【イオレ】SNSではできない「親密過ぎない目的集団」のためのコミュニケーション Vol.3

LINEやFacebookといった大手SNSと一線を画すコミュニケーションサービス「らくらく連絡網」はどういった経緯で誕生したのか? 同サービスを中核のビジネスとして展開しているイオレの吉田代表取締役社長にその誕生秘話や独自の強みなどについて聞いたインタビューの第3回。前回の記事はこちらです。

小学校のサッカー部監督の一言から「らくらく連絡網」を開発

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):携帯サッカー新聞で立ち上がったイオレですが、その先には大きな転機が待っていたわけですね。

吉田直人(イオレ代表取締役社長。以下、吉田):迷走を続けるなか、「もうちょっとがんばってみろ!」と株主の皆様から叱咤激励されたこともあり、やれることはすべてやってみようと思って、読者を増やすためにいろいろな小中高校をひたすら訪問して取材を重ねました。

すると、ある小学校のサッカーチームの監督さんから「連絡網を作ってもらえないか?」とお願いされたのです。雨が降って練習場がグラウンドから体育館に変更になった際などに電話では連絡がなかなか行き渡らないので、メールでいっせいに伝えることができないかという話でした。それで、2週間でリクエストに沿うような連絡網を作ったわけです。

小林:それが御社の主力ビジネスである「らくらく連絡網」の出発点ということですか?

吉田:そこから先がさらに苦労の連続だったのですが、あのお話をいただけていなかったら、イオレは今まで存続していなかったと思います。最初に作ったのは単なるメーリングリストだったので、納品後も「ここが使いづらい」とか「あそこはもっとこうしてほしい」とかいったご要望をたくさん頂戴して、当社のプログラマーがその度に対応を続けていきました。

すると、どんどん機能的になっていって「便利なサービスだ!」という評判が立つようになりました。当初は30人程度を対象としたメーリングリストにすぎなかったのに、気がつけば半年後にはクチコミで3000人超まで会員数が増えていたのです。

エンジニアが私のもとにやってきて、「社長、サーバーに負荷がかかりすぎてヤバイのですが……」と打ち明けられ、初めてそこまで急増していることに気づきました(笑)。

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小林:実際に使っている側の細かな要望に応えていった結果、クチコミで一気に広がるようになったということは、ある意味でユーザーが創り出したサービスとも言えるかもしれませんね。

吉田:とにかく、クチコミで大きくなるサービスは絶対に伸びるはずだと確信しました。そして、そんなに便利だと思っていただけるなら、ちゃんと名称をつけてホームページ上にアップして、より多くの人に使っていただこうと考えたわけです。私たちがやったのはそれだけです。そこから先はユーザーの皆様が代わりに新規会員をクチコミで獲得してくださいましたから、今まで大々的なプロモーションは特に実施していません。

それに、このサービスは部や団体の代表の方にしか訴求しないため、広告での集客は難しく、費用対効果も高くないでしょう。

小林:「らくらく連絡網」が始まった2005年当時は、LINEはおろか、まだツイッターも登場していませんでしたね。

吉田:そういったサービスが出てきたとき、当社の「らくらく連絡網」は淘汰されると言われましたが、実際はそうなっていません。なぜなら、ユーザーは用途に応じてサービスを使い分けているからです。

デモグラフィックデータを用いたアドテク事業の確立

小林:では、御社の「らくらく連絡網」のユーザーはどのような用途で使っているのでしょうか?

吉田:今、当社で会員数が伸びている利用団体のひとつがPTAです。そのことが「らくらく連絡網」のユーザーニーズを象徴していると思います。もともと当社のサービスには、LINEやFacebookのような友だち申請の概念がありません。それらのサービスを連絡網にしていったんつながってしまうと、あまり親しくない人から友だち申請が届いて断りづらく、ブロックをかけるわけにもいきません。いっしょに食事をしたり飲みに行ったりする間柄ではないけれども、必要最低限の範囲で付き合わなければならないという団体の間で、当社のサービスは重宝がられているわけです。

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イオレ「成長可能性に関する説明資料」より

小林:確かに、「ママ友とはできるだけFacebookでつながりたくない」といった声を聞いたりしますね。幼稚園や小学校を通しての関係だったのに、そこからさらに私生活や勤務先のことをお互い知ってしまうと、変に気を遣っちゃったりしますもんね。

吉田:結局、当社の中心となるターゲットは「親密過ぎない目的集団」で、そういった団体は規模が大きくなりがちです。実際、「らくらく連絡網」の登録団体数はさほど変化していないのですが、会員数の増加は顕著です。なぜなら、規模の大きな団体の加入が目立っているからです。LINEなどを通じて、小規模の比較的親密な人たちで話し合って決めたことを、「らくらく連絡網」で正式な通達として全体に伝えていくという使い分けを行っているのでしょう。

小林:なるほど。そういった明確な線引きができているのですね。

吉田:団体を統率する立場の人にしても、「らくらく連絡網」だと「入会しておいてね」と気軽に頼みやすいわけです。それでいて、当社は入会時に詳細なプロフィールについて記入していただいていますから、LINEなどと違って非常に濃密なデモグラフィックデータ(消費者の属性情報)を蓄積できます。その反面、FacebookやLINEと違って頻繁に閲覧するわけではないため、単に広告を載せればそれで効果が上がるというものではありません。すごく便利ではあるけれども、ビジネスとしてなかなかマネタイズできないというジレンマに当初は苦しみました。

小林:それでも、現在はサービスの利用を基本的に無料とし、クライアント企業から広告料を受け取るというビジネスモデルを確立されているわけですね。

吉田:マネタイズに苦慮していた矢先にアドテクが出てきたことによって、私たちは生き残ることができました。デモグラフィックデータに基づいて、クライアントが本当に届けたいターゲット属性へ的を絞って広告を配信することが可能になったのです。

たとえば、「来春卒業予定の理系大学生に採用広告を配信したい」というのがクライアントの希望だったとしたら、一般的なDSP(広告クライアントのための出稿プラットフォーム)ではネット上での閲覧履歴などをもとに該当しそうな人を推定して広告を打つことになります。これに対し、当社のDMP(データ管理プラットフォーム)を利用すれば、「らくらく連絡網」の登録情報から該当する人を抽出できますから、確実にターゲットに配信できるのです。そうした特長から、当社のそれは特に求人広告などに有効です。

小林:2017年7月に凸版印刷と業務資本提携を結んだのも、デモグラフィックデータをさらに活用したビジネスを進めるためですか?

吉田:ええ。「らくらく連絡網」と凸版印刷の電子チラシサービス「Shufoo!」のビックデータを基盤としたインターネット広告サービスを共同で進めていく方針です。凸版印刷はありとあらゆる企業のマーケティング部門など、当社が自力で開拓するのはまず不可能なところとも接点があります。

その一方で、出版業界の衰退に対して非常に危機感を抱いているようで、こうした新規ビジネスへの取り組みに意欲的です。2社で共同のDMPを用いてさらに精度の高いターゲティングを行うことで、人材採用や顧客獲得などの広告効果を最大化していくというのが連携の狙いです。

決済機能を付ければ、海外展開も視野に入る

小林:今後は、どういった層を開拓して会員数の拡大を図る方針ですか?

吉田:すでに若年層にはかなり浸透しているので、今はPTAのさらなる開拓に目を向けています。また、リタイア前後の世代への普及にも力を入れたいですね。ひと昔前とは違って、そういった層も抵抗なくスマートフォンを使っているでしょうし、開拓の余地は大きいと思います。

それから、「らくらく連絡網」への決済機能の付加が目先の重要なテーマですね。部費や飲み会の代金など、グループ内でお金のやりとりが発生するケースが少なくないので、「らくらく連絡網」でそれまで完結すれば非常に便利だからです。

小林:なるほど。確かに、学校でPTA費とかの集金があると、お釣りが出ないようにきちんと小銭まで用意しなければならなかったりして、何かと面倒ですよね。

吉田:P2P(個人間)送金のスキームを使うのか、あるいはブロックチェーン技術にするのか、現時点ではまだ方向性は定まっていませんが、とにかく簡単に決済できるサービスを導入したいと思っています。ちゃんと用途開拓をしなければ本当には使ってもらえませんから、新たなアプリをダウンロードするのではなく、「らくらく連絡網」アプリ内にある「割り勘ボタン」をポチッとするだけで送金できるようにしたいですね。

グローバルな市場においては地域によって文化などの観点から「らくらく連絡網」が必ずしも受け入れられるとは限らないと思っていますが、グループ内決済ならば海外の人々にも使ってもらえるのではないでしょうか。

小林:グループ内決済については、海外にもかなりのニーズが潜在しているはずですね。今後の成長性については、どのようなイメージを描いていますか?

吉田:もちろん、「らくらく連絡網」の会員数が今後も順調に拡大していけばそれに越したことはないのですが、PTAやシルバー層のマーケティングが容易に進むかは未知数です。会員数の伸びの鈍化は傾向として続くでしょう。ですから、その間にデータベースを強化するのが最善策で、凸版印刷をはじめとする外部連携に乗り出したのもその一環です。

イオレ「成長可能性に関する説明資料」より

ピンポイントでセグメントしていくためには、デモグラフィックデータに行動履歴、さらに位置情報も、といった具合に、データベースをさらにリッチにしていかなければなりません。そのうえで、DMPを駆使した広告代理店のような展開を図って成長を遂げていきたいと思っています。

小林:吉田社長とイオレ社がこれまでいかに大きな変化を乗り越えてきたかがよくわかりました。本日はありがとうございました!

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