COLUMN

「プロダクトの評価」と「会社としての評価」は直結しない

2020.05.31

プロダクトの評価と、それを開発する会社の評価は直結するわけではありません。プロダクトが評価されていても投資がされづらい場合、どういった点に原因があるのか、投資家サイドから見た投資判断基準の全体像について考えます。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)

プロダクトを見る目、会社を見る目の違い

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、「サービスは非常にいいんだけれども、投資はされづらい会社」について、投資家側の視点から考えてみたいと思います。国内外、上場・未上場問わず、投資家も一ユーザーとして、さまざまな企業のサービスを日々使っています。

中には愛用しているサービスやプロダクトもあるわけですが、投資家が愛用しているからといって、即座に「これいいね」と投資するかというと、必ずしもそうではない。

経営者側からすると、「こんなにプロダクトを『良い』と言っているのに、どうして投資してもらえないんだ」と不思議に思う節もあるかもしれません。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):経営者と投資家の感覚にズレが生じるポイントですよね。特に初期のフェーズにある会社の場合、往々にして起業家はプロダクト開発に専念しているものです。

そんな渾身のプロダクトを投資家が愛用しているのに、投資はしてもらえないとなると、起業家としては「え? プロダクトはいいのになぜ?」という反応になるのも無理はありません。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):そうですね。創業初期であれば、おそらく経営者と投資家の感覚のギャップは小さいはずです。単純に、サービスが良ければ事業が成長する蓋然性は高いので、リスク許容度の高いエンジェル投資家やシード投資家は投資します。

ただ、フェーズが進むにつれて、こうした「プロダクトが良い=投資してもらえる」といった成功体験が再現されづらくなります。

小林:プロダクトは良いのに投資できない、という場合、懸念材料としてはどういった要素が考えられるでしょうか?

朝倉:当たり前の話ですが、プロダクトの評価と、そのプロダクトを提供している会社の評価は違うということですね。ユーザーとしてプロダクトを評価する目線と、投資家として、投資対象の「商品」である会社を評価する目線では、評価する際のポイントが大きく異なります。

村上:投資家は多面的に会社の価値を評価します。サーピス・プロダクトは会社の複数ある価値のうちの一側面にすぎません。サービスにお金を払うのと、会社に投資するのでは、意味が全く違います。

朝倉:例えば今であれば、新型コロナウイルスの感染拡大以降、ZOOMが一気に普及し、利用者数が急激に伸びています。実際に、ZOOMを利用していて、サービスとして「ZOOMっていいな」と思う方もたくさんいることでしょう。

では、サービスがいいからといって即座にZOOMの株を買うか、というと、それとこれとは別の話。あまりにも株価が高騰しすぎていて投資対象として魅力に欠けると思えば、投資はしませんよね。

サービスが魅力的かどうか、と、投資条件として魅力的かどうか、は全くの別問題です。上場企業を例に取るとわかりやすい話ですが、同様のことは、当然未上場のスタートアップでも起こり得ます。

プロダクトは投資判断基準の一要素

朝倉:投資家サイドのモノの見方を理解する意味で、我々シニフィアンがグロースキャピタル「THE FUND」で投資判断を行う際の全体像を例に上げてみましょう。

我々が重視するポイントは主に5つです。1つ目のポイントは、「経営チーム」。これは非常に重視すべきポイントだと認識しています。2つ目は、「事業の本質的な価値」。

3つ目は、「上場の蓋然性」。我々が運営しているグロースファンド『THE FUND』では、投資先企業の上場後の成長を支えるということをコンセプトにしているため、上場そのものは実現できるという水準のステージに投資をしたいという発想です。

4つ目は「財務体質」。継続して会社を経営していく財務的な体力や構造が築かれているのかという視点です。5つ目は、「投資条件」。投資である以上は当然の項目ですね。

我々は主に、こうした5つの観点から総合的に判断して投資検討しますが、この点、プロダクトの完成度や魅力という点は、上記の5点の中では、あくまで2つ目のポイント「事業の本質的な価値」に内包される一要素であるということですね。

小林:そうですね。4つ目の「財務体質」の点でも、特に不況下では、「非常に良いプロダクトだけど、この財務体質だとサバイブできない」という状況が起こりえます。そうなると、どれだけプロダクトが良くても投資は見送られるでしょう。

まさに今のようなマーケット環境では、財務体質的に「サバイブできるかどうか」という観点は、投資可否検討基準として、より強まってきている部分でしょうね。

また、5つ目の「投資条件」に関して言うと、例えば、デットの割合が非常に高い会社のケースでは、状況が変化した際に、デットホルダーの権限が非常に強くなり、経営の方向性を握られてしまうリスクがあります。そういったケースでも、プロダクトの良さと関係なく、投資を難しくする一つの要因になり得ますね。

村上:1つ目に挙げられた「経営チーム」という観点でいうと、初期、質の高いプロダクトを生み出すフェーズで投資家から高く評価された経営チームであっても、その後の拡大フェーズ、拡大後の持続的経営フェーズで、継続的に高い経営力を発揮できるかどうかを、投資家サイドは見極める必要があります。

会社のフェーズによっては、良いプロダクトを生み出せるチームが良い経営陣とは限らないということです。投資家が「プロダクトを評価しても会社に投資しない」というギャップが生じるのは、こういった組織面をも含めて評価しているからでしょう。

朝倉:そうですね。スタートアップを大きく、シード・アーリー、ミドル、そしてレイターから上場以降にかけてのポストIPO期という3つの区分に分けたときに、それぞれ投資対象として重視される側面は異なります。

シード・アーリー期では、そもそもプロダクトが存在しなかったり、事業が確立していなかったりするわけですから、経営チームが最大の訴求ポイント。ミドル期では、プロダクトもそれなりに形になっていることを踏まえると、プロダクトの確立度合いや事業の本質的な価値がより着目されることになります。

一方でレイター以降に移ると、先ほど挙げた5つのポイントのように、より総合的に会社の強さが評価されることになります。 いわば、評価の力点がプロダクト・事業から、会社全体に移るということですね。

どんな時期であれ、プロダクトは本質的に重要な構成要素の一つであることは間違いありません。ただ、フェーズが進展するにつれ、投資家が重視するポイントはより総合的に広がっていくということですね。

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