【すららネット】発達障がいを持つ子どもたちの学力問題を解決する Vol.2

「教育格差の根絶」を自らの使命として掲げ、低学力の子どもの成績を着実に向上させるeラーニングの教材を開発して塾や学校に販売しているすららネット。同社の湯野川代表取締役社長にそのビジネスの特徴や今後の展開について聞いたインタビューの第2回。前回の記事はこちらです。

(ライター:大西洋平)

あえてフランチャイズ方式は採用せず

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):御社が特に力を入れて開拓しているのは、そういったことに課題意識を抱いてきた既存の補習塾なのでしょうか? それとも、新規に補習塾を開業しようとしているところですか?

湯野川孝彦代表取締役社長(以下、湯野川):既存塾と新規開業は半々か、新規開業のほうが若干多いぐらいのバランスですね。新規開業については、ベンチャーリンク時代に一貫して携わってきたフランチャイズ方式をあえて用いていません。なぜなら、塾というビジネスは、開業してから1〜2年程度も経てば、以後はさほど本部に頼らなくても結構自分たちで経営できてしまうものだからです。外食ビジネスであればフランチャイズの本部に新メニューを開発してもらったりするかたちで依存している部分が出てくるでしょうが、塾の場合は、極端な話、書店で参考書を買ってきて教えればいい。

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小林:確かにその通りですね。外食のような仕入れも特に発生しませんし。

湯野川:フランチャイズ契約というものは、2〜3年で契約を解約できるようになっていても、その後2年間は同じビジネスを行えないという制約がほとんどの場合設けられていることが多く、現実的にはなかなか足抜けが叶わない。結局は、「ロイヤリティがもったいないな」と不満を抱きながらフランチャイズを続けている“不満集団”になりがちです。だから、加盟店の人間が集まると本部への悪口合戦になってしまう本部が少なからずあるのだと思います。こうしたことを踏まえて、すららネットではあえて加盟金とロイヤリティを頂戴せず、単に「すらら」というサービスの提供の対価のみをいただき、もし満足いただけないなら1年後には自由にやめられるようにしました。

小林:塾や学校としては、純粋にこの教材が優れているから使っているということなのですね。

湯野川:おっしゃる通りです。とはいえ、教材を販売すればそれで終わりではなく、最初の研修はきちんとやりますし、全国配信のウェブ会員システムで定期勉強会など、しっかりとアフターフォローを行っています。ただし、私のこれまでの教訓から、あえてフランチャイズ方式にはしていません。

小林:それは、どういった教訓なのでしょうか?

湯野川:数々のフランチャイズに関わってきて痛感しているのは、業種業態を問わず寄せられるクレームは同じだということ。契約した後になって、「契約前に聞いた話とは全然違う」という声が出てくるのです。

小林:いったい、どんなところが違っているというクレームの声が出るのですか?

湯野川:多くの場合、加盟検討者は、契約前の営業担当者の話を聞くと加盟後はバラ色の世界が待っているような印象を持ってしまいます。たとえその説明に嘘偽りがなくても、契約後に対峙する現実とのトーンの違いに違和感を覚えるわけです。フランチャイズを販売する側としては、特に加盟店舗数が少ないうちは加盟金が主たる収益源となるだけに、ノルマを課して加盟獲得を推進します。そうすると、どうしても営業担当者はバラ色トーンで語りがちになってしまいます。こうした教訓から、当社では加盟金を一切いただいていません。また、基本的に営業をした担当がその後のフォローも担当します。したがって、当社の営業担当者は下手にオーバートークをすると、後で、自分で自分のクビを絞めるハメになるので、営業時点ではできるだけ控えめに説明をして後で喜んでもらおうとします。ただし、このビジネスモデルには致命的な欠点がありまして、加盟金をいただかないものですから、最初はなかなか儲かりません(笑)。

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小林:つまり、このサービスを導入する側としては、イニシャルコストはかからずランニングコストのみを負担していくということになるのですか?

湯野川:ええ。塾の場合、固定的に1校当たり3万〜5.5万円の月額固定費と、生徒1人当たり1500円程度を頂戴しています。

小林:そうしますと、生徒が増えていかないとビジネス的には成り立ってこないというわけですね。

湯野川:そうですね。導入塾さんが生徒をたくさん獲得して継続してもらうことで、初めて当社は儲かるようになります。儲かりにくいけれどお客様の成功と目線が一致するので、長い目で見ればこちらのビジネスモデルのほうがいいと考えました。

小林:確かに長期戦にはなるけれど、理に叶っていますね。加盟店方式だと誘発されがちなモラルハザードも起きにくい。

湯野川:もう一つ、現場においてコンサルティング的なサービスを展開しているところも当社の大きな特徴ですね。eラーニングは非常にわかりやすい商品なのですが、実は表面からは見えにくい困難な点もあって、それが大きな落とし穴となっています。低学力の子どもたちは学習習慣が身についていませんから、いかに優秀なeラーニング教材であってもなかなかログインしてもらえません。良いものを提供すれば広がるかというとそうでもなくて、やはり学校や塾という先生が見守る空間が重要だと考えています。実際、当初はB to Cのビジネスとして参入してきた競合他社が途中でB to Bに方針を転換なんてこともありました。

小林:塾や学校がきちんとケアしなければ、低学力の生徒たちに実際に使い続けてもらうのは難しいわけですね。

湯野川:だから、当社は、顧客である学校や塾のオペレーションには非常にこだわっています。最初は「すらら」の導入によって達成すべき目標を設定することから話を進めるようにしています。「学校が直面している課題は何ですか? 成績アップですか? 生徒募集ですか? 具体的に英数国のいずれの教科の成績を上げたいのですか? 英語なら、成績アップのKPI(重要評価指標)は何にしますか? 英検の合格率ですか? だとすれば、1年後にその合格率をいくらまで上げることをコミットしましょう。そのうえで、『すらら』を使ってこのようなスケジュールで進めていき、進捗管理はこういった方法で行いましょう」といった流れで先生たちと協議していくのです。そうすることで、組織として初めて動き始めます。また、塾向けにも、保護者面談の手法や月謝の設定などに関するセミナーを実費で開催しています。

すららネット「成長可能性に関する説明資料」より

小林:C(生徒)向けの教材開発にとどまらず、B(塾や学校)にもガイダンスを行っているということですね。非常にユニークで、これは1つの参入障壁にもなりうるものですね。いくらEdTech(エドテック)企業が優れたeラーニングの教材を投入しても、そういった面をフォローできなければ本当に受け入れられるのは難しいでしょう。

湯野川:そうですね。だから、最近は補習塾だけではなく、ICTを活用した変革に迫られているローカルな中堅・大手塾でも「すらら」が採用され始めています。課題は様々ですね。「地方なので人口が少なくなっている地域の採算悪化が進んでいる」とか「講師採用が本当にできなくなってきた」とか。そこでたとえば「その地域の校舎ではアルバイト講師を用いずに『すらら』だけで指導するコンパクトな塾に業態転換しませんか? それによって、損益分岐点が○○%下がりますよ」と提案しているのです。

小林:ここ数年、御社の売上が着実に伸びてきているのも、やはり大手塾の採用が影響しているのでしょうか?

湯野川:その通りで、校舎数の拡大よりも1校舎当たりの生徒の増加が顕著です。生徒数の多い大手塾が採用するようになったのは大きな一因です。

すららネット「成長可能性に関する説明資料」より

飽きない仕掛けが随所に施された教材

小林:低学力の子どもたちでも着実に学べるように、御社の教材ではどのような点を工夫されているのでしょうか?

湯野川:当社はインタラクティブにしたかったので、プログラムを用いた対話型のアニメーション教材にしています。カリスマ講師が一方的に喋る動画タイプでは、低学力の生徒たちは集中力が続かず途中で眠くなってしまいがちです。その点、「すらら」はアニメの先生がちょっと教えては生徒に質問を投げかけ、回答に応じて「やったね!」とか「残念」とかいったリアクションがあるので眠くなりにくい。それに、低学力の子どもが勉強をさらに嫌いになるのは、問題を解いてあまりに自分の正答率が低いと「心が折れる」からです。かといって、あまりにも簡単すぎても「つまんない」となります。そこで、「すらら」では各々の子どもの学力に応じて、適度な成功体験を得られる難易度の出題をするようにシステムが対応しています。先程からお話ししてきたコンサルティング力とともに、こうした商品力の高さという両輪を一つの会社が持つことはけっして容易ではありません。

小林:確かに、それら2つの強みを有していることは、競合との大きな差別化につながっていると言えそうですね。

湯野川:「すらら」を導入した塾にも大きな1つの強みがあります。たとえば、小学校で習った内容から教え直す必要のある生徒は、週に何回も通ってもらわなければ授業についていけません。しかし、そうなると月謝も跳ね上がってしまい、保護者の負担にも限度があります。その点、「すらら」なら生徒がどれだけ頻繁に通っても塾側のコストは増えません。こうしたことから、「すらら」の導入塾では安価な「通い放題コース」が可能となります。リーズナブルな月謝で通いたい放題、それに加えて、同じIDとパスワードを用いて家でも勉強できるわけです。

小林:大手企業などとの資本提携にも積極的ですね。それぞれ、どういったことに取り組んでいるのでしょうか?

湯野川:凸版印刷とは、同社傘下の教科書会社最大手・東京書籍も交えて、「すらら」が対応していない理科の教材を協業で開発中です。NTTドコモグループとは、ドコモのチャットボット技術を活用し、AIによって生徒のモチベーションを高められる機能を提供しています。

小林:また、すでにインドネシアにも活動を広げていますね。新興国は先進国と比べて教育がまだ行き届いていない側面もあるだけに、御社にとって大きなチャンスが潜んでいるのでは?

湯野川:ご指摘の通りで、現地の子どもたちは算数の繰り上がりや繰り下がりの正答率もかなり低いのが実情で、開拓の余地は大きいと言えるでしょう。ただ、まだ当社の規模で単独展開は予算的に厳しいので、当初はJICAの援助を受けながらインドネシアやスリランカへ展開をしています。最近ではインド市場の攻略も始めました。日本では正答率が年間に1〜2割もアップすれば結果は上々で、3割にも達すればかなりの好成果ですが、新興国の子どもたちは2倍、3倍といった伸びを示します。「忍者ハットリくん」や「ナルト」といった日本のアニメを見て育っているせいか、現地で展開している「すらら」に登用している忍者のキャラクターも好評です。

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小林:なるほど、コンテンツビジネスの側面もあるわけですか。ただ、海外についてはかねてから公文式なども進出していますね。

湯野川:公文やベネッセも海外で塾を積極展開していますね。ただし、人が教える従来型の塾を途上国展開しようと思うと、どうしても日本円に換算した月謝が3000〜4000円台になり、結果的に中間所得層以上の人たちにフォーカスせざるを得ないのが現状です。しかし、我々なら現地のローカル価格の水準に合わせて提供できますし、しかも日本のノウハウが詰まったデジタル教材で学べるわけですから、販促を行なえば生徒は集まります。さらにスリランカでは、もっと貧しい層へのアプローチも行っています。現地には女性銀行というマイクロファイナンス(貧困層向けの小口金融)組織があり、スラム街にあるその支部の一角で数台のPCを持ち込んで教室を開いているのです。月謝についても、彼らが支払える範囲の金額を頂戴しています。また、この教室で指導しているのは現地の女性たちで、我々が数日間の研修で指導したうえで彼女たちを採用し、現地における雇用機会の創出にも一役買っています。

小林:国内から国外まで、これまで他社がなかなか開拓できなかったマーケットを巧みに攻略しているわけですね。他には、これからどのようなことに力を入れていく方針ですか?

湯野川:数年前に研究を進めて2017年から展開を始めたのが発達障がい・学習障がいをもつ生徒向けのeラーニングです。1人1人に合った教え方を用いれば、そういった障がいに悩む子どもたちに適切な学びを届けることは十分に可能だからです。小さい時に適切な学習さえできれば、映画俳優にでも大学教授、経営者にでもなれるんです。ハリウッド俳優のトム・クルーズもディスレクシア(失読症:文字の読み書きに関する学習障がい)を克服して大きな成功を収めました。そういう障がいを持った子ども達にはeラーニングが有効であることはわかっているものの、体系的にきちんと学べる教材がないと聞き、ならば我々が作ろうと思いました。しかも、我々の「すらら」を用いれば、塾や学校以外の場でも彼らに教育を提供できるようになります。たとえば、「放課後等デイサービス」という発達障がいのある就学児向けの学童保育施設や、子ども食堂では、通常、勉強を教えてはいません。しかし、「すらら」を入れると既存の人材でそれが可能となるわけです。発達障がい・学習障がいの子ども達は、二次障がいとして不登校に陥っているケースも少なくないだけに、非常に社会的にも意義深いと思っています。

小林:これまでNPOなどが取り組んできた領域でもありますね。

湯野川:NPOが取り組んでいることの多くは、ベンチャーにとって大きなビジネスチャンスとなりうるものです。なぜなら、悩みが非常に深くて、他に誰もやろうとはしないからです。我々のようなクラウド型のサービスであればと採算も十分に合うので、そういった領域にもビジネスを広げることが可能です。

小林:なるほど、御社のコンサルティング力とコンテンツ力の掛け算で、これまでビジネス展開が困難だった領域への展開の可能性が広がってきているわけですね。本日はありがとうございました!

【すららネット】eラーニングで低学力の子どもたちを支える Vol.1

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