INTERVIEW

【マネーフォワード】全ての人のお金のプラットフォームになる Vol.1

2017.11.07

安倍政権の成長戦略において戦略分野と位置付けられているフィンテック。大手金融機関や先行するインターネット関連企業など、成長分野だけに競争も激しい市場ですが、その中で新進気鋭のスタートアップとして存在感を放っているのが株式会社マネーフォワードです。成長著しい同分野で、同社がどのように市場を切り開こうとしているのか、辻庸介社長にお伺いしました。

辻庸介(つじ ようすけ)

株式会社マネーフォワード代表取締役社長 CEO 京都大学農学部を卒業後、ペンシルベニア大学ウォートン校MBA取得。ソニー株式会社、マネックス証券株式会社を経て、2012年に株式会社マネーフォワード設立。新経済連盟の幹事、経済産業省FinTech検討会合の委員も務める。

株式会社マネーフォワードは2012年5月の設立以来、個人向けの自動家計簿・資産管理サービス「マネーフォワード」、自動貯金サービス「しらたま」、ビジネス向けのクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」などを提供しているフィンテック企業。2017年6月にはMF KESSAI株式会社(グループ会社)を設立し、企業間後払い決済「MF KESSAI」を提供開始。2017年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場。

(ライター:石村研二)

普通の人のお金の課題を解決するサービスを作る

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):辻さんはソニーやマネックスにいらっしゃった頃からずっと“お金”と“テクノロジー”に関わってこられたと思いますが、そこから起業しようと思うに至ったのにはどういった経緯があったのでしょうか?

辻庸介(株式会社マネーフォワード代表取締役社長CEO。以下、辻):ソニーからマネックス証券に出向したのは2004年の1月なんですが、その頃から金融サービスはもっとユーザー視点を持つべきだという問題意識を持っていました。出向から転籍に切り替えたのも、マネックスグループの今の会長の松本大さんが「金融市場の民主化」というビジョンを掲げていたからです。実際にネット証券の登場によって、手数料が10分の1になるなど多くの人々が投資活動に参加しやすいようにはなりました。

ただ、投資までたどりつくことは一般の方からするとかなりハードルが高いので、口座数は数百万のレベルで、一般の人のお金の課題を解決するサービスにはなり得ていませんでした。いくら貯蓄から投資へと言っても、投資までのハードルが高いので、その前の段階のサービス、1億数千万という人たちに向けた金融サービスがまだ十分に揃っていないと感じていたんです。

小林:ということは、最初のテーマは資産運用だったんですか?

辻:当初は、「お金とどう付き合えばよいかわからない」といった個人の悩みを解決したかったんです。将来したいことや、老後の過ごし方、子どもの教育といった、人生に紐づく希望や悩み、お金に関連する課題を誰もが抱えていますが、そうした課題を解決するためには、一体いくら必要なのかがわからないわけですよ。だからとにかくお金を増やしたいと思ってしまう。そこで、目標値と現在の状況を可視化して、その差分を埋めるためには何をすれば良いかということを、考えなくても理解できるサービスを作りたいと思ったんです。そのために、今の資産状況がわかるサービスを作ろうと考えたのが、マネーフォワードの出発点なんです。でも5年事業をやって、まだスタート地点しかできてないんですよ。最近ようやく「しらたま」という自動貯金アプリで、お金を増やすところに手をつけられたところです。

小林:マネーフォワードを「家計簿」としてとらえると、対象となるのはキャッシュフロー的な部分じゃないですか。一方、資産運用はBSを扱うものです。両者は似ているようでぜんぜん違いますよね。そこはどうつなげていくんですか?

辻:会社経営ではBS、PL、キャッシュフローのいずれも大事なように、家計においても家計簿と資産管理の両方が大事だと思うんですが、日本では家計簿が圧倒的に強くて資産管理の観点があまりないんですよ。アメリカだとPFM(Personal Financial Management)というカテゴリがあるんですが、日本だと「家計簿」にするとわかりやすい。App Storeでも「家計簿」として扱ったほうがASO(アプリストア最適化:App Store Optimization)がかかりやすいんですね。そこをどうするかは議論してきましたが、「家計簿」と呼んだほうが良いという判断になりました。ただ、最近では徐々に、「自動家計簿・資産管理アプリ」とも呼ぶようにしています。

個人も法人も全ての人のお金のプラットフォームになりたい

小林:PFM事業は個人向けですよね。それとは別に法人向けのMFクラウドという2つのサービスを提供しているわけですが、両者は大きく異なるものですよね?

辻:PFMは個人の家計を見える化して、さらには資産の状況まで見える化するサービスです。金融機関の口座やアマゾンなどのサービスと連結するだけで、お金の動きを自動で見える化でき、その結果節約が進みます。レコーディング・ダイエット(日々摂取する食物とそのエネルギー量を記録するダイエット法)と同じで、まず今までもやっとしていた家計を見える化して課題を把握し、理想の家計を提案します。固定費や変動費を削減することでお金が貯まる、というサービスですね。

MFクラウドはSaaS(Software as a Service)ですね。会計、確定申告、給与などの機能があり、これらをまとめて使えるバリューパックというのもあります。確定申告だと月800円、バリューパックでも5人以下なら月3900円なので、非常に安い金額でバックオフィス業務が全部できるというサービスです。効果としては、人工知能(AI)による自動仕訳などで生産性も向上できるし、企業のお金の動きの見える化もできます。

小林:PFMとMFクラウドでは事業のイシューが異なる部分も多いと思うんですが、両方を並行してやる意義やシナジーはなんでしょうか?

辻:今のところあまりないですね(笑)

というのは冗談で、以前から個人のお客様に「こういうサービスはいかがですか?」といったニーズを定期的に聞いていたのですが、その中で一番「これが欲しい」と言われたのが確定申告だったんですね。僕らが一番大事にしているのはユーザーフォーカスなので、それなら確定申告のためのサービスを作ろうと考えました。MFクラウドはそこから始まったんです。

僕らのビジョンは、「全ての人のお金のプラットフォームになる」というものなので、対象とするお客様は個人も法人も関係ありません。それに、PFMは個人が対象でMFクラウドは法人ですが、法人が給与を支払ったり、サービスを提供したりする相手は個人じゃないですか。こうした法人と個人のお金の流れをつなぐことができたらという意味で、法人向けと個人向けの両方の事業を手がけるのは面白いと思うんです。

小林:たとえばIRの立場で米国の機関投資家と話をしていると、コングロマリット化することに対して”Lack of Focus”だと指摘されることもありますよね。私も前職時代にそうした経験があったんですが、マネーフォワードの場合、事業を複数走らせる事に対して投資家はどのように反応していますか?

辻:日本だとマーケットが小さいため、ある程度の規模感に会社を成長させようとしたら、どうしてもコングロマリット化しますよね。そうでなければ単一のプロダクトを通じてグローバルで勝つしかないわけですが、相対感で言えば国内でコングロマリット化するほうが簡単じゃないですか。逆に、そうした指摘は日本のマーケットに対する理解が十分に得られていないということだと思います。

村上誠典(シニフィアン株式会社共同代表):コングロマリットといっても、楽天のように何か一つの事業で勝ってからそれを軸にM&Aなどで別の事業を展開していくのと、御社のように2つの事業を並行して共に伸ばしていくのでは、投資家から見て印象が違うと思います。その点については、どのような意識でマネジメントされているんですか?

辻:まず、個人も法人も、まだまだ国内のマーケットの成長余地が大きいということは意識しています。法人のクラウド化率が上がっていく中で、マーケットチャンスは非常に大きいですし、個人でもオンラインバンキングを使っていらっしゃる方が4,000万人近くいますので、そこまではいけるだろうと考えています。それから、僕らはスマホという入り口を持っています。スマホから金融サービスと提携していけば、成長の可能性も非常に大きく広がっていると思うんです。

リソースが限界に達している状態であれば、どちらかに集中すべきだという議論になるんですが、ヒトとカネは最大限に引っ張ってこようというのがもともとの戦略なので、今回の上場も含めたあらゆる手段を通して、なんとしてでも両方やろうと。何よりも、我々のビジョンは「全ての人のお金のプラットフォームになる」です。この点では、合理的な理由と同時に、強い思いを持っています。両方やりたいんですよ。

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