【ナレッジスイート】中小企業の働き方改革を実現するクラウドサービス Vol.2

「脳の記憶補助装置を開発する会社」をテーマに、中小企業向けのクラウドサービスを展開するナレッジスイート。同社の稲葉雄一社長にそのビジネスの特徴や今後の展開について聞いたインタビューの第2回。(全3回)前回の記事はこちらです。

(ライター:石村研二)

顧客の成長なくしてビジネスの成功なし

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):「ナレッジスイート」や「GEO CRM」を通じて、営業社員が効率的に顧客を管理できるようになれば、会社経営にもメリットも出てきますね。

稲葉雄一(ナレッジスイート代表取締役社長。以下、稲葉):僕らがやってるのは中小企業の働き方改革なんです。中小企業の社員は必ず1人で何役もこなさないといけません。「ナレッジスイート」と「GEO CRM」を通じて、その効率化を推進したいんです。例えば、営業であったとしても、今月の会社の売上や見込みの数字をまとめてレポートにして出せと言われたら出さないといけないわけですよね。その作業をしている間は営業本来の仕事はできない。でも僕らのサービスを使えば、ボタン一つでそうした情報を出すことができます。つまり、こなさなければならない役割の一つをクラウドサービスがやってくれるんです。中小企業ではまだ仕組化されていない業務を、クラウドコンピューティングを使えば再現性高く効率的にできるようになるんです。

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村上:顧客開拓の視点からは、中小企業にこのサービスによって実現できる世界を説明するには説明コストがかかるのではないかと思ったんですが、このサービスはある程度プッシュ型で営業しないと価値を理解してもらえないのか、それともインバウンドで顧客が入ってくるものなのか、どちらなんでしょうか?

稲葉:ここは自慢したいポイントなんですが、顧客は全てインバウンドなんです。月平均で500社程度の問い合わせが来ます。事業を始めた当初、新聞や雑誌に広告をバーンと載せたのが大きかったです。当時は格式あるテレビや新聞にベンチャーが広告を出すなんてありえなかったんですが、それをやりました。雑誌とインターネットにも広告を載せて、3ヶ月で5000万円以上を使ったと思います。それを続けてSEO対策を実施したことで、その後、絶えず問い合わせが来ています。

村上:それからはある程度、既存ユーザーの口コミで広がっているんですか?

稲葉:今でも何故か問い合わせが来るんです。 ただ、最初、ユーザー数無制限で2000円から導入できるという、破壊的な低価格でスタートしたのは大きかったと思います。その当時、「フリーミアム」という言葉があって、僕らは「BtoB版のフリーミアムサービスだ」とも言われたんです。無料サービスから広げていって、そこからアップセルさせていくという手法を取ったので、参入時、同業社に「お前たちは価格破壊を起こしている」と言われました。 ですが、僕らはグループウェアそのもので儲けるつもりはありませんでした。低価格で始めたのは先行投資だったんです。その後、中小企業向け顧客管理CRM/営業支援SFAサービスの「ナレッジスイート」と「GEOCRM」に進化させていく、きっかけづくりだったんですよ。だから最初のハードルは低くして、まずは顧客を獲得することを先行させたんです。

村上:B2C系の企業が得意な「面をとる戦略」ですね。広告宣伝を含めて初期に積極的に投資できたことが大きな成長につながったわけですね。

稲葉:それに、僕らは導入企業の成長とともにお金をもらうという考え方でサービスを提供しているんです。 マネタイズの仕方として、1ユーザーあたりに課金をする方法がありますよね。でも、僕らはデータビジネスをしていて、利用データ量が増えれば金額が上がっていくという形式でお金をいただいています。貸金庫みたいな考え方ですね。ソフトウェアはあくまでデータを出し入れするインターフェースなので無料で提供しますが、金庫の大きさによって金額が変わってきますよ、と言うことです。

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ナレッジスイート「成長可能性に関する説明資料」より

データ量が増えるとはどういうことか。あるユーザー企業のなかでデータが溜まっていくと、僕らのサービスを使ってもらうことで、経営効率がより高まっていくんです。そうすれば、収益性が高まって利益が増える。同時に、うちに支払っていただく金額も増える。 こういった仕掛けになっているので、僕らのビジネスの成功は導入企業の成長とともにある、と言えるわけです。 一方、マイナス面としては、エントリーの金額が安いためにすぐには利益が上がらない、という面もあります。始めた頃なんかは、熊本まで営業2人で潜在顧客に2回会いに行って、月2000円の売上にしかならない契約を1本取るということもありました。仮に2年間の契約でも、収益は5万円にしか到達しません。営業の交通費のほうが断然高いですし、この契約単体で見たら完全な赤字ですよ。それでも、まずはお金を出してくださるお客さんが欲しかったんです。年間最大2億円以上の赤字を出しながら頑張ってきました。

村上:その頃から出資は受けられていたわけですよね。

稲葉:既に受けていました。資金調達も戦略が必要で、バリュエーションをどう説明していくのかという意味で、重要な経営戦略なんです。僕らがキャッシュポジションの目安として考えていたのは、「1年分の事業資金を現金として保有する」というものでした。だから、現金残高が1年分を切る前に新サービスやプレスリリースを連続して出して、次の成長戦略を見せつつ資金調達を繰り返していましたね。 それでも最初の7年くらいは、先の光が一切見えない時期もありました。いくら試算してみても、一向に黒字になる光が見えなかったんです。でも、僕らはSaaS型の事業ですから、やり続けていればいつか黒字化の時が来ると信じていました。僕自身は、お金が尽きる前に資金調達をうまくやりながら事業資金とつないでいくことが最も大事な仕事だと思ってましたね。 それでも5~6年前に1回、僕の読みが外れて大赤字が続き、現金がなくなりかけてダウンラウンドになってしまったこともありました。緊急で3億円弱くらいを出資してもらったんですけど、その時が一番つらかったです。そこから2年後にようやく黒字化しました。

中小企業向けクラウドサービスはブルーオーシャン

村上:これから、御社の成長の可能性はどこにあるとお考えですか?

稲葉:「ナレッジスイート」の直販を含めた営業体制強化ですね。

村上:売上の拡大に向けたKPIを分解すると、使ってもらう頻度を高めるのか、利用企業社数を増やすのか、どのような戦略が考えられますか?

稲葉:一般的には、「新規顧客にアプローチするよりも、既存顧客からアップセル、クロスセルしていったほうが効率的」と言われていますよね。でもうちの場合、継続してインバウンドがあるので、新規顧客を獲得するほうが早いんです。中小企業向けのクラウドサービスというのはブルーオーシャンで、競合が誰もいません。このマーケットで早くポジションを築いたほうがいいと考えて、新規を取り続けてきました。 ただ、今後はデータ量を積み上げることによって既存顧客の単価を伸ばすことも同時にやらなければならないと思っています。それが今回のIPOのきっかけなんです。

村上:新規獲得と既存アップセルのバランスですが、マーケットはまだ開拓の余地が大きいですよね。そんな中、新規獲得にフォーカスするのか、それとも既存アップセルやクロスセルに注力するのか、どちらでしょうか?

稲葉:新規ですね。日本の企業数が420万社で中小企業が400万社、その中で個人事業主を鑑みても、ターゲットとなるのは100万社から200万社いるわけですよ。うちの顧客はまだ約4800社しかいません。シェアは1%にも届いていないんです。だから、利益率・収益性を考えても、まだまだ新規を取り続けたほうが効率的だと思います。

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小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):中小企業向けのCRMマーケットがブルーオーシャンである一番の要因は、顧客開拓が大変だ、といった理由なんでしょうか?

稲葉:違います。以前は中小企業マーケットに大きな会社がパッケージを売るために参入してきましたが、パッケージは初期費用が何百万円、あるいは何千万円もかかります。僕らはクラウドコンピューティングによって、利用ユーザー数無制限で利用できる低価格なビジネスモデルで参入したということですね。既存事業者は中小企業へのアプローチの仕方がわかっていないんです。だから入ってくることができない。また中小企業の業務フローやキャッシュフローをわかっていません。 逆にベンチャーで3名~5名でSFA(営業支援システム)を作っているような会社もあるんですが、立ち上がるまでは相当きついということを、僕は経験上知っています。彼らがどこまで耐えられるかという思いで見ていますし、どこかで支援したいとも思っています。

小林:御社は、立ち上げのハードな時期をくぐり抜けており、一方で大企業がこの事業領域に参入するのは難しい、ということなんですね。

稲葉:絶対できないでしょうね。例えば、大企業向けのERP(統合業務パッケージ)の機能はそのままで、価格を弊社製品と同じに設定して中小企業向けのマーケットに参入してきたところで、中小企業ではそのリッチな機能を使いこなせないんですよ。中小企業は「何でもできる凄い機能」が欲しいのではなく「ニーズを満たす機能」が欲しいだけなんです。 僕らの強みは、毎月、何百、何千という利用者の声が届くことです。一番ニーズの高いところを作り変えていけば顧客満足度が上がるんです。これを繰り返してるだけなんです。