COLUMN

なぜ外資金融出身者はスタートアップに参画するのか?

2018.07.06

ここ数年、スタートアップに参画する外資金融出身者が増えています。スタートアップに移る外資金融出身者の特性とは。また、スタートアップ経営陣が外資金融出身者を引き抜く際に意識すべきポイントとは。シニフィアンの共同代表3名が語ります。 本稿は、Voicyでの放送を加筆修正したものです。

(編集:箕輪編集室 佐保祐大、高橋千恵、篠原舞)

「外資金融からスタートアップ」はトレンド

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):日経新聞に『いざスタートアップへ 外資金融出身CFO続々』という記事が出ていましたが、考えてみたら、確かにここ4〜5年ぐらいの間で、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー等々の有名な外資の投資銀行からスタートアップに加わる人が非常に増えている印象がありますね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まさにこの記事のメンバーを見てもゴールドマン・サックスの方が非常に多い。村上さんの元同僚の方が多いですよね。これって10年前と比べて変化が出てきたように感じますか?

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):アメリカでは以前からバンカーがCFOになるケースは多く見られました。上場前のスタートアップだけではなく、上場企業の場合も多くあったと思います。現在の日本では上場前スタートアップのCFOに転じるケースばかりですが(注:その後上場しているケース多数)、アメリカだと上場企業CFOに直接転じるケースもあったかなと思います。バンカーの経験を活かす先としてCFOに転じる、そういうトレンドがアメリカから日本にも移ってきたのかなと。

朝倉:上場後の会社に、投資銀行や日系の証券会社から転職する人は今までもそれなりにいたんですよね?

村上:そうですね。今までは大企業のM&A部門などが代表例ですね。また典型的な日本型大企業といより、当初は戦略や雇用の柔軟性が高いオーナー系企業が多かったかもしれません。M&Aがこの15年ほどで一気にポピュラーになる過程で、大企業のM&A部門や企画部門でもニーズが高まってきたように感じます。とはいえ、大企業特有の働き方やインセンティブ設計に柔軟性がないという面もあって、ブームになる程のトレンドではありませんでした。また、スタートアップについては、受け皿自体が10-15年前はそもそも少なかったというのもあると思います。

小林:それこそ嚆矢となったのは、よく例に挙がる青柳直樹さん(元グリー株式会社 取締役 執行役員CFO、現株式会社メルペイ 代表取締役社長)じゃないですかね?まだ20代の頃にドイツ証券から移られたんですよね。

朝倉:青柳さんが行かれたのは、2006年とかそれぐらいですかね?

小林:グリーさんの上場の数年前なのでそそれくらいだと思いますよ。

朝倉:相当先駆けでしたよね。そのあと5年間ぐらいはリーマン・ショックもあって、全然動きがなかったじゃないですか。僕が象徴的だと思うのは、外資系のコンサルティングファームから起業する人が増えていること。外資の金融と似たようなものだと思いますが、僕はマッキンゼー2007年入社組で、僕と同じようにスタートアップをやった人間って、今クラウドポートをやっている柴田陽しかいなかったんですね。上場後のDeNAやグリーに入った同期、Amazonや楽天に行った同期はいましたけども、自分でやる人は全然いなかったんです。それがここ最近、マッキンゼーの後輩にばったり会うと、「最近、俺もスタートアップやってるんです」って話を聞くことが多い。 特に覚えているのが、僕の同級生でコンサルティングファームに行った友人です。彼はラクスルの松本恭攝社長が独立した時に「お前は印刷屋の自営業をやりたかったの?」って、めっちゃめちゃバカにしてたんですね。今や笑い話ですけど。その彼が先日会った時に、「僕もスタートアップに入りました」というのを聞いて、「時代も変わったなぁ」と感じましたね。

注目すべきは外資金融出身者の“目利き力”

小林:そういう意味では、コンサルからも投資銀行からもかなり転職するようになったなっていう肌感はありますね。一方で、移ってくるタイミングは、アーリーステージよりは少し後の、資金調達の難易度が上がってきたタイミングが多いんじゃないかな。バリュエーションで言うと、だいたい100億前後ぐらいのスタートアップに入る人が多いのかなという感覚です。それって村上さんの肌感でも合っていますか?

村上:合っていますね。投資銀行出身者は職業柄、数多くの企業を見てきてますよね。結果、会社全体の状況を俯瞰的に見ることに長けている人が多い。事業戦略や競合環境、バリュエーション、また財務数値そのものから会社の状況を把握する、これらを日常的に業としている。そうすると、やっぱり転職先のスタートアップを選ぶ際の目利き力もあると考えていいのかなと思います。CFO人材はマーケットで圧倒的に枯渇していますから、転職時もある程度売り手市場。少なくとも数社から選べるぐらいの状況にはあると思います。その彼ら自身が入社前にいくつもの会社を見た結果、転職を決めているってことで考えると、外資系金融出身者が転職するスタートアップのステージやバリュエーションレンジには一定の傾向があると考えて良い気がします。アーリーすぎると「ちょっとまだなぁ」って感触があって選びづらいのかな、と思いますね。

小林:なるほど目利き力ね。デュー・ディリジェンスも相当数こなしてるからね。

村上:あと、やっぱり初めて事業会社に転じるに際して、ある程度自分のバリューアップのポイントがわかりやすいフェーズであることも影響していると思います。例えば、外の会社と連携し始めたり、資金調達したり、IPOを目指していたりという時。今までの自分の経験を活かしやすいフェーズに入ってきた会社の方がリスクを取りやすいのかなと思います。そうすると、アーリーすぎるとそのステージに行く前にダメになってしまうリスクが高いですから、50億とか100億とかいうゾーンが、インセンティブとのバランスを考えても、丁度良い頃合いなのかもしれません。 個人的な繋がりも重要ですね。やはり創業者であるかどうかは別にして、もともと知り合いがいれば、より雰囲気を詳細に掴めますし、自分の経験がダイレクトにCEOや経営幹部に伝わるので力を発揮しやすいと感じると思います。なので、属人的な繋がりも重要な要素ですね。

朝倉:そうですね。河原亮さん(株式会社メドレー 取締役CFO)はおそらく、同級生が創業メンバーだったということもあって参画しているんじゃないかなと思います。金坂直哉さん(株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 CFO)は目利き力かな。

小林:彼も結構早いフェーズでジョインしましたよね。

朝倉:恵比寿から三田にマネーフォワードが移転した当時、確か社員が50人以上…100人はいなかったかな。ある程度、マネーフォワード大きくなった段階で入社するんだって本人から話を聞いたことがあります。 彼はゴールドマン・サックスのサンフランシスコオフィスに在籍していた際にUberを見て、「こういう世界があるんだ」と思った、っていう話をしていましたね。

小林:浅原大輔さん(HEROZ株式会社 取締役CFO)もウォートンへの留学中、アメリカで起業する同級生がたくさんいるのを見て、刺激を受けたって話をしていました。そういったパターンは他にも結構あるでしょうね。

村上:そういう意味では、ゴールドマン・サックスから行ってる人の共通点は、外資系勤務ということに加えて、海外留学 or 海外勤務を経てる人ばっかりですね。おそらく海外の同僚の動きを見ていることに加えて、自分自身が海外に住んで直接的に肌で感じた経験と、日本がなんとなく今同じようなフェーズになって来て入るというのがよりビビッドに見えているのでしょう。 ずっと日本の中に閉じこもっていると、なかなか海外の風ってそこまで感じないところあるじゃないですか。タイムマシン転職的な(笑)

朝倉:やっぱり金融出身者の人達ってマーケット感覚がありますし、それに比べるとコンサル出身者はもうちょっともっさりしていますよね。金融出身者の人達って、機を見るに敏。「お前、学生時代はスタートアップにこれっぽっちも興味なかったやんか!」って思う人がドババババって来るのを見て、「あぁ、ホットな世界になったんだな」と思いました。僕なんかは誰もいない時に、ここ空いてるなって思って来たけど、今だともう、このスペースでは戦いたくないなって思いますもんね。

村上:今回の日経新聞もそうですけど、だいたいこういう記事って「こういう人たちが入って会社が成長した!」といった文脈で書かれることが多い。でも、裏の側面で言えば、彼らがCFOに転じる前にしっかり目利きしてジョインしているというのは見逃せない事実だと思います。

朝倉:実際そうですよね。

村上:普通は転職する時に、「これ本当にIPOできるのかな?」って月次の資金繰りや細かい契約を見ないじゃないですか。彼らはそういうことをだいたいやってるわけですよ(笑) 「キャッシュバーンしすぎじゃないか」、「ここがボトルネックでIPOできないでしょ」みたいなところに対する感度や知識は、当然ですけど豊富な訳で。彼らがCFOになってる会社って上場確率が圧倒的に高くないですか?

小林:そうやね。

朝倉:彼らは自分という人的リソースを投資しているっていう感覚があるんでしょうね。

村上:だから彼らが入ってるような会社っていうのはIPOする確率が高いって意味では(笑)

朝倉:いいベンチマークですよね。「ゴールドマンのあいつが行ったぞー」みたいな(笑)

小林:ある種の裏書きというかね。

スタートアップ経営陣は、招聘時に何を意識すべきか

朝倉:もし外資系金融の出身者をスタートアップに勧誘しよう、入ってもらおうとしたら、どういう点に気をつければいいと思いますか?

小林:外資系金融って言っても部署がいろいろあって、どういう役割の人が合うかっていうのは、会社の状況だったりフェーズだったりでそれぞれ差があると思うんです。なので、単にブランド名で人を雇うのではなくて、どういう役割の人を求めているのかをきちんと認識した方がいいなと思いました。

村上:外資系金融出身者が会社に対して目利きしてくることを考えると、「俺はこんな凄いビジョンを持った会社なんだ」といったコミュニケーションだけじゃなくて、逆に「守りに対して意識があるぞ」と伝えることも重要じゃないかと思います。

朝倉:守りっていうのは?

村上:「世の中を変えるんだ!」といった夢を語るだけじゃなくて、そのための組織の体制もある程度の準備をしておかなければなりません。ファイナンスはもちろんそう、財務経理含め、守りに対する意識があるとか。守りにも経営の意識が向いているというのが大事なんだと思います。 例えば、「俺の部屋見に来てよ」って言っても、そもそも「この部屋なんか汚いな」って思うと入りたくなくなりますよね。数字は嘘をつきませんから。客観的に多くの企業を見て来たからこそ、夢だけではなくある種ドライに見てくれているわけです。CFOを採用する前にある程度社内の体制を作っておくか、仮にそれが無理だとしても、どれだけその意識があるってところを見せておくと、ジョインしてもらいやすくなるんじゃないですかね。成長のブレーキになるのではなく、成長を実現する攻めのCFOが欲しいなら、経営チームが「守り」に感度があることが逆に重要なのかなと。派手そうに見えて、部屋が片付いていると「おっ」って思いません?(笑)

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売上・利益の前年比増減に一喜一憂する「PL脳」に陥っていたら、日本にAmazonは生まれない! 将来の意思決定を可能にするファイナンス的な発想こそが、今のような先行き不透明な時代には一人ひとりのビジネスパーソンに不可欠です。その背景について実践例も紹介しながら、シニフィアンの朝倉が解説する1冊です。

『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』

朝倉 祐介

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

村上 誠典

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。

小林 賢治

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。