【鎌倉新書】いまだかつてないライフエンディングサービスとは? Vol.1

社名を見る限り、多くの人は出版社を連想しがちですが、鎌倉新書の主力ビジネスは「いい葬儀」「いいお墓」「いい仏壇」という3つのポータルサイトの運営です。全国3000強の斎場、6000弱の墓地・霊園と提携、5000以上の仏壇店を掲載し、サイト上で見込み客を集めて事業者に紹介し、成約した時点で事業者から手数料収入を得るという独自のビジネスモデルを構築しています。2017年9月から新たに就任された相木代表取締役社長から、今後の戦略などについてお話を伺いました。

(ライター:大西洋平)

相木孝仁(あいき たかひと)
1972年、北海道生まれ。明治大学政治経済学部を卒業してNTTに入社し、通信機器販売事業に従事した後、米国コーネル大学ジョンソンスクールにてMBAを取得後、ベイン・アンド・カンパニーへ入社。カルチュア・コンビニエンス・クラブに移籍してツタヤオンライン事業を担当し、軌道に乗せてからベイン・アンド・カンパニーへ復帰。2007年に楽天に移籍し、グループ傘下となったフュージョン・コミュニケーションズの経営を再建。その後、楽天常務執行役員、Rakuten Kobo, Inc CEO、Viber Media Limited 取締役会長などを歴任し、2017年4月に鎌倉新書へ入社。

鎌倉新書は1984年に、仏壇・仏具業界向けの出版社として創業。1990年に証券会社勤務を経て清水祐孝現代表取締役会長が入社した。2000年からネットビジネスにも進出。2015年12月、東京証券取引所マザーズ市場に上場し、2017年7月に同取引所第一部に市場変更。2018年1月期の売上高は約17億円、営業利益は約4億円。証券コードは6184。

楽天で数々の不振部門を再建後、自ら志願して入社

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):創業者の父から会社を承継し、ネット事業を開拓して業績を大きく拡大させた清水祐孝さん(現在は代表取締役会長)に代わって、昨年9月から代表取締役社長に就任されましたね。てっきりヘッドハンティングされたのだと思い込んでいたのですが、ご自身から入社を希望されたとか。まずは、その経緯についてお聞かせください。

相木孝仁(鎌倉新書株式会社代表取締役社長。以下、相木):楽天では、国内外さまざまな事業のマネジメント経験ができ、職場に対して不満や疑問も全くありませんでしたが、10年という節目を迎え、新しい挑戦をしたいという気持ちが高まっていました。

村上:その中で相木さんは、楽天が苦戦を強いられていた事業の立て直しを次々と任されてきたわけですね。

相木:ええ。たまたま最初に任された部門を上手く軌道に乗せられたことから、その後も難しい舵取りが求められる事業を担当してきました。約10事業、1000億、2000人のマネジメントをさせていただき非常に充実した10年間だったと思っていますが、改めて内省してみると、自分自身の力で世の中になくてはならないイノベーティブなサービスを創り出せていないと感じていました。そんな折に、目に留まったのが鎌倉新書です。電子書籍の「Kobo」を指揮したこともあって、以前から会社自体は認識していましたが、最近の動きを見て非常に興味深いと思ったのです。社名からは出版社をイメージするものの、中身はまったく違う。そして、世の中にインパクトを与えるビジネスを立ち上げたばかりで、伸びしろがとても大きな会社だという印象を受けました。そこで、自分から清水にアプローチしたわけです。

村上:入社前にイメージしていた会社像と、実際に働いてみての感想との間には何らかのギャップがありましたか?

相木:想像していた以上に、魅力的な人が集まっている会社だと感じましたね。それはスキルセットのみならず、マインドセットにおいても言えることです。企業理念に惹かれて、人のためになりたい、人から学びたいと真摯に思いながら頑張っている社員が多いのです。ただ、いろいろな意味でまだ磨かれていない部分もあるので、みんなで鍛錬してさらに成長していくことが求められているとも思いました。

村上:現在の主軸事業を立ち上げたという意味では実質的な創業者とも言える清水前社長に対しては、どのような印象を受けたのでしょうか?

相木:私はカルチュア・コンビニエンス・クラブの増田宗昭さんや楽天の三木谷浩史さんの下で働いてきましたし、彼らのところに集まってくる個性的なキャラクターの創業経営者たちとも接してきました。だからというわけではありませんが(笑)、「この人となら長く同じ仕事に取り組んでいけそうだ」と感じました。清水と私は、キャラクターがまったく異なります。清水は新しいことが大好きで、右脳で思考して10手先の手を打っていくタイプです。もちろん、私も新しいことに挑んでいくことも大好きですが、ビジョンを示し、社員の意欲を高め強い組織を作ることが得意です。

村上:キャラクター以外の部分では、どういったところにタッグの組みやすさを感じましたか?

相木:とかく創業者は、「今のビジネスを築き上げた自分が、例え全く新しい事業であっても、会社のことを最もよくわかっている」という思いを抱きがちです。清水は、今のビジネスをさらに10倍、20倍の規模まで成長させられると確信しているものの、それをすべて自分自身でやってのけようとは思っていないのです。オーナーシップを持ちながら、人を信じて任せるところは任せるスタイルなので、私としても非常に仕事を進めやすいですね。

石材店や仏壇店、葬儀社と利用者 をネットでマッチング

村上:御社が展開している事業について、改めて簡単にご説明いただけますでしょうか?

相木:出版ビジネスは売上の1割弱で、メインは3つのネット事業で、規模としてはお墓、葬祭、仏壇の順になっています。3つともビジネスモデルは共通しており、石材店や仏壇店、葬儀社 を営む事業者と、それらの利用を考えているご利用者様をマッチングさせるというもの。3つのいずれにおいても、事業者とご利用者様はそれぞれ悩みを抱えていたのが実情です。まず、事業者は特に都市部において、ご利用者様をなかなか見つけられなくて困っています。

(鎌倉新書 平成30年1月期 決算説明資料より)

村上:地方はともかく、都市部では檀家制度も薄れつつありますし、代々にわたって特定の事業者と付き合ってきたという人も少ないでしょうね。

相木:その一方で、ご利用者様のほとんどは葬儀やお墓が初めての経験となりますし、親族の死という心が穏やかではない場面で意思決定を行わなければなりません。そこで、我々はご利用者様に客観的な情報をわかりやすく提供し、優良な事業者を紹介し、事業者からは成約に至った場合のみ手数料を頂戴するという事業を構築したわけです。

村上:お墓の事業規模が最も大きいことについては、何らかの戦略があったのでしょうか?

相木:そうですね。かつては意図的に、お墓事業へとリソースを集約させてきました。なぜなら、通夜・葬儀の意思決定が短時間でなされるのに対し、お墓は場所探しから納骨に至るまでの時間が長く、我々がさまざまな方面からお手伝いできる可能性を秘めていたからです。

村上:なるほど。まずはお墓のマッチングにおいて、確固たる基盤を確立することに注力されたわけですね。

相木:葬儀のマッチングを本格的に強化したのは、私が入社してからのことです。マーケット規模はこちらのほうが大きく、お墓事業の道筋が見えてきたのを踏まえて、徹底的に葬祭事業を強化することにしました。さらに直近ではその成果や手法を仏壇事業にも展開し、2018年1月期におきましては、お墓が前年比35%増、葬祭が同32%増、仏壇が同20%増と、成長率がさらなる上昇を示しています。

(鎌倉新書 平成30年1月期 決算説明資料より)

村上:御社の沿革を拝見したところ、ネットビジネスへの進出にはかなり以前から取り組んできたようですね。

相木:実は、「いい葬儀」というサイトを立ち上げたのは2000年で、「いいお墓」と「いい仏壇」についても2003年からサイトの運営を開始しています。最初はしきたりやマナーなどの情報を提供するサイトにすぎなかったのですが、長い時間を費やしながらいろいろと形を変えていき、現在のビジネスが確立されていきました。試行錯誤を続けていく中で、「そんなに情報を豊富に集めているなら、いい葬儀社を教えてください」という声が寄せられ、それに応えて紹介ビジネスへと結びついていったのです。そもそもこのビジネスは、10代をターゲットにゲームを開発するケースなどとは違い、結果が出てくるまでにかなりの時間がかかるものです。当社のサービスを利用なさるご利用者様はもっぱら40代後半〜60代で、おそらくはお亡くなりになった人のお子さんでしょう。最近になって、ようやくこうした世代の間でもインターネットを活用した生活が浸透してきたことも、我々のビジネスの成長へと結びついているようです。

村上:御社のサービスの浸透度とご利用者様のITリテラシーの向上がちょうど重なってきたわけですね。一方で地域的な戦略については、やはり都市部の開拓を優先してきたのでしょうか?

相木:そうですね。地方の場合は今でも、親類に葬儀社を紹介してもらえるケースも多いでしょうし、差し迫ったニーズは限られているようです。とはいえ、楽天やAmazonのようなeコマースがそうであったように、いずれは都市部と地方におけるニーズの ギャップは縮小していくものと思われます。我々もそれを見据えて、徐々に地方の開拓も進めています。