企業はスピードが遅いということと、日本に帰りたいとか愚痴ばかり言ってやる気がないって言うこと。その時点で終わってるなって思うんですけど、現地の歴史や文化を理解してちゃんとやれば、いいプロダクトであればうまく行きますよ。なるべくお金をかけずにスピードを速くするのが重要ですね。

村上:モメンタムはどちらかというと現地から作ったほうがいいということですか?

森川:前職で、韓国からプロダクトを持ってこようという時に、韓国から持ってきてもうまくいかないという日本のメンバーと、韓国で成功したんだから日本でも成功するはずだっていう韓国のメンバーがいて、じゃあ日本人らしさや韓国人らしさって何で、その本質とは何なのかという議論をよくしてたんです。今も考えるのは、僕達のプロダクトの中で現地でワークするのは何で、そうでないのは何なのかをまず切り分けようということです。その上で、現地でワークするフレームワークは持って行って、それ以外の部分は現地で作ろうと。そういう切り分けを国ごとにやってますね。そうすれば投資も少ないし現地の人もやる気が出るので、それを冷静に切り分けることですね。

朝倉:事業を伸ばす際の考え方や組織の文化、意思決定のあり方など、多くの意思決定者にとって大変参考になるお話でした。今日はどうもありがとうございました!

インタビューを終えて

落ち着いた物腰でいつも紳士然とした森川さんですが、お話を伺うと、異なる複数の会社で、様々な局面での紆余曲折を経てらっしゃることをうかがい知ることができます。 過去のインタビュー記事やご著書を紐解いてみると、人間の感情の機微をつぶさに観察しつつも、同時にそうした感情に流されることなく、時にシビアな経営判断をなさっていたということが非常に印象に残っていました。そうしたものの考え方を身につけられた過程が浮かび上がってこればと思い、今回のインタビューに臨みましたが、根底には他社の失敗事例を教訓とした健全な危機意識がおありなのだと、お話を伺いながら感じました。 「過去の成功体験を捨て去る」という考え方は、特に成功している企業こそが心がけるべきことなのだと、改めて感じた次第です。

シニフィアン株式会社 共同代表 朝倉 祐介

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