日大アメフト事件に見る危機対応と組織の論理

シニフィアンの共同代表3人が、ほろ酔い気分で放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談。今回は時事ネタとして「日大アメフト事件」をテーマに取り上げ、危機対応と組織の論理について語ります。海外組織と日本組織の危機対応に対する意識の差とは。また、組織の内部論理が孕む危険性とは。
本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(編集:箕輪編集室 高橋千恵、篠原舞)

危機に対して楽観的な日本の組織

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):最近の時事ネタだと、やっぱり日大のアメフト問題ですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):この収録のまさに前日、内田正人前監督とコーチの記者会見があったわけですけれども、危機対応が話題になってますよね。

朝倉:危機対応といえば、小林さんじゃないですか(笑)。

小林:確かに、前職では記者会見含めていろんな経験をしました(笑)。私が何もかも知っているとは到底言えないですけど、実体験として語れる部分は多々あるんじゃないでしょうか。

朝倉:日大アメフト部の第三者委員会には、コバケンさんがいろいろアドバイスできるかもしれない。

小林:今回の危機対応で感じたのが、自分たちが認識している危機の大きさと、世の中が認識している危機や捉えている物事の大きさとの間にすごいズレが出ていることなんですよね。

朝倉:あれは見ていても初期対応からして、やっちゃいけないことの見本みたいな。ここまで見事に「こういうのは駄目です」っていう事例を辿っているのって、なかなか見ない。

小林:ここまでのはないですね。全てのプレスリリースが燃料投下になり、記者会見の作法もすべて炎上を呼び起こすものになった。むしろ何もやらない方がまだマシだったというレベルですから、相当なものですよね。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):確かに日本企業の方が海外の企業と比較すると、うまくいく前提で物事を考える思考が強いような気がちょっとしますね。

小林:本当にその通りだと思います。危機が起きた時の組織体制とか、フローとかが準備されていない組織って少なからずあるんですよね。例えば、こういうインシデントが起きたら、「誰が旗振り役をやるんですか」「どういうプロセスで物事決めるんですか」とかいうことって、普通決めてないんですよね。
なので、意思決定機関がふわふわしたまんまなんだけど、一方で物事はすごいスピードで進んでく。

広報の危機管理準備が明暗を分ける

朝倉:今回の一件を無理くりビジネスの話につなぎ合わせると、ひょっとしたらスタートアップも似たような状態になりやすいかもしれないのかなとは感じました。例えば、金融機関のように、コンプライアンス面について極めて注意を払わないといけない会社であれば、いつでも不測の事態に対応すべく、備えているはずです。
トラブルがよく起きたり、起きた時のインパクトが非常に強烈な組織であれば、事前に準備しているわけですよね。でも、大学でこの手の問題が起きることってあんまりないじゃないですか。だから広報っていっても、単にどうやって入学希望者の学生さんを集めるかっていうことをメインに担当している部門であって、危機対応の準備って、きっとしてなかったんだと思うんです。
危機対応という点では、スタートアップもあまり十分な準備はできていないかもしれません。

小林:本当にその通りだと思う。そういう意味では、一般的な組織でこの手の危機対応の話が挙がるのって、いわゆるBCP(事業継続計画)と呼ばれる災害対応のやつなんですよね。地震の時にどういうフローで対応しますか、みたいな。僕の前職では、BCPがちゃんとできていたんですよね。

朝倉:具体的にはどういうものを設計し、準備してるんですか?

小林:例えば、事業がストップするようなインパクトの事案が起きた時に「まず誰が誰に何を報告して、危機管理対策委員会はどういうメンツで組成されて、どういうイシューに対して手を打たなくてはいけない」といったことが、あらかじめ明示化されているんですよね。

朝倉:サーバーのセンターが火事になったらどうしようとかも気にしてますよね。

小林:その通りです。それをインシデントのレベルごとに分けてやっている。例えば、「特定の事業が本格的に止まるもの」と「一時的に止まるもの」というグラデーションで分けて、意思決定プロセスを決めていく。
前職の場合は、災害などとは別に、レピュテーションに関する広報事案も危機管理に含めるべきだ、という経験をしました。そういった経験とBCPの対応が融合して、広報事案にも対応できるようなフローができていったというのはありますね。

朝倉:一般の企業であれば、内部監査室などがいろんなリスクの測定をしてますけど、そういうフローが大学の場合は、十分に準備できていないのかもしれませんね。

内部論理が誘引する、組織崩壊の危険性

村上:内部っていう意味では、以前「もの言う株主」的な話があったじゃないですか。もう10年以上前ですけど、あの時にいわゆるアクティビスト対応っていうのが無茶苦茶ブームになったんですよね。当時、基本的にIRっていうのは自分から情報を出すものだと思っていた。だから会社の感覚からすると誰かから文句を言われたり、急に株を買われた時には危機対応になるんですよね。
「なんか変なこと言われたぞ」となった際に、今まではIRの担当者が誰かに説明するっていうプロセスしかなくて、「こうなった時に社長にどうあげるのか」みたいなプロセスがまったく設計されてなかった。だから反応に困って、ずるずる後手に回ったというケースがいっぱいあったじゃないですか。
あれも危機対応ができていなかったということ。危機が発生した際のプロセスを、さっき小林さんが言ったみたいにプロトコルも含めて事前に設計しておかないといけない。準備ができていない会社は、初動がまず決まっていない。プロセス上で何が大事なのか、どうやって情報をあげていくのか、連絡先は誰なのか、誰が担当なのかが何も決まっていない。
あの時も日本企業より海外企業の方が意識が高かった。今はある程度整備されてると思いますけど、性質としての外とのコミュニケーション、何か悪いことが起きた時の準備っていうものに対してコストをかけるっていう意識が、日本の組織文化ではなぜが全般的に低いかもしれないないという気はするんですよね。

朝倉:今回は、大学で起きたという点も、初動が遅れた要因だったんじゃないですかね。

小林:あるでしょうね。

朝倉:これから先に起こることが2つあると思います。
まず、スポーツの場でよりスポーツマンシップに則ったプレイを徹底しなければいけないという話は、アメフトだけじゃなく、ラグビーだろうと野球だろうとサッカーだろうと、全般的に起こることでしょう。どの大学・高校でも。これだけの問題になってしまったわけですし。
加えて、広報対応において、ずっと大学の職員としてやってきた人たちだけで耐えれるのかっていう議論も起き得るんじゃないでしょうか。実はこっちの方が他の大学にとっても示唆深いところで、もっともっと民間採用していかなくてはいけないよねって話になるんだと思います。

小林:まったくそう思いますね。

村上:そうねぇ、そうねぇ。

小林:内と外との感覚のズレが顕著に出たのって、相撲協会とかレスリング協会とかもほとんど一緒。ジャーナリストの大西康之さんなども指摘してるけど、東芝の事案も一緒だと思う。中の論理だと一見説明ができているように思うんだけど、外から見ると全くもってわけが分からない話で。

村上:内向きになりがちな日本人だからこそ、陥りがちな組織の問題。

朝倉:一方で実際には、広報担当者自身が一番辛いんじゃないかなという気もします。だって、いくら内部の人間とはいえ、広報を発信してる本人がどう考えてもおかしなことを言っているって分かるはずなんですよ。そこまで分からないことはさすがにないだろうと。そう考えると、組織内で現状維持に対する強烈な慣性がおそらく働いているのだろうなと感じます。
Pepperくんの開発者に対する「『生みの親』って言わないでください」という広報があったじゃないですか。

小林:ありましたね。

朝倉:あれも広報担当者は、あんなメッセージを発しなければいけないこと、めちゃめちゃ恥ずかしかったと思うんですよ。

小林:書きたくなかったでしょうね、あれも。

朝倉:やってる人たちが辛かったんだろうなっていうことが透けて見えると、内部の論理を守らねばという力がいかに強く働いていたのかが容易に想像ついてしまいます。

日本と海外の違いは、初動に対する意識の差

小林:内部の論理という観点でいうと、あらゆる炎上は最初の段階ではそこまで大きなインシデントではない感じで始まるんですよね。その段階で過小評価したが故に、後々雪だるま式にぶわーっと大きくなる。今回はその一番典型的なパターンですけど。
内部の論理を重視して物事を過小評価しちゃうというのは、欧米企業との違いだなって思っていて。例えばFacebookのザッカーバーグの議会での証言もそうですが、ある組織の長が公衆の面前で説明しなければならないことが多い気がする。最初は小さな事案として起こったことが、会社の存続に関わるところまで大きくなる例って海外だとよくあるから、トップも含めてそういう経験や想像力をすごく持っていると思うんですけど。

朝倉:けど、それで言うとザッカーバーグだって、フェイクニュース等の問題について、当初は「Facebookはメディアじゃないし」「馬鹿なこと言うな」といった対応をしていたじゃないですか。だからそれは、日本も海外も関係ないんじゃないかな。

小林:確かにそうかも。洋の東西を問わず起こっていることなのかもしれない。

村上:私は初動を軽視するか、初動こそ重要だと思うかっていうのは、文化の違いだと思う。経験上、欧米の方が初動に対する文化的な意識が高くって、日本は「こんな小さいこと、上司にあげたら、俺アホやと思われるわ」ってことで、初動が遅れがちなんだと思います。

小林:確かにね。

村上:あとは初動において、一見小さいことを流してしまうか、重要視するかどうか。ここも組織において大きな差を生みますね。ファーストリテイリングの柳井さんが顧客クレームでも陳列でも、1つでもおかしなことが見つかったら、全部おかしいんじゃないかと疑う、みたいな管理の仕方。

朝倉:インテルのアンディ・グローブもですが、いい意味でのパラノイアですね。

村上:「1個おかしいことがあるってことは、100個あるんじゃないか」っていう感覚か、「1個は1個やろ」となるかで初動が全然変わってくるのかなって。

朝倉:そういう感じですね。

朝倉 祐介
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
村上 誠典
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。
小林 賢治
シニフィアン株式会社共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括する。