COLUMN

全会一致で経営ができるか!「空気」が会社を滅ぼす

2017.10.11

シニフィアンの共同代表3人による、企業の成長フェイズにおける「ステージチェンジ」をテーマにした放談、閑談、雑談、床屋談義の限りを尽くすシニフィ談の第4回(全8回)。前回はこちら

(ライター:福田滉平)

「空気の支配」を超えられない

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):『空気の研究』(山本七平)の話になってしまうけど、薄々誰もが感づいている身も蓋もない現実って、口に出しにくいんですよ。「これおかしいでしょ、変えましょうよ」って言った瞬間に、「一生懸命やってる人間がいるのに、お前はなんて酷いことを言うんだ」という感情論にすり替えられてしまう。よくある話でしょ。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):『空気の研究』に出てくる話で、誰もがおかしいと思うのに、なぜ大和が特攻したのかというエピソードがあるでしょ。「全般の空気よりして……」と書かれているのだけど、いやいや、空気で判断したらあかんやろ、と。

朝倉:軍令部の議論ではそんな空気感になっていると聞いて、当初は反対していた艦長が「それならば、何をか言わんや」と無謀な作戦に付き従ったという描写だけを読むと、後世の人間からすればちょっと理解しがたい判断ではある。 インパール作戦にしたって、そうでしょ。補給についてロクに検討することもなく、一発逆転を狙って牟田口中将がインドへの進攻を強硬に主張した。食料は現地で倒した敵から奪えばいいんだ、と。「アッサム州かベンガル州で死なせてくれ」と。周りにいた将校はどう考えても無謀だとわかっているから、それを聞いて唖然としていたわけでしょ。

小林:その時に強く反対した佐藤中将は、上官の命令に従わず、日本陸軍初の抗命事件として更迭されてますしね。結果的にはその抗命が兵士の生命を救うことになったのだけれど。

朝倉:作戦の不成功を想定するのは「必勝の信念に反する」という理屈で封殺されてしまった。で、牟田口中将の上官である河辺正三は、牟田口が熱意を持って推進してきた作戦だから「何とかして牟田口の意見を通してやりたい」と言っていたわけでしょ。じゃあこの惨憺たる結果に対して、一体誰が責任を持つのかという話になってしまう。挙句の果てに、前線は完全に破綻していても、牟田口は自分の口から中止とは言えず、「私の顔色で察してもらいたかった」と述べていると。こんな酷い話はない。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):海外からの日本の見られ方って、戦時中とそれほど変わってないと思いますよ。日本の個人・組織の特徴って言われると、あの時と変わっていない。言うべきことを言えない環境というのは、ステージチェンジを起こすべきときには決定的に不利に働くでしょう。

朝倉:これ、言い出したらほとんどの問題の原因がここに収斂してしまうのだけど、究極には教育の問題に行き着くでしょ。過剰に同調圧力をかけて、波風を立てることは悪とするわけですから。工業時代に最適化した教育の仕組みとしてはワークしたんでしょうけどね。 2017年の都議選の時に、ある議員が「『批判なき選挙、批判なき政治』を目指す」なんて真顔で言っていたじゃないですか。彼女の意図としては「誹謗中傷合戦の無い選挙活動を」と言いたかったのかもしれないけど、「批判のない」ってね。

小林:なるほどね。「批判」と「誹謗中傷」が同列に扱われているんやもんな。

朝倉:そうそう。こうした発言が違和感なく発せられている時点で、完全に教育の失敗だと思いますよ。人格攻撃になっちゃいけないけど、現状を虚心坦懐に見て、「このままじゃ、いけない」っていう議論はあって然るべきじゃないですか。その批判精神がないことには、「対論は何なのか」という話にも発展しない。 けどこうしたエピソードを、組織人はあながち馬鹿げた話だと笑ってもいられへんのとちゃうかな。

全会一致は問題の根源?

村上:意思決定における全会一致の話を以前にしたと思うけど、難しい判断や議論を起こす判断って、最も全会一致がしづらいし、反対意見が出て然るべき。本当はそういう意見こそ重要なはずなのに、反対意見に対して、真っ当に向き合いづらい状況というのは往々にしてあると思う。

朝倉:口やかましい人として片付けられてしまうとかね。

村上:みんなが、ぱっと合意できることは、そんなに重要じゃないんですよ。多分。

朝倉:意見が分かれないんですもんね。

小林:持論なんだけど、取締役会はちゃんと多数決にすべきだと思う。そうじゃないと、議論を巻き起こす議題に向き合えなくなる。 昔、上場会社の役員たちが集まった場で聞いたことがあるんですよ。取締役会の決議ってどうやってるんですかって。すると、全会一致でやっているところが結構多かった。散々議論を尽くして全員が合意したらやるっていう。一見聞こえは良いんですが、そうすると、事前の摺り合わせによって丸い案が出て、何も角が立たなくなってしまう。

朝倉:まとまらなかったら「翌月に持ち越し」ですもんね。

小林:これだと、エッジの効いた意見は出づらくなるんちゃうかな。

村上:結局、すぐ全会一致できるものって、議論するほどの議題でもないもんな。あと、経営会議にかけた議題で、揉めた時の反対意見をちゃんと残しておかないと、失敗した時に引き返せへんのとちゃうかな。全会一致した3ヶ月後に間違いに気づいても、「いや、全会一致やったやろ」となってしまうから、方針転換しづらい。

小林:冨山和彦さんはその辺りを強く意識してらしたんちゃうかな。冨山さんらがコーポレート・ガバナンスコードの基本方針のモデル案をつくった際に、最初は社外取の人数を3人、もしくは3分の1以上とする内容になっていたんですよね。 そうしたら、「そんなに増やすのは無理だよ」って圧力がどこかからかかって、「じゃあ2人にしましょう」と。この「2人」という数字は、全会一致が暗黙の前提として支配している日本の取締役会の勘所を押さえた数字ちゃうかなと。1人が反対というと、場の空気で反対意見を封殺するんです。だけど2人、つまり複数人が「おかしくないですか?」って反対すると、「あれっ?なんかおかしいかな?」と風向きが変わる。 本当は多数決だと2人反対でも気にしなくて良いんですけど、2票反対が出ると有意義なカウンターオピニオンにはなるから、「じゃあもう少し考えます」と動く。

村上:その通りやね。2人いたら無視できないし、声の大きな人が2人だと影響大きいよね。更に、最近は小さな取締役会で人数も減ってきてるから。

小林:ある種、これは日本の取締役会の空気を逆手に取ったやり方として機能するんじゃないかというのが私の見立て。2票反対したら再考するだろうと。 厳格に票を採って取締役会を運営するのって、特に新興企業では少ないんちゃうかな。ある会社は、取締役会できちんと票を取った上で、取締役会の意思決定を尊重し、決定した後は反対だった人も一体となって邁進しなければいけないっていう鉄の掟があるって。これは会社法上至極当たり前のことなんですけどね。

朝倉:当たり前ですね。

小林:でもやってる会社は本当に少ない。

朝倉:第33代大統領のトルーマンなんかは「政争は水際でとどまるべし」と言っていて、これは国際政治の基本的な考え方なのだけど、内部では喧々諤々議論して、まとめたものについては粛々と進めていく。意思決定って本来そういう手順でやるもんでしょ。

社長の喋る内容がつまらない問題

村上:雇われ社長が株主総会や決算発表で話す内容で面白いものが少ないのも似たような話ですね。多くの場合、発表のスクリプトって事前に書かれてしまっている。各部門をたらい回しになった当たり障りのない文章を、社長が律儀に読んでる会社って一杯ありますね。

朝倉:自分が100%組織を掌握しきれているわけでもなく、波風を極力立てないようにしようとすると、それが合理的なやり方なんでしょうね。

村上:若手お笑い芸人の漫才を100人位のおじさん達が事前に見て、「これじゃクレーム来るな」とか、「これじゃあお客さんにウケへんな」とかって手を入れて、書き直した漫才を見せられても、そりゃつまらんやろうね。

小林:フィルターって増えれば増える程、摩耗していくワケじゃないですか。スクリプトはその代表で、何周もすると普通の文章になって「機械が喋ってるんですか?」みたいな出来になる。全く当たり障りのない文章。

村上:スクリプトを読まない代表はやっぱりオーナー社長。オーナー社長の会見のほうが面白いのはそのせいだと思います。

朝倉:当人次第だと思いますけどね。僕は重要な発表については基本的に自分で考えていましたよ。広報やIRがまとめてくるものって、正直、絶望的につまらないし、そんなつまらないものを自分の名前の下で世間に発信することに対して耐え難い精神的苦痛を感じるから。決算発表のスライドにしたって、どうしても耐えられないポイントについては、自分で描き換えますもん。自分の言葉で語れないトップなんて、「AIでええんちゃう?」ってなるでしょ。 逆に「自分の言葉で語れない人がトップの方がいい」って会社もあるのかもしれませんけど。

第1回 DeNA、GREEの死闘をひっくり返した「パズドラ」の衝撃

第2回 顧客ガン無視。なぜ企業は「都合のいい市場分析」にハマるのか

第3回 営業は兵隊じゃない!商売は現場で起きている

第4回 全会一致で経営ができるか!「空気」が会社を滅ぼす

第5回 日本企業M&Aあるある・「青い鳥症候群」にご用心

第6回 星野監督の夢はノムさんの後にひらく?経営戦略の遅効性

第7回 日米雇われ社長の給料事情。〜全てのサラリーマン社長のために〜

第8回 ソニー・ヤフー・日本電産、ステージチェンジには人を「替える」

朝倉 祐介

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

村上 誠典

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。

小林 賢治

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。