【スタートアップ用語考】「バーンレート」と「ランウェイ」はスタートアップ経営の重要指標

スタートアップの事業計画や資本政策を考えるにあたって必須の概念が「バーンレート」と「ランウェイ」。2つの用語の定義を確認するとともに、実際の会社経営において両者のどういった側面に注意すべきかを考えます。

本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(ライター:代麻理子 編集:正田彩佳)

グロスバーンレートとネットバーンレート

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は「バーンレート」と「ランウェイ」について考えてみたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):バーンレートとランウェイは、ここ最近、特に頻繁に耳にするようになりましたね。まず、バーンレートから考えましょう。

バーンレートは大きく分けると「グロスバーンレート(Gross Burn Rate)」、「ネットバーンレート(Net Burn Rate)」の2種類があります。一般的によく使われているのは、後者のネットバーンレートではないでしょうか。

グロスバーンレートはコストの合計額のことです。ネットバーンレートは、グロスバーンレートから収入を引いた額、つまり、「実際に出ていった総コストから収入を引いた額」のことです。

会社から今月いくら減ったか、どれくらいの割合・速さでキャッシュが減っているか、というスピード感を表現する意味で、ネットバーンレート、略して「バーンレート」と言っていることが多いのではないでしょうか。

朝倉:会社から出ていくお金のことをバーンレートと言うということですね。基本的には先行投資によって赤字のスタートアップを想定した言葉です。

小林:そうですね。バーンレートという言葉が使われる際にいつも不思議に思っていたんですが、「レート」と言う割に、何パーセントと比率を指して使われている訳ではないですよね。「月のバーンレートはどれくらいですか?」と聞くと、普通は「600万円です」といったように、金額を答えるものです。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):「レート」というからには何かしら割り算の概念が含まれているはずです。この場合、「月次」という時間的概念が含まれているんじゃないでしょうか。

朝倉:同じ「バーンレート」という言葉でも、グロスバーンレートとネットバーンレートのどちらを指しているのかには注意したほうがいいでしょうね。売上と相殺された額なのか、売上相殺前の額なのか。

村上:グロスバーンレートとネットバーンレートの違いを意識したほうがいい局面は大きく分けて2つあります。1つ目は、例えば、新型コロナの感染が拡大している2020年4月現在のように、時流によって急激に売上が減少してしまうような時。

外部要因で売上が激減しているわけだから、ネットバーンレートは急激に悪化します。こうした時にネットバーンレートしか見ていないと、突然バーンレートが悪化したように見えてしまう。実際にはグロスバーンレートは変わっていないにもかかわらず、です。

朝倉:固定費などのコスト構造は大して変わっていないのに、蓋を開けてみたらネットバーンレートが非常に悪くなっている、といったことが起こり得るということですね。

村上:その通りです。2つ目は、売上が季節変動する場合です。例えば、「バーンレートは1,000です」と言ったとしても、それはシーズン内の売上のピークで、翌月からは売上が減り、バーンレートは増えるといったことも起こり得ます。

こういった局面では、グロスバーンレートとネットバーンレートの落ち込み度合いに差が生じやすいため、両方を意識したほうがいいでしょう。

「ランウェイ」の理想的な長さ

朝倉:バーンレートと関連する用語として、「ランウェイ」があります。ランウェイについても考えてみましょう。

小林:ランウェイは、「会社が潰れるまでに残された時間」という意味で使われていますね。例えば、バーンレートが100で手持ちの資金が1000だとすると、1,000÷100でランウェイは10ヶ月ということになります。

ここ最近の資本市場の状況を踏まえて、スタートアップの中でもランウェイに対する意識が高まっているように感じます。実際にはどのくらいのランウェイを確保しておくのがいいのかは難しい問題ですね。

村上:前提として、業態によって大きく異なりますね。なぜ業態によって異なるのかというと、そもそもバーンレートが問題となるのは、キャッシュが無くなって事業活動や投資が出来なくなってしまいかねないからです。

そのような状況を回避するためにランウェイを見るわけですよね。バーンレートに対して有効な施策として、コスト削減も当然あるのですが、一番は資金を調達することだと思います。そう考えると、ランウェイの実質的な意味は、資金をいつまでに調達しなければならないのか、ということだと思うんですよね。

朝倉:一般的にVCから資金調達をするスタートアップの場合、18ヶ月分の資金を確保するという目安感がありますね。18ヶ月をランウェイの目標とする会社が多い印象です。

村上:そうですね。ビジネスを1年サイクルで見ている会社が多いからでしょう。シーズナリティの影響も含め、1年間のビジネスの進捗を確認し、その進捗をベースに改めて資金調達をする。

このように、希薄化を最小限にしながら、かつ、過剰な資金を抱えずに会社を運転していけるサイクルとして、12ヶ月という数値が算出されるのでしょうね。ただ、12ヶ月で見立てるとギリギリで不安なため、プラス数ヶ月の余裕を持って、18ヶ月程度のランウェイを確保すると考えるのが一般的なのでしょう。

逆に言うと、事業サイクルが1年より短い、もしくは長い場合には、必要なランウェイは異なってくるはずです。

小林:そういう意味では、シンプルに、事業で一定の成果を出すため、あるいはマイルストーンに到達するために必要な分の軍資金があるかどうかが、一番重要なポイントになるということでしょうね。

ランウェイは長ければいいとは限らない

村上:ランウェイに関して、プロダクト・マーケット・フィット(以下、PMF)が確立される前のケースについても考えてみましょう。PMFを確立する前には、トライ&エラーを繰り返すフェーズがあります。

このフェーズにいる起業家の心理からすると、PMFに向けてあと何打席立てるのか、試行錯誤のサイクルに対してランウェイがどれくらいあるのかは、非常に大きな関心事です。

朝倉:PMF が確立される前のケースで面白いなと感じるのが、日本人とアメリカ人の考え方の違いです。私は個人的に米国のスタートアップにもエンジェル投資をしていますが、比較すると、日本人のほうが個人事業主的というか、自営業型の資金調達をスタートアップでやってしまいがちです。その点、アメリカ人のほうがよりピュアなスタートアップ感がある。

どういうことかと言うと、米国の場合、シード投資するとピボットも確かにするのですが、割と諦めが早いんですよね。スパッと「もう止めます!解散!」ということが結構ある。私自身も投資先のスタートアップでそういうケースをいくつか経験しました。

一方で、日本だと「とにかく会社を存続させるんだ」と、めちゃくちゃ粘るじゃないですか。元のアイデアとは全く違うんだけれども、同じチームでもう1回転、2回転、3回転させたりしますよね。

それは、最初に応援してくれたエンジェル投資家等に対しては、ある意味で誠実な態度ではあるかもしれないが、ドライに考えると、株主構成をゼロにリセットして、もう一度振り出しに戻してやったほうがいいのではないかという気もします。

ピボットし続けることによって新たに資金を調達するということは、それによって負う責任も増すわけなので、全く違う事業をゼロから立ち上げるのであれば、一概に続けるのがいいとは限らない。個人的には、スパッと止めてもう1度同じメンバーで新たにやったほうがいいケースもあるのではないかいう気はします。悩ましい問題ですけどね。

村上:そうですね。起業家心理からすると、余裕を持っておきたいため、ランウェイは長いほうがいいと思われている傾向にありますが、起業家は株主でもあります。株主や投資家目線で見ると、希薄化や経営節度の観点からは、必ずしもランウェイは長ければいいというわけでもありません。

むしろ、きちんとした進捗が見えるマイルストーンとランウェイの関係性が適切であるほうが、投資家からすると望ましいのではないでしょうか。

朝倉:最近ではMistletoeを創業された孫泰蔵さんが、MOVIDAでシード・アクセラレータープログラムを運営されていた時は、「中小企業的に無理やり延命するのではなく、失敗したらスパッと解散、あるいは他のスタートアップと合併させる」といった構想を練られていました。それはそれで一つの考え方だと思います。

小林:日本は伝統的に倒産数や廃業率を問題視する傾向にありますが、本来は、廃業しても新たに興る会社が多ければ経済としてはさほど問題ではないと思います。そういう意味では、正味のところで見るべきなんだけれど、なぜか総廃業数を問題視する。

メディアにも見られる傾向ですが、総廃業数が増えると「不況だ」とする言説が多いですよね。実際には、入れ替わりがどれくらいあるかということのほうが、より建設的に実態を表すはずです。

ランウェイもバーンレートも大きく変動するもの

朝倉:シードやアーリーに限らずですが、ランウェイを伸ばそうと思って一気に調達するのもいいんだけれど、それは結果的に希釈率を高めてしまうことも意味するわけですよね。

だとしたら、コストを抑制しつつ、事業の構築にもう少し時間をかけて、少しずつ調達したほうが、創業者を含めた株主のメリットになることも多いのではないかとも思います。こうしたことを踏まえると、ランウェイを伸ばすほうがいいのかというと、やはり一概にそうとも言えませんね。

村上:あと、私が素朴に疑問に感じるのは、ランウェイもバーンレートも、スポットの数字で捉える方が多いことです。例えば、バーンレートが1,000万円という時に、それは今月の数字であり、それをベースにランウェイは例えば10ヶ月だ、と算出していますが、本来スタートアップは急成長を遂げるものですから、単月の数字の変動幅は大きいはず。

次の12ヶ月を考えても、月ごとに、ネットバーンレートが上がる場合も、グロスバーンレートが上がる場合もありますし、収益が立ち始めることで資金繰りの関係からネットバーンレートが下がる場合もありえます。

これを前提としてきちんとランウェイを算出しようとすると、厳密に算出する場合と単純な割り算をする場合で相当差が開きます。なので、バーンレート自体にもちろん意味はあるのですが、急成長期であればあるほど、実態と算出値の解離が大きくなってしまうこともあるので、注視しなければなりません。

小林:はい。拡大期において、キャッシュフローにどういった影響が生じるのかには注意が必要でしょうね。拡大の過程で、先行的にキャッシュバーンが大きくなるのか、あるいは、収益が立つことでネットバーンレートにはポジティブに働くのか。

こういったことは、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(現金回収までの日数)がどのような設計になっているかにも深く関連します。自社のキャッシュフローの状況に関して、パッと答えられない人も相応にいる気がするので、感度を上げなければならない部分だと思います。

村上:事業を加速させていった時に、バーンレートがどんどん良くなってランウェイが長くなるような会社と、加速させれば加速させるほどバーンレートが大きくなってランウェイが短くなる会社とでは、相当な差が出るはずです。

朝倉:バーンレートやランウェイについて考える際に、単純に数字だけを見るのではなくて、例えば資金のサイクル、コストサイドにしても固定費なのか変動費なのかといった構成要素を細かく見極めるべきでしょうね。