INTERVIEW

【鎌倉新書】新規事業で「高齢者とその家族」の広範なニーズに応える Vol.3

2018.04.28

第三者的な立場で斎場や墓地・霊園、仏壇店などの事業者とそれらの利用者をマッチングさせるポータルサイト「いい葬儀」「いいお墓」「いい仏壇」を運営する鎌倉新書。2017年9月から現職に就いた相木代表取締役社長へのインタビュー取材第3回では、2018年3月に発表した中期経営計画の中身について迫ります。前回の記事はこちらです。

(ライター:大西洋平)

新規事業の立ち上げに向けて優秀な人材の獲得に注力

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):中期経営計画では主力であるウェブ事業をさらに成長させていくことに加えて、「未来の事業への投資を行う」と明言されていましたね。すでに要介護・要支援のペットまで世話するペットシッターサービスやシニア向けパソコン教室にも取り組んでいるようですが、今後はさらに手を広げていくのでしょうか?

(鎌倉新書 平成30年1月期 決算説明資料より)

相木孝仁(鎌倉新書株式会社代表取締役社長。以下、相木):そうです。もちろん、領域を広げれば広げるほどそれぞれに投下できるリソースが限られてくるのは確かで、社内でも様々な意見が出ましたし、投資家からもその点についてよく質問されます。

村上:なるほど。わたしの理解では、御社の成長を支える基盤は高齢社会そのものであり、ターゲットがシニアだけにとどまらず、その家族にも向けられているのが大きな特徴です。シニアを支える家族のことを最も理解しているからこそ、供養サービス以外の新規事業の開拓が必要だと考えているわけですね。

相木:ええ。新規事業もネットを中心とした展開が前提ではありますが、一部ではリアルのサービスも含めて介護や医療、金融の分野に手を広げたいと考えています。無論、いくつかの介護施設を運営したからといって、世の中を変えられるものではないことは重々承知しています。現状の我々の規模でビジネスを展開するには、やはりネットにおけるマーケティングに特化しなければなりません。ただ、ネットだけでは70代、80代の大半の方に利用していただくのは困難ですから、リアルのサービスも不可欠となってくるでしょう。

村上:これまで御社のネット3事業は、非常に利益率が高いことが特徴的でした。しかし、特性の異なる新事業に取り組んでいけば、先行投資している部門と稼いでいる部門が混在し、全体的な利益率はおのずと低下していくのではないでしょうか?

相木:財務面や利益率、事業拡大のバランスについては、ジレンマが生じるのが宿命といいますか、非常に繊細な舵取りを求められるのは間違いないことでしょうね。ただ、我々のビジネスは世の中に対して「終活No.1」と宣言するには、あまりにも規模が小さすぎると思います。今までのペースの成長に甘んじていると、売上を100億円の大台に乗せるまでにはかなりの歳月を要することになるでしょう。一刻も早く100億円、200億円といった規模まで拡大させるためには、新規事業へのチャレンジが不可欠となってきます。

村上:東証1部への移籍に当たって公募増資を実施して現金も資本も相当増えて、B/S(バランスシート)が1年前とはガラリと変わっています。とはいえ、今後は採用に投資、M&Aを積極化していくとなれば、さらにB/Sを積み上げていく必要が出てきそうですね。

相木:そうですね。今年か来年には、自分たちよりもサイズの大きな企業をM&Aで獲得することもありえると思っています。特に何も投資しないのであれば、「どうして増資したの?」と問われることにもなりますし、もっとアグレッシブに攻めていくべき情勢にあるのは間違いないでしょう。

村上:2018年1月期決算説明資料では、「35期、36期に向けた既存・新規事業の成長戦略完遂の体制構築完了」と宣言されていましたね。体制固めについてはかなり自信をお持ちなのではないかと勝手に解釈したのですが、いかがでしょうか?

(鎌倉新書 平成30年1月期 決算説明資料より)

相木:もちろん、まだまだ不十分なところもありますが、2017年1月期の第4四半期時点で51名だった正社員を2018年の同期には77名まで増やしているように、優秀な人材の獲得を積極的に進めてきました。その結果、「これ以上、すごい人材がここに集まってきたら窮屈だから、家のお風呂のサイズ(=事業規模)をもっと大きくして大浴場かプール並みにしてほしい」という声が社内から出てくるようになりました。

「人が資産」と公言する会社が「人の命」に大きく関わっていく

村上:贅沢な悩みですね。では、その精鋭たちで新規事業についてどのように知恵を絞っているのでしょうか?

相木:普通の人が聞けば「なるほどね!」と思えるサービスに、さらにひとひねり加えた内容のものを作り出そうとしています。当社の清水は右脳で思考して新しいことにどんどん挑戦していくタイプですが、彼の先見性やクリエイティビティを活用し、組織力・徹底力といった私自身の持ち味を加えて、スケーラブルな新規事業を立ち上げていきたいです。

村上:新規事業については、どれくらいのスピード感で取り組んでいく方針ですか?

相木:今、社内で公言しているのは、「1四半期に1つ」というペースですね。社内で構築中のものに加えて、M&Aの候補として外で探しているのもあります。すべてが当たるわけではないでしょうが、数を増やしながら改善を重ねていきたいと考えています。

村上:短い時間軸で黒字化できるかどうかが見極めのポイントとなってくるわけですね。しかしながら、それだけのペースで進めていくと、2年後には8つとか10といった数まで増えているかもしれない。となれば、全事業のポートフォリオ(内訳やバランス)についてコントロールを図っていく必要も出てきそうですね。

相木:人生における終末期に近いことに関わってくるサービスとアクティブシニアに向けたサービスのそれぞれに、バランスよく取り組んでいきたいと考えています。

村上:その点に関しても、中期経営計画においてもう1つのキーワードとなっている「会社横断の開発室」の設置が重要な意味を帯びそうですね。

相木:かつては事業ごとにエンジニアがポツポツと点在していただけにすぎませんでした。サービスの内容やターゲットとしている世代からすれば、最先端のテクノロジーはあまり必要とされていないのも事実ではあるものの、あまりにもエンジニアが少なかったのは確かです。

村上:御社の収益構造を見ていると、開発チームの人員が少ない割に、コストの半分程度を人件費が占めているのがとても特徴的ですね。日頃から「人が資産だ」と公言されていて、決算説明資料の表紙にも社員が登場しているのが極めて斬新でした。

(鎌倉新書 平成30年1月期 決算説明資料より)

相木:表紙については社内でも意見が分かれて、「それをやりますか!?」というリアクションがあったのも確かです。

村上:いえいえ。非常に御社らしいといいますか、個人的には、ぜひ今後の決算においても定番化していただきたいと思いました(笑)。ところで、これまで数々の企業を指揮してきた相木さんですが、上場企業のトップとなるのは初めてで、資本市場との対話も求められることになりましたね。やはり、今までとは違うと感じられているのでしょうか?

相木:非常に様々なステークホルダー(利害関係者)がいるのだなということを実感しましたし、これからさらにその思いが強くなるのでしょうね。堅調に成長しているビジネスをさらに成長させる場合と、厳しい状況に陥ったビジネスを建て直す場合とでは、戦略の考え方・見え方が大きく異なります。着任当初からこんなに上手くいっているビジネスに携わるのは、自分としては初めての経験かもしれません。今は大規模ではありませんが、 しっかりとしている会社をさらに10倍規模に拡大していくというのが私にとって楽しみなチャレンジですね。

村上:中期経営計画では、「圧倒的なデータ」でより革新的なサービスを提供するとも表現されていましたね。それは、いったいどのようなデータなのでしょうか?

相木:データそのものについては、当社だけに限らず、すでに世の中のあちこちで集積されています。しかしながら、当社内では我々が対峙しているご利用者様そのものの分析があまり進んでいなかったのが実情です。供養のみならず高齢者とそのご家族のお困りごと全般を解決できる会社を目指します。

村上:まずは御社の利用者が困っていることをとことん知る、という話なのですね。

相木:そうです。それに加えて、当社の社員全員に、身近な友人から「自分の親の死期が迫っているけど、どうすればいい?」と相談された際に、いろいろなパターンでアドバイスできる知識やスキルを身につけてほしいと考えています。そこに向けて、体制を整えていきたいと考えています。

村上:「人が資産」と公言されている会社が「人の命」に大きく関わっていくことの意義について、深く感銘を受けました。本日はお忙しい中、本当にありがとうございます。

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