INTERVIEW

【VISITS Technologies】アイデアの価値の定量化を通じて、誰もが創造性を発揮できる未来へ—シニフィアンとの資本業務提携

2019.01.30

VISITS Technologies株式会社とシニフィアン株式会社は今般、CI(Consensus Intelligence)事業の本格化に向けた資本業務提携を締結しました。 HR領域におけるAI事業を中心に事業を構築してきたVISITS Technologiesは、同社のコアコンピタンスである合意形成アルゴリズムを核とした事業を本格化し、グローバル展開を加速させていきます。 VISITS Technologiesが開発する「コンセンサスインテリジェンス」技術と、それを活用した事業の展望、それを通じて実現を目指す社会のあり方について、松本CEOに伺います。

松本 勝(まつもと まさる)

VISITS Technologies CEO/Founder。東京大学大学院修了後、ゴールドマンサックス入社。金利オプショントレーディングの責任者を経て、2010年人工知能を用いた投資ファンド設立。2014年には、VISITS Technologies設立し、人のアイデア創造力、目利き力、アイデアの価値を独自の合意形成アルゴリズムにより定量化する特許技術「ideagram」を開発。世界中の社会課題とそのソリューションの可視化を、独自のマイニング技術とブロックチェーンによりリアルタイムに実現する研究を行っている。元文部科学省委員。

(ライター:中村慎太郎 撮影:疋田千里)

アイデアやセンスの価値を、定量的に求める技術

シニフィアン:改めて、VISITS Technologiesの事業概要を教えて下さい。

松本勝(VISITS Technologies株式会社CEO。以下、松本):我々は「コンセンサスインテリジェンス(CI)」という技術をコアに、事業を展開しています。「コンセンサスインテリジェンス」は、これまで主観的にしか判断できなかった、人の創造性やセンス、アイデアの質といった定性的な価値を、客観的かつ定量的に評価する技術です。

定性的な価値に対しては、目利きができる人とできない人がいます。誰もが同等の目利き力を持っているわけではないので、単純な多数決だと、目利きができる人とできない人の意見が同等に扱われてしまい、定性的な価値を正しく評価することができません。 目利きできる人たちが、どうやって価値を判断しているのかを集合知にすることで、アイデアやセンスの真の価値を、定量的に求める技術が「コンセンサスインテリジェンス」です。

シニフィアン:「コンセンサスインテリジェンス」とは耳慣れない言葉ですが、命名された背景を教えていただけますか?

松本:「コンセンサス」とは合意形成のことです。従来の合意形成では、多数決や、役職の高い人の考えに従って物事の是非を判断するような、アナログな意志決定が行われていました。

これに対して、「コンセンサスインテリジェンス」は、個々人が持つ目利きの能力を判断し、その能力に応じて、個々人の意見を重み付けします。そうすることで、センスやアイデアといったものの真の価値を測ることができるのです。

よく「VISITS TechnologiesはAIの会社なのか?」と聞かれることがありますが、実は根本的に違います。確かに、AIは、犬や猫の識別など、明確な教師データ、つまり定量的なデータが集められる事象に対して有効な技術です。

一方、我々は、教師データがない定性的な価値、例えばクリエイティブなアイデア、あるいはセンスなど、一人一人の考えが違うものを取り扱っています。こういった定性的な価値に対しても、アルゴリズムを駆使することによって、クリエイティブかどうかといったことが判定できるようになるのです。AIでも教師なしモデルを使ってクラスタリングすることもできるにはできるのですが、あまり有効ではありません。

例えるなら「コンセンサスインテリジェンス」は、Googleのページランクのようなものです。Googleが示す検索結果は、「良い」情報が順番に並べられているわけではありません。「良い可能性が高い」情報を、被リンクの数など複合的なネットワーク理論を用いて、順番に並べているのです。これと同じような手法を用いて、我々はアイデアの質のランク付けを実現しているのです。

シニフィアン:なるほど。そういった技術はどういったシーンで使われるのでしょうか?

松本:例えば我々は、「コンセンサスインテリジェンス」をベースにしたideagram(アイデアグラム)というサービスを提供しています。 この頃では企業をはじめ、様々な分野において、イノベーション創出の試みがなされています。ただ、そもそもイノベーションを起こせる人材とはどういう人物なのか、また、本当に筋が良いアイデア、革新的なアイデアが何なのかは、なかなかわかりません。こうした状況に対して、アイデアグラムを用いることで、イノベーターとしての素質がある人物が誰かを可視化することができるのです。

仮に、アイデアコンテストで1000人から1万個のアイデアが出てきたとします。この中から良いアイデアを選び出すのは非常に難しい作業です。こうした状況でアイデアグラムを使うと、筋の良さによってアイデアをランキング化し、本当に良いアイデアを効率的に選別することができるのです。

誰もが創造性を発揮できる社会へ

シニフィアン:なるほど、それは実用面でも面白いですね。それでは、アイデアグラムというサービス、あるいはコンセンサスインテリジェンスという技術を通じて、VISITS Technologiesはどういった社会を作っていきたいのか、教えてください。

松本:誰もがクリエイティビティを発揮することができる世の中です。 最近では、AIが世の中の多くの仕事を自動化することで、雇用が失われるといった警鐘が鳴らされています。ですが、AIでできること、できないこと―もう少し正確に言うと、AIが得意なことと、得意じゃないことは、明確に線引きすることができます。AIが得意とするのは、ゴールやアウトプットが定義されているような仕事です。正確にプロセスを遂行しアウトプットできるものですね。 こうした背景から、AIが得意とする「すでに定義された仕事」はAIに任せ、人間はよりクリエイティブな仕事に取り組むべきだといったことが盛んに指摘されています。

一方で、そうした「クリエイティブな仕事」ができる人材は、どうすれば育成できるのか、また、アウトプットされたものが実際にクリエイティブであるかをどうやって判断するのかについては、まだ有効な方法論がありません。つまり、クリエイティブであることを判別するためのテクノロジーが、今まで世の中にはなかったのです。

我々のサービスを使って頂くと、クリエイティブな人材を判別するだけではなく、育成することもできます。クリエイティブという言葉は、新たな社会価値の創造を意味しています。我々の事業を通じて実現したいのは、誰もが価値創造できる力を持ち、みんなで社会課題を解いていく、そういう社会です。

シニフィアン:そうしたビジョンを実現していく上で、VISITS Technologiesにとって何が課題なのでしょうか?

松本:「コンセンサスインテリジェンス」は、今までにまったくない技術です。なので、認知され、良いサービスであることが体感されるまでに時間がかかってしまうことが、目下の課題です。 「クリエイティブさやセンスが可視化される」と伝えようとすると、「センスは絶対に定量化できない」だとか「クリエイティブさは、可視化ができないから素晴らしい」というような常識のバイアスによって、すぐには「コンセンサスインテリジェンス」の考えが受け入れられないケースもあります。

ただ、Googleであっても、少し前までは裏のアルゴリズムを説明しても理解されず、苦労していた時期があったはずです。我々もまだまだそういった段階ですので、サービスを触っていただき、体感して頂く中で、徐々に価値を伝えていくことが大切だと思っています。

シニフィアン:最後に、VISITS Technologiesの事業の意義をお聞かせください。

松本:イノベーションの源泉となる人間の創造性は、科学的に可視化したり、育成したりすることが技術的に可能になっている時代だということを、世の中に伝えていきたいと思っています。創造性を武器として身につけられるようになれば、働くことや生きることが、より喜ばしいものになります。

これは、起業家になると必ず体感することですが、自分のアイデアが形になって、人が使ってくれて、これはいいですねと喜んでもらえたときの嬉しさには格別なものがあります。これはお金には代えられない喜びだと思っています。

何かを創造する時間は、生きていることを一番実感できる時間だと思っています。ただ、今は、創造性を身につける方法が、まだ確立されていないがために、創造性の発揮の仕方を知らない人はその喜びを享受できていません。だからこそ我々が、このテクノロジーを世の中のインフラ、社会システムとして提供することで、誰もが創造性を発揮し、わくわくしながら働いてくれることを夢見ています。

シニフィアン:本日はありがとうございました。