INTERVIEW

【SOU】リアル店舗によって高額ブランド品買取の信用を得る Vol.2

2018.11.17

ブランド品の買取と、事業者に対するオークション販売を展開する株式会社SOU。現在のビジネスモデルにたどり着いた経緯や今後の事業構想について、嵜本晋輔代表取締役社長にお話を伺います。前回の記事はこちら

(ライター:中村慎太郎)

リアル店舗を出すことで費用対効果が高まる

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):前回、御社のビジネスモデルはリアル店舗がないと実現できないというお話がありましたが、最近ではオンラインの事業者がオフラインの側にビジネスの幅を広げようという動きもよく見るようになっています。

御社はもともとリアル店舗側でビジネスをされていて、そこにインターネットの集客を掛け合わせていこうとしたわけですよね。そうした転換には苦労もあったのではないですか?

嵜本晋輔(株式会社SOU代表取締役社長。以下、嵜本):ブランド品の買い取りを始めた頃は、そういった集客の仕組みを作っている企業がありませんでした。ところが、紙媒体からインターネットへの広告数を増やしていくと、費用対効果が倍以上だとわかったので、2007年くらいからリスティング、SEOを強めていきました。

店舗を出せば出すほど費用対効果が上がっていくことがわかっていたので、その時点でウェブからリアル店舗へと送客する仕組みが重要だと確信しました。

(SOU『2018年8月期決算説明会資料』より)

インターネット企業から見れば、リアル店舗を作ることは非効率に見られることもありますよね。でもリアル店舗がないと、高い商品は絶対に買えません。たとえばフリマアプリの場合 ですが、3万円や5万円でモノを売りたい人は多いのですが、買い手は高額の取引にリスクを感じてしまいます。信用が担保されていないマーケットでは1万円以上の高額商品はあまり動きません。

そのため、高額商品を売りたいお客様は、我々のリアル店舗を訪れるんです。来店されてから約20分で商談を終えて、一顧客あたり平均で10数万円を支払っています。この即金性はリアル店舗ならではです。ただでさえブランドの高額商品の買取はCtoC、CtoBでもなかなか成り立ちにくい。だからこそリアル店舗が必要かつ重要だと考えています。

朝倉:メルカリや、CASH(キャッシュ)を脅威に感じる部分はありますか?あるいは、取扱商品の性質が違うから問題はないでしょうか。

嵜本:そうですね。あちらの商品単価は数千円ではないかと思います。少額資金ニーズに応えるためのプラットフォームなので、現時点では高額商品が取引されるプラットフォームにはなっていないと感じます。中国Alipay(アリペイ)のジーマ・クレジット(芝麻信用)のように、与信が担保される仕組みができたり、ブロックチェーンで個人の出品でも登記簿謄本のようなかたちで元の持ち主がわかる状況になると、CtoCも競合になると思います。

ただ、現時点ではそこまでは進んでいないこともあり、競合とは感じていません。お客様からすると、CtoCはいつ売れるかわかりません。しかし、我々のリアル店舗では即現金化できます。技術が進歩したとしても、リアル店舗で即現金化できることが、まだまだ重宝されると私たちは考えています。

朝倉:SOUの店舗側のブランドが高まっているからこそ売り手も安心感があるということですね。

嵜本:そうですね。今では百貨店や誰もが知る商業施設内にも出店しています。これまで買取店は、ややもすると悪いイメージで見られていたところがありました。ところが、メルカリのような存在のおかげでモノを売ることがポジティブに捉えられるようになってきました。そういった流れもあって、商業施設への出店チャンスをいただけるようになったのです。

これがお客様の信用、信頼につながって、さらにリアル店舗への来店が増える状況に繋がっています。この3〜5年くらいはまだリアル店舗が強い状況かと思っています。ただそれ以降、3〜5年後に私たちの脅威となるであろうものがある程度明確になってきているので、今はその対策としてデジタル分野に投資をしています。

高額品の買取には信用の担保が不可欠

朝倉:脅威というのは具体的にいうと?

嵜本:信用の担保に尽きます。モノの出所がはっきりしてくると、今までのCtoCのように、出品されているものは偽物じゃないかという不安がなくなるので、単価の高いものでも取引されるようになると考えています。CtoCの信用が高まってくることに対する対抗策を少しずつ考えている段階ですね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):オンラインでモノを売る場合、工夫の余地があると感じるのはプライシングですね。出品者側、売る側の心理としては「交渉の余地があるか」「買い叩かれないか」といった心配があり、踏ん切りがつかないことがありそうですが、御社の場合、安心感の打ち出しについて、何か工夫をされているのですか?

嵜本:プライシングについては、事前に電話やメールでの査定を経由しますが、リアル店舗に来店される割合が全体の15%前後です。ほとんどのお客様はホームページを見てこのお店は間違いないと飛び込みで来られます。LINE査定では月間で10億円ほどの問い合わせをいただき、そのうち2割ほどがリアル店舗に来店されています。

村上:飛び込みが多いんですね。ウェブで見て、「そういえば店舗を近くでも見たことがある」と思い出すわけですね。

嵜本:そうですね。ウェブではA社、B社、C社と確実に比較されます。私たちが意識しているのは例えば「ロレックス 買取」と調べるお客様と、「時計 買取」と調べるお客様の質が異なっていること。

「ロレックス 買取」で調べるお客様は「時計 買取」と調べる方よりも、より目的意識がはっきりしているので、ロレックス買取に作り込んだページを見せるべきです。そこの工夫でA社、B社、C社に競り勝ち、優先順位を高めて頂きます。

次に必要となる情報は、現在地から近い店舗はどこかです。なので、全国の利便性の高い地域に、リアル店舗を仕込んでいるところです。

村上:ユーザー側の思考回路を理解して、先回りして準備しているのですね。

BtoCよりもBtoBを重視する理由

朝倉:御社は買取に注力しているからこそ、細やかなマーケティングができるとのことですが、素人考えでは販売も自分たちで行うほうが、BtoBオークションで販売するよりも高く売れるんじゃないかと考えてしまいがちです。あえてそこに注力されていないのはどうしてでしょうか?

嵜本:私たちが扱っているブランド品はある意味ナマモノであり、日々、資産価値が変動しています。むしろ、新製品も次々と出てくるので、価値は減少していく傾向にあります。

だからこそ、いつ売れるかわからないBtoCで販売するよりも、BtoBで鮮度の高い状態で売っていくほうが良いと考えているのです。また、在庫回転率を高くできれば、得た資金で、我々のビジネスモデルにおいていちばん重要なリアル店舗を増やすことに注力することもできます。

利益率を高めていくために、BtoCも仕込んではいます。ただ、今の段階で重要なのはそれよりも仕入れと考えています。

(SOU『2018年8月期決算説明会資料』より )

朝倉:BtoCで最高値をつけることは追わないと割り切っていて、それよりも鮮度を重視しているわけですね。在庫の回転はざっくりどれくらいの速度ですか?

嵜本:2ヶ月くらいですね。BtoCをメインにしている他社は4〜5ヶ月のはずです。

朝倉:現金が先に出ていく事業なので、どれだけ早く売り、利益確定させるかが問われるわけですね。

村上:BtoC販売を行っている他社はどのくらいの粗利率なんでしょう?

嵜本:商材によって異なりますが単価の高い人気のある時計でも3〜5%ほどではないかと思います。アパレルだと40〜50%の可能性もありますが、時計に関してはオークションのほうが高いものもあります。

村上:つまり、御社が最終販売のCにアクセスしたとしても、回転率が悪くなる上に、粗利が上乗せできないこともあるんですね。

嵜本:はい。基本的にこの業界の方は、「Cに売ったほうが高く売れる」と考えています。「Bに売ったほうが効率的だ」という考え方がないのですね。

相場のデータをしっかり持って、CとBのチャネルで売値や粗利率を比較できている企業が少なく、これまでの常識に従って惰性で売買しているプレイヤーが多い印象です。

朝倉:となると、規模を拡大してデータを蓄積することの効果は大きそうですね。

BtoBの販売データを積み上げる

嵜本:我々の強みは、リアル店舗を展開しているからこそ高額商品を仕入れることができて、その高額商品をBtoBオークションで販売することができるという点にあります。BtoBの売買データはあまり世の中に出回っていない貴重なものです。それを一般消費者の方に見せているのが「miney(マイニー)」というアプリです。

(SOU『成長可能性に関する説明資料』より )

自分の資産を登録するだけで、その資産価値がレンジでわかり、過去から現在までの価格推移が株価のようにわかります。毎月2〜3億円の規模で資産登録数が増えています。さらに、1ヶ月に2〜3回出すプッシュ通知で、3〜5%の方がリアル店舗に売りに来られます。

もっと利用者の資産登録総額が増えるように仕掛けているので、200億、500億、1000億と積み上がったときにパーソナライズレコメンドを打って、3〜5%を取引化して、キャッシュに変えていく考えです。

投資家の方からは「リアル店舗って非効率じゃないの?」という質問が多いのですが、この商売って現時点ではリアル店舗がないと成り立たちません。そして3年後も、リアル店舗がまだまだ求められる状態だろうと考えています。

リアル店舗と自社運営のオークションがあるからこそ、他社が取れないBtoBのデータを取得することができます。そのデータを次のビジネスの柱にしていくという戦略なのです。様々な観点から可能性を見出し、3〜5年後を見据えた一手を打とうとしています。

朝倉:取り扱っているデータそのものが価値の源泉になっていきそうですね。