【シニフィアン】エンゲージメント型グロースファンド「THE FUND」の創設について

 今般、シニフィアン株式会社は、上場前段階に差し掛かるレイターステージのスタートアップを主たる支援対象とする総額200億円のグロースファンド「THE FUND」を設立しました。
 2017年の創業以来、シニフィアンは資本業務提携を通じて、未上場スタートアップの経営力強化に向けた「産業金融事業」に取り組んできました。今回の「THE FUND」設立により、支援先企業に対して提供するリスクマネー、経営知見といったリソースを拡大し、「産業金融事業」をさらに強化していきます。
 詳細については、発表資料をご参照ください。

(文責:シニフィアン株式会社 共同代表 朝倉祐介)

スタートアップが新産業創出の原動力となるために

 シニフィアンは設立以来、以下のミッションを掲げて活動しています。

・ 成長企業の経営支援を通じて、社会課題を解決する事業を創出する。
・ 社会課題を解決する事業の創出を通じて、後世に遺すべき産業を創出する。
・ 後世に遺すべき産業の創出を通じて、投資家に持続的な富を創出する。

 社会全体の観点から見れば、スタートアップの存在意義とは、私たちを取り巻く様々な社会課題に対して、既存の利害関係やしがらみに囚われれることなく、自由な立場から解決し得る点にあると言えるでしょう。
 スタートアップの取り組みがより大きな成果に結びつくように後押しすることは、持続的で豊かな社会を後世に引き継ぐための鍵であると、私たちは考えています。

 こうした活動を行うにあたり、目下、私たちが課題に感じているのが、上場以降のスタートアップの持続的な成長です。

 近年では多くの資金がベンチャー投資に振り向けられるようになり、日本からも数多くの有望なスタートアップが出現しています。2018年には、日本国内のベンチャー投資額は約4000億円にまで増加しました。私自身がスタートアップ経営者であった2010年前後と比べると、6倍に近い規模感です。

 このような現状に対して、「近年のスタートアップに対する資金流入はバブル状態である」と懸念する声もあります。たしかに、投資資金の増加は、主として世界的な金余りに牽引されている面もあることでしょう。スタートアップ・コミュニティに向けられる厳しい指摘について、首肯すべき点も多々あります。
 一方で、先進国の中でも突出して起業意欲が乏しいとされる日本社会に埋もれた起業家予備軍のアニマルスピリットに火を点け、より多くの挑戦を促すためには、多額の先行投資を要するスタートアップの財務基盤を支え、起業の呼び水となるリスクマネーが必要です。
 国内スタートアップを取り巻く環境を解釈するにあたっては、相場観のみならず、より多くのスタートアップを輩出するために必要な環境を考える、巨視的な観点があって然るべきではないでしょうか。

 こうした資金調達環境の活況と歩を同じくして、近年ではより多くのスタートアップが続々と上場を果たしています。リーマンショック直後の2009年は4件に過ぎなかったマザーズ新規上場企業数は、2018年には63件にまで増加しました。
 急成長するスタートアップの層が厚くなり、結果としてIPO件数が伸びてきていること自体は歓迎すべきことでしょう。

 その一方で留意すべきは、少なからぬスタートアップが上場以降、継続的な成長を実現できていない事実です。本来であれば、事業を通じて社会を取り巻く様々な課題の解決、並びに新産業創出の原動力となるはずのスタートアップが、成長の契機となるはずの新規上場以降、その潜在力を十二分に発揮できていないのだとすれば、それは憂慮すべき事態ではないでしょうか。
 私たち自身も、上場を果たしたスタートアップに経営の当事者として携わり、事業の停滞に苦しんできた経験者です。上場時まで急速に成長してきたスタートアップが伸び悩む様を目の当たりにするにつけ、「果たしてこれでいいのか?」「持続的な成長は実現できないのか?」といった課題感を持つようになりました。
 そうした思いから、2017年に設立したのがシニフィアンです。

資本市場のギャップを埋めるグロースファンドの確立に向けて

 私たちシニフィアンは、共同創業者3名からなる小さな会社です。
 数多くのスタートアップの成長を支えてこられたベンチャーキャピタルのような実績や、ターンアラウンドを成功させてきたプライベートエクイティファンドのようなバリューアップチームを有しているわけではありません。
 一方で、上場企業の成長・停滞の両局面で、経営チームとして苦楽を味わい、修羅場をくぐって来た経験を有しています。会社の価値向上のために敢えて「空気」を読まず、成長のためには耳の痛い意見も含めて直言すること辞さない気概と経験・知見を有していると自負しています。

 今回新たに設立した「THE FUND」は、上場の前段階からレイターステージのスタートアップに対して数十億円の出資を実行して経営支援にあたり、IPOを跨いでクロスオーバーに成長を継続支援することを企図する、エンゲージメント型のグロースファンドです。

 「THE FUND」はいわゆるベンチャーキャピタルではありません。
 新たにプロダクトや事業の確立に挑むシード・アーリー期ではなく、事業が一定程度確立し、上場を前にして経営面の成長痛に立ち向かうレイターステージのスタートアップを、経営パートナーとして支えることを目指しています。

 また、「THE FUND」は、上場企業の株式を相対で取得するPIPEsファンドや、上場企業の全株式を取得して非公開化を行うバイアウトファンドでもありません。
 上場企業ではなく、未上場段階のスタートアップに対してマイノリティ出資し、IPO後もスムーズな成長が実現できるよう、継続的に資本と経営知見を提供することを本旨としています。

 近年では、上場までに多額の先行投資を要する事業領域に挑むスタートアップや、上場後の成長を見据えて大きな規模感に達するまでIPOを控えるスタートアップが増えてきています。こうした時代背景において、これまでにない水準の資金と知見を提供するグロースファンドが必要とされていると、私たちは考えています。

 1社あたりの投資規模と経営のエンゲージメントに注力することを踏まえると、「THE FUND」が実行できる投資件数は必然的に限られます。
 また、リスクテイクのあり方も、典型的なベンチャーキャピタルやバイアウトファンドのそれとは異なります。ベンチャーキャピタルの投資対象となる未上場スタートアップと、機関投資家の投資対象となる中型・大型上場企業の間のギャップを埋めるべく、グロースファンドという新たな領域を切り拓くことを目指しています。

 一方で、レイターステージをエンゲージメント対象とするメインの活動と並行して、「THE FUND」では、より早期なミドルステージへの出資に対しても、フォロワー投資家として一部の資金を出資するプログラムを展開します。メインの活動に比べると限定的にはなりますが、事業成長の蓋然性が高まった早期の段階から経営体制を整備することが、上場後の継続成長実現に向けて重要であると、私たちは考えるからです。

新たな産業を生み出す「産業金融」の重要性

 「THE FUND」の運営においては、みずほフィナンシャルグループと密に連携して、対象企業の支援にあたっていきます。
 シニフィアンの設立来、これまで数多くの方々と「スタートアップの成長支援を通じた社会課題の解決」「後世に遺すべき新産業の創出」といった大上段のお題をテーマにお話してきました。こうした私たちの志や課題意識に共鳴いただき、共に取り組んでいこうと賛意を示していただいたのが、同グループの皆さんです。
 同グループからは、「THE FUND」設立に向けた資金に加え、顧客ネットワーク、バリューアップに向けた人材など、スタートアップ支援のために、多面的な機能をご提供いただきます。シニフィアンにはない、有形・無形の資産をこのパートナーシップによって補完することで、より強力なエンゲージメントが実現できると確信しています。

 振り返ると平成の30余年は、日本が大きな国際紛争に巻き込まれることなく、平穏に過ごすことができた時代でした。その一方、国内の経済状況に目を転じれば、バブル崩壊後の停滞から脱却することができず、「失われた10年」が「失われた20年」になり、またそれがいつの間にか「失われた30年」にすげ替えられそうなまま、大きな好転の兆しを掴むことができぬまま過ぎ去った時代であるとも言えます。
 国内の人口構造から考えても、楽観的な展望が描きにくいのが現代の日本です。

 しかしながら、逆境下にある日本であっても、局地的には後世の社会を支える成長領域が潜んでいます。解消すべき課題を多く抱えているということは、それだけ多くの潜在的市場を秘めた国であると捉えることもできます。こうした成長領域に挑むスタートアップを支え、新たな事業・産業を創出することで、子や孫の世代に希望を繋ぐことは、現代にいきる現役世代が後世に対して負う責務であるはずです。
そのためには、会社の本来の意義、金融の本来の意義に立ち戻り、真正面から産業金融に取り組むことが必要なのではないでしょうか。
 投資ファンドが掲げるには教条じみて、青臭い理想論に響くことでしょう。ですが、ひょっとしたら、これこそがファンド活動の王道なのではないか。そんな思いから、本ファンドを「THE FUND」と名付けました。

 「THE FUND」を通じて、志を共にする多くの方々と、新たな産業創出に向けて協働することを望みます。

朝倉 祐介
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。