【コロナ禍中の上場企業の開示を読む3】財務安定性とコロナ後の成長に向けた説明

新型コロナウィルス感染症パンデミックが経済に甚大な影響を及ぼす中迎えた決算発表で、上場企業各社はどのように市場とコミュニケーションを取っているのでしょうか。実際の決算資料を事例に挙げながら、本稿では主に、財務安定性とコロナ後の成長に向けた説明について、シニフィアン・小林賢治が解説します。

本稿は5月7日(木)に開催されたウェビナーの内容を加筆修正したものです。

Disclaimer:本内容は何らかの投資行動をとることを勧誘するものではなく、いかなる意味においても特定の有価証券、金融商品の売買の申し込みを推奨するものではありません。

(ライター:ふじねまゆこ 編集:正田彩佳)

財務の安定性(survivability)についての開示

前回に引き続き、新型コロナウィルス感染症拡大が甚大な影響を引き起こす中、迎えた決算発表で、上場企業各社がどのような説明・対応を行ったかを解説します。

まずは、「財務の安定性についての開示」です。事と次第によっては本当に事業がストップする会社が出かねない状況であるため、非常にクリティカルなテーマです。

必ずしもコロナ文脈ではありませんが、例えばマネーフォワードの場合、エクイティを厚くしたことを、大々的に打ち出しています。

出典:マネーフォワード

これは同社の先行投資が大きく継続していることに対し、財務基盤が強化されていることを示すことによって、懸念を払拭しようとする意図だと思われます。

次にビザスクです。 まだ上場したばかりということもあり、財務基盤についても不安要素を抱えられかねない状況に対して、こちらも財務は安定していることを説明するスライドを1枚設けています。

出典:ビザスク

キャピタルインテンシブで、なおかつ、売上面で大きな影響を受けているのがオリエンタルランドです。

出典:オリエンタルランド

同社は、BSが厚い会社ではありますが、それでも「これくらい資金を用意しますよ」と説明している例ですね。これは非常に好感された例ではないでしょうか。

インフラ系は最も大きな影響を受けている業種の1つですが、JR系は大体、資金繰りについては書かれています。資金確保に向けた具体的な施策について説明している例です。

出典:JR西日本

財務の安定性について、最も説明しているのが航空会社です。 ANA、JAL共に、資金調達、設備投資の後ろ倒し、投資抑制、コスト削減といった点に触れています。

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出典:ANAホールディングス

出典:日本航空

まとめると、最大の注目点はキャッシュフローの見通しがどうなりそうかという点に集約されます。どれくらいのキャッシュフローがあり、どれくらいの持続可能性があるのかを示す情報を提示するということですね。

その上で、売上のインパクトと、固定費と変動費の構造、コスト削減と投資の見送りの余地がどの程度あるのかそれらに加えて、資金調達といった点について、各社は説明しています。

要は生き残る力があるということを理解してもらわないと、コロナ後に成長しそうだという成長可能性に対して目も向けてもらえない状況だということです。 特に財務面で懸念を持たれる会社であれば、生存できるということをしっかり説明する必要があるでしょう。

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Afterコロナの展望についての説明

次に、アフターコロナの展望について説明している事例を見てみましょう。各社が想定する世界観を説明しているという点で、非常に興味深い内容です。

例えばIT業界、Sierやシステム開発の世界が、今後どのように変化していくのかという点について、SHIFTは、まさに会社の思いを伝えるスライドを公開しています。

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出典:SHIFT

カーブスの場合、上場されたばかりで新型コロナウェイルスの感染拡大に直面しています。非常に影響が大きい会社だったこともあり多くのページを割いて今般の影響について説明していますが、短期的な影響と対策に加えて、今後はどういった市場環境の変化が生じるかという点についても、展望を解説しています。

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出典:カーブスホールディングス

出典:カーブスホールディングス

「健康マーケットはこのように変化する、その結果としてこのような市場が生まれる」といった市場環境の変化について会社が能動的に解説している例ですね。

一番長いのはオムロンです。「コロナショック後の世界を見据えて」という章を設けて、「こういうニーズが社会的に高まるであろう」という予測を公開した上で、そうした需要の変化に対して自分たちのプロダクトはどのように対応し得るかという点を、あわせて説明しています。

出典:オムロン

出典:オムロン

出典:オムロン

出典:オムロン

わざわざ一章を設けて、アフターコロナの展望について説明した上で、オムロンはコロナショックに単に耐えられるだけでなく、その後の新たな成長機会を捉える準備ができているといった点まで説明しています。

アフターコロナというテーマは、経営者の展望を外部に向かってしっかり説明する良い機会でもあります。長期的に自分たちはどういう未来を予測しているのか、その上で、自分たちはどのような役割を果たすビジョンを描いており、どのような仕込みを行っているのか。

夢物語だけでなく、自分たちはどういった特性を持っているのかを説明することによって、会社のカラーを非常に強く出すこともできれば、長期目線の投資を呼び込むことにつながっていくのではないでしょうか。

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定性・定量分析、今後の方針にバランス良く触れた事例

最後に、定性・定量分析や、今後の方針についてバランス良く触れた事例をご紹介します。 下のスライドは日本電産の発表資料ですが、トップダウンの明快なメッセージを出した上で、定性的に事業ごとにどういう影響があるか説明し、定量的にも具体的な稼働条件を説明しています。

出典:日本電産

出典:日本電産

出典:日本電産

出典:日本電産

そのうえで「仮に売上が半分になっても、営業利益は黒字を維持できるよう収益構造を変革する」といった指針が明確に書かれています。

一方、将来に向けては、コロナ後の急拡大に向けて備えていくといったことを、非常にバランス良く説明している例です。どれくらい引き締めて、どれくらい攻めるのか、背景の考えがある旨が示されていますね。

出典:マネーフォワード

出典:日本電産

以上、各社の事例を紹介しましたが、こうした具体的な説明方法や表現方法に自社を無理やりはめ込むことに、あまり意味はありません。それよりも、自社の独自性を発信することの方が、より重要でしょう。

3回にわたって取り上げた事例から伺えることは、情報開示は会社の底力を示す機会であるということです。 自社にとってのコロナのインパクトをきちんと分析できるというケイパビリティを示す機会であり、経営者が自社事業の将来性にどういう見方を持っているかを説明する機会、そして会社そのものの存在理由をステークホルダーに説明できる機会でもあります。

コロナという危機に際して、どのように情報開示を行い、事業の状況を説明したのか。この巧拙によって、今後の評価にも差が出てくるのではないかと考える次第です。

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小林 賢治
シニフィアン株式会社共同代表 兵庫県加古川市出身。東京大学大学院人文社会系研究科修了(美学藝術学)。コーポレイト ディレクションを経て、2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、モバイルゲーム事業の急成長のさなか、同事業を管掌。ゲーム事業を後任に譲った後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。 事業部門、コーポレート部門、急成長期、成熟期と、企業の様々なフェーズにおける経営課題に最前線で取り組んだ経験を有する。

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