シニフィ談の番外編。キックオフ合宿当日にぎっくり腰を発症し、共同創業者の2人から「コバケンの体重が経営リスク」とまで指摘されたシニフィアン小林が、いかにして半年間で17kgのダイエットを成功させ、1年以上経った今も体重を維持しているのか。涙なしには語れないダイエット体験談から、プロジェクト管理の要諦を紐解きます。 本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。
(編集:箕輪編集室 志村貴史、後藤俊光、氷上太郎、荒木利彦)
「肥満は経営リスク」 減量に向けた強烈な意識付け
朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉): スポーツなどビジネス以外の成功体験、あるいは失敗体験から教訓を導き出して、それをビジネスへ活かしていこうという試みは色々なところで成されていますよね。例えば日常生活で身近な内容だと、ダイエットなんかは個人の健康にとって非常に重要な問題ですし、その成功や失敗から得られるものってあるんじゃないかと思うんですね。
小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):確かに、あるでしょうね。
朝倉:今回は、ダイエットからビジネスに活かせる知見を引き出していこうと思うんですけど、考えてみたらコバケンさんはダイエットのエキスパートに図らずもなってしまいましたよね。そこで、ダイエットの成功者であるコバケンさん、経験談を話してもらえますか?
小林:成功体験の共有ですね。まず、どのぐらい酷い状態だったというところから、お話しさせていただきたいんですけど、シニフィアン創業前、前職に在籍していた頃、2年間ほどぎっくり腰に悩まされていたんですね。頻度で言えば、半年に1回ぐらい強烈なぎっくり腰になるんですよ。一度発症すると、1週間ぐらいは身動きできないほど、激しいぎっくり腰に苛まれていました。 もちろん、病院、整体、マッサージ、針、灸と様々な治療法を巡ったんですが、病院や整体の先生から言われたのは「特に疾患らしい疾患は見つかりませんね。ヘルニアでもないです。まぁ体重じゃないですかね?」と言われたんです。要するに、太っていて筋肉で身体を支えられていない状態だったということですね。 確かに当時は大して運動もしていなかったし、じゃあ仕方ないから痩せようかなと思っていた矢先に、「へっくしょん!」とくしゃみをした拍子にぎっくり腰になってったんですよ。これ、ぎっくり腰だとよくあるパターンなんですけどね。
朝倉:そんな、マンガみたいな出来事でぎっくり腰になるもんなんですね。
小林:しかもシニフィアンのキックオフ合宿の前日にですよ。合宿当日は車を運転して行ったものの、車から降りられない状態でしたからね。
朝倉:あれ酷かったよね。前日に「これからキックオフの合宿だ!」と意気込んでいたら、コバケンさんから「ぎっくり腰で明日動けないかもしれない」と連絡が来て、どんだけ幸先悪いんだと思いましたもん。
小林:当日は靴下も自分で履けずに2人に履かせてもらうほどの状態でしたし、仕事どころか、介護ってレベルでしたもんね。
朝倉:宿に着いて車を降りた瞬間から、村上と僕で両脇を抱えて入りましたもんね。
小林:どこの病人が来たんだと宿の女将もビックリしてましたね。冗談抜きで、上場企業の経営トップだったら有価証券報告書に書くレベルの経営リスクだよなと思いましたよ。さすがにあれでダイエットせざるを得ない状況に追い込まれたんだと思います。
朝倉:前からやばいとは思っていたんですよね?
小林:はい。ただあの体たらくで目的意識が明確になったということが大きいですね。「やった方がいい」じゃなくて、「やらないといけない」になったわけですから。
ほどよい罰と目標体重の上方修正
朝倉:そこから本格的にダイエットを始めましたよね。
小林:当時は身長が170cmに対して、体重が82kgでした。まぁぽっちゃりしていましたよ。
朝倉:けどコバケンさんって、昔の写真を見るとそんなに太っていないですよね?
小林:ここ2、3年ぐらいで体重が増えたんですよ。やっぱり会食やタクシー移動が多くなったことで。そこで、まずは食事制限と運動で痩せようと思い、FiNCのジムに通い始めたんです。
朝倉:FiNCのジム、良いですもんね。
小林:FiNCはパーソナルに対応してくれて、僕には合っていました。ただ意外かもしれませんが、ジムは週2回でしたし、大して強い運動をしたわけではないんですね。日常生活で体を動かしましょうという程度で、そこまで強度が強かったわけではありません。
朝倉:「10キロ走れ」って言われても、その状態じゃ無理ですもんね。
小林:よりキーとなったのは、食事制限でした。食事って誰もが心が弱いから、「これぐらい食べてもいいか」「もうちょいお酒飲んじゃおうか」と、易きに流れるんですよね。
朝倉:私、競馬の騎手候補生だった頃、減量して体脂肪率が3%まで下がりましたけど、あまりにも辛くて馬のエサをかじったことありますね。ニンジンとか。
小林:まぁ普通の人はそこまでならないとはいえ、食欲って人間の生存本能にも関わることだから、抑えるのが難しいですよね。そんな中、工夫して効果的だったのは、適切な罰を設けたことです。
朝倉:なるほど。
小林:シニフィアンの社内で作ったルールなんですけど、いわゆる、レポーティングダイエットをしたんですね。毎日体重を測って朝倉さんと村上さんに報告していました。
朝倉:毎朝、Slackの「コバケン体重」ってチャンネルに体重と体脂肪率の推移を送っていましたよね。
小林:ここまではよくあるレポーティングダイエットなんですが、ここに罰が加わるのがひと工夫ですね。その罰というのが、「2日連続して体重が増えると禁酒、3日連続だと断食」という、なかなかインパクトのある内容だったんですね。1日ぐらいは増えることもあるので、1日だと罰はないと。これが良かったのは、日々、体重はジグザグと増減するわけですが、上がったり下がったりを繰り返しながらも、全体としてはジワジワ下がっていった中で、やっぱり体重が増えた次の日は、「あ! もっと気をつけなきゃ」という意識が働いたということですね。
特に当時は、私が前の仕事を退職した直後だったので、送別会が週に2、3回あったんですね。自分が送ってもらう送別会で「体重が増えたので、今日は飲めないです」なんて言ったら「え? 何しに来たんですか?」てなるじゃないですか。なんだか場の雰囲気も悪くなってしまう。だから、なんとかしてお酒を飲めるような状態で臨みたいわけですよ。 だから、1日体重が増えた後は、食事をものすごいコントロールして、2日続かないようにするということを明確に意識するようになったんです。結果、2日連続で増えた日はほとんどなかったですね。1年間で10日もなかったぐらい。
朝倉:3日連続で増量して、断食になったことってありましたっけ?
小林:断食は一度もなかったですね。断食はさすがにまずいと思って、2日連続飲み会の日は、翌日に飲み会を入れないでおこう、など調整を意識するようになりました。その点では、自分でコントロールできる範囲での適度な罰の設定というのが良かったと思うんです。罰を避けるために飲み会は控えようとか、食事の量を少し減らそうなど、具体的なアクションがありますからね。 絶対に対応できない罰だと「それは運が悪かっただけでしょう?」ってことになってしまいますが、コントロールできる範疇というのが良かったと思います。「このままだとお酒飲めないな、周りに申し訳ないな」「さすがに断食はやりたくないな」と、避けようと思えば避けられる程度の罰ですね。それがダイエット成功に結びつきましたね。
朝倉:結局、どれぐらいの期間でどれぐらい減ったんでしたっけ?
小林:ダイエットを開始した4月は82kgだったんですが、8月中旬には70.5kgまで順調に落ちました。当初は82kgから70kgに1年かけて下げるという計画だったんですね。それが思ったよりも早く落ちた。ところが、8月中旬に70kgの目標が近づいてくると、なんだか気持ちに緩みが出てきたんですね。「流してやっていても、なんとかなるんじゃないの?」と思うようになり、体重が70kgオーバーで停滞するようになったんですね。
朝倉:ありましたね。
小林:ここで、「これはゆるくなっているからダメだ」と、シニフィアンの2人からいきなりノーロジックで目標数値が65kgに変更されたんですね。いきなり目標が厳しくなったと。
朝倉:上方修正!
小林:そこから一気にまた減量が進んで、65kgを達成し、1年以上経った今でもそれを維持しているという状態ですね。
日常生活に対応可能な小目標を埋め込む
朝倉:4月に始めた時が82kgで、そこから年末くらいには65kgになってましたよね。なので半年と少しで17kgの減量に成功し、なおかつリバウンドがないんですよね。
小林:リバウンドないですね。17kgも減ると体型も相当変わるので、それまでに持っていた服が着れなくなって、捨てなくちゃいけなくなったんですよ。なのでシャツの寸法なんかを伊勢丹に測りに行ったんですが、以前と比べて体型が別人になっていたんですよね。ウエストが19cm縮まって、肩の肉が下がって袖の長さも縮まるんですよ。肩の肉が下がるので。 あと、アームホールっていう袖を通す穴も6cmくらい小さくなりました。あまりに変わったので伊勢丹の人から「本当に同じ人ですか?」って何回も確認されました。
朝倉:17kgっていうと、新生児6人分くらいですもんね。
小林:お店の人からは「この人、前回に測りに来た時から1年でウエストが19cmも縮まるもんなの?」と訝しがられましたよ。あと、半年に1回あるようなスタートアップのイベントに行って久しぶりの人とすれ違っても、気付かれないんですよね。それくらい見た目も変わったんでしょうね。
朝倉:シニフィアンのサイトでも、小林さんだけプロフィールページの写真を変更しましたもんね。それだけインパクトがあったということでしょう。
小林:ダイエットに成功して改めて思いましたけど、体重の経過をレポーティングするだけじゃなくて、それに対してアクションを伴う仕掛けを入れていたこと、それがご褒美でもいいし、罰でもいいと思うんですけど、そういう仕掛けが成功に繋がったのかなと思います。言うなれば、これもゲーミフィケーションですね。
朝倉:教訓になりましたね。
小林:小目標を日々に埋め込んでおくことが重要なんだと思います。例えば、「65kgまで減量しろ」って言われても、今日は何をすればいいのか、具体的なアクションが思い浮かばないじゃないですか。でも、毎日「2日連続で体重を増やすのは避けよう」という小目標があると、今日やるべきアクションに繋がりやすかったですね。
朝倉:健康リスクも経営リスクも両方回避できて何よりですね!
朝倉 祐介
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。
小林 賢治
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。