COLUMN

理想的な新興株式市場の条件とは何か

2019.01.16

マザーズはスタートアップにとって上場しやすい市場である一方、国内外の投資家にとっては、投資のしやすさという点での課題を抱えています。新興株式市場の制度設計に改善の余地はないのか、海外からの投資を呼び込むために何をするべきなのか。新興株式市場の理想的な姿について、シニフィアン共同代表の3人が語ります。 本稿は、Voicyの放送を加筆修正したものです。

(編集:中村慎太郎)

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今のマザーズは個人投資家が主体の株式市場で、流動性が限定的であり、退出の仕組みが整っていないという点について前回話しました。今回は、そうしたマザーズの特徴の何が問題なのかについて考えてみたいと思います。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):まず個人投資家が中心であるという点に着目すると、個人投資家には事業戦略の専門的な部分は理解しづらいのではないかと思います。先行投資が続く赤字上場の場合などは特に、単純にPL上の営業利益だけを見てもその事業の好不調や成長白地は判断できません。戦略的に赤字上場をする企業の場合は、その事業の健全性を測るために、何らか利益とは別の事業KPIを確認する必要があるわけです。 一方で、そこまで事業に対する理解が深くない投資家が多いと、「いつ黒字化するのか」という利益の話ばかりが取り沙汰されてしまいがちです。個人投資家が中心であることによって引き起こされる状況の顕著な例ですね。

個人投資家は概して株式の保有期間が短いこともあり、短期目線での質問が多くなり、利益改善に向けたプレッシャーが強まります。発行体にとっては望ましくない状況でしょう。

朝倉:事業の成長性に対する指摘が短期的な視点に偏ってしまうと、会社側はなかなか長期目線での事業投資に踏み込みづらくはなるでしょうね。

小林:もう一つ、流動性に関連した話ですが、流動性が限定されてしまうと、株価のボラティリティが高くなりがちです。機関投資家であれば、自分たちが考えるフェアバリューとの齟齬があったときには柔軟に対応する傾向にあります。例えば、割り安になっていれば買い増しが入り、高すぎるようだとちょっと冷や水を浴びせるような売りも入れて、全体的にボラティリティが下がることに収斂するようなトレーディングの仕方をします。 一方で個人が中心だと、買いか売りかに振れるときは、一気に片方向に振れてしまいがちです。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):経営者にとってIPOは、資金調達や自社株式を活用したM&Aを実現するための手段です。しかし、流動性が低い状態だと、上場後に新たな資金調達はほぼできない状況です。ほとんど流動していない株を新たに新規発行したところで、投資家は流動性がない株をなかなか買えない。実質的には上場後のエクイティを活用した資金調達オプションがほとんどないという状況が生じてしまうのです。

もう一つ、退出の仕組みについては、機関投資家からの投資をもっと新興市場へ振り向けるうえでの障壁になっていると考えます。銘柄数が多すぎて、なおかつ、流動性の低い株に偏ってしまっている市場では、なかなか投資はしにくい。機関投資家にとって、投資対象を選別するうえでの効率が悪いわけです。

そういう意味で言うと、アメリカのように流動性基準で退出の仕組みを設けるのは、投資家目線にかなっているのではないかと思います。

朝倉:現状のマザーズにこうした課題があることはわかったのですが、一旦、今の前提条件を取り払って、発行体にとっても投資家にとっても理想的なマーケットについて、考えてみましょうか。

理想的な新興株式市場とは

小林:ある程度の流動性、マーケットボリュームを出して機関投資家が入る余地を作り出し、健全にウォッチされる環境を作ることが大切だと思います。成長している会社とそうでない会社の淘汰が起き、そうでない会社には退出に対する何らかのプレッシャーがかかることになります。そういう健全性があるべきだと思います。

村上:私も同じ考えです。経営者の目線で考えると、今のマザーズは上場しやすいという意味で最適化されていると思います。ただ、機関投資家や海外の投資の流入を促すという意味では、投資家目線で制度設計する必要があります。その観点でのキーワードもやはり流動性だと思うんですね。

東証一部、二部、マザーズを見た時に、ミニマムの流動性基準と、実際のIPOのサイズは、極めて連動性が高いわけです。流動性基準を引き上げることと、制度設計をセットで考えて、投資家にとって使いやすい制度設計をするという視点で考えると、面白いアイデアが出てくるのかなという気がします。

小林:面白いですね。投資家にとって使いやすい市場設計にすることで、いわゆる海外のペイシェントリスクマネーが入ってきます。つまり、いいお金、我慢強いお金が入ってくることで、めぐりめぐって、長期に投資をして成果を出していきたい投資家にもベネフィットが出るため、新興企業にとっても望ましい市場が生まれるという循環が生まれるんじゃないでしょうか。

朝倉:事業会社の時価総額を上げて成長していく上で、海外からの投資は欠かせないわけで、そのためにはやっぱり流動性を上げていかなければいけないし、開かれたマーケット作りというものを心がけていく必要があるということですね。

村上:その通りですね。例えばマザーズとは違う枠組みで、新興企業が上場するための市場を用意することも考えられるのではないでしょうか。

マザーズでは玉石混交の数百社の中に各企業が埋もれてしまうという状況ですが、マザーズとは異なる基準をクリアした企業群の枠組みがあれば、投資家としては選別のコストが下がりますよね。あとは退出の基準や、設計を変える柔軟性も出てくる可能性がありますね。

小林:なるほど。そういう意味ではきちんとしたプロセスを経て、海外機関投資家にウォッチされる枠組みに入った企業群は、その時点でスクリーニングされているわけだから、機関投資家にとってもウォッチしやすいということですね。

朝倉:今のマザーズは発行体側にとっては、上場しやすい場であり、またそうした場を活用しているスタートアップもいるわけです。そして、そうした企業に投資したいという個人投資家の方もいらっしゃるわけですから、そういった方々にとっては良いマーケットであるという面も無視してはいけないと思います。問題は、IPOするスタートアップにとっての当初の選択肢が、実質的にはマザーズに入らざるを得ない状況なのかもしれません。

上場の選択肢は増えるべきなのか

小林:やはり選択肢がないということは、いろんな意味で不都合を生み出しやすいのかなという気がしますね。特にIPOは起業家にとっては何度も経験するわけじゃないので、これしか選択肢がないと言われると、「そういうものかな」と思い、他のオプションを探索せずに、そのまま流れているというパターンになっていると思うんですよね。

朝倉:敢えて問いますが、「マザーズではなく東証一部に直接上場します」じゃダメなんですか?

小林:ありえるとは思うんですが、東証は安定した企業にとってのマーケットで、基準についても利益や純資産額などの新興企業には必ずしも即さない基準で判断されます。逆に、東証一部の基準を緩和してしまうと東証一部全体の趣旨がぶれてしまいます。一部は一部で、今の基準が必要でしょう。

もう一つは、東証一部だとパッシブ運用の投資が入ってくるわけですが、ボラティリティが高い会社が急に東証のインデックスにいきなり入ってくるのは、正直迷惑という状況は、過去の事例でもありました。そこについては慎重な判断が必要なのではないかと思います。

村上:東証一部は事業性のリスクも市場性のリスクも低く、一番投資しやすい市場という位置づけだとすると、現状のマザーズは事業性も市場性も、リスクが高い市場になっていると思います。だから、第三の選択肢として、事業性のリスクは高いが、流動性は確保して、市場性のリスクが限定されているという組み合わせの市場ができると、東証一部とマザーズとの差別化ができるのかなと言う気がします。

朝倉:マザーズの元々の設立趣旨に立ち返ると、名称は”Mothers:Market of the high-growth and emerging stocks”ではあるのですが、現実には「東証一部に対する二軍三軍」扱いになっている向きがないこともないですよね。そうではなく、完全に別個のものとして、真に成長を志向する会社のための場とがあってもいいんじゃないかとは思います。

村上:その通りですね。最後に付け加えたいのは、マザーズ上場の場合は初値で2倍に吹き上がることもありますから、なかなか未上場時から出資している既存投資家に最初に売ってくれと言いづらいということ。

予め、上場時の時点から機関投資家が、いいプライスで入ってこられるような市場環境が整えることができれば、より流動性を作っていくこともできると思いますし、現状のマザーズが抱えるような課題点も払拭していくことができるんじゃないでしょうか。

朝倉 祐介

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県西宮市出身。競馬騎手養成学校、競走馬の育成業務を経て東京大学法学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィ社への売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。Tokyo Founders Fundパートナー。

村上 誠典

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県姫路市出身。東京大学にて小型衛星開発、衛星の自律制御・軌道工学に関わる。同大学院に進学後、宇宙科学研究所(現JAXA)にて「はやぶさ」「イカロス」等の基礎研究を担当。ゴールドマン・サックスに入社後、同東京・ロンドンの投資銀行部門にて14年間に渡り日欧米・新興国等の多様なステージ・文化の企業に関わる。IT・通信・インターネット・メディアや民生・総合電機を中心に幅広い業界の投資案件、M&A、資金調達業務に従事。

小林 賢治

シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。