INTERVIEW

【アクトコール】目指すは「“平成”の松下村塾」起業意欲に溢れる人材が集う会社へ Vol.2

2018.05.16

もはや、住生活関連総合アウトソーシング事業という表現では説明しきれないほど、アクトコールが手掛けるビジネスは多様化しています。ここまで多角的な展開となったのは、どのような意図に基づいてのことなのか? 同社の平井俊広代表取締役社長に現在の事業内容に至った経緯や今後の豊富などについて聞いたインタビューの第2回。前回の記事はこちらです。

(ライター:大西洋平)

間違い電話をキッカケに新会社の最初の事業が始まる

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):現在の住生活関連総合アウトソーシング事業の確立に至るまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

平井俊広(株式会社アクトコール代表取締役社長。以下、平井):上京してあちこちに挨拶回りを行っていく課程で辿り着いたという側面もありますが、緊急駆けつけサービスを全国に展開しているJBR(ジャパンベストレスキューシステム)代表取締役社長の榊原暢宏さんが間違い電話をかけてきたことも大きなキッカケですね。別の平井という人物にかけたつもりだったようで、途中でそのことに気づいたようですが、なかなか言い出せなかったらしく、「それはそうと……」という話になって、「ウチの会社のビジネスの営業活動を手伝ってくれませんか?」と彼が言ってくれたのです。「もちろん、キミの頼みなら断る理由なんてない」と僕は二つ返事で承知して、その2年後には自前のコールセンターを設置し、2007年10月から 年額制緊急駆けつけサービス「アクト安心ライフ24」の提供を開始するに至ったのです。そして、以前から親交のあったルートを通じ、不動産業界にも事業を広げていきました。

小林:2007年の11月からスタートされた 不動産管理会社向けアウトソーシングサービス「アクシスライン24」のことですね。なぜ、賃貸不動産の管理に目をつけたのでしょうか?

アクトコール Webサイトより。「アクシスライン24」の概要

平井:賃貸不動産市場は1300万世帯にも及ぶ大きな市場ですが、そのうちの40%は管理会社が介在していない物件です。そして、管理会社の手中にある60%については、2強とその他で分け合っている構図になっています。しかも、2強が獲得しているシェアは合計でも10%に満たないのが実情。ほとんどを中小・零細事業者、つまりは「街の不動産屋さん」が管理しているわけで、再編整備が非常に遅れている世界だったのです。だから、僕は大きなチャンスが潜んでいると確信しました。

小林:つまり、賃貸物件の管理は旧態依然とした世界で、大いに開拓の余地があったということですね。

平井:はい。そこで戦って勝っていこうと考えた背景には、高校進学時の原体験があります。僕は中学の先生に反対されて、第一志望の高校を受験させてもらえなかったんです。でも、試験が終わってみると、僕よりも成績が悪かった生徒が何十人もその高校に受かっていた。当初は先生のことを非常に恨みました。でも、3年後には逆にその先生に対し、感謝の念を抱いていましたね。もしも、僕が第一志望の高校に入っていたら、きっと「下の中」の成績に甘んじていたはずです。ところが、僕は進学先の私学の男子校で、3年間を通じて「上の上」を維持できました。「上の上」で居続けるという環境に身を置いたことで、自分が大きく変わったと思っているんです。この原体験から、僕は無理をして一流になろうとは思わず、二流のポジションを維持しながら三流を相手に戦って勝っていくことの意味を体感しており、そこで、この賃貸の世界で戦っていこうと考えたのです。

小林:なるほど。まさに「鶏口となるも牛後となるなかれ」ですね。

M&Aの9割は上手くいかないと割り切っている

小林:さて、続いて、2013年3月に決済ソリューション事業を展開するインサイトを子会社化したのは、どういった理由からなのでしょうか?

平井:先程、賃貸不動産の40%は管理会社が介在していない物件だと説明しましたが、要するにそれらは家主が自主管理を行っているわけです。そういった物件と当社がつながっていくためには、決済機能が必要だったのです。そこで、インサイトの現場責任者に会ってみたところ、「どうか社員を守ってください!」と懇願してきたので、その言葉を信じてM&Aで傘下に収めることにしました。儲かるとか儲からないとかは二の次で、人に対する思いがどれだけあるのということが僕の判断基準なのです。そもそも、僕は「儲かりますよ!」といううたい文句で持ち込まれる案件については聞く耳を持ちません。「面白いですよ!」なら、話を聞きます。だって、「面白かったら許す」というノリが関西人にはあるでしょ(笑)。ともかく、当社のルート営業とのシナジーも得られたことから、インサイトは当社の傘下に入って3年目に黒字転換を果たしましたね。

小林:その後も次々と様々な会社をM&Aで獲得していますね。

平井:実は、基本的に僕はM&Aに関しては後ろ向きのスタンスです。なぜなら、M&Aの9割は上手くいかないと思っているからです。数字だけで判断して買収を決めても、なかなか期待通りの結果は出ません。やはり、大切なのは人ですよ。正直に言えば、インサイト以外のM&Aについては100%満足できる結果とはなっていないというのが僕の感想です。ただ、新規事業に関しては、担当者に「ぜひともやりたい!」という気概があれば、可能な限り採算を度外視して挑戦させてやりたい。その一例に挙げられるのが、定額制ライブ行き放題サービス「sonar-U」の運営ですね。その担当者は28歳で当社に入ったのですが、それまでバンド活動しかやっておらず、社会人経験がゼロでした。そんな履歴書の人間を採用する会社なんてまずありませんから、当社で働いてもらうことにしたわけです(笑)。すると、彼は恩義を感じて大いに頑張ってくれて、1年後にはPCを使いこなせるようになり、6年後には営業部長に昇進したのです。そのうえで、「sonar-U」を運営してミュージシャンたちの生活を助けたいと私に訴えかけてきました。

小林:それで、「やってみなはれ」という話になったわけですか?

平井:いいえ。企画書を何回突っ返しても諦めないので、「もう、ええ加減にせいや。じゃあ、オレがクビを縦に振るような一言を目の前で言え!」と最終通告をしました。すると、「社長、音楽に国境はありません」と返してきたので、僕も「おう、そうやなぁ……」と言うしかなく、「オレの権限でどうにかするから、とにかくオマエが諦めるまでやれ!」ということになったわけです。ただし、だからといって野放しではないですよ。「有料会員が100万人を突破しているのはクックパッドとニコニコ動画しかない。あちらは数百円でこちらは1600円だけど、わかっているよな? やる以上は100万人獲得だ!」と彼には言い聞かせていますから(笑)。

小林:なるほど(笑)。さらに、不動産の開発事業も手掛けていますね。

平井:不動産開発については、当社の体力でこなせる範囲内の規模にとどめています。「アクト安心ライフ24」や「アクシスライン24」といったストック型のビジネスで着実にバントヒットを重ねていくことを基本としつつ、開発でホームランも狙うというスタンスです。

小林:特性の異なる事業を多数展開していることも御社の特徴ですね。

平井:業界の垣根なんて存在しないというのが僕の発想ですから。結局、どんな事業も人で決まります。やり抜くという気概がある人に任せれば、おのずと結果が出るものです。もちろん、撤退基準をあらかじめ決めておいたうえで、やりたいと願い出る人にやらせてみるわけです。やってみてうまくいかなかった場合、「もうちょっとやらせてみたい」と思うこともありますが、そこは私がジャッジするしかない。そもそも、自分の会社が何をやっているのかを社員がきちんとわかっているなんてことは、ベンチャーではありえません。どんどん挑戦していくのがベンチャーですよ。もっとも、とことん手を広げていったら、経営者の僕自身もわからなくなってきますけど(笑)。

小林:徹底して人を基軸とすることで、事業を展開されてこられたのですね。そうしますと、御社はそういった意欲のある人を率先的に採用しているのでしょうか?

平井:当社における採用基準の基本は、「面白いヤツ」です(笑)。

小林:だとすれば、関西出身者の比率がおのずと高くなりそうです(笑)。

平井:確かに多いですね(笑)。とにかく僕が「やらせてみたい」と感じる面白さを持った人材を採用しています。僕の考え方として、優秀な人が辞めていくのは、そこに留まっていても自己実現ができないからだ、と考えていて、せっかく加わった「面白いヤツ」が自己実現し続けられる会社でありたいと思っています。だから当社では、社員による友好的なMBO(経営陣による買収・独立)はOKとしています。アクトコールという会社を幕末の松下村塾のような存在とし、僕自身は吉田松陰のような立場になりたいのです。要は、自己実現のチャンスを提供しながら、頑張っている人たちを応援したいということ。それに、一番大事なのは継続。なので、1000年ぐらいは続いていく会社をめざしたいと思っています。とにかく僕は、世界中から「ありがとう」を集めたいのです。だから、業界などにこだわらず、人から感謝される仕事なら躊躇することなく取り組んでいきます。そのうえで、何があっても最終的に僕がすべての責任を取るという覚悟で臨んでいます。

小林:社長がその覚悟だからこそ、社内が一丸となっていろいろなことに挑戦し続けるわけですね。本日は面白くてためになる話をありがとうございます。

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