スタートアップは競合企業をどこまで意識すべきなのか

自社にとっての脅威を予見できるかどうかは、自社ビジネスの進化に対する洞察をどれだけ深く持つことができるかどうかによって大きく左右されます。そうした脅威の最たる例は、自社の競合でしょう。
スタートアップは成長の過程で、競合をどれだけ意識すべきかについて考えてみましょう。

本稿はVoicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:代麻理子)

「競合がいない」ことは良いことなのか

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回のお題は、「競合企業」。3C(Customer、Company、Competitor)で言う、コンペティターですね。自分たちのプロダクトや事業を作っていると、どこかのタイミングで競合が現れるものですが、こういった競合に対して、スタートアップはどのような意識を持って臨むべきなのか、どのタイミングから競合を意識したアクションを採るべきなのか、といったことを考えてみたいと思います。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):競合の話を尋ねると、「うちは技術が尖がっているので、競合という競合はいません」といった返答をよく聞きます。

朝倉:「ユニークな市場過ぎて、誰も競合がいないんです」と話される方は多いですね。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):投資する立場から見ると、「競合はいない」という答えにはネガティブな印象を受けます。 One & Onlyでいることを強調したくて「競合がいない」と言う方が多いのでしょうが、「競合」をものすごく狭いゾーンで捉えられているのではないかと感じることがあります。

全く同じ種類のサービスをしている人は他にいる、いないみたいな言説に終始しているような気がしますね。

ユーザーの時間や所得を奪い合っているものはなんなのか

村上:今まさに闘っている相手だけでなく、潜在競合に対する意識の問題ですね。

朝倉:UberとLyftのような直接的で明示的な競合関係だと分かりやすいですが、競合というのは本来、もっと広い概念として捉えるべきということですね。

僕がミクシィにいた時も、どこまでを競合として捉えるかを非常に意識していました。他のSNSはもちろんですが、人の可処分時間を奪い合っているわけだから、ゲームなども含めて時間を奪い合うものは全て競合なのでは? と。目の前の相手だけではなく、競争環境を広い視野で捉えるのはなかなか難しいですが。

小林:広い意味での競合という話で、ミスタードーナツが女子高生の溜まり場になっていた時に、「競合は携帯電話だ」と定義していたという話しを聞いたことがあります。女子高生が、特に用事はないけれどなんとなくコミュニケーションするみたいなニーズを満たしていたリアルな場がネットに置き換えられていった、という典型的な話でしょう。

外部の人からすると、根源的に何と何が、時間や可処分所得などの資源を奪い合っているのかというのは、実は一番知りたいことですよね。そういったことを認識しているかどうかで、サービス設計にも大きな差が出てくる気がします。

村上:サービス設計の議論だけではなく、もし人材がボトルネックになっていた場合には、採用において競合する企業も潜在競合になるかもしれませんよね。

朝倉:自分たちが競争している市場は、商品市場だけではなく、人材市場など、様々な市場があるという話ですね。

フェイズの進展につれて競合も変化していく

村上:事業のフェイズが進展するにつれて、競合が変化していくという点も意識すべきでしょう。規模が小さい段階のスタートアップは、同じような規模の企業を競合とみなしがちですが、5年くらいして自分たちが成長した時に、競合がGAFAになるといったケースは往々にしてあります。

「うちは今GAFAとバッティングしないところでやっているので」と思っていても、自社のフェイズが変わった時にも果たしてそうなのか、といった視点を持つことは重要だと思います。

小林:「Amazonが同じことをやり始めたらどうするんですか?」という類の話は実際によくありますよね。中国であれば、アリババがやり始めたらどうするのか、日本だと、リクルートがやり始めたらどうするのかなど。

村上:スタートアップは往々にして、創業期はニッチ市場を攻めるものですが、スケールしようと思ったらマス市場に向かわざるを得ません。マス市場に行くと、確実に大手とバッティングしてしまうという広がり感を、認識しないといけないでしょう。それによって、組織設計や開発プランなど、様々な競合障壁の作り方に対する考えが変わるはずです。

小林:将来的に大きな競合とバッティングすることを認識した上で、どういった参入障壁が作り得るのかを説明することができれば、競争優位性に対する信頼感は高まりますよね。

競合認識の差は、ビジネス進化への想像力の差

朝倉:僕はピーター・ティールが好きなんですが、彼は「とにかくニッチで敵がいないところで圧倒的なシェアを取れ」と言いますよね。その通りだと思うんですが、一方で、それで終わってしまったら、中小企業で終始してしまいかねない。ニッチから事業の幅を横に広げよう、スケールさせようと思ったら、事業構築の過程でどういった参入障壁を作っていくのかをセットで考えないといけない。そこがよく考えから抜けがちなところなのかなという気はしますね。今、目立つ競合がいなくても、3年後にも同じだとは限らない。

小林:競合に対する捉え方の違いは、ビジネス進化への想像力をどこまで持てるかにもよる気がします。ニッチビジネスとして見るなら、目の前で直接ユーザーを取り合っている相手だけを競合と捉えますが、「ビジネス展開すればこれくらいの大きなマーケットにアドレスできるんです」という話になってくると、違うレベルの競合が出てきます。そこに対する想像力があるかないかの違いなのかもしれませんね。

村上:例えば、BtoB向けのサービスで考えてみると、最初はUIがいいからという理由で使ってもらうことができても、広がっていくと結局セキュリティなど、インフラ側の投資の勝負になってしまうといったケースはよくありますね。

開発・マーケティング・販売等の諸々が、結局どこかで資本勝負になるのだとしたら、財務戦略上、大きな資金投下をしないといけません。ですが、当初のサービス設計の段階の思想のままで、とりあえずUI、UXを良くして売ることに特化してしまうと、投資戦略や開発戦略、財務戦略が後手に回り、競合に対する障壁が作りきれなくなってしまいます。

「虫の目」と「鳥の目」で自社事業を捉える

朝倉:特にプロダクト・マーケット・フィット前の初期段階においては、競合を含めた周囲の競争環境に惑わされることなく、ユーザーをしっかり見てプロダクト開発を進めることの重要性がしばしば強調されます。ただ、「とにかくユーザーのことだけを考えて、プロダクトを作っていこうよ」とユーザー・ファーストで考えることと、競合にしっかり目配せをするということは、実はあまり矛盾しない気がしています。

たしかに、まだ顧客にプロダクトが受け容れられる前の初期段階で、過度に競合を意識しても仕方がない。それよりも、目の前のお客さんの信頼を勝ち得るプロダクトを実現することに全精力を注ぐべきでしょう。けれど、プロダクトが徐々に成長してくると、当然、顧客開発の視点に加えて競争を意識する必要が出てくる。

要は「鳥の目と虫の目の両方が必要ですよ」という話なんだと思います。初期段階のプロダクトを1回転するゼロイチのタイミングには、「とにかくお客さんのことを見ましょう。プロダクトのことだけを考えましょう」という、虫の目が特に重要。一方で、どこかのタイミングで少し引いて、「発展していくと、絶対ぶつかるところが出てくるよな」という視点は、頭の片隅に入れておかないといけません。

両方の視点を1人で持てる人がいれば、それでいいのかもしれませんし、もしも自分は虫の目が得意で、鳥の目を持ちづらいという人なのであれば、外から鳥の目が得意な人を入れるなどして、チームとして補完する必要があるのでしょう。

村上:チームの補完と、ガバナンスの話になると思います。虫の目と鳥の目の両立をさせたり、適切なタイミングで視点を切り替えたりすることを社内リソースだけで成立させるのは、簡単ではありません。

「うちはプロダクトを作っているから、財務戦略は関係ないじゃないですか」という言葉を聞くこともあるんですが、必ずしもそうではありません。プロダクト開発だって、開発や営業などの、全く別のファンクションを持った人が、相互に広い目でフィードバックすることで、良いものを作ろうとしているはずです。それと同様に、会社の立ち位置についても、虫の目と鳥の目をセットにして考えたほうがいいでしょう。

自分たちが置かれた競争環境を客観視することができるか

小林:それぞれのサービス提供者は普段の営みと頭を切り替え、7S(セブンエス)的な話や、潜在競合とはなんなのかといった話などを改めてきちんと振り返らないと、どんどん自分たちのタコ壺に引きこもってしまいがちになりますね。

朝倉:同時に、競争環境を自分たちに都合良く解釈してしまうということもあります。マーケットの切り方もそうですし、完全に競合しているような企業であったとしても、「あの会社は共に市場を開拓していくパートナーであって、実は競合していないんです」と言ったりするケースです。本当はそんなこともないのだけど、自分たちが見たい市場環境の一側面だけを切り取って見てしまう。

村上:逆に、他社を意識しすぎるというケースもあるでしょう。DeNAとGREEが経験されたように、競合同士での競争に専念していると、どんどん相手側を意識してしまい、それ以外の潜在競合への目がいかずにオペレーションの面で引っ張られてしまうといった状況ですね。

小林:大いにあります。激しい競争がある領域においては特に、直接的競合にどんどん目がいってしまうので。

朝倉:阪神と巨人みたいなもんでしょうか。社内マネジメント上も、仮想敵を設定すると目標設定などが楽になりますしね。

小林:DeNAとGREEのケースで考えてみると、蓋を開けてみたら実際の競合は別のところから来たわけで、大外から来る潜在競合にどう対応するかを常に忘れないでいるということが大切なんだと思います。