【すららネット】eラーニングで低学力の子どもたちを支える Vol.1

少子化が進む中、学習塾・進学塾・予備校や私立校による生徒獲得競争は激化の一途を辿っています。しかし、教育マーケットは、対象とする子どもたちの学力によって二分され、両者の間には大きな温度差があるようです。難関校をめざす高学力の子どもたちをターゲットとするマーケットが、進学塾・予備校などの競合ひしめくレッドオーシャンである一方、低学力の生徒の成績を着実に向上させることに取り組むプレイヤーは希有です。このマーケットに乗り出し、「低学力の生徒の学力向上」という見過ごされがちだった課題に、eラーニングを駆使して真っ向から取り組んでいるのがすららネットです。2017年12月に上場した同社のビジネスの概要や強み、今後の戦略に関して、湯野川孝彦代表取締役社長に話を伺いました。

湯野川孝彦(ゆのかわ たかお)
株式会社すららネット 代表取締役社長
ベンチャーリンクで新規事業開発を担う部門の担当役員として、教育業界大手の個別指導チェーン、フィットネス、外食業界などにおいてフランチャイズシステムの構築や業態改善・経営支援などに従事。2010年にすららネットの株式を取得してMBOが成立。以来、代表取締役社長として同社を率いる。

2008年8月設立のすららネットは、塾や学校向けにeラーニングによる教育サービス「すらら」を制作・提供するとともに、その運用コンサルティングやマーケティングプロモーションなども手掛ける。 「すらら」は低学力の生徒でも自立的に率先して学習できるのを大きな特徴とし、そういった子どもたちの学力向上で高い実績を獲得。また、足元ではインドネシアをはじめとする海外での展開や、発達障がい・学習障がいを持つ子ども向けのeラーニング開発にも力を入れている。売上は着実に推移しており、MBO後の2年間は赤字が続いたものの、2013年から黒字化し、その後は利益も拡大傾向に。2016年12月期の売上高5億8500万円、営業利益8100万円。証券コードは3998。

(ライター:大西洋平)

個別指導塾が抱えていた課題から事業を発想

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):御社はフランチャイズビジネスの育成支援事業などを展開していたベンチャーリンクの事業の1つとしてスタートし、MBO(経営陣による買収)によって独立を果たされたと伺っています。まずはその経緯についてお話しいただけますか?

湯野川孝彦代表取締役社長(以下、湯野川):私がベンチャーリンク時代に所属していたのは、新規ビジネスを立ち上げる事業開発本部でした。焼き肉チェーンの牛角や宅配寿司・銀のさらなどのフランチャイズ化を支援し、最後に手掛けたのは女性専用のフィットネスクラブ・カーブスでした。

小林:今やカーブスは、女性たちの間で大変な人気ですね。

湯野川:カーブスは現経営陣と一緒に米国から持ち込んだのですが、現在は1700〜1800店舗にまで拡大しているようですね。それはともかく、教育業界に関してもともと私は完全に素人でした。しかし、ベンチャーリンクとしてある個別指導塾チェーンを2004年に支援することになり、フランチャイズの販売代行を行い、400校規模から800校規模へと拡大させました。販売を代行するに当たって、「自分たちも実際に経営してみなければ本当のよさを伝えられない」と考え、ベンチャーリンクもFC校の1つとして加盟しました。生徒募集は非常に順調で、1年半後には400校中2〜3位の生徒数に増えたのです。しかし一方でなかなか上手くいかないこともありました。

小林:それは、どのようなことですか?

湯野川:子どもたちの成績をなかなか上げられなかったのです。特に学力の低い子どもが顕著で、もちろん成績が上がる子どももいましたが、中には逆に下がる子どもも出てきてしまい、全体的には伸び悩んでしまうわけです。これでは、社会的に価値のある仕事をやっているのかという疑問が生じてしまいます。

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小林:子どもの成績をアップさせることを一番の目的に個別指導塾を選んだ親も少なくないだけに、それは看過できない問題ですね。

湯野川:私から見ると、個別指導塾という業態そのものに問題があるように見えました。仕組化が不十分で、そのためサービスクオリティの安定化が非常に困難だったのです。講師の多くはアルバイトの大学生で、彼らの教える能力には個人差がありました。要は、講師に当たり外れがあったということです。その点を育成によってカバーしようともしたのですが、学生アルバイトですから、数年も経つと辞めていくので上手くいきませんでした。そこで、理想のeラーニングを創り出すことでこうした問題を解決できないかと考えたのが、今のビジネスにつながる第一歩です。

小林:それは、いつ頃の話ですか?

湯野川:2005年から構想を始めて、中学生版の一部が完成したのが2007年でした。当時はまだeラーニングに対して懐疑的な見方が多く、私たちが実証することでその有効性を世の中に知らしめようと思っていました。そして、あえて競合相手の多いエリアである東急田園都市線の駒澤大学前駅の近くに、完全にeラーニングだけを用いた自立学習スクールをオープンさせたのです。

ベンチャーキャピタルから出資を受けて独立

小林:勝負に打って出たわけですね。結果はいかがでしたか?

湯野川:集団塾と個別指導塾のどちらに通っても成績がなかなか上がらないという“塾難民”のような子どもたちがいっぱい集まってきて、「ここの塾ならよくわかる!」という評判が立つようになりました。実際に繁盛し始めて、これはいけそうだと確信したのですが、その矢先にベンチャーリンクの経営が悪化し、システム投資もままならない状態に陥りました。結局、2012年3月にベンチャーリンク(その時点ではC&I Holdingsに改称)は民事再生法の適用を申請して事実上、倒産してしまったのですが、その気配が漂い始めた段階で、私は事業を存続させるための資金調達の道を自ら模索し、ベンチャーキャピタルや投資家を訪ね歩いて、私たちが立ち上げたeラーニングの事業への投資先を探しました。

小林:なるほど。それで、グロービス・キャピタル・パートナーズから出資を受けることになったわけですか?

湯野川:簡単に話がまとまったわけではありません。私はベンチャーリンク時代に資金調達などまったく経験したことがなかったので、やみくもに出資を求めて回るしか術がありませんでした。だから、「当社はもっと大口の出資しかやっていないので……」とかいった具合に断られ続け、ほとんどが門前払いでした。その中で唯一、話を聞いてくれて、しかも1週間後に自立学習スクールを実際に見にきてくれたのがグロービス・キャピタル・パートナーズで、2011年に同社から出資を受けるところまでこぎ着けました。もっとも、初年度の2011年決算では7000万円の赤字を計上したわけですけど。

小林:そうしますと、ちょうど資金調達を行ったのはリーマンショック(2008年9月)の名残もある時期で、かなり厳しい環境下にあったわけですね。

湯野川:同年には東日本大震災もあり、逆境の中で、まさに手探りでのスタートでしたね。ただ、もともとベンチャーリンクは経営者にフランチャイズ事業を売るというスキルに長けていて、子ども向けの「7つの習慣」を塾や学校に販売する営業部隊も持っていました。だから、私も同じような感覚で、塾や私立学校の経営者に課題を解決するツールとして提案して回りました。

小林:御社の資料によれば、低学力の子どもたちにフォーカスを当てたeラーニングの教材を塾や学校に販売されているとのことですが、そうしますと進学塾ではなく補習塾を中心とした展開になってくるのでしょうか?

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すららネット「成長可能性に関する説明資料」より

湯野川:その通りです。実は、我々がターゲットとしているマーケットは大変なブルーオーシャンなのです。既存の教育ビジネスは、もっぱら裕福な家庭の子どもをいい学校に入れることにフォーカスしています。一方、低偏差値で学習の習慣がなかなか身につかない子どもにきちんと指導するのは大変なことで、教える側にとってはやっかいな存在でした。しかし、そういった子どもを持つご家庭も、どうにかしてもっと学力をアップさせられないものかと困っています。勉強のできる子どもたちはすでにいずれかの進学塾に通っていますし、学校においても特進クラスのような仕組みも設けられています。ところが、学力の低い子をフォローする仕組みは世の中にほとんど存在せず、個別指導の補習塾がその受け皿となることが期待されたものの、先程も述べたように講師の教務品質の安定化という面では十分と言えず、学力の向上につなげられずにいました。だから、当初はブランド力のない補習塾でしたが、我々のeラーニングを使った個別学習を行なうことで、授業の質は安定化し、それまで“塾難民”だった近辺の低学力の子どもたちが一気に集まってきたわけです。

小林:完全に低学力の生徒に狙いを定めた教材となっているのですか? それとも、もっと汎用性があるのでしょうか?

湯野川:偏差値60台の生徒にも対応しており、大学のセンター入試に出てくるような学習内容もカバーしています。だから最近では、大手進学塾や名門私立学校などにも導入が進んでいます。もっとも、そういった市場はレッドオーシャンで競合が熾烈化しているのが現実です。それに対し、偏差値30〜40台は完全なブルーオーシャンとなっています。