INTERVIEW

【FOLIO】金融体験の生活化を通じて、全ての人に投資の機会を—シニフィアンとの資本業務提携

2019.01.21

FOLIO株式会社とシニフィアン株式会社は2019年1月17日より、FOLIOのサービス拡大、事業の強化に向けた資本業務提携を締結しました。 将来的に年金や退職金の減少が予期される我が国において、個々人にとっての資産形成は非常に重要な課題です。「金融商品・金融体験の生活化」を掲げ、一般利用者にも親しみやすい金融サービスの提供を通じて日本に資産運用を根付かせようとするFOLIOのアプローチは、こうした社会課題を解決する取り組みであると、シニフィアンは考えています。 FOLIOが狙う新しい証券サービスのあり方について、甲斐CEOに伺います。

甲斐 真一郎(かい しんいちろう)

株式会社FOLIO 代表取締役CEO。京都大学法学部卒。2006年、ゴールドマン・サックス証券に入社し金利デリバティブトレーディングに従事する。2010年、バークレイズ証券に転籍しアルゴリズム・金利オプショントレーディングの責任者を兼任する。2015年11月に同社を退職し株式会社FOLIOを創業。同年12月より現職。

(ライター:中村慎太郎 撮影:疋田千里)

退職金、年金が減少する未来に備えて必要な投資サービス

シニフィアン:改めて、御社の事業内容についてお聞かせ下さい。

甲斐 真一郎(株式会社FOLIO 代表取締役CEO。以下、甲斐):我々は、テーマ投資ができる証券サービスを展開しています。テーマ投資は、「人工知能」や「ドローン」など、自分の気になるテーマを選ぶだけで株式投資が始められるサービスです。

このテーマ投資をコアとしつつ、ロボアドバイザーのサービスも始めています。これは、年齢、年収と預貯金額を入力するだけで、リスク許容度を診断し、その人にあった資産運用プランを独自アルゴリズムが算出して提案するサービスです。

テーマ投資は、「もっと投資が楽しくなる」というベネフィットをお客様に届けるサービスです。ロボアドバイザーは、資産運用の勉強や取引をする時間はないものの、資産運用をしてみたいという方に向けて、完全自動のおまかせ投資を提供するサービスです。 また、このようなサービスを、LINEのプラットフォーム上で利用できるLINEスマート投資を共同開発し、2018年11月にローンチしています。 今後も、テーマ投資の機能向上、LINEスマート投資上での少額投資対応など、数多くのリリースを控えていますが、全てのプロダクトに共通する想いは、全ての方々がストレスなく資産運用を始めることができる環境をつくっていきたいというものです。

シニフィアン:事業を始めた動機とも関連するかと思いますが、御社の事業を通じてどういった社会を作っていきたいとお考えでしょうか?

甲斐:日本は先進各国の中では、資産運用が圧倒的に根付いていない国であることが、客観的数値にも出ています。アメリカでは、50%近くの家計資産がリスク資産として金融市場に回っています。ユーロでも25〜30%の水準です。一方で日本では、15%以下しかリスク性の資産に当てられておらず、1000兆円に及ぶ現預金が銀行に滞留しています。

マクロ環境に目を向けると、今後は少子高齢化が進み、年金も徐々に減っていきます。 また、これから働き方が変わっていく中で、退職金が減っていくというリスクも抱えています。終身雇用から多様な働き方を実現していく時代に変わることで、一つの会社に人生を捧げるという従来の雇用慣行に終焉の兆しが見えるからです。

フローとストックに分けて考えると、年金はフローの収入です。老後の資産を考えた場合、年金が多少減ったとしても、何とかやり繰りはできることでしょう。 一方で、ストックに目を向けると、退職時に得るはずだった数千万円という規模の退職金がなくなる可能性があります。 退職金による貯金(ストック)を取り崩しながら年金(フロー)によって生活していくという「今までの当たり前」が、ストックもない、フローも減少するという状況に変わってしまうリスクがあるわけです。 そういった事態に備えて国として何かしらの対策があるかというと、現状では明確には決まっていないのではないでしょうか。 こうした状況に直面する前に、より多くの人々が自己防衛のための資産運用という武器を持てる社会を作っていきたいと考えています。

シニフィアン:なるほど。働き方は変化している一方で、引退後に向けた資産形成や生活設計に向けた対策が準備されていないのですね。

「金融商品の生活化」と「金融体験の生活化」を通じて、全ての人に投資の機会を

甲斐:はい。個人ができる対策として、副業するという選択肢もあるでしょう。複数事業に身を置き、人生の選択肢をポートフォリオ化(分散)していき、収入の多層化とリスク分散をするのというのは、これからの時代非常に大切な考え方になってくると考えています。 そして、自分のスキルや時間を使う以外に非常に重要な副業のひとつに「お金に働いてもらう」という選択肢があると考えています。資産を運用することで、60歳までにお金を積み立て、ストックを蓄えるのです。こういった方法を、若い世代から覚えて欲しいと思うんですね。

ただ、そのためにはまだまだ難しい面が多々あります。既存の金融サービスを国民すべてがスムーズに使えるようになっているようには思えません。我々の仕事は、ともすれば難しくなってしまう金融サービスを再構築することだと考えています。

私はよく「経済圏」と「生活圏」という呼び方をします。例えば日経新聞を読んだり、経済メディアを読んだりする人は経済圏の住民と言えるでしょう。そういった方々は、自力でも資産運用をはじめることができるでしょうし、実際に資産運用をしている方も多いと思います。 しかし、その人数は日本には1000万人もいないと言われています。つまり総人口の10%にも満たない規模ですね。ほとんどの人は経済圏ではなく、生活圏の住民であり、資産運用にはなかなか取り組めていないのが現状です。 そんな生活圏の方々が、経済圏のサービスを身近に感じて利用しやすくなるために何をすべきかを、我々は考えているのです。

我々のテーマ投資が取り扱うのは、「人工知能」や「ドローン」といったテーマだけではありません。「寿司」「コスプレ」「自転車」など、自分の生活や興味に紐づくテーマを作ることで、金融商品を生活化することも非常に大切にしています。

シニフィアン:一般の方々に対しても、金融商品への間口を広げていくということですね。

甲斐:そうです。資産運用に対するハードルを下げ、手触り感を出すことが大切なのではないかと思っています。金融に関する難しい専門用語を並べ立てても、生活圏の方々にとってはやはり難しい。金融教育などで生活圏から経済圏へ人を引き寄せるというやり方ではなく、まずは金融商品をいかに生活化して寄り添うかが大切だと考えています。

「金融商品の生活化」と並んで、もうひとつ大切なのが「金融体験の生活化」です。我々のテーマ投資サービスは、投資対象のテーマをカートに入れて購入するという、オンラインショッピングに似た顧客体験を提供しています。 「金融商品と金融体験の生活化」によって、6000万から7000万人といわれる生活圏の方々に向けた使いやすい金融サービスの提供を目指しています。

シニフィアン:調理に似たイメージかもしれませんね。金融商品という素材を誰にでも食べられるような料理に調理し、選んでもらえるようにしている。

甲斐:そうですね。再構築、再調理というところですね。個別企業の株式自体は、どの証券会社で買っても変わりません。金融商品はあくまでも素材であり、それを売買しているのが通常の株式取引の形です。でも、複数の企業を集めて見たら、例えば「ソーシャルゲーム」というテーマが生まれるかもしれません。これはつまり、コモディティを非コモディティ化する作業なんですね。その過程で大切なのが生活化という視点で、金融サービスを再構築することなのです。

投資体験を通じて投資に対するパーセプションを変えていく

シニフィアン:今後、FOLIOの事業を広げていくにあたり、課題に感じている点を教えて下さい。

甲斐:我々は、金融サービスを誰にでも使えるような形に再構築すべく挑戦を続けていますが、「誰でも使える」ことと「誰もが使っている」ことの間には、大きなギャップがあります。「誰もが使っている」ものになるために必要なことを探しているのが現状です。

その打ち手の一つがLINEとの事業提携です。 日本では、「資産運用は自分には関係がない」という認識が根付いています。そういう人たちに対して唐突に新しい金融サービスを出しても基本的にはリーチすらできないのが実情でしょう。 そこで、そもそも誰もが使っているLINEというプラットフォームの上で我々の生活化された金融サービスを展開することで、生活圏の方々との接点を作ることができるのではないかと考えています。 ユーザーリーチが難しく、世の中のパーセプションも簡単には変わらない金融という分野における新たなアプローチが、LINE Financial株式会社と開発しているLINEスマート投資なのです。

シニフィアン:なるほど。良いサービスを作るだけではなく、同時に一般の方々に対して資産運用の啓蒙活動もしていく必要があるわけですね。

甲斐:はい。そうした活動が非常に大切ですね。 金融に対する世の中のパーセプションを変えていくことは、我々にとって大きな使命だと考えています。多くの方に資産運用は人生において必要なものだと知っていただけるよう、尽力していきます。

シニフィアン:世の中全体で、資産運用の素地を作っていくためには、どのような方法が良いとお考えですか。

甲斐:効率の良い金融教育の一つは、実際の投資を体験してみることだと考えています。 しかしここで大切なことは、右も左も分からないまま大きなリスクをとってはいけないということです。日本の株式市場は単元株制度という制度をとっており、1銘柄100株単位でしか取引所で購入できない仕組みになっています。1株3万円だとすれば、100株300万円もするんですよ。投資初心者の方が取るべきリスクとしても大きいと思いますし、自分自身のリスク許容度を超えた資産運用は(冷静さを失わせてしまうので)失敗体験の元となりえます。こうした失敗体験を経て経済圏から離脱し、二度と戻って来ないという人々が今までにも大勢いたのではないでしょうか。

FOLIOのテーマ投資は、1つのテーマが10社の株式で構成されています。単元未満株を用いることで10万円程度の少額から10社への分散投資が実現できます。

またFOLIOのロボアドバイザーも世界中のアセットクラスに分散投資され、少額で始められるので、こちらも投資初心者の方が投資を始めるサービスとして向いているでしょう。 少額の分散投資から始めることで、投資への関心も高まり、資産運用が根付いていくのではないかと考えています。 もちろん相場は上下するので、損益も上下するものです。世の中には100%儲かるものは存在しません。しかし、自分のリスク許容度の範囲内で、より効率的に分散されたリスクリターンであれば多くの方が長期的に資産運用を続けていくことができ、大きすぎるリスクをとって失敗体験だけが残るということを徐々に減らしていけるのではないかと思います。

シニフィアン:最後に、今後の意気込みを教えて下さい。

甲斐:我々の存在意義、社会的価値は、生活圏の方々を動かしていくことです。資産運用を日本に根付かせ、強固な社会基盤を持った活性化した世界を作っていくことを目指しています。

シニフィアン:本日はありがとうございました。